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リアクション
巨大雪だるまと紅凛たちの戦いが始まり、数十分が経過したが――
「くっ……雪だるまのくせに、なかなかやるわね」
彼女達は、思わぬ苦戦を強いられていた。
綾香による頭部への攻撃で警戒したのか、さっきよりもブリザード攻撃の激しさと小雪だるまの数が増し、全員が巨大雪だるまへ攻撃できない状況になっていた。
「でも、可愛い娘との温泉休暇を手に入れるためなら……努力は惜しまないわ! 綾香、もう一度しかけるわよ」
「わ、わかった!」
再び、巨大雪だるまへの攻撃を仕掛けようと構える二人とパートナー達。
だが――
「みなさん、お待ちください!」
「その巨大雪だるまを壊すのは、早計でござる!」
紅凛たちの攻撃を止めたのはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)と、周囲に大量の雪だるまやミニ雪だるまを従えたパートナー、童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)だった。
「……何だこいつら? 巨大雪だるまの仲間か?」
訝しげにクロセルたちを睨む綾香。
だが、そんな視線も意に介さず、スノーマンは堂々と声を張る。
「この巨大雪だるまが暴れているのは、見たところによれば額の魔法石内の魔術式が破損しているのが原因のようでござる。そこで今から、拙者たちがその魔術式を修復して巨大雪だるまの暴走を止めようと思うので……その巨大雪だるまを破壊するのは止めていただきたいのでござる!」
自分と同じ雪だるまを守るため、スノーマンは敵視されるかもしれない危険を冒してまで主張した。
「どうでしょう? もしよろしければ修復作業の間、皆様も小雪だるまと戦っていただけませんか? ここまで巨大な雪だるまは大変珍しいんです。破壊などせずに――」
スノーマンのフォローのためにクロセルは紅凛たちへ協力を仰いだが――
「ごちゃごちゃうるせぇ! 要は、てめぇらは巨大雪だるまの仲間って事だろ!?」
突然、小雪だるまの影に隠れて接近していたジガンがトマホークを突き立ててスノーマンへと襲い掛かった。
しかし――
「チッ……」
「くっ……」
間一髪のところで、クロセルがジガンのトマホークを刃で受ける。
「どうしても、あの雪だるまを破壊するのですか?」
「麓にはコイツが作り出す小雪だるまのせいでなぁ、被害が出てるんだよっ! 早くコイツを破壊しないと、関係ねぇ奴等が襲われて、手遅れになるかもしれねぇだろうが!?」
「それは……」
「あ? それともなんだ? 悠長に魔法の修復なんかしてる間に出た被害は、全部お前等が責任持つってのか?」
ジガンの鬼神のような勢いに、クロセルはトマホークを防ぐだけで手一杯だった。
「クロセル殿! こうなってしまったら、仕方ないでござる。拙者は修復作業に入るので、クロセル殿は破壊者たちの相手をお願いするでござる!」
「し……しかし、そうなると護衛のほうは――」
スノーマンへの攻撃をクロセルが心配した……まさにその瞬間。
「HAHAHA☆ でしたら、護衛は私にお任せください!!」
それは――誰もが混乱するほど、場違いとしか言いようがない光景だった。
「この全身全霊の筋肉をもって……巨大雪だるまさんと小雪だるまさんからお守りいたしますっ!」
突如として現れたのは、ルイ・フリード(るい・ふりーど)だったのだが……何故か彼は
ふんどしだった。
「しかし……これまた大きな雪だるまですねぇ。って、どうしたのです皆さん? 何を固まって――あ、なるほど。この格好ですか。これは、この非常事態が終わったら即温泉に入りたいからです!」
堂々と自分の筋肉を吹雪に晒すルイ。
極寒の地にあっての彼の姿は、スノーマンですら見ていると寒くなってきそうだった。
「さぁ、スノーマンさん。私が来たからにはもう大丈夫です。フンっ!」
ルイは豪腕を振るうと、襲い掛かってきた小雪だるまの集団を一気に砕く。
「雪だるま王国民としては心が痛みますが……小雪だるまさんたちには、一度春の訪れと共に水となっていただき、蒸発して雲となり、また来年のこの季節に新たな雪となって再会いたしましょう。スノーマンさん、思う存分修復してください!」
「そ、そうでござるな。ありがとう、かたじけないでござる!」
ルイという強力な護衛を得て、スノーマンは魔術式の修復作業に入ろうとした。
すると、更にそこへ――
「その修復作業、私もお手伝いさせてください」
メイガスであるレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)がやって来た。
「スノーマンさん。大変申し訳ないのですが、この魔術の暴走という問題……雪だるま王国の民としてよりも、一人の魔道士として興味があります。それでも構わないと言うのであれば……この修復作業、私にもお手伝いさせてください」
深々とスノーマンへ頭を下げるレイナ。魔術の暴走というものは、結果的にソレを治めることができても何が起こるかわからないのだ。
「レイナ殿、頭を上げて欲しいでござる。拙者だって、王国の者としてではなく、ただの雪だるまとして同属を保護したいだけでござる。上手くいくかいかないかは別として、ここは是非とも協力をお願いしたいでござる」
頭を下げるレイナに対し、優しく微笑むスノーマン。
「さぁ、早速作業に入るでござるよ」
「ありがとうございます!」
こうして、心強い仲間を迎えたスノーマンは修復作業へ取り掛かかった。
「ですが、スノーマンさん。あの魔法石は、術式が破損しているのですか? それとも、単純に内部魔力が暴走しているのですか?」
「それが、わからないのでござる。一応、二つの修復作業を試すつもりではござるが……」
「時間がかかりすぎてしまいますね……接触して判断するにも、あの高さまで飛ぶには手段がありませんし……」
魔法石の暴走には基本的に二パターンあるのだが、どちらも触ってみないことには判断がつかない。
二人は、初手からつまづきかけてしまったのだが――
「HAHAHA☆ そういうことでしたら、私がおでこまで放り投げて差し上げますよ!」
ルイが満面のスマイルで無茶な手段を提案してきた。
それに対し、レイナは――
「では、私を投げてください!」
魔道に対する情熱からなのか、以外にも真顔で即決した。
そして――
「よしっ。あたしはいつでも良いぜ!」
ルイの両腕には、レイナ――を抱えたパートナー兼護衛のウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)がしがみつく。
彼女は、レイナが魔法石の暴走原因を判断している間、巨大雪だるまが体表に自在に生み出す小雪だるまからの護衛として一緒に頭上へ向かうことになったのだった。
「それでは、二人とも行きますよ?」
ルイの両腕の筋肉が隆起し、一気に体温が上昇してチラつく雪が体表で蒸発していく。
そして次の瞬間――
「フンッ!!」
短い呼気と共に、レイナたちが弾丸のような速度で発射された。
「っしゃああ!」
頭上に出現した小雪だるまを、蹴りと双剣の乱舞によって次々と破壊していくウルフィオナ。
「レイナ! まだか? こいつら、いくら倒してもキリがねぇ! ていうか、なんか向こうに人が埋まってるんだけど!」
「すいません、集中力が切れちゃうので後にしてもらえますか!?」
「う、あう……おう。な、何かごめん」
魔法石に意識を集中しているレイナは、まさに魔道の鬼だった。
「なるほど……これは、術式破損による暴走ですね」
そしてレイナは、暴走の原因を無事に解明したようだ。
「スノーマンさん! 原因がわかりました。術式破損です! このまま、ルーンで術式の補完をしましょう!」
「了解でござる!」
原因が解明され、ついに修復作業へ入った二人。
だが、そこへ――
「だめだよ、そんなことは僕がさせないよ。それっ!」
魔法の箒に乗ったニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)がゆったりとやって来たかと思うと、彼はレイナたちに向かってフワッと杖を振った。
すると――
「きゃッ!?」
「くっ……何すんだよ!」
突然、レイナとウルフィオナの周りにブリザードの嵐が吹き荒れた。
「魔法石の修復なんか、させないよ♪」
レイナたちがブリザードに巻き込まれたのを見て、面白そうに微笑むニコ。
「何をするんでござるか!!」
ニコの突然の妨害に、スノーマンが声を荒げた。
だが、ニコはその様子を見て更に楽しそうに笑う。
「君たちは、赤羽の雪だるま王国に所属している人たちでしょ? 僕は一度、君たち雪だるま王国に捕まえられたことがあるからねぇ。君たちも冤罪の苦しみを味わうとイイよ」
「違います! 今の私たちは、王国とは関係ありません! ただ純粋に、この魔法の暴走を治めたいだけで――」
「う〜ん……僕から言わせれば、君たちの理由なんかどうでも良いんだ。僕は、とりあえず雪だるま王国のみんなが困る姿と混沌がみたいんだけなんだからさぁ!」
再び杖を振ろうとするニコ。
しかし――
「なめんじゃねぇぞ、てめぇ!」
巨大雪だるまの頭上から弾丸のように飛び上がったウルフィオナが、ニコに向かって蹴りを放つ。
だが――
「残念でしたぁ♪」
魔法の箒で更に上昇したニコは、ウルフィオナの蹴りをヒラリと避ける。
いくらウルフィオナが素早くても、空中にいるニコへ格闘戦を挑むのは無謀ともいえた。
「ほらほら! もっと寒くなるよぉ!」
ニコの放つブリザードの範囲と威力が増し、スノーマンたちにも襲い掛かる。
「HAHAHA……さすがに困りましたね。広範囲ブリザードに小雪だるまの群れ」
「くっ、おまけに破壊者たちの襲撃ですからね……これじゃ、防戦一択ですよ!」
ルイとクロセルは、スノーマンを守るので手一杯のためニコを迎撃することができない。
「さぁさぁ♪ この巨大雪だるまと小雪だるまが暴れ続けたら、そのうち雪崩なんか起きちゃうかもしれないねぇ! あぁ……楽しいなぁ!!」
愉快に空を跳ね回るニコ。
「こ、これでは修復作業に集中できないでござる。止める手立ては無いでござるか?」
再び修復作業が窮地に陥った――そのとき。
「ならば、私が相手になろう!」
天から響き渡った凛とした声は――ペガサスのシロに跨り空を駆けてきた、鬼崎 朔(きざき・さく)の声だった。
「我は雪だるま王国騎士団白魔将軍! この巨大雪だるま及び王国民を守護する者なり。そこの、魔法使い! 退くならよし。退かぬなら……我が一切の慈悲も躊躇もなく、雪だるまの刑を執行する!」
堂々とした態度でニコに警告を与える朔。
しかし――
「君は王国の騎士かぁ……言っておくけど、理由はどうあれ邪魔はしないでほしいなぁ。それっ!」
ニコが再び振ると、朔に向かってブリザードが吹き荒れる。
だが――
「そうか……ならばっ!」
ブリザードが朔を巻き込むその瞬間、彼女の周りに対電フィールドが発生し、襲い来る氷嵐を高圧電流によって溶かし尽くした。
「魔法使い、貴様が王国に害をもたらすと言うのなら……我が止めてみせる! いくぞ!」
ペガサスに乗った白魔の騎士は、王国に仇なす魔法使いを討つため、天空を駆け出した。
「HAHAHA☆ 朔さん達の戦い、まるで童話のような光景ですね! 私も負けてられません!! フン!!」
空を自在に駆け巡り、激しい戦いを繰り広げる朔の姿に、ブリザードから解放されたルイたちは鼓舞されて快進撃をはじめる。
そこへ更に――
「あのデカイの、絶対にお持ち帰りしたいわね。でも、その前に――小さいのを何とかしなくちゃねっ、と!!」
ワイバーンに乗った四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が低空飛行で雪原を飛び交いつつ、小雪だるま達を弓矢で牽制していく。
「それっ!」
唯乃が放つ矢は、小雪だるまを破壊するのが目的ではなく、その胴を矢で地面へ縫い付けるようにして動きを封じていくのだった。
と、ここで――
「キャッ!? 吹雪が……!!」
巨大雪だるまが自己修復を行ったため、雪原に激しい吹雪が舞い荒れる。
しかし、その最中で――
「あっ! アレは!!」
吹雪の向こうに、パートナーの霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)は何かを見たようだ。
「えいっ!」
シンベルミネは、巨大雪だるまの頭部に向かって銃型HCでマッピングを施した。
「何かあったの、ミネ?」
「主殿、今マッピングした位置に誰かが埋っているようです!」
「え!? もしかして、通信が途絶えたって言う新入生たち!?」
唯乃は、シンベルミネのマッピングした位置を確認してみる。
だが自己修復によって雪量が増加した頭部には、マッピングの跡意外は何も見えなかった。
「とにかく、行ってみよう!」
そう言って唯乃は、ワイバーンの進路を巨大雪だるまへと向けるのだった。
「さ、私たちも手伝うわよ〜!」
雪原を猛スピードの機晶スノーモービルに乗って駆けて来たのは、師王 アスカ(しおう・あすか)だった。
「あの巨大雪だるまの額の石が、大ババ様がフィリぽんに貸したっていう魔法石ね〜。まったく、フィリぽんはある意味期待を裏切らないわね〜」
騒動の発端となった新入生に、やれやれとばかりの笑みを浮かべるアスカ。
「でも、私はそこまで魔法とか魔法石には詳しくないから、ここは――ベル、お願いね〜」
そう言ってアスカが巨大雪だるまの頭上を指し示した瞬間――
「あら? 何かしら? っていうか、寒っ! 冷えるわねえ……アスカ〜、どうしたの?」
巨大雪だるまの頭上に召喚されたのは、アスカのパートナーであるオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)であった。
「実は、その魔法石が暴走しているから修復して欲しいの〜! 壊すのが一番楽でしょうけど……それじゃあ、大ババ様に怒られちゃうし魔法の石がないと雪下ろしができないらしいわ〜」
「はいはい。魔法石の暴走で修復ね。それなら……この悪魔のベルにお任せね♪」
アスカの説明と周囲の様子から状況を判断したベルは、割と気軽に修復作業へと入った。
「さてと……それじゃあ、私たちはベルたちが邪魔されないように露払いね〜。ルーツ、このままスノーモービルに乗って派手に暴れるわよ〜」
アスカが鬼神化するのと同時に――
「あぁ。操縦は我に任せて、存分に暴れるが良い」
パートナーのルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は、スノーモービルのアクセルを一気にフルスロットルへともっていった。
「そこよぉ♪」
スノーモービルで高速移動するアスカの攻撃は、正確無比で芸術的だった。
ルーツの火術で熱膨張したパレットナイフ、そしてサイコキネシスで操ったフルムーンシールドの左右同時挟撃が、大量の小雪だるま達をなぎ倒していった。
山頂は今――
「みんな、助かるでござる。例え主義主張や戦う理由がは違っても、同じ雪だるま達が破壊されるのは気分が良いものではないでござる」
雪だるまを守ろうとする者たち。
「オラオラオラァ!! だるま共が、ブチ砕いてやるぜっ!! ハーッハハハハハハァ!」
雪だるまを破壊する者たち。
そして――巨大雪だるまと小雪だるまたち。
山頂は今――そして一秒を増すごとに、三つ巴の激しい戦場と化していく。
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