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激闘! 巨大雪だるま強襲!!

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激闘! 巨大雪だるま強襲!!

リアクション

 そして――たしかに悠希が懸念するとおり、ホテルの外ではその何かが起きていた。
 大量の小雪だるまが現れたせいで、麓もゲレンデも阿鼻叫喚の騒ぎとなっている。
「フンッ」
 佐々木八雲は、食堂の雪下ろしが終わると、レビテートを使いふわりと屋根から降りて着地した。
「いったい……山頂で何が起きているんだ?」
 彼が屋根から見ていた限りでは、山頂で巨大な雪だるまと何人かの人間が戦っているようだったのだが……その戦いを潜り抜けて麓までやって来る小雪だるまは、時間が経つにつれて数を増していった。
「とにかく、今は一般客を非難させないとな」
 八雲は、率先してお年よりや子供達を安全な場所へと誘導していく。
 しかし、小雪だるまの妨害をサイコキネシスで防ぐのだが、なかなか思うようには行かない。仕方が無いので、弟の佐々木弥十郎に精神感応で――
『この小雪だるまの量……すごくきついから、何とかしといて』
 爽やかに小雪だるまの排除を押し付けて、数分後に何とか避難を完了させたのだった。

「おう、コレで俺らが誘導してきのは全部だな!?」
 子供広場の一般人をホテルまで誘導した高柳陣は、全員の避難を確認すると――
「おらっ! クソ雪だるま!! コレで温まっとけ!!」
 陣は、手製の火炎瓶をホテルへ迫り来る小雪だるまの集団へ向かって投げた。
 火炎瓶は瞬く間に燃え上がり、小雪だるま達を溶かしていく。
「ったく……どうなってやがるんだ? つーか、ホテルの客も異変に気づきだしたみてぇだな。デッカイ騒ぎになんなきゃ良いけどな」

 陣の言うとおり、ホテルの中にいた宿泊客たちも異変に気づきだしたようだ。
「な……なんだ、この小さい雪だるま達は!? 人間をねらっているのか!?」
 ホテルのロビーに出てきた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)と、パートナーのミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)如月 芽衣(きさらぎ・めい)たちは、外のの様子を見て驚愕した。
 ホテル前に大挙する、小雪だるまの群れ群れ群れ。
「どうやら避難してきた人の中に、何人か襲われた人もいるみたいですね」
「よしっ、ミーナ! とりあえず、お前はその怪我した人達を看ててくれ」
「わ、わかりました!」
 ミーナは涼二に言われたとおり、八雲や陣たちが非難させてきた一般客の手当てにあたりはじめた。幸い、誘導と護衛が上手くいったおかげなのか、転んだときの怪我がほとんどで、重傷者は一人もいなかった。
「それにしても……すごい数だな」
「せやなぁ、ホンマぎょうさんおるで!」
 ホテルの前へ出ると、涼二と芽衣は小雪だるまの圧倒的な多さに改めて息を呑んだ。
「でも、あの数がホテルに侵入してきたら大変なことになるな。芽衣行くぞ! 援護をたのむ!」
「まかしときぃ!」
 ホテルを守るために飛び出していく涼二たち。
 そんな二人に、小雪だるまの集団が一気に飛び掛っていく。
「ふん!」
 襲い掛かってきた小雪だるま達を、涼二が横なぎの一撃で屠る。
 ソレにあわせて――
「どんどん、行くでぇ!!」
 涼二の隙を上手くカバーするように、芽衣は波状攻撃とばかりに二の太刀を小雪だるまに浴びせていく。
「本当にキリがなさそうだな……」
 小雪だるま一体の戦闘力はさほど高くは無かったが、さすがに量が多すぎた。
 だが、そこへ――
「おいおい! どうなんてんだこりゃ!?」
「ホテルを守らなくちゃ!」
「みんな、力を合わせるんだ!」
 涼二たちの戦いは瞬く間にホテル中の噂になり、それを聞きつけた腕の立つ宿泊客が続々と集まってきだしたのだった。
「涼二、こんなとこでヘバっとたらアカン! 頑張ろ、な?」
「あぁ、言われなくても当然だっ!」
 戦う仲間達を得た涼二たちは、再び波状攻撃を小雪だるまに浴びせていくのだった。

「遊びに来て、こういうトラブルに遭うことって確かに多いし、もう慣れたけどさぁ。ついさっき到着したトコなのに……せめて、もうちょっと休むか遊ぶかしたかった……」
 騒ぎを聞きつけてホテルから出てきたのは和原 樹(なぎはら・いつき)と、パートナーのフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)だった。
「――って、あわわ!? あの小雪だるま、雪玉なんか投げてきてる!? しかもなんか石とか入ってるし! これじゃ、一般客に当たったら大怪我だな……」
 樹は、飛んで来た雪玉をメイスで弾くと――
「よしっ。小雪だるまの迎撃は、フォルクスとセーフェルに任せる。で、ショコラちゃんは二人の手当て役に回ってくれ。俺は、飛んでくる雪玉の防衛かな。石入りのは、よく見ると少し飛び方が違ったりするから、何とかなるだろう」
 パートナー達に素早く指示を出し、ホテルの防衛をはじめる樹たち。
「まったく……スキー場で雪だるまに襲われるというのは、シュールな光景だな」
 フォルクスは、狙い打つように火術をピンポイントで放っていき、次々と小雪だるま達を溶かしていく。
「まぁ、雪崩なんかよりは、雪だるまの方がマシかもしれませんが……危険なのに変わりはないですからね。気を引き締めていきましょう」
 そして、セーフェルもフォルクスと同じように火術で応戦していった。
 だが――
「くっ……さすがに、この数の雪球をメイス一本で防ぐのはきついな」
 なんとか一つも打ち零さずに、雪球を全て捌いていた樹だが……さすがに限界を感じ始めたようだった。
「もうちょっと幅の広い武器があればなぁ……って、そうだ! フォルクスとセーフェル、ちょっと箒貸してくれ」
 突然、樹は自分の箒と二人から箒を借りて一つに束ねだす。
「おいおい、樹。まさかお前……止めはせんが…それは戦闘用ではないからな。あまり無茶な使い方をすると折れるぞ?」 
 呆れるフォルクスを他所に――
「よしっ完成! これで、カバーする範囲が増えて楽になるな」
 樹は、束ねた箒とメイスの二刀流で雪球の防衛に当たり始めた。
「あ、2人ともあんまり動くなよ。下手に動くと箒が当たるからな」
「まて、それでは我らはお前の壁役ではないか――痛っ! 言っているそばから雪球が!」
 樹の発言に、思わず抗議するフォルクス。
 しかし、そこはすかさず――
「大丈夫、私が回復してあげる」
 ショコラによるヒールで身体が癒えていく。
「なにやら……罰ゲームのようだな。全く。これが片付いたら、ホテルに戻って早く樹を愛でつつゆっくり休みたいものだ」
「愛でるな! 俺は小動物か何かか!」
 しかし、フォルクスの希望とは裏腹に、ホテルの防衛はまだまだ続きそうだった。

「えい! ファイアーストーム!」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)によるファイアーストームが小雪だるまの集団を溶かし尽くすと――
「でやぁ!」
 パートナーの御神楽ヶ浜 のえる(みかぐらがはま・のえる)が、高速移動で次陣の小雪だるま達へと近づくと、一気にバク円はによって周囲を燃やし尽くす。
 だが――
「くっ……次から次に、キリがないね」
 のえるが大量の小雪だるまを倒しても、すぐに次の集団がホテルに向かって押し寄せてくる。
 さすがの彼女も、顔に不安の色が浮かぶ。
 しかし、ネージュは――
「でも避難してる人たちを護れるのは、戦える人間だけなんだから頑張ろう、ね?」
 のえるにSPリチャージをかけて回復させつつ、彼女を励ました。
 そして、ネージュの言葉を受けたのえるは――
「うん……そうだね! ボクだって、やるときはやるよ! マスターが必死に頑張っているんだからね!」
 再び戦う気力を取り戻し、小雪だるま達からホテルを護るのだった。

 小雪だるまの襲撃は更に激しさを増し、スキー場は戦場と化していた。
 だが――突然、その戦場に笛の音が鳴り響き、笛の音を聞いた小雪だるま達の動きが止まった。
 そして――
「えいやっ!!」
 笛の音を止めた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、目の前にいた一体の小雪だるまを捕獲した。
 しかも彼は――
「いいかい? 君達は、僕がスキー場に寝転んでメロディが降ってくるのを待ってると、いきなり無差別雪合戦を始めたね? でも、突然雪玉を投げてもいい相手は、親しい相手だけだよ。それと、石入りは痛いからやめなさい。いいね?」
 捕まえた小雪だるまを説得しはじめたのだった。
「音楽然り。言葉が通じなくても、伝えようという強い気持ちを持って話せばフィーリングで何とかなるものだと僕は常々思っている。だから、君も僕の気持ちが充分にわかったろう? それじゃ、次の小雪だるまを説得に行こうか」
 こんこんと小雪だるまを説得した終夏は、再び【牧神の笛】を吹いて小雪だるま達を捕獲しては説得していった。
 もっとも、それが【牧神の笛】の効果によって小雪だるまが畏怖しただけなのか、本当に終夏の根気強い説得に応じたのかは――誰もわからないのだった。

『お前らー、準備は良いか? さっさと終わらせて温泉タイムに突入するぞ』
 通信機器から、閃崎 静麻(せんざき・しずま)のやる気のなさそうな声が響くと――
「こちらは、いつでも大丈夫です」
 彼のパートナーを代表して、クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が抑揚を欠いた声で返事を返した。
 そして――
「んじゃ、ま。作戦開始と行きますかっ!」
 クリュティの応答と同時に、飛空艇で上空に待機していた静麻はマシンピストルの引き金を引いた。
 すると――
「おぅおぅ。さすがにこんだけ数がいると、どこ撃っても当たるな!」
 けん制用にとばら撒かれた銃弾の群れは、全て小雪だるま達を打ち抜いていく。
「よぉし、次はお前達の番だ。派手に暴れて、さっさと終わらせるぞ」
 マシンピストルが弾切れをおこした瞬間、すかさず静麻は指示を送る。
「了解」
 指示と同時に、クリュティはスノーモービルのアクセルを回した。
 すると、スノーモービルは――通常のものとは比べ物にならないスピードで雪原を走り出した。実はこのスノーモービル、普段クリュティが装備している加速ブースター2基が搭載されているのだった。
 そして――
「さてと……それじゃあ、ストレス発散も兼ねて盛大にばら撒くわよ!」
 スノーモービルの後部座席に乗った神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)は、不適な笑みを浮かべると――火術を次々に放ち、小雪だるま達を片っ端から溶かしつくしていった。
「なんだか、砲撃手みたいで気持ちい良いわね♪」
 ストレスが発散できて、上機嫌になるプルガトーリオ。
 するとそこへ、静麻の通信が入る。
『よーし、お前ら。これから三秒後に派手なのぶち込むからな。気をつけろよ。3……2……1』
 静麻のカウントダウンが終わるのと同時に、飛空艇から発射されたのは――爆発力を向上させた、ミサイルだった。
 更に――
「おまけよっ!」
 着弾と同時に、プルガトーリオが最大級の火術を放ち、小雪だるまの集団とあたり一面は火の海と化した。
 そして、そこへすかさず――
「ホテルへは、絶対に行かせません!」
 光の翼を広げたレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が、縦横無尽に飛び回りつつ、光術と雷術によって残りの小雪だるま達を仕留めていく。
 しかし――
『っと、まだ山頂から小雪だるまが続々降りてきやがるな……よ?し、お前ら。今のもう一回いくぞ。準備しろ』
 静麻たちの温泉は、まだまだ先となりそうだった。