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激闘! 巨大雪だるま強襲!!

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激闘! 巨大雪だるま強襲!!

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第三章 ホテル防衛

 山頂で三つ巴の戦いが激しさ増す中――麓でも、巨大雪だるまによる影響が激しさを増していた。
「あ…ありのまま今起こった事を話すよ! 『のんびりホテルの露天風呂に入っていたら、気付いたら雪だるまに囲まれていた』な……何を言っているのかわからないと思うけど、私も何がなんだか分からなかったけど……頭がどうにかなりそうだった……夢とかホテルのサプライズだとか、そんなチャチなもんじゃあ無いね。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……」
 【冒険屋ギルド】の女性陣の尽力によって、覗き魔と小雪だるまの脅威が去ったはずの女湯の露天風呂に、秋月 葵(あきづき・あおい)の悲鳴が響く。
 彼女を取り囲むのは、ドドドドドと押し寄せる無数の小雪だるま。葵は知らないが、先刻女湯に現れた小雪だるまよりも数が増していた。
「ていうか、なんか雪球の一斉射撃が凄く痛いんだけど!? えーっと、ここって雪だるま王国経営のホテルだったっけ? いや、どっちにしたって……私は『雪だるま王国』の騎士だし、壊す訳にもいかないよね」
 バスタオルで身体を隠ししつつ、葵は湯船から立ち上がると――
「とりあえず、変身!!」
 変身の能力を使い、戦闘態勢へと移る。
「華麗に登場! 愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい!! 時空管理局の名にかけて――って、台詞中に攻撃して来ないでよ! とりあえず、ヒプノシスで眠らせて……」
 襲い来る小雪だるま達を次々と眠らせた葵は――
「いいですか? 貴方は正義の雪だるまです。なので人を襲っちゃダメだよ。襲って良いのは、雪だるまを壊そうとする悪い人だけだよ」
 雪だるま王国の住民らしく、一体も破壊することなく小雪だるま達を洗脳していくのだった。

「あれ? 何だろう、この雪だるま達? 温泉のアトラクション?」
「いえ、どうやら……私達を攻撃するつもりのようです」
 女湯の露天風呂でイチャついていた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)と、パートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は、ちょうど良い感じの雰囲気になったところで小雪だるまの襲撃にあっていた。
「透乃ちゃんとの温泉で、身も心も温まっていたところにこの騒ぎですか……折角幸せなひと時を過ごしていたのに、残念です。雪だるまとはいえ、絶対に許しません」
 小雪だるまに向かって怒りを顕にする陽子。
 しかし、透乃は――
『まぁ……正直、陽子ちゃんとお風呂ってことで、もう私の理性は危険域に入ってきていたから、この雪だるまの襲撃は助かるよ。さすがに、公衆の面前ではね』
 火照った身体を冷ますため、全裸のままにも関わらず小雪だるまへと立ち向かっていった。
「透乃ちゃん、タオルとか巻かなくて大丈夫ですか?」
「う〜ん……グラップラーだから全然影響はないよ。ま、抑えるものがないからいつもより胸が揺れるくらいかな。それに、着替えに戻ってる間に他の人に襲い掛かったら危ないじゃん」
 飛んでくる雪玉の軌道を読み取り、上手く拳で叩き落しつつ、接近したところで朱の飛沫によって小雪だるまを楽々と溶かしていく透乃。
「だ、だったら私も……」
 透乃の戦う姿に、陽子は地獄の天使を解放して影の翼で自身を包み込んで戦い始めた。
 陽子へ襲い掛かった小雪だるま達は、瞬く間にファイアーストームによって溶かされる。
「ねぇ! 数が多いから、芽美ちゃんも手伝ってよ!」
 小雪だるまのあまりの多さに、透乃思わずもう一人のパートナー月美 芽美(つきみ・めいみ)に救援を求めるが――
「いや。今日の私はビデオ係りだから、撮影に徹するわ。いないものだと思って戦ってね」
 芽美は小雪だるまの攻撃を上手いこと避けつつ、やたらと防水加工したビデオカメラで透乃たちを撮っていた。
 実は、芽美も最初から透乃たちと一緒に露天風呂に入っていたのだが――
『二人の邪魔しちゃ悪いから』
 といって、景色などの撮影をしていたのだ。
「ホラホラ! よそ見してたら危ないわよ?」
 芽美が言うとおり、小雪だるまの攻撃は激しさを増していく。
「もう! 芽美ちゃん、戦わないなら怪我だけはしないように! あと、これが終わったら、陽子ちゃんを隠し撮りしたシーンはちゃんとチェックするから!」
「あら……バレてたのね」
 恥ずかしい格好に戸惑いながら戦う陽子を、芽美は密かに撮影していたのだが……どうやら、透乃はお見通しのようだった。
 小雪だるまの襲撃は、まだまだ続く。

 そして……ここにも、小雪だるまによって良い雰囲気を邪魔された二人がいた。
「うぅ……いつの間にか……小雪だるまに、囲まれちゃったですぅ……」
「って、なんか雪玉投げてきてるし! え、何今度は体当たり!? もしかしてこれって、襲ってきてるの?」
 盲いていながらも、小雪だるまの達の気配を察知した如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)と、パートナーの冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)の二人。
 彼女達も、温泉によって身も心も上気して火照ってきたところで――小雪だるま達に囲まれたのだった。
「と、とにかく……襲って来てるなら、日奈々を守らないと!」
 ディフェンスシフト、アイスプロテクト、オートガード、オートバリア、etc――千百合は、ありとあらゆる力を使って日奈々を守った。
 そして、日奈々は――
「せっかく……千百合ちゃんと、良い雰囲気だったのに……絶対、許さないですぅ……」
 千百合との仲を邪魔された彼女は、三本の魔法のマスケット銃『やたがらす』を遠隔操作で周囲に展開させた。
 そして――
「良い雰囲気を、壊したんだから……次、はあなた達の番ですぅ……」
 氷のマスケットは、主に防御に使われたのだが――炎熱のマスケットから放たれた魔弾は、次々と小雪だるまたちを溶かしていき――雷電のマスケットから放たれた魔弾は、駄目押しだとばかりに溶けて水になった小雪だるまを容赦なく貫く。
 更に――
「次は……これ、ですぅ……」
 遠隔操作で『やたがらす』に援護させつつ、日奈々は小雪だるまの集団に接近し……凍らせた濡れタオルを氷術の媒介にして作った、巨大な氷槍で雪の胴を一気に貫いていった。
 だが、貫くのと同時に氷槍を手放した日奈々は――
「最後は……」
 湯船から空へ向かって飛び上がると、『やたがらす』の砲身を小雪だるまの集団に向けて展開した。
 それと同時に――
「これで……終りですぅ」
 強大なファイアーストームが、空から降り注ぐ火球となって小雪だるまの集団を溶かし尽くすのだった。
「私たちの……邪魔を、するから……こうなるんですぅ……」
 あまりにも……あまりにも慈悲も容赦もない連続攻撃に、直撃を間逃れた小雪だるま達は次弾の装填音を聞いただけで震え上がるのだった。

「こここいつら、なんなのよー!」
 女湯の露天風呂には、新たに小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の悲鳴が響く。
「どうして雪だるまが温泉に!? しかも、この数は何なの!?」
 大量の小雪だるまの出現に戸惑う美羽。
「と、とりあえず――」
 美羽は一旦、更衣室へ戻ると――
「他のお客さんもいるみたいだし、倒さなくちゃダメだよね……」
 バスタオルを身体に一枚纏い、小雪だるまの集団に向かって行った。
「うぅ……バスタオル一枚だと、蹴りが使えなくて戦いにくいなぁ」
 本来、美羽の戦闘スタイルは蹴りを中心としたものなのだが……さすがにバスタオルだけの状態で蹴りを放つわけにもいかず、火術と則天去私を使って小雪だるまを温泉へと叩き込んでいくのだった。

 そして、美羽が戦っている場所よりも奥では――
「それにしても、急に何だか騒わがしいわね……あの女の子、何を暴れてるのかしら?」
 まったりと疲れを癒していた天貴 彩羽(あまむち・あやは)が、遠目に美羽を見て首を傾げる。
「何かと戦ってる――って、なにあの雪だるま!?」
 湯気でハッキリしなかったが、彼女にも小さな雪だるまの集団が見えたようだ。
「あっ!? コッチにも来た!」
 露天風呂に響き渡る彩羽の悲鳴。
「こ、こいつら……きっと、ノゾキね!? うぅ……乙女の柔肌ノゾクようなヘンタイは、オシオキよ!!」
 完全に混乱しきった彩羽は、タオル一枚を纏うと、フラワシにもハンドタオルを持たせて完全武装を施し立ち上がった。
 そして――
「いやぁ〜!! あっち行ってぇ!!」
 特大級の超能力が炸裂し、湯船のお湯も露天風呂を囲む壁すらも吹き飛ぶ。当然、これほどの超能力を叩きつけられた雪だるまたちは、次々と彼方まで吹き飛ばされていくのだった。

「あぁ〜たまには温泉旅行もいいですよね。朱里〜女同士でゆっくり語りましょ〜♪」
「うーん。ここは広々としてて、なかなか良い温泉だね! 昼間のスキーも楽しかったし、たまにはこういうのも良いかな〜」
 女湯の露天風呂の一番奥では、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)と、パートナーの茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)がゆったりと語り合っていた。
「そうだ、朱里〜♪ 温泉でたら卓球で勝負しよう!? さっき、多目的室でどこかのギルドが卓球で白熱してたんだけど、見てたら久々にやりたくなっちゃた。」
「ふーん、この朱里さんに卓球で勝負を挑むっての?」
「うん! それで、勝ったほうが負けたほうに無茶ぶりできるっていうのはどう?」
「ほぉ〜、いい度胸してるじゃない! 百八十年で積み上げた卓球術、見せてやろうじゃない。で、私が勝ったら衿栖がリンスのことをどう思ってるのか聞かせてもらおうかな〜」
「だ、だったら……私は、朱里の過去の恥ずかしい話を聞かせてもらうわよ!」
 温泉の丁度良い湯加減に、身体もガールズトークも温まってきた――その時だった。

 バゴォッ!!

「な、なに今の音!? て、ていうか……壁が壊れた!?」
 突然、露天風呂を取り囲む竹製の壁が派手に吹き飛んだ。
 そして、同時に雪崩れ込んでくる小雪だるまの集団。
「え、ちょ、ま、まって! え、雪だるま!? え、意味がわかんない!」
 突然の壁の破壊と小雪だるま集団の出現に混乱する衿栖。
 だが、更に――
「なっ!? 壁が壊れた!? これでは、コソコソと覗きができません!」
「いや……こうなったら、堂々と覗くまでだぜ!!」
 壁が吹き飛ぶのと同時に、その後へ身を潜めていた風森 望(かぜもり・のぞみ)鈴木 周(すずき・しゅう)が現れた。
 実はこの二人、つい数分前までは見ず知らずの他人だったのだが――
『あなた、こんな絶好の覗きスポットで何をやってるのですか!?』
『いやだって温泉だぜ? 覗かないってのは、逆に女の子たちに失礼ってもんじゃねぇか。女の子たちも自分に魅力があるって再確認できる、俺も嬉しい!』
 同じ覗きスポットで鉢合わった二人は、熱い覗き魔談義の末――結託したのだった。
「とりあえず、バレたからには二手に分かれましょう。私は、左へ行きます!」
 ブラックコートを上手く雪原使用に改造した望は、素早く小雪だるまの集団へと紛れ込み――
「だったら俺は、右だ!」
 周は堂々と露天風呂を駆け回る。
「覗き……それは性なる力。覗…き…それは未知への冒険。覗き……そしてそれは、浪漫の証です!」
 雪だるまに上手く紛れ込んだ望は、その隙間から目を限界まで見開いて目当ての少年少女の裸体を捜す。
「裸が見たいなら、そのまま浴場に行けばいい話ですが……いったい、それ以上の何が得られるというのですか? やはり『覗く』というのは、やってはいけない事をしている背徳感! 見つかるかもしれないというスリル! そして宝を手にした時の達成感! それらが複雑に絡み合った結果、何にも変え難い高揚感を生み出すのですっ!!」
 もはや、興奮しすぎて自分が独り言を叫んでいるのにも気づかない望。
 その結果彼女は――混乱から立ち直った衿栖が、死角でニヤリと意地の悪い笑みを浮かべたのにも気づかなかった。
「この雪だるま達、乙女の肌を何だと思ってるのかしら! 悪ーい雪だるまには、制裁を加えてあげないとねー♪ リーズ、ブリストル、クローリー、エディンバラ!」
 衿栖が腕をサッと掲げると、極細のワイヤーによって四体の人形達が一斉に動き出す。
 そして――
「洗面器よーい! 温泉汲んで〜、雪だるま達にぶっかけろー!」
 人形達が洗面器に汲んだ温泉のお湯が、小雪だるま達へ向かって一斉に放たれる。
「あ……」
 周囲の雪だるまが一瞬で消え去り、自身の姿が丸見えになったと気づく望。
 だが、気づいたところで手遅れだった。
「うぅ……あなた、覗きね? 絶対、許さない!!」
 今にも泣き出しそうな彩羽は、一見すると覗き魔の脅威に怯える少女だったが――
「うぶぉふあ!?」
 望に叩き込まれた強烈な超能力の一撃は、まさに極悪だった。
「ちょ……ちょっと待ってくださ――」
「絶対、絶対許さない!!」
「ぐふぁ!?」
 涙目で彩羽が超能力を使うたび、望の身体からグロテスクな破砕音が奏でられ、露天風呂中に響き渡るのだった。

 そしてもう一人の覗き魔、周は――
「ジョ……ジョナサァアアアアン!! 美羽、お前……よくも俺の大事な仲間を!!」
「仲間って……周くん、いつの間に雪だるまなんかと友達になったの?」
 友人である美羽と鉢合わせていた。
「バカヤロウ! こいつらは友達なんて域を超えた、仲間だ! 同じ、覗きを志す仲間なんだぜ!!」
 実は、周はこの女湯を目指す道中で小雪だるま達と戦闘になっていたのだが――
『って、ちょっと待て! 何で、女湯への裏ルートに雪だるまがいっぱい……つーか、雪だるまが自律稼動するとかどこのハイテクだよ!? ちょ、ま、石入り雪球はヤバいだろ!? とにかく、追われるなら逃げて……ってこの方向は温泉じゃねぇか。ははぁ〜ん、なるほどな。ったく、そういうことは、早く言えよな! 俺たち、仲間じゃねぇか! そうだ、俺がお前らに名前をつけてやるよ! お前はなぁ――』
 という、究極に勘違いしたやり取りの結果……彼は小雪だるま達と一方的に仲間になったのだった。
「ちくしょう! ジョナサン、ジョセフ、ジョンソン……お前らの犠牲は無駄にしねぇからなっ! 美羽、覚悟しろ! いくらお前が友達だろうと、絶対に覗いてやるぜ!!」
 次々と美羽に破壊される仲間たちの屍を越え、周は進む……桃源郷を目指して。
 だが――
「ごめんね、周くん。周くんが覗くつもりなら、私も容赦しないから」
「あっ!!」
 バスタオル一枚だけの美羽が、蹴りを放つために足を上げかけた。
 その先の瞬間を見逃すまいと、周の視線は美羽の下半身へと移る。
 そして、次の瞬間――
「おぶぐぁっぼ!?」
 美羽が放ったのは蹴りではなく、則天去私による全力の拳。油断しきっていた周は、頭部に強大な衝撃を受けて、一瞬にして意識を失った。
「悪いけど、小雪だるまを破壊し終わるまでそこで寝ててね!」
 湯船に浮かぶ、意識をなくした周。
 彼の性格を熟知したうえでのフェイント――美羽は、完全に周を敵とみなして排除したのだった。