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春一番!

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春一番!
春一番! 春一番!

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毒蛇


 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、噂を聞きつけ、独自の手段でメクリを見つけ出していた。見かけはロングヘアの美少女だが、一種異様な雰囲気がある。

「わ、わかった。メクリパワーをあげるよ」

メクリは怯みつつ、毒島にパワーを分ける。

「……我が春一番としてその任務を遂行しようではないか」

毒島は素早くその場から立ち去った。

「ななな、なんですって〜〜!」

たまたますぐ近くにいた、膝丈のメイド服姿の朝野 未沙(あさの・みさ)が興奮を抑えてつぶやく。

「と、言うことはぁ……瑛菜さんのスカートがめくれて、パンツが見えちゃったりってハプニングが起こるかもしれないってこと?!」

「……な、なんだ? ねーちゃんも俺のパワーが欲しいのか?」

未沙がこくこくとうなずく。パワーを分けると、メクリはまたどこへともなく去って行った。

 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)、それにプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を伴い、噂に聞く幻のたい焼きを求めて、空京の町へとやってきていた。

「この店のたい焼きは絶品と聞いたが朝から既に並んでいるとは。
……くぅ〜〜楽しみな事極まりないぜ!
あ、おばちゃん五つ下さい」

「ほほ〜 これは美味い物であるな!!」

エクスがたい焼きを一口かじると言った。

「お兄ちゃんこれ、ホント美味しいねぇ」

ニコニコしながら睡蓮もたい焼きを大事そうに持っている。

「上質の餡と小麦を使っていますのねぇ。甘すぎずさっぱりと、しかも皮はふんわり、縁のパリッとした食感がまた……」

プラチナムも満足げだ。

「あれ? そこにいるのはシズルと ……誰?」

シズルはすぐに唯斗らに事情を説明した。

「ふむ、そういう事か……おサエちゃん、俺にも力を貸してくれ。
 友人としては瑛菜を放っておけないからな。とりあえず上空からワイバーンに乗って探そう」

唯斗はワイバーンにエクスらと共に乗り込み、舞い上がった。

 一方の美緒は、呆然と石畳の上に座り込んだまま一人取り残されていた。冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、春らしい柄の振袖姿で急ぎ美緒のもとへとやってきた。

「あら、美緒さんどうなさったの? 大丈夫ですか?」

「え、ええ ……ありがとう ……突風にあってしまって……」

「地面に座り込んでいたら冷えますし、汚れますよ」

小夜子は手を貸して美緒を立ち上がらせると、服のほこりをはたき、ぼんやりしている美緒の服を調えてやった。

「髪も梳かされたほうがよろしいですよ」

「ありがとうございます」

小夜子が取り出したブラシで美緒のもつれた髪を丁寧に梳いてやっていると、メクリを追いかけていった{SNM9998823#熾月 瑛菜}が戻ってきた。

「うーん、メクリ君見失っちゃったよ。 ……って美緒、まだそんなとこでぼんやりしてたの?」

「……え、ええ」

「ったく。トロくさいんだから」

 瑛菜の後を追ってやってきた未沙は、街路樹の陰から瑛菜を熱い視線で見つめていた。

「もしも、万が一、みみみ、見えたら脳内に永久保存しちゃう。
 瑛菜さんのスカートから覗く脚、綺麗だなぁ……スリスリしたい」

そこへやってきた緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)がぶつぶつとこぼした。

「うーん。どうしてデパートへいこうと思ったのにこんなところへ……」

 そう。紅凛はとてつもない方向音痴なのである。現在地は無論いつものように彼女の行き先とは正反対の場所である

「なんでも、春風の精霊の子がイタズラ好きでスカートめくりをして回っているとか? 
 困った子ですね」

小夜子が眉をひそめる。瑛菜が腕組みをして言う。

「それだけならまだしも、どうも不届きな連中にパワーを貸しているようなのよね」

「女の子のスカートをめくるなんて、なんて破廉恥な精霊かしらっ! 
 おサエちゃん、香苗にもパワーを貸して!」

たまたまそこを通りかかった姫野 香苗(ひめの・かなえ)が叫んだ。

(ここでセクハラを精霊懲らしめれば、女の子は香苗の活躍に魅せられて、香苗のことを好きになってくれるはずだわっ! 
 ……うう、でも可愛い女の子のスカートの中が見えちゃうだなんて……そんな魅力的な)

二律背反の感情が、香苗の心に渦を巻き始めていた。
難しい顔をして考え込んでいた香苗は、その場に突如として突っ伏した。

「……どうかなさいまして?」

小夜子が不審げに声を掛ける。

「か、香苗は覗きたくて低姿勢で構えてるわけでないのですっ!
 セクハラ精霊を懲らしめるために隙を狙っているんです!」

「そ ……そうですか」

小夜子がこわばった笑顔で言葉を押し出した。

「話は聞いた。そのような不届きものは、ジャスティシアとしては街の風紀を乱すものは取り締まらねばなるまいなっ。
 ……なになに、『男子は上着がはだけます。下半身は脱げません』とな。
 ……うむうむ、これぞ納得の安心システムっ!」

突如として現れたのは全裸に薔薇学マントの変熊 仮面(へんくま・かめん)だ。
その場にいた全員が、あからさまに怪しい風体の変熊の出現に凍りついた。

「チャンス到来」

 気配を断ち、隠形の術で全員の死角に入り込んでいた毒島が、メクリパワーを放つ。近くに潜んでいた未沙が毒島に気づき、ひっそりとメクリパワーを注ぎ込む。
温かな風が巻き起こり、短めのスカートだった瑛菜と紅凛、美緒のスカートがふわりと持ち上がる。が、ぎりぎりセーフ。低い姿勢でいた香苗のスカートは思い切りめくれ上がり、下方に重力がかかっていなかったスカートは、めくれたままとなった。すかさず毒島がエイミングを使いパンツを撮影する。

「……ピンク」

にやりと笑った毒島は、パワードレッグとゾディアックエンブレムのフル使用による猛烈な速度でその場から駆け去ってゆく。

「きゃああ!!」

香苗の悲鳴と、ほぼ同時に、不気味な裏声で変熊が叫ぶ。

「きゃあああ〜〜 いやああ〜〜ん」

あろうことか、変熊のマントの後方が思い切りめくれ上がり、全裸の後姿がさらされていた。色っぽく(?)身をよじり、胸元で腕をクロスさせるという、何の意味も持たない行動を取る変熊。
そう。その場にいる誰もが一番見たくない光景が展開していた。

「春風の精霊さんのエッチーィ! ……見た? 見えちゃった?」

「きゃああああああああ!!! いやあああああああ」

香苗は自分のスカートがまくれた上に、変熊の恐ろしい姿を見てしまったショックに絶叫した。

「あらあら」

そんな香苗を小夜子が宥めに行った。

「おお〜〜い、大丈夫か〜?」

そこにワイバーンに騎乗した唯斗が現れた。低空でホバリングさせたワイバーンから飛び降り、瑛菜の元へと走る。

「お、瑛菜、風でスカートがやばいじゃないか」

おもむろに瑛菜のスカートを直接掴んで抑えた。

「……あんたも十分変態でしょうが!!!!」

瑛菜のストレートが、唯斗の顔面にクリーンヒットし、唯斗は吹っ飛んだ。

「……いいパンチだぜ」

「あああ。唯斗兄さん……痛そう」

睡蓮が顔をしかめる。

ワイバーンの翼が巻き起こす風に、香苗のスカートが再び舞い上がりかけた。香苗の前に変熊が飛び出す。

「お、新手の風がっ!! っぶなーい!」

再び変熊のマントがまくれ上がり、恐ろしい光景が展開する。香苗と美緒はもう失神寸前だ。

「……ホバリングさせておくだけで、いろんな意味で十分迷惑な風が起きておるな」

エクスがつぶやき、プラチナムは頷いた。

「……ですね。邪魔にならない位置に移動しましょう」

ワイバーンが降下できる場所を求めて3人は吹っ飛ばされて伸びている唯斗を置き去りにして飛び去った。
その風圧でまたしても変熊の、誰も見たくないあられもない姿がさらされる。

「俺様がパンツはいてないのはサービスだっ!」

「いい加減になさい! ジャスティシアならすることがあるでしょっ!」

仁王立ちで笑う変熊の頭を小夜子が水晶の杖でゴツンとはたく。

「おお、そうだ!! 不届きな輩を追わねばなっ!!!」

変熊は叫ぶや、毒島の闘争した方向へと走る。紅凛もはっと我にかえると、猛スピードであとを追った。

「……あたしのスカートをまくろうとはいい根性をしてるな! 
 ……地の果てまで追いかけてくれるわあああああ」

毒島は少し先へ行った通りに、ダンボールをかぶって潜んでいた。
その脇を、周囲の通行人をを石化させつつ、変熊が走り抜けてゆく。

「そんなにめくりたいのなら俺様を気が済むまでめくりたまえっ!
気が済むまでじっくり見るがいい!!!」

「……任務完了」

ダンボールの中で、毒島がつぶやく。
そして、変熊が駆け抜けたあとには、春風でも溶かせない凍りついた人々があとに残されていたのであった。