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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

リアクション

 
「カーット!! ちょっと、音響、何やってるのぉ!」
 当然、師王アスカ監督がすっ飛んできた。
「ちょっと音がもれちゃっただけなんだもん。でも、やっぱり、変身シーンには主題歌をかけるべきなんだもん」
 失敗を失敗とせず、ミーナ・リンドバーグ音響が師王アスカ監督に意見した。
まだ、完成してないのに〜。それは後で編集でやるから。ルーツ、牙竜を呼んできて、ちゃっちゃと編集を指揮してもらうのよぉ」
「はい、ただいま。プラチナム、すぐに走るのだ!」
 名指しされて、ルーツ・アトマイス助監督がプラチナム・アイゼンシルトに命じた。
「では、あさにゃんたちのダブル変身シーンから撮影再開なのだ」
 ルーツ・アトマイス助監督が、カチンコを鳴らした。
「いくよ、リトルロータスさん」
「うん、あさにゃん!」
 舞い散る花びらの中、紫月睡蓮がアリスの翼を広げてクルリと回転した。
 木の枝の上からザルに入った花弁を散らしていたプラチナム・アイゼンシルトが身を乗り出して枝をゆらす。
「ちょっと、ゆらさないで……」
 なぜか同じ枝に隠れて武神牙竜ディレクターをストーカー撮影していた龍ヶ崎灯がぼてっと落ちた。それを踏み台にするように紫月唯斗カメラマンがトンと木の上から地上に降り立ち、ジャンプ一番斬新なパーンで紫月睡蓮の姿を撮った後、あさにゃんにフォーカスを合わせた。
そこ、動くな!! はい、今のうちに、魔法少女リトルトータスに羽衣と弓をつけてぇ〜!」
 師王アスカ監督の指示で、フレームアウトした紫月睡蓮に、オルベール・ルシフェリアが駆け寄って衣装にわざとらしいオプションをつけていった。
「僕が、ハルカちゃんに、すべての物がかわいく見える魔法をかけてあげる! 変身、マジカルあさにゃん!!」
 叫んだ榊朝斗がシューティングスター☆彡を雨霰と降らせた。榊朝斗の周囲に着弾した流星が、炎を噴き上げる。林立する火柱の照り返しを受けながら、榊朝斗のメイド服のスカートからピョンと尻尾が飛び出た。頭では、ネコミミがぴょこんぴょこんする。もちろん、獣人のように身体が変化したわけではない。あくまでもコスチュームチェンジの変身なのだが、陰から見守っていたルシェン・グライシスが両手の拳を胸の前で揃え、地面の上をごろごろ転がりながら悶え喜ぶほどの姿だ。
「はい、ただいま撮影をしているので危険なのだ。申し訳ないが、ここは迂回してもらえないだろうか」
 ちゅどーんちゅどーん必殺魔法が炸裂する公園を背後にして、ルーツ・アトマイス助監督がプラチナム・アイゼンシルトと共に通行人を整理している。
「やれやれ、思った以上に皆様ノリノリですね」
 背後で吹き荒れるサンダーブラストを牽制しながら、プラチナム・アイゼンシルトがつぶやいた。
「もういいです……。あさにゃん、これで決着をつけるです! これが、ハルカの全力なのです!!」
「うん、私も全力でいくよ。だって、そんなのハルカちゃんじゃないもの。ハルカちゃん、僕は絶対諦めない。だって……、だって、ハルカちゃんは僕の……、僕の大切なお友達だから!!」
 ハルカちゃんの身体の周囲に、暗黒が渦を巻き始めた。
 対するあさにゃんがスカーレッド・マテリアを突きあげた先で、天に一つ星が輝きを増す。
 ちなみに、これらは特殊効果ではない、ガチ全力である。
(にゃんにゃんにゃーん)
(にゃんにゃんにゃーん)

 突然、クシナダのスピーカーからまたしても面妖な歌が流れ始めた。武神牙竜作詞作曲のエンディングテーマ、歌マジカルメイド☆あさにゃん&そこらにいた埼玉県民合唱団による『休日のシンデレラにゃん☆』だ。
 
休日、目が覚めたら
 
(にゃんにゃんにゃーん)
 
にゃにゃにゃお昼の時間だった
 
(にゃんにゃんにゃーん)
 
髪を梳かして、唇にリップ
 
(にゃんにゃんにゃーん)
 
ガラスの靴を履いて
かわいい私 完璧よ☆
 
(にゃんにゃんにゃーん)
 
さあ、街へ飛び出そう!
今日は休日、パーティータイム!
 
(にゃん)
 
彩られた街は、パラダイス
笑顔溢れる不思議な魔法
ここでは誰でもシンデレラ!
 
素敵な王子様との出会いを捜してる
 
0時には解けてしまう楽しい魔法
 
ガラスの靴をおいて、ベッドでおやすみー
 
次の休日に王子様が来ることを願ってーおやすみ!
 
(にゃんにゃんにゃーん)
(にゃんにゃんにゃーん)

 
「はうあ!」
 ズッコケた二人の魔法少女の攻撃が、あらぬ方向へと逸れた。流れ弾が周囲に飛び散って公園が阿鼻叫喚の地獄と化す。
「クライマックスシーンに、なんてことするのよ〜」
 すっ飛んできた師王アスカ監督が、武神牙竜ディレクターの頭をメガホンで滅多打ちにした。
「すまん、スピーカーから流れていたようだ」
「だから、勝手にいじらないでって言ったんだよね」
 ひたすら謝る武神牙竜ディレクターの前で、ミーナ・リンドバーグ音響がぷんすか怒っている。
「でもさあ、クライマックスシーンで、この歌が流れれば盛りあがること間違いなし……」
 皆まで言わせず、師王アスカ監督が武神牙竜ディレクターを滅多打ちにした。
「縛って、そのへんに転がしておきなさい〜。これ以上邪魔されたら、映画はおしまいです〜」
「はい、監督」
 師王アスカ監督に言われて、プラチナム・アイゼンシルトが武神牙竜ディレクターをグルグル巻きにしてそのへんに転がす。
「こら、企画主催者をこんな目にして……。ちょっと待て、なんで一緒に縛られてる」
「うふっ」
 なぜか背中合わせに一緒に縛られている龍ヶ崎灯ストーカーを武神牙竜ディレクターが問い質したが、当の本人はニコニコしているだけであった。
「撮影再開したいけど、みんな大丈夫〜」
 師王アスカ監督が仕切りなおそうとしたが、現場はまだ混乱のままであった。
 流れ弾の直撃を受けたのか、ハルカちゃんが気絶して倒れている。その傍には、装着の解けたリフィリス・エタニティアも一緒に倒れていた。ちなみに、二人共変身が解けたのでプリケツである。
「ハルカちゃん、生きてる!?」
 あさにゃんが、ガチで二人を治療している。
「早く、カメラ回して、何してるのよ〜」
 師王アスカ監督が、紫月唯斗カメラマンをどついた。このリアルな光景を見逃さずに本編で使ってこそ、臨場感あふれる映像になるというものだ。
「まほうしょうじょって、ああやっていのちをかけてたたかわないといけないんだあ。すごいのー、つよいのー。フランカも、いつかずばばばーんってやるひとになるのー」
 クシナダの厨房で、打ち上げ用の食事を作っていたフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)が、撮影の一部始終を見終えて、感動して言った。
「えーっと、だいたいはあってる〜? でも〜、ちょっと違うかなあ」
 高島 恵美(たかしま・えみ)が、ちょっと困ったように言った。
「どう違うの?」
「ええと〜、詳細は試写会でね〜」
 フランカ・マキャフリーに聞かれて、困った高島恵美はそう答えてごまかした。
「すいませーん、出前に来ましたー……って、何があったんだ、ここで!」
「戦場かよ、ここは……」
 約束通りの時間に屋台を持って現れた日比谷皐月と神条和麻が、荒れ果てた公園を見て絶句した。
「さあ、とりあえず、今日の撮影の打ち上げをしましょう」
 何ごともなかったかのように、武神雅編集が、一同に呼びかけた。
「ちょっと、待つのだよ。わらわの出番はどうなった。真の親玉、主人公たちに試練を課す正邪を超えた至高の存在の出番はどうなったのだ!」
 公園がめちゃめちゃになってしまったために撮影が切り上げられ、出番を失ったエクス・シュペルティアが大声で叫んだ。
「まあまあ。私たちは、後で別撮りだそうですよ。多分……」
 今日は仕方ないと、紫月睡蓮がエクス・シュペルティアを慰めた。その手には、もう肉のたくさん詰まったタコスがしっかりと握られている。
「はい、食べ物配ってますよー」
 プラチナム・アイゼンシルトが、持ってきたタコスをエクス・シュペルティアに渡した。
「もう、後で……もぐもぐ……許さないんだか……もぐもぐ」
 まだ、せっかくの出番がとつぶやきつつ、エクス・シュペルティアがタコスにかぶりついた。
「それにしても、よくこれだけの撮影資金を確保したものよね」
 ちょっとその出所を訝しみながら、オルベール・ルシフェリアが脱ぎ捨てられたキャストたちの衣装を拾い集めていった。
「もう、いいだろう?」
「き、着替えちゃだめですからね」
 衣装のネコミミ尻尾を取ろうとする榊朝斗を、ルシェン・グライシスが必死に押さえている。
「と、透過光、強めでお願い……」
「だめなんだもん。そこは、ケンリュウガーの顔を黒ベタ代わりにするんだもん」
 まだ龍ヶ崎灯ストーカーと一緒に縛られている武神牙竜ディレクターに、緋桜遙遠とリフィリス・エタニティアが頼み込んでいる。
「それはいいから、早くこれを解いてくれ……」
「はーい、おしょくじはこちらですぅよー」
「なくならないうちに食べてね〜」
 ミーナ・リンドバーグ音響が映画のテーマソングを流す隣で、フランカ・マキャフリーと高島恵美が残り少なくなってきた料理を掲げて叫んでいた。
「俺にも食わせろー」
 叫ぶ武神牙竜ディレクターを撮影した武神雅編集は、これを動画サイトにアップすべきかどうか、しばし悩むのであった。