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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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    ★    ★    ★
 
「よしと、これであらかたの整備は終わったかな」
 組み上がったハニカム・メーカーを見あげて、十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)が一息ついた。
 クウィルをベースとして、いろいろなルートから手に入れた各種イコンパーツを無理矢理つける形で組みあげたイコンだ。
 ベースとなるクウィルよりもなんとか性能を上げようという苦肉の策だが、メンテナンス性ということでは逆効果となってしまっていた。
 ある程度のパーツの汎用性は各イコンで取られているとはいえ、アルマインや鬼鎧は根本的に他のイコンとは違う原理で機体が構成されているため、基本的にオプションパーツ以外はどうしてもアセンブルを行わないとまともに装着することすらできない。
「まあ、寄せ集めではあるけど、その分汎用性は高くなっているはずだぜ」
 ピーキーではあるが、それなりに使える機体には仕上がったと十田島つぐむが自負する。
「これか、今日組み上がったイコンというのは。まあ、鬼鎧と比べると、ずいぶんと奇天烈な格好をしているな」
 ちょうどイコンハンガーを通りかかった丹羽 匡壱(にわ・きょういち)が、ハニカム・メーカーの青い機体を見あげて言った。左右非対称のボディは、まさにパーツの寄せ集めといった感じだ。
「これじゃあ、バランスが取りにくくて機動性がでないだろう。鬼鎧のバランスの取れた動きと比べたら使いにくいんじゃないのか?」
 丹羽匡壱の言葉に、何人かの整備員がうんうんとうなずく。評価としては、ひどくまっとうなものである。
「そのへんは、調整とパイロット技能でカバーしてあるからな。まあなんとかなるだろう。戦場は、局面が逐一変化するから、あらゆる対応のできるこういった機体の方が結局長生きできる」
「器用貧乏っていう言葉は知ってるか? なんでもできるってえのは、何もできないと同じことだ。機動力で負ける、火力で負ける、いいとこなしじゃないか」
「ボーダーを下回る特化型よりはましだろう」
「それを補っての部隊じゃないか。お前には、背中を預けられる僚友はいないのか?」
 普通にイコン談議であったはずなのだが、なんだか雲行きがおかしくなってきた。
 十田島つぐむと丹羽匡壱の会話が中心であったはずなのだが、だんだんと人が集まってきてわいわいと独自のイコン談議を始めてしまっている。どうやら、話題は、汎用型が優れているか特化型が優れているかというものに絞られてきたようだ。
 まあ、この手の談議は、前提条件が無視されている場合が大きい。目的と状況が明確であれば、汎用型など特化型の足手まといにしかならない。限定された状況下では、それに合わせた特化型は無敵だ。逆に、相性が悪いと最弱だとも言える。
 要塞破壊であれば長距離射撃型でならば、一方的に勝利できる。白兵戦突撃型では接近するのは困難だ。損耗率はバカにならないだろう。
 逆に要塞制圧では、内部に入ったら長距離型は役にたたないし、制圧すべき物を破壊してしまっては意味がない。
 汎用型であれば、最初に長距離攻撃をして、後に突入して白兵戦を仕掛けることはできる。確かに、オールマイティに見えはするが、そのためには一機で二機近くの装備が必要となり、パイロットにも高い技能が要求される。また、突入後にイコン戦となったとき、敵が特化型であった場合の不利は否めない。
 基本的には、物量がキーとなる。機体が多ければ特化型でチーム分けできるが、少なければ貴重な機体を汎用型でうまくやりくりするしかない。
 結局は、作戦次第なのだ。
 当然、話に結論が出るわけもなく、白熱した言い合いはあちこちで殴り合いにまで発展していった。
「おい、これは拳で語り合うような問題じゃないぞ」
「イコン戦ならまだ分かるが、お前たちが殴り合ってどうする!」
 火つけ役になってしまった十田島つぐむと丹羽匡壱が、あわてて周囲の者たちを止めに入ったが、あっという間に乱闘に巻き込まれてしまって、自分たちも拳を構えることとなってしまった。
「まあまあ。なんでもできる方がいいんじゃないの。そういうことで手打ちということで……、んもう、こら!」
 仲裁に入ってきたミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)が、後ろからだきすくめられて、容赦なくエルボーでその整備員を沈めた。
「こいつ……!」
 ボディコンのお姉さんが乱入してきたものだから、男たちが殺到してくる。だが、そのへんは内勤の整備員と戦闘要員の差である。楽しげにミゼ・モセダロァは男たちをあしらっていった。
「やれやれ。ふがいないというか、手を出してはいけない者に手を出してしまっているというか……」
 ミゼ・モセダロァに投げ飛ばされて吹っ飛んできた男を軽く払いのけて身を守ると、ガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)があらためて腕組みをした。
「なぜそこで蹴りを出す。そこはパンチであろうが。ああ、見ちゃいられない……」
 あくまでも冷静に評価しつつ、ガラン・ドゥロストは乱闘を見守っていった。
「おい、あれ、お前のパートナーだろうが、なんとかしろ。このままじゃ、整備員が全部潰されちまうぞ」
 ミゼ・モセダロァを見かねた丹羽匡壱が十田島つぐむをうながした。
「いや、その、仕方ない……」
 もの凄く嫌な予感に苛まれながら、十田島つぐむはミゼ・モセダロァに近づいていった。
「おい、ミゼ、いいかげんに……」
「きゃあ、ワタシとしたことが、しくじりましたあ……ああん」
 もの凄くわざとらしく、ミゼ・モセダロァが自分から身体を横っ飛びに投げ出して十田島つぐむに飛びかかっていった。そのまま、のしかかるようにして押し倒す。
「こ、こら、ミゼ、やめろ……」
「ああ、絡まって動けません♪」
 楽しそうに絡みついてくるミゼ・モセダロァに押さえ込まれて、十田島つぐむがジタバタと暴れた。
「何やってるんだ……」
 二人の絡みに、丹羽匡壱や整備員たちが唖然として棒立ちになった。
「ああん♪ ……えっ」
「いいかげんにするのである」
 暴走の止まらないミゼ・モセダロァを、ガラン・ドゥロストが首根っこをつかんでひょいとつかみあげた。ふいをつかれたミゼ・モセダロァが、空中でジタバタともがく。
「ふう、助かったぜ、ガラン」
 やっと解放された十田島つぐむが、あわててその場から少し離れた。
「皆さん、お疲れ様。お素麺ゆであがりましたよ」
 整備の終わったみんなに軽食として素麺を持ってきた竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)が、なんだか変な雰囲気を察してきょとんとした。
「どうかしました?」
「いや、今落ち着いたところである」
 竹野夜真珠に訊ねられて、ガラン・ドゥロストが答えた。
「みにゃぁ〜」
 襟首をつままれたままのミゼ・モセダロァが唸る。
「さあ、ひとまず食おうぜ」
 十田島つぐむが、その場の者たちを見回して言った。