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リアクション
★ ★ ★
「遅い!! 肝心のカメラマンが遅刻してどうするのよぉ〜!」
武神 雅(たけがみ・みやび)が探しだしたロケ地では、師王 アスカ(しおう・あすか)がメガホンをバンバンと叩きながら紫月唯斗を怒鳴った。
「すいません、監督」
紫月唯斗があわててカメラを担ぐ。
「ちゃんと連絡したんでしょうねぇ」
「当然なのだよ。ちゃんとメールは送ってあった。遅れたのは、唯斗の責任である」
師王アスカに問い質されて、武神雅が自信を持って答えた。この公園の場所は、地図つきでメール発信ずみだ。段取りとして、必要な場所はちゃんと連絡してある。
「よし。じゃあ、助監督、撮影開始するわよ、みんなを集めてぇ〜」
撮影開始だとばかりに、師王アスカ監督が口許にメガホンをあてて叫んだ。
「了解した。プラチナム、役者たちに連絡してくれたまえ」
助監督のルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)に命じた。フリーダムな仲間たちは公園に散らばってしまっていたので、全員を集めるには一人では手が足りない。
「分かりました」
いろいろと雑用を担当しているプラチナム・アイゼンシルトが、役者たちの控えベンチに大至急むかった。
公園のベンチに座った役者たちの間では、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がめまぐるしく走り回っている。彼女は、今回メイクと衣装の担当だ。
「最初は、普通のお友達という設定だから、睡蓮ちゃんは自然なかわいい制服でね」
紫月 睡蓮(しづき・すいれん)の金髪を梳って整えながら、オルベール・ルシフェリアが言った。
「朝斗、出番だそうですよ。準備はいいですか?」
プラチナム・アイゼンシルトから連絡を受けたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が、今回の主役である魔法少女マジカルメイド☆あさにゃんこと榊 朝斗(さかき・あさと)に訊ねた。今回は、榊朝斗のマネージメントをするとともに、メイキング映像もちゃっかりとって個人ライブラリに保管しようと企んでいる。
「準備はいいんだけどさあ……」
「まだぐだぐだ言っているのですか。引き受けた以上、しっかりと男の娘……、もとい、魔法少女を演じてもらいますからね。もう断るわけにはいかないんですから。はい、もう出番らしいですから、これ持って」
まだちょっと迷いがあるらしい榊朝斗に、ルシェン・グライシスがスカーレッド・マテリアを手渡した。
「うん、僕頑張る!」
とたんに、榊朝斗ががぜんやる気を出し始めた。はたして、スカーレッド・マテリアに何か力のようなものが宿っているのかは知らないが、やる気を出してくれたのはいいことだとルシェン・グライシスが満足気にうなずいた。それにしても、この杖はScarlet−Materialiseなのか、Scar・Red−Materialiseなのか、どっちなのだろう……。
「さあさあ、ハルカちゃんも早く行くですぅ」
「はいはい」
リフィリス・エタニティア(りふぃりす・えたにてぃあ)に背中を押されて、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)こと魔法少女ハルカちゃんがちょこまかと走りだした。ちぎのたくらみで幼児化した上に女装である。ちなみに、今回の主役もふくめて魔法少女ではなく魔法少女装なので、看板に偽りありなのだが、誰も突っ込もうとはしない。
「ふふふふふ、突っ込ませるものですか。魔法少女は美少年以外認めませんとも……」
カメラを回しながら、ルシェン・グライシスがどきっぱりと言った。
「はーい、ちんたらしないです〜。集まったら、シーン《への1番》、から撮影開始しま〜す」
異様に力の入った師王アスカ監督が、メガホンで叫んだ。
ルーツ・アトマイス助監督が手作りのカチンコを叩く。
「あーれー、助けてー」
「はっはっはぁ、あなたの連れているレッサーワイバーン、それってかわいくないですぅ。お仕置きですぅ」
巫女姿の紫月睡蓮の後ろに隠れたエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)にむかって、ハルカちゃんが指をさしながら言った。
――えっ、僕ってかわいくなかったの?
鼻先を寄せてきたレッサーワイバーンを、巫女服姿のエクス・シュペルティアがよしよしとなでる。
「さすがですぅ。この世には、かわいいものだけがあれば充分なのです〜。それ以外は、いらないのです〜」
背後からハルカちゃんの首筋に手を回してだきついたリフィリス・エタニティアが耳許でささやいた。
「ちょ、ちょっと。リフィ、くっつきすぎ……」
「だって、魔鎧だもーん」
「今の台詞、拾っちゃいました」
音響のミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が、師王アスカ監督に言う。
「こらぁ、ちゃんと台本通りに!!」
師王アスカ監督がメガホンで怒鳴った。
「後で、編集で消去して」
「ええと、同録がそもそも間違っているかもね」
師王アスカ監督の指示に、ミーナ・リンドバーグがボソリとつぶやいた。
「いいのよぉ、臨場感が大切なんだからぁ」
思わず、師王アスカ監督が、世の駄作映画の言い訳と同じ台詞を口にする。古今東西、台本を無視した現場の思いつきで成功することはほとんどない。
「うんうん、撮影は順調のようだな」
今回のディレクターである武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が、今のところ大したトラブルもなく進んでいる撮影を、満足そうに見守った。
「ところで、カメラマンはどこだ!?」
師王アスカ監督の傍に紫月唯斗カメラマンがいないのに気づいて、武神牙竜ディレクターが周囲を見回した。
「えっ、えっ、私は別に隠し撮りなんかしているんじゃないですからね!」
突然目線が合ってしまった龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が、なぜか武神牙竜ディレクターを撮影していたカメラをあわてて隠して姿を消した。
「灯の奴、いったい何を撮影していたんだ……」
思わず、武神牙竜ディレクターが溜め息をつく。
あらためて撮影現場に目をむけると、紫月唯斗カメラマンがカメラを構えたまま素早い水平移動で、キャストたちの周りで円運動を行っていた。普通なら、レールとかクレーンを使うような撮影を、忍者の隊術を極限まで駆使して人間の手で撮影している。
「もうやめて、ハルカちゃん。でないと、僕……」
「あさにゃん……。あなたもハルカたちの邪魔をするのでしたら容赦しないのです! 覚悟するのです! あさにゃん!」
「行くわよ、ハルカちゃん!」
必死に親友を説得しようとする主役の魔法少女あさにゃんに、ハルカちゃんが決別を告げて変身に入る。背後からスキップスキップらんらんらんで駆けてきたリフィリス・エタニティアが、大きく手を広げてジャンプした。その身体が光に溶け、黒いゴチックドレスだけがふわりと広がる。光の中で、ハルカちゃんがアイドルコスチュームを素早く肩から落として脱ぎ捨てた。
「服は、後でCGで消して。それから、謎の光で股間と胸は隠すエフェクト追加よ〜」
「了解しているのだよ」
師王アスカ監督の指示に、武神雅編集が、ミーナ・リンドバーグのトラッククシナダに積んだ編集機器を操作しながら答えた。
『遙かな蒼空(そら)を目指して
心に希望を 翼には夢を
すべての悪夢を振り払い羽ばたく
遙かに続く、夜空に
悲しさを感じて流した涙
私に何ができるの? それを探し求めて
幾多の夜に無力な自分を涙流してた
月の優しげな神秘の光が体を満たしていく
走れ! 悪夢に悲しむ子の元へ
心に宿した 優しさで照らせ!
駆けろ! 希望なき夜空を
翼を羽ばたかせ、希望を輝かせ!
君が見つめる
朝日は君が照らす優しき温もり……未来へ!』
突然、そのクシナダから、榊朝斗の少し調子を外した歌声が大音響で流れ出した。リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が作曲した、武神牙竜作詞のオープニングテーマ、『蒼空の未来へ』、歌マジカルメイド☆あさにゃんである。
「ううっ!!」
思わず、本人を含めたキャストたちがズッコケる。
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