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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第8章「結界の守護石:赤」
 
 
「ん?」
「あら」
 遺跡の奥を単独で探索していた緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、途中で水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)達と出会っていた。
(こちらの方々も独自に動き回っているのですかね。とりあえず、ヨウエンの目的は隠しておいた方が良さそうですね)
「あなた、確か集まってた人の中にいたわよね。あなたも何か考えがあって別行動をしてるのかしら?」
「えぇ、救助の手掛かりになりそうな物が他にも無いかな、と。結界の中にあるという銅板だけであれだけの仕掛けは出来ないのではと思いまして」
 魔法生物の力を求めている事は秘密にし、あくまで皆と同じ目的で動いていると思わせる遙遠。幸い緋雨はそれを疑わず、自身と同じ着眼点を持っていた相手がいた事を天津 麻羅(あまつ・まら)に誇る。
「ほら見なさい麻羅。私以外にも結界の外に鍵があると思ってる人がいたわよ」
「わしは皆が追っていった光がそれだと思うがのぅ」
「いいえ、きっと何かあるのよ。ねぇあなた、せっかくだから一緒に行動しない? 私も銅板と関連した物が結界の外にあると睨んでるのよ」
(さて、どうしましょうか……単独行動を主張して怪しまれても困りますし、どうやらマッピングデータを持っているみたいですね)
 緋雨の持っている銃型HCを視界に入れながら考える。結局、遙遠は情報を優先する事にした。
「分かりました、同行しましょう。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ。それじゃあ探索を続けましょうか。麻羅、次はどっちが怪しい?」
「ついに直接神頼みか。まぁ良い、わしが道を選んでみるか。鬼が出るか蛇が出るか、楽しみじゃのぅ」
 
 
「炎よ」
「石を破壊せよ」
 キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)セラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)が火術で守護石を熱し、魔力の流れを狂わせる。それにより存在が維持出来なくなった守護石は、まるで溶解するかのように消滅していった。
「随分数が多くなってきましたね。そろそろ本命が近いという事でしょうか」
「いくらあろうと俺達で壊していくまでです、キリエ。皆さん、先を急ぎましょう」
 二人、特にキリエは人命第一として迅速な結界の消滅を目指していた。その為赤の守護石は遺跡の角の方にあるにも関わらず、他の者達と余り変わらないペースで破壊して行く事が出来ている。
「本命が近い、か……そろそろ『奴』が出るかも知れんな」
「例の炎使いか……」
 結界の前でザクソン教授から聞いた話から天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が戦いの気配を感じ取る。直接剣を交えた訳では無いものの、同じ戦場で相手方の一部と対峙した事がある和泉 猛(いずみ・たける)も同様の思いだった。
「もし奴がいたなら、その時は俺が相手をしよう。その間にエレイソン、お前達で石の破壊を頼む」
「分かりました真司さん。戦闘をお任せしてしまって申し訳ありませんが、代わりに石の方は私達が請け負います」
 同じく相手との交戦経験がある柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が武器の調子を確かめる。この先に待ち受けているであろう者達の下へ、一行は迅速かつ静かに進んで行った。
 
 
(これまで幾度もの熱き闘争を繰り返してきた。しかし、私はまだこうして生きている……未だ、燃え尽きていない)
 遺跡内で一番多くの赤い守護石が置かれている広間。その中心に立つイェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)は瞳を閉じ、今までに繰り広げて来た戦いを思い出していた。
 彼女はカナンで、本の世界で、そして荒野の廃神殿で多くの相手と戦ってきた。それらの者達はそれぞれに『正義』を持ち、イェガーの闘争心を満足させる物だった。
 だが、満足いく戦いだったからこそ満たされない物もある。それは『悪』として正義に立ち塞がるだけでなく極限まで戦い続ける事によって得られる、身を燃やし尽くすほどの熱き魂のぶつかり合いだった。
(あの教授の依頼に応える者ならば、中にはかつて拳を交えた相手もいる事だろう。その時は例え我が身が滅びようともこの炎、尽きるまで燃やし続けてみせよう)
 静かに目を開ける。正面の通路から丁度姿を現した者達を見て、イェガーは静かな炎を燃やしていた。
 
「どうやらここが最後のようだな……予想通りといった所か」
 ヒロユキが広間の中央に立つイェガーの姿を認める。赤き守護石が炎の象徴なら、彼女は炎の体現者。一行の間に緊張が走る。
「良く来た、勇ましき心を持つ者達よ。この場に立つ以上、最早多くを語る必要はあるまい」
 イェガーの手に炎が灯る。既に戦う気を見せている彼女に相対したのは真司だ。彼に魔鎧として纏われているリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)がいつもの冷静な口調で呼び掛ける。
「これも予想通りの展開ね、真司」
「あぁ、だがこちらとしても望む所だ」
「どうせ戦いになるなら余計な問答は不要だものね」
(やはり、この感覚はいい……どこまでも熱く燃えて行けるような感覚。願わくば今度はそれが、この身をも燃やし尽くす物となる事を――)
 相手の方が遥かに多い戦い。これまで何度も体験して来た状況にイェガーは心を震わせる。その心から生まれた炎を大きく広げると、自身と真司達を巻き込むように一気に展開させた。
「来たか……! 視界に気をつけろ」
 ヒロユキが強靭な精神力で炎に耐え、同時に凍てつく炎を放つ事でこちらへの炎を押し返す。直接のダメージは避けられたものの、熱気と炎による視界不良だけは避けられない。
「――真司、来るわ」
「あぁ、そこか!」
 視界を遮られた先からの殺気を感知し、リーラが真司へと知らせる。それに応じて魔道銃を撃つと、硬化させた手袋で魔道弾を防ぎながら炎を突破してくるイェガーの姿が現れた。
「ファントム! パターン『ゴースト』!」
 パートナーの行動から向こうが強行突破してくる事に気付いたのだろう。アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が戦闘用イコプラのファントムに機関銃を撃たせ、イェガーを牽制する。
「あ奴、自分で展開した壁を越えようとするとは、どれだけ炎への耐性があるというのじゃ」
「ご丁寧に石に炎の影響が及ばないようにしているな。全員であの女に当たるよりは、何人かを奥の石の破壊に振り分けた方がいいだろう」
「ふむ、ならばわらわに任せよ。フェイク! パターン『ロイヤルハート』!」
 猛の判断に従い、アレーティアが二機目のイコプラ、フェイクにシールド展開と炎への突撃を指示する。
「あの後ろなら炎の影響を受け難いですね。セラータ、行きましょう」
「えぇ。皆さん、こちらはお任せします」
 フェイクが炎を掻き分けた後ろを走り、キリエとセラータが炎の壁を突破する。そのまま守護石の破壊を行おうとするが、そこに火天 アグニ(かてん・あぐに)が現れた。
「おっと、ボスを倒さずに宝を取ろうなんてのはいけねぇなぁ。そういうマナーのなってない泥棒ネコさんにはお仕置きだぜぇ!」
「! キリエ、避けて下さい!」
 セラータが殺気を感知し、キリエの手を取って体勢を低くする。その直後、二人の上をアグニの投げたナイフが通過して行った。
「いい勘だ。けど、それで終わりじゃないんだぜ」
 飛んで行ったはずのナイフが急に向きを変え、再び二人を襲う。今度はセラータが大剣で弾くが、なおもナイフは二人目指して軌道を変化させる。
「これは……サイコキネシスですか。ならば、本人を倒すまで」
 仕掛けを見破ったセラータがアグニに直接攻撃を仕掛ける。だが、アグニは空中に飛ぶ事で回避すると、別の場所に降りてからもう一本のナイフを投擲してきた。
「対処は二重三重にってな。そら、もういっちょ!」
 再び攻撃を開始するアグニ。すると今度は、先ほどの突破の際に密かに炎の壁を越えていた猛が援護へと入った。
「対処ならこちらも負けてはいない。直接お前を狙わせて貰う」
 銃弾がアグニ本人へと飛ぶ。その攻撃を咄嗟に回避するが、ナイフと同じように銃弾が軌道を変化させて再びアグニを狙いだした。
「うおっと!? そっちもサイコキネシス持ちかよ。こうなったら……紅煉道さん、出番です!」
 アグニが火天の焔を使い、自身の周囲に魔力を上昇させる炎を展開する。するとその中から、イェガーによって召喚された那迦柱悪火 紅煉道(なかちゅうあっか・ぐれんどう)が現れた。
(さあ、勇敢なる戦士達よ。我らと共に血湧き肉躍る戦いに興じようぞ)
 瞳を閉じた寡黙なる剣士はそのまま刃に炎を宿らせ、一閃する。それによって猛を遠ざけると、返す刀でキリエへと斬りかかった。
「やらせません!」
 素早くセラータが間に入り、大剣同士がぶつかり合う。鍔迫り合いを続けながら、彼はキリエを促した。
「ここは俺が抑えます。キリエは今のうちに石を破壊して下さい」
「そうだな。あっちの男は俺に任せて貰おう」
 猛も再びアグニを狙い始め、大剣同士、サイコキネシス使い同士の戦いが再び始まる。
 大剣であるにも関わらず素早い切り返しで薙ぎ払う紅蓮道に対し、重量を活かした重い一撃を振り下ろす事で戦うセラータ。そして銃弾とナイフを自在に操りつつ、トリッキーな動きで対抗する猛とアグニ。それぞれの実力が互角なのを見て、キリエは目的を果たす為に動かさせて貰う事にした。
「二人共、無理はしないで下さいね。皆さんの為にも……ここは全力で行かせて頂きます!」
 ファイアストームで守護石を消滅させるキリエ。彼らの行動によって、広間に残された守護石はどんどん姿を消していくのだった。
 
 
「ナハト! アーベント! パターン『ランページ』!」
 アレーティアの指示するもう二機のイコプラが連携を取り、同時に襲い掛かる。アーベントがビームキャノンで援護する所にナハトがビームサーベルを突き刺す。それらの対処に追われるイェガーの隙を突き、ロケットシューズで空中へと飛んでいた真司が降下しながら帯電した匕首を振り下ろす。
「くっ……! さすがだな。これでこそ、私の求める高揚が得られるというもの」
 間一髪の所で攻撃をかわしたイェガーが内心で笑みを浮かべる。彼らは強い。守護石の破壊に向かった者達もアグニ達と同等の戦いを展開しているし、こちらはそれ以上の力で向かってきている。炎の展開には守護石の防衛だけでなく敵の分断や酸素不足によるパフォーマンスの低下も狙っていたのだが、イコプラでの戦闘や空中も使った戦い方をする相手の前では思ったほどの効果は無く、せいぜい数の不利を若干埋める程度に留まっている。
 ――しかも、彼女の預かり知らぬ所で更なる手が打たれようとしていた。
「まだあちらは気付いていないようですわね。準備はいかがですか?」
 イェガーの死角から様子を伺っている貴音・ベアトリーチェ(たかね・べあとりーちぇ)が後ろの二人に尋ねる。そこではヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)ルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)がトラップを仕掛けていた。
「こちらはバッチリです。ね、ルネさん」
「は、はい。その、大丈夫だと思います」
 天御柱学院の強化人間コンビはパートナー達を支援する為、罠の展開を行っていた。猛は守護石破壊側に行ってしまったが、今の状況なら対イェガーとして戦っている真司達の役に立つだろう。
「で、では私達は一旦別の所に隠れましょう。ヴェルリアさんは真司さんに連絡をお願いします」
「えぇ、すぐに始めましょう」
 三人が罠から離れ、陰に隠れる。ヴェルリアはそこからテレパシーを使ってバレないように会話を行った。
『真司、いつでもいけます。私達の正面にありますからね』
『分かった。そちらに誘導する』
 真司がイェガーに気付かれないように少しずつ戦う場所を変える。そして『二人が』罠の上まで来たと同時に、再びテレパシーでヴェルリアに呼びかけた。
『いいぞ、やってくれ』
『はい。3つで行きますね。3、2、1――ゼロ!』
 イェガーだけでなく、真司までもが罠の上にいるにも関わらず爆破トラップを発動するヴェルリア。だがその瞬間、真司はアクセルギアを全力で発動させて瞬時に爆発地点から退避した。結果的に残されたイェガーのみが爆薬の直撃を受ける。
「くっ――!?」
「今じゃ! パターン『EXCEED』! 全力攻撃じゃ!」
 四機のイコプラが全方向から集中攻撃を行い、アレーティア本人もライトニングブラストで攻撃する。更に――
「リーラ、ここで決めるぞ」
「えぇ、たまには魔鎧以外で貢献しておかないとね」
 爆発に紛れて人間形態になっていたリーラが神速でイェガーの背後に回りこみ、真司と前後から同時に攻撃を行う。真司の真空波とリーラの等活地獄。アレーティアと合わせて無属性、雷電属性、闇黒属性の攻撃が纏めてイェガーへと襲い掛かった。
「ぐ――かはっ!?」
 さすがにこの攻撃は強力だったらしく、イェガーが片膝をつく。
「この力……見事だ。これなら私も燃え尽きるまで戦え――」
 よろめきながらも立ち上がろうとするイェガー。すると、彼女が膝をついたのを見ていたのだろう。アグニと紅蓮道が戦闘を中断し、素早くイェガーの下に走り寄っていた。
「さすがにこれ以上は無理ってもんだぜ、イェガー。っつーか、俺達の負けって奴だな」
 見ると、広間にあった守護石は戦闘しているうちにキリエによって全て破壊されていた。
 熱い闘争の中で燃え尽きたいというイェガーの願い。アグニとしてはパートナーロストのリスクを負ってでも叶えさせてあげたい所ではあるが、既に相手に勝利条件を満たされてしまった以上はここで燃え尽きてしまうには勿体無さ過ぎる。
「っつー訳で退却だ。紅蓮道、イェガーを頼むぜ」
 紅蓮道が無言で頷き、イェガーを連れて素早く脱出する。当然真司達はそれを逃がすつもりは無く、神速持ちのリーラが追いかけようとした。
「おっと、そうは問屋が卸さねぇ。こいつは置き土産だぜ。じゃあな!」
 アグニがPキャンセラーをリーラに投げつける。その効果が発動する間にアグニ自身も何処かへと姿を消した。
「――! 神速を封じられた……? 厄介な物を使ってくれたわね」
「深追いは禁物ですわ。今回は石の破壊という目的が果たせた事だけで良しとしましょう」
 貴音が傷付いた者をヒールで癒しながら言う。確かに守護石を破壊するという点では立派に結果を出せていると言えるだろう。
「これで結界が消えてくれるといいのですけど……ともあれ、皆さんお疲れ様でした」
「まだ安心するのは早いぞ、ルネ。結界を確かめ、これがどう影響したかを調査せねばならんからな」
「猛さんの仰る通り、結界が解除されるまで気は抜けませんね。さぁ皆さん、急いで戻るとしましょう」
 キリエの言葉に頷き、来た道を引き返す一行。戦闘が終わり守護石が消滅した今では、広間に漂っていた熱気は既に過去の物となっていた――