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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第5章(2)
 
 
「ふふ、所詮は単細胞生物ね。動きが単調でございましてよ♪」
 少女が華麗に舞う。彼女は光り輝く二振りの刀を手に戦場を駆けるか弱き少女。だが、その正体はかつて世界を絶望の淵に落とし入れた魔王の転生体であり、今は星をも砕く斬馬刀、メテオ・ブレイカーを扱いながらも真なる力を取り戻そうとしている。
 その名は神皇 魅華星(しんおう・みかほ)。そう、彼女は光と闇に選ばれた最強の戦乙女――という設定である
 魅華星はいわゆる厨二病だが、それを本心から思い込んでいる重度な患者であった。実際、彼女は二刀流をするには技量が足りない為紫音のような『舞う』という表現がピッタリなほどの戦いは出来ていないのだが、彼女自身はそんな事は意に介さず両手の光条兵器を振るっている。
「お嬢様、実に美しい戦いぶりでございます」
 魅華星の後ろに控えるカガセ・ミレニアム(かがせ・みれにあむ)が落ち着いた物腰で賞賛する。
 二人は同じ顔をしているが、別に双子という訳では無い。剣の花嫁はパートナーの大切な存在の姿をしていると言われるが、魅華星にとってそう思う対象は自分自身となる為、結果としてこのような事になっているのだ。
 ちなみに、通常の蒼空学園新制服を着ているのがカガセ、それをゴスロリ風に改造しているのが魅華星である。
「それにしても、実際のスライムというのは余り美しくありませんわね。同人誌では服を溶かすというのが定番ですけど、こちらもそうなのかしら」
「あ」
 魅華星の疑問に対する答えはすぐに判明した。魅華星の支援にばかり注力し、自身への警戒を行っていなかったカガセに一匹のスライムが飛び掛ったからだ。
 彼女の声に反応して振り返った魅華星だが、すぐにはスライムを斬り捨てず、内心ドキドキしながらカガセへと尋ねる。
「ど、どう? どんな気持ちかしら?」
「う〜ん、何かネットリとしていて気持ちの良いものではございません」
 自身の身に危険が迫っているのに冷静に答えるカガセ。彼女にとっては魅華星の興味を満たす事が第一であり、それ以外は二の次だ。
 その間にもスライムはカガセに纏わりつく。パラミタには実際に魔力の縫合を解く事で服をバラバラにしてしまうスライムがいるが、今回はそれで無かった事が救いと言えるだろう。
「あら、つまらないですわね。やはり赤銀の女王たるわたくしの美しさに華を添えるに相応しい生き物ではございませんわね」
 あっさりと興味を失い、光条兵器でスライムを消滅させる。丁度そこに、カガセがスライムの攻撃を受けた所を見ていたアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)がやって来た。
「貴公、怪我はしておらぬか?」
「あら、わたくし達に興味がおありかしら? お話して差し上げてもよろしくってよ」
「……何じゃこ奴は。まぁ良い、それよりも貴公じゃ。スライムの酸を喰らったのではないか?」
 どこまでも高飛車な魅華星は置いておき、カガセの腕を取る。最初にグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)が受けたのと同様、手の甲を負傷しているのが分かった。
「心配には及びません。私も治癒魔法は習得しております」
「何じゃ、同じ顔なのに随分雰囲気が違うの。ともかく、ここはわらわに任せるのじゃ」
 
 
「大尉殿、状況次第では一度後退する事も視野に入れた方が良いのでは?」
 カガセがスライムに捕まっていたのを確認し、佐野 和輝(さの・かずき)クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)に進言する。
「この部屋には今我々が相手をしているスライム以外、重要な物があるようには見えません。ここで無理をして負傷者を出すくらいなら一度後退して戦力を再編、増強するか、投入場所を変更した方が効果的かと愚考しますが」
「ふむ……佐野はそう思うのか?」
「仮に今回の作戦で救助が行えなかったとしても、すぐに食料が尽きて要救助者が餓死するという訳では無いでしょう。それならいたずらに損害を出す必要は無く、より確実な手を取るべきかと」
「なるほど。だがその必要は無いだろう。敵の攻略法が判明した今、スライム達は脅威的な相手とまで言うほどの物では無くなったからな」
 クレアがある方向に視線を向ける。そちらにはスライムをバスケットボールのように地面に叩きつけているひっつきむし おなもみ(ひっつきむし・おなもみ)の姿があった。

 ひっつきむしはー、ひっつくぞー♪
 今日の相手はスライムさん
 ぷるぷるすけててかわいいな
 
 ♪いくぞ、おなもみ、地の果てまでも

 変てこな歌を歌いながらスライムを捕まえて逃げないように抱きしめる。それを真空波で切り裂くのは月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)だ。
「つかまえた〜、あゆみ〜斬って斬って〜」
「いくわよおなもみ! シュートっ!」
 真空波は光条兵器と同じで斬る物と斬らない物を使い手の意思で選択出来る。真っ直ぐ放った一撃はおなもみの身体をすり抜け、スライムだけを的確に攻撃していった。
「お〜ほんとだ、スライムだけ斬れた。便利な技だよね、それ」
「あゆみは銀パトのレンズマンだもの。どんな相手だって、あゆみがいれば心配無用よ☆」
「よ〜し、じゃあおなもみはスライムさんいっぱいつかまえるね〜」
 
 愛しい人に、ぴとっ
 にっくき、あんちくしょうに、ぴとっ
 ひっつけ、くっつけ、力のかぎり
 愛うぉんCHU、あい20☆

 (台詞)いまだ、ひっつきタイフーンだ!
 
 あいつは、おなもみ、ひっつき虫
 ここいらじゃ一番のひっつきチルドレンさ
 
 せんきゅー☆

 最後をドヤ顔でキメながら次々とスライムを捕獲するおなもみ。そこに真空波を撃っていくあゆみも含め、苦戦どころかむしろ遊んでいる雰囲気すら漂っていた。
 
「……まぁあれは極端な例だが」
「むしろ普通だと困ります」
 教導団とは明らかに違うノリに何と言った物かという感じのクレア。ともあれ、彼女が言う通り、全体を見ればむしろ優勢であるという事は和輝にも分かった。
「では大尉殿、このまま各個撃破で?」
「それも良いが、纏めて片を付けられるならそれに越した事は無いな……その手段、考えているのだろう?」
「……分かりますか?」
「何となくだがな、切り札を持っているように見えた。せっかくだ、佐野の戦術を見せて貰うとしよう」
「了解しました。アニス、スノー、例の手を使う。援護を頼む」
「うん、分かったよ! にひひ〜、和輝の為に頑張っちゃうね」
「もうアニスったら……和輝、あなたとアニスは私が護るわ。安心して仕掛けに専念して頂戴」
 和輝の呼びかけを受け、アニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)が頷く。二人を信頼している和輝はそれに頷き返すと、部屋の中央へと走った。
(アニス達に負担をかける訳にはいかないからな……この布石、すぐに打たせて貰おう)
 
「いっくよ〜! むむむむ……!」
 アニスがサイコキネシスでスライムを中央へと押しやる。一匹をある程度移動させ、また別のスライムを動かす。そうした行動を地道に繰り返す。
(結構数が多い……アニスは体力が無いから長期戦になると心配ね)
 迫り来る他のスライムをいなしながらスノーがアニスの体調に気を配る。
(アニスは和輝の精神的支柱だもの。何かあったら和輝が壊れてしまう……それだけはさせないわ)
 そんな事を考えていると、二匹のスライムが同時に部屋の中央へと押しやられて行くのが見えた。サイコキネシスは一度に一つの物しか動かせない。という事は、運んでいるのはアニスだけでは無い――?
 振り返ると、綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)がアニスと同じようにサイコキネシスを使っているのが見えた。そして彼女を護るように御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が剣を振るっている。
「紫音、これでどうえ?」
「大丈夫だ風花。どんどんやってくれ。そこの二人、俺達も協力させて貰うよ」
「ありがとうございます。アニス、あちらの方と一緒にどんどん運ぶわよ。あともう少しだけ頑張って」
「うん! 和輝のとこまで連れてっちゃうよ〜!」
 風花達だけでなく、他の者も彼女達の行動を理解し、スライムを中央へと集める形に変えていった。そうしてほぼ全てのスライムが集まった段階で、和輝が中央の仕掛けから飛び退く。
「準備完了……仕掛けを起動するぞ」
 その一言と共に中央一帯の地雷が炸裂し、周囲のスライムを巻き込んで放電する。
「よし、全ての地球人で攻撃する」
 クレアが号令をかけながら氷術を次々と放った。そうしてスライムに耐電している分を地面に逃がすと同時に凍らせ、物理的な攻撃をより効果的にする。
「では、再び参りますわ」
「同じく、行きますよ〜」
「今度は月夜姉ぇの代わりに俺の番だ!」
 最初にセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が槍で攻撃し、同時に篁 大樹が大剣を振り下ろす。
「俺の双剣……受けてみろ!」
「消えなさい。再びこの地に現れる時は、わたくしの眷属として生まれる事を願うと宜しいですわ」
 続いて紫音と魅華星が舞うように剣を振りながら駆け抜ける。更に銃を構えた和輝が弾幕を張るように連射し、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)がファイアストームを放つ。二人の思いは偶然の一致を見せる。それは――
『俺の邪魔をするな』
 止めに猫耳を生やしたあゆみが中心へと飛び込んだ。超感覚によって地形と味方、そしてスライムの状況を把握した彼女は一気に真空波を周囲に向けて放つ。
「それ〜、真空波☆ハリケーン!」
 全員の攻撃を受けてスライムの姿がこの部屋から完全に消滅する。その途端、結界の方から感じられる魔力が少し弱まったのが伝わって来た。
「……っとと、目が回る〜。でも、あゆみ達の勝利ね! さぁ皆、他の所を助けに行きましょ、クリア・エーテル!」