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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第6章「結界の守護石:青」
 
 
「さて、こちらには何がありますかね」
 結界を解く鍵を探して遺跡の奥へと向かった者達。その集団に加わらず、独自の行動をしている者がいた。
 彼の名は緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)。今回救助活動に参加したのは珍しいマジックアイテムを拝めるかもという動機であり、最初は手前側を探索するグループに残っていた。
 だが、攻撃の効かない魔法生物が現れた事でその姿に興味を持ち、力を手に入れられないかと混乱に乗じて離脱して来たのである。
「今の所判明しているのは結界内にある銅板と、他の方が見たという光の先にある物ですか。教授の話では結界よりも魔法生物の誕生が先だったとの事ですが、銅板一つであの不思議な力を生み出せるかが疑問ですね。もしかしたら他の銅板が存在するかも知れませんし、まずは手当たり次第に見て回るとしましょう」
 
 
「あったわ、青い石が。今度のは随分小さいわね」
 遙遠が進んでいる道の先では、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)達が青の守護石を発見していた。これまでにも同様の守護石がいくつかあり、それらを調べる事によって結界の方に魔力を供給している形跡がある事を突き止めている。
「それじゃあこれも破壊してしまうわね」
 朱里が氷術を守護石に撃ち込む。それにより魔力の流れを狂わされた守護石は一瞬光を強くし、砕けるように散っていった。
「大丈夫か? 朱里。結構な数があったから少し休んだ方がいいだろう」
「……そうね、少しだけ休ませて貰うわ、アイン」
 近くの段差に腰掛ける朱里と、彼女の疲れを癒すアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)。朱里の疲労は氷術を連続使用した事による精神的なものなので、アインの力があればすぐに回復するだろう。
「それにしても、五色の光か。ここまでの道のりでは見なかったが、この青い石以外にも同じような物があと四種類あるという事かな」
「そうね、この石が氷術で破壊出来たのなら、やはり他もそれぞれの属性に対応してる可能性が高いわね」
 アインの推測にローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が同意する。結界の前で紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が見た光を辿る事にした者達は気になる光を追う形を取っていた。今ここにいる面々は、そのうち青い光の方向に当たりをつけて探索している者達だ。
「青だから逆に炎術の可能性もあるかなって思ったけど、単純な仕掛けだったね」
「恐らくはこの石に宿る氷結の力を増幅し、暴走させる事で砕け散るのだろう。何事も、過ぎた力は己を滅ぼすという事であるな」
 シエル・セアーズ(しえる・せあーず)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が最早ガラス玉程度の価値しか無い破片を見下ろしながら言う。
 守護石を破壊する為に全員が思いついたのは守護石の色が象徴する属性をぶつける事。次いで逆に相反する炎熱属性をぶつける事だった。更にローザマリアや朱里は陰陽五行説のような結びつきも視野に入れていたが、最初の手で無事に破壊出来たという訳だ。
「今の所、教授の見た相手の襲撃はありませんね」
「対峙した事のある方が炎使いと一緒にいたとも仰ってましたから、こちらにいる可能性もありそうでしたけど……ともかく、まだ油断は禁物ですね」
 襲撃者に備えて気配を消しながら進んでいた一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が姿を現す。幸いな事にここまでの道のりで遭遇したのは大小様々な青の守護石のみで、戦闘行為が必要となる状況には陥っていない。
「奇襲も十分考えられる。石の破壊で変化が見られるまでは十分気をつけて行くとしよう。瑠奈、次に進む方向は決まっているかい?」
「は〜い、多分あっちですねぇ、アインさん〜」
 神崎 瑠奈(かんざき・るな)が銃型HCのマッピングデータを参照しながら答える。彼女はどちらかというとこういった探索系を得意としている為、トレジャーセンスによる先導と進行経路の記録を一手に引き受けていた。
「朱里、君の方は大丈夫かい?」
「えぇ、大分楽になったわ。ありがとう、アイン」
「じゃあ先に進もうか。これまで通り、瑠奈を護るようにライザと僕、輝の三人で――輝?」
 アインがこの時点になって、神崎 輝(かんざき・ひかる)が何も発言していなかった事に気付く。他の皆も輝の方を見るが、当の本人は何か考え込んでいるようだった。
「輝、ちょっと輝!」
「――え? な、何? シエル」
「何じゃないわよ。先に進むってアインさんが言ってるのに、何ぼけっとしてるの?」
「あ、ごめんなさいアインさん」
「いや、僕は構わないんだが、心配事があるなら言っておいた方がいいぞ」
「大丈夫です。その、個人的な事で考え込んじゃってただけですから」
「そうか……それに関しても、必要なら僕や皆に相談するといいよ」
「はい、ありがとうございます」
 気を取り直して先へと進む一行。そんな中、輝のパートナーである三人は最近の輝の行動を心配していた。
(マスター、元気がありませんね。こういう時、シエルさんならどうすればいいかすぐ思いつくんでしょうけど……)
(お兄ちゃんどうしたのかにゃ〜。心配だけど、ボクまで気を落としても仕方無いから、普段通り頑張らないとにゃ〜)
(最近いつもこうなのよね。スランプなのかしら。これ以上ぼけっとしてるようなら一発引っ叩いてでも元気づけなきゃ駄目かしら)
 
 その後も一行は守護石の破壊を続けていた。徐々に守護石の間隔が狭まり、瑠奈が感じる反応も顕著になってくる。
「この先で最後みたいですね〜」
 角を曲がり、ちょっとした部屋のような場所に出る。その中央には青い守護石が。これまでと違い、オーブのような球状の物で、しっかりとした台座がそれを支えている。
「随分大きいわね……今までと同じやり方で破壊出来るかしら」
「必要なら妾達も力を加えよう。たとえ大きかろうと――」
「――待って、来るわ」
 光学迷彩を使用して殿を護っていたローザマリアが朱里とグロリアーナの前に出て二振りの無光剣を構える。それと同時にスーツ姿の女性が現れ、ナイフを突き出してきた。
「……なるほど、見えざる刃か。良くやる」
「奇襲を警戒した甲斐があったわね。如何にもな石の前での襲撃、お約束だわ」
「何、お約束も悪い物では無かろう。人というのは障害を乗り越えてこそ成長出来るものだからな」
 奇襲をかけた女性、リデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)がローザマリアから距離を取る。彼女の言動を見る限り、守護石の護衛というよりも独自の目的で動いているようだ。
「ライザとジョー、それから朱里は石の破壊に向かって頂戴。あの敵は私達で相手するわ」
「うむ。ローザよ、そなたらに任せるぞ」
 守護石の方に三人が走り出す。同時にローザマリアがリデルへと攻撃を仕掛け、両者の刃が再び交錯した。
「随分戦い慣れしているようだな、お前は。教導団仕込み……いや、それ以前にも軍の経験がありそうだな」
(ナイフでの近接戦。普段の私に似てるわね……この女も軍経験者なのかしら)
 再度離れ、互いに様子を見る。次に動きを見せたのはリデルの手だった。だが、それはローザマリアに向けられた物では無い。
「カール、弾幕を展開」
「はい……システム、戦闘モードを起動します」
 奥の通路から姿を現したカルネージ・メインサスペクト(かるねーじ・めいんさすぺくと)が機関銃を設置して銃弾を連続で発射する。目標は守護石に向かおうとしたグロリアーナ達だ。
「! 伏せよ!」
 殺気を感知したグロリアーナとエシクが朱里を素早く引っ張り、柱を盾にする事で機関銃の射線から外れる。
「伏兵、戦術の基本ですね。このままでは石に接近する為の障害となりますか」
「案ずるでない、ジョー。伏兵には伏兵で返すまで」
 グロリアーナの言葉に応えるかのように、潜伏していた瑞樹が機晶キャノンを展開する。そして弾幕のお返しとばかりに連射を始めた。
「私達の敵……好きにはやらせないっ!」
「くっ、向こうにも機晶姫が……でもリデルさんは自分が満足するまで退いてはくれないでしょうし、リデルさんが怪我しないように出来るだけ抑えておかないと……!」
 機関銃とキャノンの応酬がこの空間を支配する。その空気を楽しむかのように、今度はリデルが輝へと斬りかかった。
「わっ!」
「戦場で考え事とは……それとも、迷いがあるのか?」
 後手に回った輝は盾での防御を余儀なくされる。だが、その防御自体も精彩を欠き、ナイフの連撃を止めるだけで精一杯となっていた。
「そのような戦い方では……待っているのは死だぞ!」
 連撃から一転、蹴りを放って輝を突き飛ばす。尻餅をつく輝に対し、リデルはナイフの切っ先を向けた。
「互いに身も心も、魂すらも刃と化し、鎬まで削り合う戦いをしようじゃないか。極限の綱渡りのような戦いと緊張感こそが、その先にある『成長』と力を引き出すのだからな」
(やっぱり……ボクじゃ駄目なのかな)
 輝の脳裏にそんな言葉がよぎる。輝は最近、自身の力の伸び悩みを気にしていた。パートナー達に頼りきり、何も貢献出来てないのではないかという焦燥。それによりミスを犯し、そのミスでまた悩むという悪循環。負の連鎖が続き、今こうして自身の命がかかっている局面となっても緩慢な動きをしてしまうほど、輝は思考の迷路に嵌っていた。
(なるほど、あの瞳……己への自信を失い、拠り所を探しているか。だが、あれは軸となる物を見出せば強く輝く目だ。面白い、私の満足する成長をみせてくれるか、成すすべも無く才能を散らすか。荒療治と行こうか)
 再び輝へと迫るリデル。それを防ぐ為にシエルが火術を放ち、瑠奈が死角から銃で援護する。
「輝はやらせないわよ!」
「ボクもお兄ちゃんを護ります〜」
 誰かが間に入る事は予測出来ていた。その為の手は考えてある。
「カール!」
(はぁ……またリデルさんの悪い癖が。誰かの成長する姿を見る為には自分自身すら危険に晒すんですからねぇ)
 リデルの声と同時にカルネージが機関銃の向きをシエル達の方に変える。当然カルネージ自身は瑞樹の弾幕が来るのですぐに壁へと退避するが、その一瞬だけでもリデルが二人を突破するには十分だった。
「やらせる訳には!」
 だが、更にアインが立ちはだかった。彼は朱里の精神力を回復し続けてきた事で自身に精神的な疲労が蓄積されていたが、それでも盾を構えてリデルの攻撃から輝を護る。
「アインさん!」
「くっ……大丈夫か? 輝」
「ボクは大丈夫です。それより無理をしないで!」
「無理なんかはしてないさ。朱里を、子供達を、そして仲間を護る。それが僕の戦いなんだ」
「アインさんの戦い……」
「輝、僕には君が何に迷っているのかは分からない。でも君にはそんな姿は似合わないという事だけは分かるよ」
「そうね、アイドルだったら常に自信を持っていないとね」
 上空から突然声が聞こえる。弾幕を回避していたローザマリアだ。そのまま狙撃銃型の光条兵器を撃ってアインへの攻撃を止めさせる。
「ローザさん達の言う通りよ、輝! うじうじしてるなんてアイドル失格なんだから!」
「皆を笑顔にしてる方がお兄ちゃんらしいですよ〜」
「シエル、瑠奈、皆……」
 輝の眼に『輝』きが戻る。そうだ、自分が何の為に歌姫の道を選んでいるのか。それは周囲に希望を与える為ではなかったのか。
「やっと本調子になったみたいね。それじゃ、ここで決めるわよ」
「はい、ローザさん!」
 ローザマリアと輝が剣を手に走る。ローザマリアが天から、輝が地から襲い掛かってリデルを圧倒する。この戦局は二対一である事以上に、復活した輝の動きが大きく影響していた。
「己の殻を破り、成長したか。少女よ、私はリデル・リング・アートマン。お前の名を聞いておこう」
「ボクは846プロダクション所属! 歌って戦えるアイドルの……神崎 輝だぁぁぁ!!」
 輝の一撃がリデルのナイフを弾き飛ばす。止めとばかりにローザマリアが降下し、両手の剣を振り下ろした。
「これで……終わりよ!」
「くっ!」
 リデルが袖に隠し持っていたライトブレードを取り出して対処する。それにより致命傷は免れたが、ローザマリアの二振りの剣を完全に止め切る事は出来ず、肩口を負傷する事となった。
「ここまでか。カール!」
「了解、退避行動に移行します」
 呼びかけを受けたカルネージがミサイルポッドを展開し、発射する。
「砲撃……! 六連ミサイルポッド、全弾発射!」
 同じ機晶姫である瑞樹が同様に砲撃を行い、空中で相殺していく。その爆発により悪化した視界が回復した時には、リデルとカルネージの姿はどこにも無かった。
「皆、ありがとう。それからシエル、瑠奈、瑞樹……心配かけてごめんね」
 輝が全員に向かって頭を下げる。そんな空気もらしくないとばかりに、シエルが輝に抱きついた。
「ほらほら、私達に似合うのは笑顔なんだってば! ね? 『少女』!」
 リデルが最後に残した言葉を茶化すシエル。もっとも、輝が外見から性別を間違われる事は日常茶飯事といえるのだが。
「では皆さん、後はあの石を破壊するだけですね」
 瑞樹の言葉で皆の視線が守護石に向く。やはりそれは大きく、一人の氷術程度では破壊する事は出来ないだろう。
「別個に仕掛けても破壊出来ないのなら、三本の矢の故事に倣うまでです。これが最後、一斉に仕掛けましょう」
「うむ。ジョーの申す通りであるな。では皆よ、参るぞ」
 グロリアーナの号令で皆が氷結属性の攻撃を放つ。四方からの冷気を受けた守護石は次第に蒼い輝きを強くし、その中心に一際美しい光を放つ核が現れた。
「妾の舞いと共に天へと帰れ。さらばだ――美しくも儚き青の守護者よ」
 冷気を宿した双剣が核を切り裂いた。収束し続けた冷気が拡散へと転じ、冷たい風が吹き荒れる。その風が収まった頃には、結界を維持していた魔力は全て掻き消えていた――