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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第5章「結界の守護者:スライム」
 
 
「チッ、こいつら……どういう原理かは知らねぇが攻撃が効かねぇ!」
 壁から染み出し、ゼリーかグミのような形状を取ったスライムを相手にしている者達。その一人であるグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)はナイフ片手に戦い続けていたが、何度切りかかっても不思議な弾力を持つスライムの身体を切り裂く事は出来なかった。
「くそっ、くそっ! いい加減に……ぐぁっ!?」
 突き飛ばす衝撃はあっても決して倒れる事の無い敵に焦りを覚える。そうして僅かに怯んでしまった隙を突かれ、横から来たスライムの突撃を喰らってしまった。
「それ以上はやらせぬ!」
 そばにいたアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が槍でグラハムに飛びついたスライムを突き飛ばす。スライムとは言っても固体に近い性質を持っているらしく、形成している身体全体がグラハムから引き離される。
「グラハム、大丈夫ですか!?」
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が駆け寄ってくる。彼女と一緒に御剣 紫音(みつるぎ・しおん)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)も近寄り、グラハムの腕を診た。
「これは……酸での攻撃か? アルス、治療を」
「任せるのじゃ、主様。貴公、少し大人しくしておれよ」
 アルスの治療によってグラハムの傷が癒されていく。だが、彼は肉体以上に精神的にダメージを受けているようだった。
「くっ、情けねぇ……あんなスライム一匹倒せねぇなんて、俺の力はこの程度なのか……!?」
 思わず地面を殴りつける。その拳をセシルが優しく包み込んだ。
「諦めては駄目ですわ。一人で打開出来ないのなら、協力して当たれば良いだけです。その為に私が、皆様がいるのですから」
「セシル……面目ねぇ、つい弱気になっちまった。そうだな、俺一人で何でもやろうとする必要なんてねぇんだ」
 グラハムの目に光が宿る。大切なパートナーの言葉に、彼は再び自信を取り戻していた。
「……ああ、そうだぜ! 俺はお前と共にある魔鎧だ。俺はお前を護る! セシル、装着だ!」
「えぇ、参りますわよ」
 グラハムが瞬時に魔鎧へと姿を変え、セシルの身を覆う。服装自体は装着前同様メイド服なのだが、どういう仕組みなのか本来の服が消え、魔鎧としてのメイド服のみを纏っている状態になった。
 その姿はスカートが短く胸元が大きく開いていて、更に装着前に着けていた晒まで消滅した為にその豊かさをしっかりとアピールした物になってしまっている。
「この格好は……多少は慣れましたけど、やっぱり恥ずかしいですわ……グラハム、本当に貴方の趣味ではありませんの?」
「あ、当たり前だろ! そ、そうなっちまってんだよ!」
 慌てたようにセシルに答えるメイド服、もといグラハム。彼女を包み込みながら『四式に進化出来た時はまともなプレートメイルなんかにしないと駄目かな』などと考えるのであった。
 ――ちなみに、メイド服の意匠が彼の趣味かどうか。それを知るのは本人のみである。
 
「あら、槍使いの方が多いですねぇ。せっかくですから連携を取りましょうか〜」
 セシルが箒の先を外し、槍としての形状を見せた事でルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が反応する。彼女も槍を己の得物とし、自在に操る者だった。
「天音ちゃん、援護をお願いしますね〜」
「任せてルーシェちゃん。姉さんも一緒に」
「あぁ、クレセントに合わせる」
 ルーシェリアの友人である篁 天音(たかむら・あまね)が魔法での支援を、そしてもう一人の槍使いである篁 月夜(たかむら・つくよ)が前衛を担当する。
 槍使いはまだいる。ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)だ。
「わたくしも参加致します。敵正面に対し、槍衾で対抗致しましょう」
「そうですねぇ。反撃に気をつけて、間合いを取って戦いましょう〜」
「左利きの私が右翼に就いた方が良いだろう。フォークナーは中へ」
「かしこまりました、月夜様。それでは……お掃除と参りましょう」
 ハンス、ルーシェリア、セシル、月夜が横並びに立つ。一列だけの構成ではあるが、さながらファランクスと言った所か。
「行きますよ〜」
 ルーシェリアが火術を放ち、スライムの動きを牽制する。そこに天音が天のいかづちを落として足止めを引き継いだ。
「皆、お願いね!」
 前衛の四人が足並みを揃えて突撃する。そしてスライムの群れが槍の間合いに入ったと同時に、一斉に槍を突き出した。
『はっ!』
 二本の槍がスライムを貫き飛散させる。もう半分、両翼の二人による攻撃は先ほどのアウレウスと同じくスライムを突き飛ばすのみに留まった。
「これは……申し訳ありません、お二方で再攻撃を」
 反撃として飛び掛ってきたスライムをハンスが盾で防ぐ。右の方では月夜も同様の動きをしていた。
「はい〜、追加攻撃しますねぇ」
 攻撃の通ったルーシェリアとセシルがそのまま隣の援護に入る。今回も二人の突きはきちんと決まり、ゼリーのような身体がその場に溶け落ちていった。
「散らかってしまいましたわ。水っぽい魔物ですし、洗い流しましょう」
 得意のメイド術でささっと片付けるセシル。そちらは彼女に任せ、ハンスがクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)の下へと戻った。
「ハンス、ご苦労だった……手応えは?」
「……対象を突き飛ばした事から判断しても、攻撃自体は当たっていると見て間違いありません」
「そうか……クレセントとフォークナーの攻撃だけが有効だった理由、か……」
 状況を整理し、思案するクレア。その横ではアウレウスが感激に打ち震えていた。
「素晴らしい……あの魔鎧の男、主の力となり、魔法生物を貫く一助となるとは! あれぞまさしく仕える者の姿……!」
 どうやら極度の主至上主義である彼はセシルとグラハムのやり取りを見て、スライムを打ち破った力をその忠誠心故と勘違いしたようだった。
 だが、最早アウレウスにとってはそれが事実。ならば自分にも出来ないはずは無い。自身が抱くグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)への忠誠は他のどんな主従関係にも決して引けをとる物では無いからだ。
「主! 我が力、今こそお使い下さい!」
「ん……そうだな。使わせて貰うか」
「はっ、この力、全ては我が主の為に!」
 アウレウスの姿が銀の装飾を施した黒いロングコートの姿になり、それをグラキエスが纏う。救助ついでの遺跡探索の障害になるスライム達を金色の瞳で見据えると、ファルシオンを抜いて走り出した。
「……俺の邪魔をするな」
 魔鎧から伝わる力でファイアストームを放ち、集団を纏めて焼き払う。更にその隙に死角へと入り込むと、重量に任せた刀の一撃で一気に薙ぎ払った。
「あの者の攻撃も全てが有功打となっている。魔鎧を纏ったという事は彼も地球人か……つまり、そういう事か……?」
 クレアが魔法生物が持つ耐性の正体に気付く。状況を有利に運べるよう、すぐに全体に指示を出した。
「スライムへの攻撃は恐らく、地球人のみ効果がある。各員、地球人を援護する形で展開を」
「なるほど、だったら俺も前に出る。風花、アルス、アストレイア、スライム掃除と行くぞ!」
「任せておくれやす、紫音。私が援護しますぇ」
「怪我をしたらわらわが癒すのじゃ。だから主様、思う存分戦ってくるのじゃぞ」
「どうやら魔鎧として主を手助けする分には支障が無いようじゃな。では……我、魔鎧となりて我が主を護らん」
 紫音が魔鎧としてアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)を纏い、一気に敵の中心へと飛び込む。当然スライム達は次々と襲い掛かってくるが、アストレイアの助言と綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)のテレパシーによってそれを把握し、双剣で舞うように斬り捨てた。
「主、左前方から二匹じゃ」
『右のスライムを抑えたさかい、攻撃しておくれやす』
「あぁ! まずこいつ……それから、こっちだ!」
 更に左の二匹を二振りの剣で両断し、反転して風花がサイコキネシスで動きを止めているスライムを三分割する。紫音はこれまでの冒険で培った読みの鋭さを活かし、的確にカウンター戦法を取りながら戦っていた。
「ふむ、この分じゃと主様が傷付く事は無さそうじゃの。他の者達にも気を配って――ん?」
 回復役として同行していたアルスは出番が無さそうな事に一安心し、周囲を見渡す。すると、紫音と似た戦いを見せている少女が目に入った。