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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第9章「結界の守護石:黒」
 
 
「……マスター、次の石……多分こっちです」
 遺跡の中でも特に暗闇の広がる道を四谷 大助(しや・だいすけ)達は進んでいた。
 彼らの前に現れるのは黒き守護石。四谷 七乃(しや・ななの)によって導かれた一行が見つけたそれを、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が一つ一つ確実に破壊して行く。
「暗闇でも行動する術を心得ているから移動自体は苦では無いが、こうも暗いと石を見落とさないようにするのが大変だな……」
「でも今の所は漏れは無いはずだわ。この調子ですぐにでもあの結界を消滅させてしまいましょう」
 ティアン・メイ(てぃあん・めい)の言う通り、これまでの守護石は全て破壊されていた。黒の守護石は闇の象徴の為か陰に設置されている事が多かったのだが、天井まで気を配るエヴァルトが見落としを防いでいた。
「それはそうと皆さん、大助さんの様子、少しおかしくありませんか?」
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の言葉に皆が大助の方を見る。これまで彼はエヴァルトと一緒に守護石の破壊を担っていたのだが、それ以来雰囲気がピリピリとしている。
 ――いや、守護石を破壊する度にその傾向が強くなっているというべきか。
「大助、一体どうしたのよ、ブスっとしちゃって。何かイライラする事でもあった?」
 見かねたグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が大助に話しかける。だが、彼女をもってしても大助のその状態が変わる事は無かった。
「……別にイラついてなんかない。さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっと! 明らかにイラついてるじゃないの! 待ちなさい、大助!」
 スタスタと先に行ってしまう大助を追いかけるグリムゲーテ。そんな二人を見ながら白麻 戌子(しろま・いぬこ)榊 朝斗(さかき・あさと)は不穏な空気を感じていた。
「本当におかしいねぇ。大助……というより七乃かな。大助以上に上の空だし、何だか嫌な予感がするのだよ〜」
(確かにあれは普通じゃない。この遺跡が何か影響してるのかな? 黒、闇黒……『闇』か……)
 
 
 どこまでも続きそうな暗闇の通路を進んで行った一行は、一際強い魔力を感じる場所へと辿り着いていた。そこは仄かな灯りが存在し、これまでより大きな守護石が置かれている。
 そしてその前には――
「やっぱりいたね……三道 六黒(みどう・むくろ)
 朝斗が思わずつぶやく。火天 アグニ(かてん・あぐに)達がいると聞いていた以上、闇黒、そして黒の守護石の作るこの道の先に彼の姿があるだろう事は想像に難くなかった。
 朝斗と六黒はイズルートで起きた事件の際、直接刃を交えていた。その時朝斗は自身が『闇』と呼ぶもう一つの人格に意識を支配され、その無軌道な力を切り伏せられてしまったのだった。
 
 ――いかに強き闇を抱えていようと、それに喰われるようでは話にならぬ。
   真なる力を求めるならば、ぬしの心で闇を喰らいつくしてみせよ!――
 
「ぬしか。カナンの地以来よな。あの時に垣間見せた『闇』の力、自らで喰らって見せたのであろうな?」
「いいや、喰らってなんかいない。あの力はむりやり従える物じゃ無いって分かったから」
「だが、その力は逆にぬしを喰らい尽くそう。その時ぬしは、己を保つ事が出来るか? 憎しみに囚われ、全てに牙を剥く力。それに支配されるようでは話にならぬぞ」
「そんな事はさせない。怒りも憎しみも恨みも……全部含めて『僕達』だ。『僕』は『ボク』と向き合うと決めた。倒すべき相手を……僕達はもう、間違えはしない」
 これが朝斗の答え。心に巣食うもう一人の『ボク』を受け入れ、その上で自身の望む方向へと向かって行く。
「なるほど……己の力、己の意思で御するは当然か。では問おう。更なる高みに到達する為に、全てを捨てる覚悟はあるか」
 剣を抜く六黒。彼の後ろにいたのだろうか、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)がいつも通りの微笑を扇子で隠し、朝斗達に警告を発する。
「さて皆さん、舞台は整いました。遺跡の鍵を握るであろうこの守護石、悪人商会の私達が護らせて頂きます。己の意志を貫きたいのであれば、相応の代償を払って頂きますのでご了承下さい」
 ここまで来て臆する朝斗達では無い。そんな中、エヴァルトは一人、六黒達では無く守護石に狙いを定める。
「代償か。友や仲間の為ならこの命、捨てないまでも全賭けをする意志はある。だが……ここではまだ、そのような事をする必要は無い」
「おや、では貴方はこの舞台から降りると?」
「違うな。適材適所……強い者には同じく強い者が当たり、強敵への適切な対処が思いつかない……つまり俺という弱い者は弱いなりに出来る事をするだけだ。幸い、共に来た者の多くはお前達と十分に戦える強さを持っているようだからな。俺は安心して破壊活動に勤しめるという訳だ」
 たとえどれだけ強かろうとも、状況に応じた判断が出来なければ真の意味で強いとは言えない。それが分かっているからこそ、エヴァルトは六黒達の相手を朝斗達に委ね、自身は本命を叩く事を選択した。
「よかろう。その信頼を最後まで貫けるかどうか……わしらで見極めてくれよう!」
 六黒の言葉と共に二体のゴーレムが動き出し、次々に突撃を開始する。真っ直ぐに突進してくる二体を朝斗やエヴァルト、大助達は簡単に回避するが、ゴーレムの後ろに二人の人物が張り付いているのが見えた。その片方、ドライア・ヴァンドレッド(どらいあ・ばんどれっど)がニヤリと笑みを浮かべると、ゴーレムを横に並べて狭い道を塞いでしまう。
「なっ……まさか目的は、私達を分断させる為!?」
 前衛との間を邪魔されたティアンが相手の真意を悟る。後衛であるこちら側には、自分とパートナーの高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)、そして二丁拳銃での戦いを主体とする戌子の三人だけしかいない。
「前に出る奴らの信念、師匠が受け止めてやるぜ。その間お前らは俺が相手だ。もっとも、金魚のフンなんぞに大した信念もねぇと思うがなッ!」
 ドライアが後衛側へと降り立ち、吠える。更にもう一人、こちらは羽皇 冴王(うおう・さおう)だ。
「さぁ力比べだ、かかって来やがれ。来ねぇんなら……こっちから行くぜぇ!」
 言葉と共に周囲の爆薬を起爆し、粉塵で視界を遮る。玄秀達は喉と目がやられないように気を付けながら奇襲を警戒する。
「はははっ! どいつから殺るとすっかな。油断してるとバッサリだぜぇ!」
 粉塵の中から冴王の声が響く。確かにこの視界の悪さでは接近されても気付き難いだろう。このままでは不利だと思い、玄秀は手前側にある十字路の角に身を隠す。
(……これが闇の眷属の気合か。方向性は違うが、純粋なまでの力への渇望……分からない訳じゃない。だが、今は――!)
 そばにはティアンと戌子がいる。そして他の者達はゴーレムにより阻まれたその先だ。なら味方が巻き込まれる可能性は低いだろう。そう考えた玄秀は粉塵舞う通路に向けて、ファイアストームを撃ち込んだ。次の瞬間、粉塵爆発が発生して角に退避した玄秀達の横を暴風が通り抜ける。
「ゲ……ゲホッ。お前ら……何て無茶しやがる……!」
 粉塵が晴れたその先では直撃を受けたドライアが倒れこんでいた。実はこの粉塵による煙幕は冴王が後衛を狙うと見せかけて逆に前衛の後ろを突くという手段を執るための策であった。冴王はゴーレムよりも向こう側にいた為に直撃は免れたが、唯一こちら側にいたドライアはその被害を思い切り受けてしまっていた。
 ちなみに、分断する為に立ち塞がっていたゴーレム二体が壁となり、前衛側には特に被害は出ていなかった。今は冴王の奇襲を察知したルシェンが彼の攻撃を防いでいる。
「危ない所でしたね。ですが、貴方達相手に油断はしません。朝斗、皆さん。後ろは私が抑えます。今のうちに前を!」
 後衛及び中衛に関してはこちらが相手の手を上回り、優位に立っていた。だが、肝心の前衛において綻びが生じ始める。
 
 ――イイナ、強イ奴ラバカリジャナイカ。誰ヲ相手ニシテモ楽シメソウダゼ――
 
(――! 今オレは何を考えた……!? くそっ、さっきから何かが変だ……)
 大助が突如湧いた考えに慌てて首を振る。だが、守護石の破壊を始めた時から自身の身に何かが起きているのは間違い無かった。いや、自分だけでは無い。むしろ魔鎧として装着している七乃の方がその反応は顕著だ。
(この暗闇……いつもと違って凄く落ち着く……まるで七乃の一部になってるみたい。今ならきっと、マスターに相応しい最強の魔鎧に……)
「……ほぅ、この場の魔力に呑まれておるか。その心、保ち続けられるか試してくれよう」
 大助と七乃の様子に気付いた六黒が手をかざす。すると腕のブレスレットが妖しい光を放ち、七乃の心を侵食し始めた。
 
(マスターの為には力が必要)
(もっと、もっと七乃に力があれば……!)
(力はある。闇の力に身を委ねて)
(力に……力を……)
(そう、力を揮う。目の前の者は――全て敵)
(敵……マスターの敵……敵は――殲滅する)