リアクション
◇ ◇ 「ハルカ、勝手に動いて皆に心配をかけてはいけませんよ? わかりましたね」 樹月 刀真(きづき・とうま)は、そう言ってハルカの頭を撫でた。 「大丈夫なのです」 と頷くハルカは、そもそも毎回、自分が迷子になっている自覚が皆無なのが困り所だ。 約束を交わしながらも、ハルカから注意を逸らしてはいけないだろうとは判断していた。 光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が抜かりなく、ハルカの持つお守りに『禁猟区』を施す。 それでもハルカは今回、自分が離れている間にオリヴィエがいなくなってしまった、という自覚はさすがにあって、 「ハルカがいない間にはかせが迷子になっちゃったのです?」 と、責任を感じている。 「……大丈夫。見付ければ、いいだけ」 刀真のパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、そう言ってハルカを抱きしめた。 「大丈夫。私達に任せて」 きっと見つけてみせるから。 オリヴィエ博士を連れ去ったのは、男女の二人組だったらしい。 「どんな話をしていましたか?」 「さてなあ。片方が一方的に怒鳴って、もう片方は無抵抗だったような気がするが」 話の内容までは聞いていない、とその男は答える。 そして殆ど無抵抗のまま、強引に引っ張って行かれたのだと。 「そういえば、女の方は片腕だったかな」 オリヴィエ博士を探す一方で刀真は、手掛かりになればと、彼がファリアスへ来た目的である、「ゴーレムのメンテナンス」の顧客についても訊ねて回った。 「この町で、ゴーレムを使っている人やゴーレムを使っている所を知っていますか?」 「鉱山で、多少使っているかな。 でもまあ、結局人手の方が色々手っ取り早いんで、あまり数は多くないぜ?」 そんな返答が得られて、それは恐らく、自分が求めている情報とは違う、と刀真は判断する。 それらは多分一般的なゴーレムで、オリヴィエの作成するものとは違うだろうと思えるからだ。 だが、特別なゴーレムに関する情報は得られない。 「……博士があの時、返答を濁していたのと、関係あるのか?」 刀真は独りごちる。 「博士は誰かに連れ去られたんじゃなくて……自分から付いて行った可能性もあるよね?」 そんな刀真に、月夜が言う。 「否定できませんね」 刀真も頷いた。 「ふっ、この面子で人探したあ、縁ってヤツを感じるのう」 パートナーの魔鎧、アーヴィン・ウォーレン(あーう゛ぃん・うぉーれん)を伴い、翔一朗は感慨深くそう言って、人探しの必殺技を使うことにした。 「必殺技なのです?」 「これじゃあ!」 取り出したのは、似顔絵を描いた看板だ。 それを2枚、首から下げて、サンドイッチマン状態にして町を歩くのである。 「あ、レベさん作戦なのです!」 かつて行ったことのあるその方法を、ハルカも勿論憶えていて、笑顔になった。 「あー、まあ、ここはそれほど大きい島じゃないもんね。効果あるんじゃない?」 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、微妙に引きつった笑顔で、一歩後退り、何気に他人のフリを試みた。 「じゃろ! 複数でやれば、相乗効果じゃけえ、あんたらもどうじゃ!」 「僕は空から捜すよ」 美羽のパートナーのヴァルキリー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、美羽にそう言う。 「ああっ、私も行くってば!」 美羽は慌ててそう答えた。 翔一朗はぐるりと黒崎天音の方を見……ようとしたが、既に彼の姿はなくなっている。 「……ま、仕方ないのう」 予想されてはいたことだったので、ここは一人で決行することにした。 その翔一朗の手を、ハルカが取った。 「ハルカ?」 きょとんとする翔一朗に、ハルカはにこりと笑う。 「ハルカは禁猟区が使えないので、みっちゃんが迷子にならないようにするのです」 「……あー、えーと、まあ、俺達が博士を見付けちゃるけえ、あんまり心配せんでもええで」 もご、と翔一朗はうろたえたが、とにかくそう言うと、連れ立って、博士を探す為の聞き込み調査を始めた。 オリヴィエ博士はミスリル製の財布を持っているはず、ということを知っていた翔一朗は、トレジャーセンスに引っ掛からないかと思ったが、何しろ、この島は宝石で溢れ返っているので、反応ありまくりで役には立たなかった。 それでも、彼等の地道な聞き込み調査によって、オリヴィエ博士の居場所はやがて見付けることができた。 彼は日中もあちこちをフラフラ歩き回っていたらしく、多くはなかったものの、目撃情報を得ることもできていた。 ……だが。 義賊が存在するなら、それを取り締まる立場の教導団は疎まれて然るべしと思ったが、制服を脱ごうとは思わなかった。 だが、意外にもファリアスの人々は、基本的に皆気さくで、 「大らかなんだか、単純なんだか」 と、心の中で思ったのは秘密である。 「アリーセ殿、お仕事を放っておいて良いのでありますか?」 足元で、パートナーの機晶姫、リリ マル(りり・まる)が言う。 「これも仕事です」 一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は冷静に言葉を返した。 休日のファリアスでは、いつもより大きな市が立っている。 アリーセは、教導団技術科の使いで、良質の機晶石の買い付けに来ているのだ。 実のところ、それがファリアスに来た直接の目的である。領主の護衛の方がついでだった。 ついでだが一応、キアンが狙っているものが、間違って市場に出回ってはいないかと、気をつけてみてもいる。 「今足元で何か声が?」 機晶姫の核となるものを扱っていながら、機晶姫らしからぬ姿に、店主が不思議そうに声を掛けた。 「気のせいだと思います」 それにもアリーセは冷静に答える。 「アリーセ殿!」 リリが泣き声で存在を訴えた。 「おう! 人を探してるんじゃが、こんなヤツ見かけんかったか?」 そこへ割って入った声に、アリーセは振り返り、そして首を傾げた。 「うーん、見かけた憶えはないねえ」 店主が答えている。 「……その人、どうしたんですか」 少女と手を繋いだサンドイッチマンの看板に描かれている顔に、アリーセは見覚えがある、ような、気がする。 「知っとるんか?」 「……まあ、その人が誰かは、知っているかもしれないですが……。 その人、どうしたんですか?」 「昨日から行方不明でのう。まあ心配ないとは思うんじゃが、一応探しとる」 名前を聞いて、足元でリリが、一大事! と叫んだ。 「行方の方は、解らないですね」 「そうか。邪魔したな」 礼を言って、サンドイッチマンは立ち去った。 「……オリヴィエ博士が、行方不明?」 アリーセは呟く。 自分の存在はスルーですかー! と足元でリリが泣き叫んだ。 |
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