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学園祭に火をつけろ!

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リアクション

     ◆

 場面は変わり、ウォウルたちが去った後のアミューズメントブース。偶然立ち止まり、クイズ大会を見ていた若松 未散(わかまつ・みちる)が、眉間に皺を寄せていた。
「何なんだよ、あのクイズ大会……まともなのあのねーちゃんだけだったじゃねーか」
「確かに、あれは酷かった。最後の問題、高校生の生物で習うだろうに」
 未散の言葉に頷いているのは、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。ダリルのパートナーであるルカルカ・ルー(るかるか・るー)は辺りをキョロキョロ見回しながら二人に言った。
「まぁ良いじゃん。得意じゃない人はわからないし、ちゃんと答えてる人がいるだけマシだと思わなきゃ」
「そうじゃない! 私だって正確な答えは知んないけど、もっとこう、面白いこと言えよ! あれじゃ大喜利になんてとてもじゃないけどでらんねーって」
「未散君。彼らは残念ながらお笑い研究会ではありませんよ。それと、これは関係ないですけどダリルさん。貴方もう少し未散君から離れて頂けませんか」
「ん? 別に俺が何処に座ろうが俺の勝手だろう?」
 未散が不満げにベンチに座っているのに対し、ルカルカとハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)は立っている。ルカルカは何かを探しているのかずっと辺りを見回し、ハルは何やら不機嫌そうにダリルの方を向いていた。
「まぁまぁ、二人ともそこら辺にしてさ、次にどこいくか考えようよ」
「そうでしたね。ルカルカさん、未散君。お二人のご希望は?」
「おいおい待てよハル。何だって俺の名は呼ばないんだ?」
「………おや、そうでした。貴方を忘れていましたよ。これは失敬」
「なんだ、最近物忘れが激しいのか? 疲れすぎの場合ならば良いが、急に最近物忘れが酷くなったら大病の可能性もある。一度ちゃんと検査に行った方が良いぞ?」
「ご心配なく!」
「そうか、まぁいい。お前も子供ではないからな。自分の体調管理くらいは自分で出来るだろ」
「(ダリル………ハルはもう少し違う意味合いでやったんだと思うぞ、気付いてないのかな?)そ、そうだ! さっきさ、色々見て回ってたときに射的があったような気がするんだよね。今から行ってみない?」
 ハルとダリルのやり取りに耳だけを傾けていたルカルカは、慌ててそう切り出した。どうやら彼女、キョロキョロしていたのは次にいく場所を探していたらしい。
「あたしぁ任せる。希望もねぇしさ」
「わたくしも、特にはございません」
「んー、そうだな。俺も特にはない。強いて挙げれば未散が行くなら、だ」
 ダリルの言葉に再びハルがダリルを睨むが、ダリル本人はハルを見ていないために彼の視線に気付いていないらしい。
「(なんか……生きた心地しないかもぉ……)よし、んじゃあ行ってみよー!」
「あいよー」
 ルカルカの気持ちなど誰も知るよしなく、彼女の懸命の提案に乗り、座っていた未散が席を立った。
「でもさ、ただ射的に行っても詰まんねーよな」
「あー、そうかも。景品は良いけど盛り上がりにかける、かな」
「ならばこんなのはどうだ?」
 先行するルカルカと未散の会話に、後ろから着いてきていたダリルが提案する。
「全員で勝負をする。勝ちは一人。以外は敗けだ。負けたやつは残りの半日、勝ったやつの言う事を聞く」
「何回も、だと緊迫感ないし、10発しょうぶ。これでどう?」
 ダリルの提案が面白かったのか、ルカルカが更に補足した。
「じゃあ、ハンデな。ルカもダリルも本業っていや本業だろ?」
「そっかー……じゃあ利き腕、利き目は禁止。これでどう?」
「ま、そんなもんかな」
 未散はルカルカの挙げた追加条件を聞いて了承した。が、ハルは――と言うと。
「(……ダリルさんの提案には恐らく、何らかの意図があるに違いないでしょう………わたくしが未散君を守らねば)……………………………」
 押し黙り、とある決意を内に秘めて小さく握り拳を作った。
「ん? ハル? どしたよ、黙ったっぱなしで」
「いえ、何でもありませんよ」
 なんとか取り繕うハル。未散は「あっそ」と言って再び前を向き直した。
 彼らがクイズ会場の見えるベンチを出発してから五分。一行は目的地に到着していた。
「さーて頑張ろうよみんな! お兄さん、一回ね!」
 元気よく、と言った様子でルカルカが射的の店番をしている生徒に声を掛けた。
「うーん、ただ勝つのも何か違う気がするし……………欲しい物を落としてった方が良いよね。やっぱ」
 一人そんな事を言いながら、銃口にコルクを詰めて景品を見定めるルカルカ。と、そこで彼女は気が付いた。
「あ、ごめん! なんか勝手にあたし一番! みたいになってるけど」
 慌てて後ろを振り替えると、完全に『お手並み拝見』と言った様子で彼女を見ている三人。『いーんじゃねー』などと言っていた未散も、どこか真剣な表情でそれを見ていた。
「良いんじゃないか? ルカが最初で」
「わたくしも異論は」
「…………………」
「そっか、じゃあお先に………って未散! 顔が怖いよ!」
 ルカルカの言葉にはっとなって、未散が顔を赤らめながらに俯く。
「わ、わりぃ…………」
 何だかんだで楽しんでいる未散。彼女としても、態度とは裏腹に勝負にはやはり勝ちたい様子である。
「さて、じゃあ気を取り直してっ! いざっ!!」
 銃を利き腕と反対の腕だけで持ち、利き目を瞑ったルカルカは集中して引き金を引いた。――一発目。
何とも間の抜けた、コルクが銃身から解き放たれる『ポンっ』と言う音の後、一個目の景品が落下した。
「ふぅ、結構利き腕ないときついなぁ……」
 呟きながら次弾を詰め込む。それからはぽとぽとと景品が落ちていき、四発を撃った段階で落とした的は四つ。それには店番をしていた生徒もやや驚いている。
「お姉さん凄いね」
「ありがとっ」
 店番の生徒に礼を述べた彼女は、同時に銃を構えて五発目を撃とうと銃口を狙った的に合わせた。引き金を引き、コルクが的を直撃した。したにはいいが
「あれ、落ちないの?」
 彼女の狙った的は寸前のところで止まり、何とかその状態を維持している。
「むーっ! 強情なうさちゃんだなぁ………」
 結構悔しかったのか、彼女は再び同じ的――手のひらサイズうさぎさん人形を狙い、引き金を絞る。今度は綺麗に落下したうさぎさん。そしてそれを見送るルカルカは僅かに顔を弛めた。
「後三発……流石に一発で落とせそうな、目ぼしい景品は落としちゃったし、最後に一個、三発で落とせるやつでも狙おうかな」
 そう言うと、ルカルカは比較的大きな犬のぬいぐるみを狙い引き金を絞る。一発、二発――。順調に的がずれていき、最後となる。
「落ちてくれるとうれしーなぁ……………と。ほいっ!」
 彼女が放った最後のコルク弾は、しっかりと犬のぬいぐるみにヒットする。此処に来るまでに、的の何処に重心があるかを何となく理解していたルカルカ。しっかりと落ちるコースを狙った訳だが、しかし犬のぬいぐるみは落下することなく、しっかり的台に鎮座していた。
「はい、お姉さん。景品プレゼント」
「やったー♪ わー、これ結構可愛いかもー」
 取ったぬいぐるみたちを抱き寄せて頬擦りするルカルカ。と、はっとした彼女はぬいぐるみ群に埋もれていた顔を出し、後に控える三人に報告する。
「って事で、あたしは五つね。うーん、やっぱり利き腕じゃないのはきつかったかなぁ…悔しいかも」
「お疲れ様でございます、ルカさん」
「やっぱすげーな、ルカは」
 真剣に見すぎていたからか、未散が大きく息を吐きながら苦笑する。
「そんなに真剣に見なくても良かったのに………何か恥ずかしいな」
 やや照れ笑いを浮かべているルカルカが未散、ハルの横に並ぶと、次に向かっていたのはダリル。
「次は俺がやらせてもらう。異論はないよな、二人とも」
「勝手にそんな――」
「ハル。良いじゃねーか。私はダリルの次が良いし」
「…………未散君がそう言うのでしたら……」
 不承不承、と言った様子で言葉を止めたハルは、やはり納得は出来ていないらしく膨れ面のままにダリルを見る。
「さてさて、俺もたまには頑張るとするかな」
 コルクを詰めているダリルは、うっすらと笑みを浮かべ、ルカルカ同様利き腕とは反対の腕で銃を持ち、片目を閉じて引き金を引いた。
間の抜けた音の後、コルクの球は彼が狙っていたであろう的の右側に当たり、的は落ちることなく左側へと回転しながら移動した。
「やはり利き腕でなければ難しい物なのですか?」
 既に自分の番を終えたルカルカに向け、ハルが質問した。
「まぁねぇ……やっぱりほら、箸とかペンとかさ。普段利き腕だけで使う頻度が異常に高いものを利き腕と反対で取り扱うって、難しいじゃない?」
「箸やペン……確かに難しいですね」
「慣れなきゃ案外出来るもんだよ。でも職業柄銃器なんかに触ってる機会が人より多いと、感覚的に狂っちゃったりするんだ。その狂いって、箸やペンなんかじゃ比べ物にならないくらいに誤差が凄いんだよ」
「だから最初、彼は外してしまわれたのですか?」
 納得のいく解説をされたからか、ハルが訊ねた。が、ルカルカは不敵な笑みを浮かべる。
「さてね、それはどうだかわからないよ。あたしは感覚とか慣れを大事にするけど、ダリルは違うもん。それこそ、理詰めでくるかもね」
 ルカルカが言い終わると同時に、ダリルが二発目を撃った。が、やはり的は落ちる事なく、その場を移動するだけだった。三発、四発と同じことが続く。
台の上で倒れる的、倒れてはいないが隣に的に引っ掛かっている的。様々な状態の的が台に並んでいて、店番の青年は『おまけくらい』と思うほどに的が落ちない。が、ダリルの顔に焦りやら苛立ちの色はない。そしてその状況に誰よりも早く気付いたのは、ハル。
「ーーまさか」