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――、豪華寝台車3号室


「さて、外は大変なことになっているみたいだね」
 現状を知り、極東新大陸の研究者。一口A太郎は別段慌てることなく、そう呟いた。
「この事態を予期していた言い草ね、あんた」
 ローザマリアの言葉に「まさか」とA太郎は返した。
「僕だって本国に呼ばれただけで、こんなことに成るとは思っても見なかったよ。この部屋だって僕が予約したわけじゃない」
「……嘘はついていないですね」
 ティーの《嘘感知》の審議は是と出る。
 エシクが尋ねる。
「彼らの目的について何か心当たりはないの?」
「何も。僕にわかるのは彼らのことだけ」
 A太郎が語ったのは、双方のグループが持つ武装兵たちの事だった。
「彼らのその大半は雇われの傭兵だ。名もなき軍隊(NSF)という、非所属の傭兵たちだ」
「非所属って?」
 ローザマリアが反芻する。
「その名の通りだよ。国家、民族、そして学園にも属していない。彼らひとりひとりに名前なんてものはない。故にこう呼ばれている――ジョン・ドゥと」
「ジョン・ドゥ――身元不明者か」
 鉄心のつぶやきが肯定される。なお、女性の場合はジェーン・ドゥと称す。
「そのとおり。彼らはパラミタにおける戦火が生み出した行き場のない者たち。その集まりがNSFだ」
 パラミタは現在においては平和を保ちつつあるが、幾つかの戦役を重ねてからの平和が今あるだけだ。それまでの戦争で生まれた戦争難民、戦争孤児、戦争被害者、残党兵、敗残兵は少なくはない。その中には平和というカテゴリーに所属できない人間もいる。平和に居場所のない身元不明の兵士たちの行き場は二つ。学園か、その他の武装組織かだ。
「そんなこと何故知っている?」
 再び鉄心が問う。
「NSFに知り合いがいてね。彼は身元有明だけど。名を鏡昭成(かがみ てるなり)ていってNSFを組織した人物さ」
 ということは、その知り合いはNSFの中でも有力者ということに成る。
「じゃあ、そいつがNSFを作ったてことよね? なんのために?」
 とエシクが訊く。
「なんのために作ったかはしらない。だけどなんのためにあるのかは、彼にとっては明白だ。ビジネスってことでね」
「軍事ビジネスか」
 A太郎が頷く。
「そうだ。教導団にいる君らならわかるだろうけど、本来軍事おける人件費は多額だ。その内訳で最もレートを上げているのが手取りではなく、保険と担保だ。万が一のために軍人には多くのお金が掛けられている。だけど、身元不明者ならどうだろう? 彼らは死んだところでもともと、死んでいる人間であり、死んでもどこの誰ともわからない。保険の掛けようがない故に、一人あたりの雇用単価は安くなる。NSFとは兵を安く供給する軍事的ビジネスシステムなんだ」
「それじゃ、今トレインジャックをしている組織がNSFを雇う意味って何?」
 そこがわからないとローザは言う。資金面で安価に雇うのはわかるが、雇わなければならない事態が想定されているのが不自然でならない。特に、十字教団においては。
「それはさっき言った通りわからない。少なくとも、十字教団がアリスという人物について心当たりはあるんだが……それも考えると一個の可能性でしか無いけど」
 ジュラルミンケースを目の前に置いてい告げる。それ自体を指してA太郎は言った。
「本国に届けないといけないものだけど、これにはある女性の思考パターンと人格を解析したデータが入っている。単なるデータにすぎないけど」
 彼は続けてこう言った。
「これが十字教団の探す”アリス”かもしれない」