リアクション
ゆる族の墓場 「ここが、ゆる族の墓場? なんだか、あっけなくついたなあ」 イルミンスールにあった地図を頼りにやってきた緋桜ケイが、周囲を見回して言った。 イルミンスールの森をでて北の山岳地帯の谷間の奥にある森林地帯のそのまた奥の場所に、なんだか見たこともないような植生の森が広がっていた。 木々の表皮や葉は琥珀化しているようで、柔らかいアンバーの光が周囲を薄ぼんやりと照らしている。その森に囲まれた広い土地に、行方不明となった発掘着ぐるみたちや、それ以外にどこかからか集められた、あるいは集まったであろう着ぐるみが無造作に散らばっていた。 「それだけ、我がイルミンスールの下調べが完璧だったのでしょう。まあ、あれだけ派手な行列をやらかしたら、嫌でも目立つでしょうし」 ストレイ☆ソアが、不思議でもなんでもないだろうと言う。 「だから、もうその言葉遣いやめてください! ベアも一人じゃないし、なんだかおかしくなりそうです」 白熊姿のソア・ウェンボリスが、ストレイ☆ソアを掴むとブンブン振って叫んだ。勢いで、もうちょっとで頭がもげそうになる。 「ベアが、どうかしたんだもん?」 ソア・ウェンボリスの言葉を聞きつけて、二人のゆる族が近づいてきた。どちらも、白熊の着ぐるみを着ている。 「きゃあ、またふえたあ!」 ソア・ウェンボリスが悲鳴をあげた。 「どうも、雪山ベアです」 なんだか、顔の作りがいいかげんでちょっと不細工な白熊が言った。中に入っているのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。 「ども、北国ベアです。なんだ、ソアとベアもちゃんとここにいたんじゃないか。ベアが、姿を消したからって、心配して捜しに来たのに……」 睫の長い、ちょっとイケメンの白熊の着ぐるみが、ストレイ☆ソアと二人の雪国ベアを見て言った。 「その声、美羽さんと、コハクさん?」 「な、なんのことかな、ベア」 北国ベアの中のコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、はははとごまかそうとした。 「私はベアじゃ……ちょっと待ってください、じゃあ、これを私本人だと勘違いしたんですか!」 ソア・ウェンボリスが、ストレイ☆ソアを指さして騒いだ。 「なんだか、聞き覚えのある声がしたと思ったら、やっぱり来ちゃったのか、御主人」 その声を聞きつけて、本物の雪国ベアが困ったような顔で現れた。一気に、雪国ベアもどきが本物を混ぜて五人も一箇所に集まる。まるで、雪国ベアちゃん大行進だ。 「そうよ、来ちゃったわよ」 「あれだけ、ほっといてくれって言ったのになあ」 「ちょっと、私はこっちです、こっち!」 あたりまえのように会話を交わす雪国ベアとストレイ☆ソアにむかって、ソア・ウェンボリスが叫んだ。 「まあまあ、落ち着いて」 あわてて、コハク・ソーロッドがソア・ウェンボリスをなだめた。 「よかった。あっさりと見つかったわね。さすが、白熊の着ぐるみは効果は抜群だったわ」 やったねと、小鳥遊美羽が喜んだ。でも、その姿は雪山ベアである。 「ここまで来ちゃったんだから、差し支えのないとこは説明してもいいだろうよ。ここはな、ゆる族の使っていた着ぐるみの供養場所なんだ。地球でも、ほら、いろいろあるだろうが」 「針供養とか、そういうのか?」 「そうそう、そういう奴だ」 緋桜ケイの言葉に、雪国ベアが思いっきりうなずいた。 「もう使えなくなったぼろぼろの着ぐるみや、体形が変わったりして着られなくなった着ぐるみを、ここでお祓いしてお焚き上げするって言うわけだ」 「何も隠れてこそこそやる必要はないのに。それにしても、毎回勝手に着ぐるみが歩いてきて集まるの?」 それにしても、少しおかしいだろうとストレイ☆ソアが言った。 「いや、勝手に着ぐるみが歩くなんて話は、俺様も初めて聞いたんだが、御主人」 「ソアは、私です!」 相変わらずストレイ☆ソアに話しかける雪国ベアを、ソア・ウェンボリスがちょっと蹴っ飛ばした。 「いてて。まあ、毎回、どこでお焚き上げしてるかは分かったり分からなかったりなんだが、今年は、あの行列のおかげですんなりと分かったぜ。ただ、どうしてこうなったかは謎なんで、俺様もこうやって調べに来たってわけだ」 「それでも、一人で行くことはないです。心配したんですから」 「まあ、これは、ゆる族の問題だからな」 「私たちとベアの問題です」 「すまねえ、御主人」 言いなおすソア・ウェンボリスに、雪国ベアが素直に謝った。 ★ ★ ★ 「ゆる族の墓場に行くという書き置きだけ残して……。政敏ったら、まさか、私に隠れて逢い引きしてるんじゃないでしょうね」 九尾の金狐の着ぐるみを着たカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が、大きく広がった尾っぽをフルフルとさせながら、疑心暗鬼で周囲を見回していた。 「ううーん、思った以上に動きにくいわね。おかげでツカサとはぐれちゃったじゃない」 ぎこちなく歩くウサギの着ぐるみが悪態をついた。 「あのウサギの着ぐるみの動き……。ああ、今、私を避けたふうに……。きっと政敏だわ」 決めつけたカチェア・ニムロッドが、ウサギの着ぐるみに近づいていった。 「私の嫁……」 すれ違い様に、ウサ耳のあたりでささやく。いや、そこは本物の耳ではないのだが。 「何、今の、暗号、合い言葉?」 予想もしなかった展開に、ウサギの着ぐるみの中の人が悩んだ。合い言葉だとしたら、答えないとヤバいのだろうか。正体がばれたら、川流しだという噂もあるが。流す前に流せばいいのか!? 「む、婿う!?」 思わず、意味不明のことを口走ってしまう。 「違ったか……」 中の人が緋山 政敏(ひやま・まさとし)でないと確信すると、カチェア・ニムロッドはさっさとその場から立ち去っていった。 「なあに、あれ? 面白いゆる族の生態だわ。記録、記録っと」 そうつぶやくと、ウサギの着ぐるみの中の人がスパイカメラでカチェア・ニムロッドの姿を映像に収めていった。 こう着ぐるみだらけだと、最初に打ち合わせをしている者たち以外では、いったい中の人が誰なのかまったく分からない。もちろん、親しい者であれば声や仕種などで分かる場合もあるが、確信するにはいろいろと決め手がほしいものだ。ただでさえ、あわてて用意した者たちは量産型の着ぐるみを着ているので、似たような着ぐるみがそこら中にいる。そのため、あちこちで先ほどのような雪国ベアちゃん大集合状態になっている。おまけに、迷子になったりパートナーとはぐれたりする者たちが続出していた。 「あれれ、シオンくん、どこに行っちゃったんですか?」 執事の格好をした羊というなんともベタでややこしい着ぐるみを着た月詠 司(つくよみ・つかさ)が、一緒に来ていたはずのシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の姿を探した。 「ええっと、シオンくんはなんの着ぐるみでしたっけ? ネコ? ウサギ? カエル?」 うっかりとシオン・エヴァンジェリウスの着ぐるみを忘れてしまった月詠司が軽く頭をかかえた。その着ぐるみのあちこちからは、寄生虫である各種宿屍蟲があちこちからにょろにょろと顔を覗かせている。よく見ると、羊もゾンビ羊だった。 「そこの着ぐるみくん、早く中央広場へと運んでください」 月詠司を見つけたシーツお化け姿の墓守が、テキパキと指示を飛ばしてきた。 「ああ、はいはい」 言われるままに、月詠司がズルズルと移動していく。いったい、この先に何が待ち構えているのだろうか。考古学的にも、この森や着ぐるみには興味が尽きない。 「ひえええ〜、怖いよー。ううっ、ハデス様、どこですかあ」 お化けの類が苦手なアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が、ネコの手グローブの手で猫耳を押さえてしゃがみ込んだ。シーツお化けとゾンビ羊の会話シーンという彼女にとってはとてもインパクトの強いシーンを見てしまったのだから仕方がない。頼りのドクター・ハデス(どくたー・はです)はいつの間にかどこかへ行ってしまっていた。 |
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