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リアクション
★ ★ ★
「つまり、気がついたら着ぐるみに憑依していて、自由に動けたと」
「いや、ここに連れてこられたのだから、それほど自由というわけではなかったんですけどね」
「まあ、でも、俺に憑依しないでも動けているじゃないですか」
無事笹野桜の憑依したタイムちゃん似のウサギの着ぐるみを見つけた笹野朔夜ではあったが、どちらかというとむこうに見つけられたという感じであった。自分が買った記憶のあるウサギの着ぐるみを見て、笹野桜が気づいたと言うわけだ。
「じゃあ、さっさと帰りましょうか」
もうここに用はないと帰ろうとする笹野朔夜の着ぐるみを、笹野桜がピッと掴んで止めた。
「奈落人は着ぐるみにも憑依できると言うことが分かったんだから、予備として使える着ぐるみを捜してくださいよ」
何やらもの凄く勘違いしているようだが、笹野桜としては、笹野朔夜にいちいち憑依しなくても自由に動ける身体という物がほしいらしい。もちろん、今回の現象は、空京神社に現れたゆる族の巫女の力によるものなので、今の着ぐるみを離れたら、他の着ぐるみに憑依できるという保証はないのだが……。
「仕方ないですね」
笹野朔夜としても、奈落人がヒトデはなく着ぐるみのような物体に憑依できたという話は聞いたことがなかったので、ここで着ぐるみを捜すことにどれだけの意味があるのか半信半疑ではあった。だいたい、笹野桜が、自由にできる身体を手に入れると言うことは、笹野朔夜が意識のないとき以外に自由に行動開始できると言うことだ。それは、つまり、笹野朔夜の部屋が、ますますラブラブファンシーになることを意味している。
「俺は、今、自滅行為を淡々と進めているんじゃないのでしょうか……」
そんな思いが、笹野朔夜の脳裏をよぎったとしても当然だろう。
だが、実際に笹野桜が気に入る着ぐるみを捜すとなると、これは一筋縄ではいかなかった。
今憑依している着ぐるみにしても、実際は空京神社の地下に長い間埋まっていたもので、はっきり言って土だらけであちこち綻んで傷んだ物だ。それ以外も、ゆる族が着られなくなった着ぐるみがほとんどで、まれに、若くして死亡したゆる族の着ぐるみが混ざっているらしい。いずれにしても、完全な状態の着ぐるみがここにはほとんどないのだ。
「これ直せますか?」
いくつかの可愛い動物着ぐるみをなんとか探しだして、笹野桜が笹野朔夜の所に持ってきた。
「うーん、ちょっと難しいかもしれませんが、なんとかしてみましょう」
用意周到にいつも持ち歩いているソーイングセットを取り出して、笹野朔夜が言った。器用な仕種でちくちくと縫い合わせてはいくものの、分厚い着ぐるみという物は簡単には縫い針を通してはくれない。なんとか苦労して修繕しても、やはりつぎあてになったり、サンマ傷が残ってスカーフェイスになったりしてしまう。材質によっては、縫うこと自体が不可能だったりしたし、得体の知れない染みが残っているような物も多かった。
「諦めないんですから!」
修繕は笹野朔夜に押しつけて、笹野桜は先ほどの五芒星侯爵デカラビアのようにならないように注意しながら自分好みの着ぐるみを物色し続けていった。
★ ★ ★
笹野朔夜たちとは別で、純粋に着ぐるみたちの選択やら修繕を行う者たちもいた。
「さあ、ちゃっちゃと直していきますよ」
「う、うん……」
水無月 徹(みなづき・とおる)に言われて、華月 魅夜(かづき・みや)がちくちくと縫い針を動かして着ぐるみを修繕していった。
墓所だと聞いていたので、死という物を再認識できるかと思い、好奇心から無理矢理水無月徹に頼んで連れてきてもらったのだが、どうにも勝手が違った。
だいたいにして、二人が今着込んでいるのはサルの着ぐるみだ。どうにも、これでは、厳かな死のイメージとはかけ離れている。それに、ちょっと着ぐるみが臭いし……。華月魅夜も女の子の端くれとしては、さすがにちょっと滅入る状態だった。
「ここに在るのは、安直な死なんて言うものではありませんよ。それほど軽くはないし、それほど重くもありません。ここにある物は……。まあ、自分で答えは見つけだしてください」
着ぐるみを縫う手を休めずに、水無月徹が華月魅夜に言った。
「どんどん持ってきてね。綺麗にして送り出してあげるんだもん」
二人のそばでは、ランドリー能力全開で、小鳥遊美羽が汚れた着ぐるみを綺麗にしていく。
「あっ、洗濯。いいなー」
それをなんだか自分たちもしてほしいかのように、ティー・ティーとイコナ・ユア・クックブックが物陰から見つめていた。
「はい、次の分です」
よいしょっと、コハク・ソーロッドがかかえてきた着ぐるみの束を地面に下ろした。汚れの酷い物はこちらへと呼びかけて集めてきたものだ。
「じゃあ、それを一つずつ絡まないように洗濯機に入れてね」
「はい」
小鳥遊美羽に言われて、コハク・ソーロッドが、着ぐるみを一つ一つ洗濯機の中へと入れていった。いわゆるオーバーコートのような物なので、下着などが混じっていないのがコハク・ソーロッドにとっては幸いだった。これで、もし中に女性用下着などが混じっていたら、またぞろひっくり返ってしまうだろう。
「ええっと、次はと……ぷふぁあ!!」
などと言っているそばから、コハク・ソーロッドが鼻血を噴いてひっくり返った。
見れば、巨大なパンティーを手に持っている。巨人のパンティー……いや、これもりっぱな着ぐるみなのだろう。それにしても、どんなゆる族がこんな着ぐるみを着ていたのだろうか。
「ああ、それは、真宵がなんか探していた着ぐるみ? 仕方ない、持っていってあげるんだもん」
そう言うと、そばにいた星辰総統ブエルがコハク・ソーロッドから着ぐるみを奪い取って走り去っていった。
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