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七不思議 戦慄、ゆる族の墓場

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七不思議 戦慄、ゆる族の墓場

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「桜さんがいなくなったのは、あの百物語会の後だったから、多分、ゆる族の墓場と関係してますよね。それにしても、こんなファンシーな着ぐるみしかなかった俺の部屋って……」
 ピンクのウサギの着ぐるみを着た笹野 朔夜(ささの・さくや)が溜め息をついた。真っ赤なリボンを頭につけて、服はフリフリのフリルがふんだんについている。
 百物語会の後、笹野 桜(ささの・さくら)がいっこうに現れなくなっていた。これ以上自室にファンシーなぬいぐるみが増えないのはありがたかったが、パートナーが行方不明とあっては放っておくわけにもいかない。それにしても、いざ着ぐるみが必要と聞いて探し出せたのがこのラブリーな着ぐるみだけとは……。
「みんな、ちゃんとゆる族のような格好をして出発していきます。じゃあ、私もそろそろ行きますね。報告は、また後で。――送信っと。さあ、行きましょう」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)にメールを送ると、怪獣の着ぐるみを着た御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が笹野朔夜の肩をポンと叩いた。
「写メは撮らないでくださいね」
 中の人が誰だか詮索せずに、笹野朔夜が怪獣の着ぐるみの中の人に言った。
 
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「何か、怪しい物を感じます。あれが悪しきことをしないといいのですが……」
 百合園女学院の礼拝堂で一人静かに祈りを捧げながら、茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)がつぶやいた。
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)はここへは入ってはこられないが、ゆる族が入れる場所へはその限りではないだろう。茅ヶ崎清音としては、何も起きないことを祈るだけであった。
 
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「だから、もふもふがもふもふと行進していった場所なんだよね」
「どうしてそうなってしまうアル」
 詰め寄ってくるレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)に、チムチム・リー(ちむちむ・りー)がそっぽをむきつつ答えた。
「ボクが、もふもふを見逃せるはずがないじゃない」
「それはそうアルが……」
「さあ、ボクにもふもふを見せておくれよ。見るだけなんだから!」
 しつこくレキ・フォートアウフに懇願されて、ついにチムチム・リーが折れた。もふもふのピンクのアンゴラウサギの着ぐるみを着たレキ・フォートアウフによけいなことは一切しゃべらないように言い含めて、チムチム・リーはゆる族の墓場へむかって出発した。
 
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「教導団たるもの、万全の準備を持って状況にあたるわよ」
「それはいいですが、慎重すぎるのではないですか?」
 ごそごそと何重にも着ぐるみを重ね着していくローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)に、ジェイド・オルカ(じぇいど・おるか)が訊ねた。手伝ってはいるものの、これは少しやり過ぎのような気もする。
「慎重すぎて悪いということはないわ。まあ、普通の三倍暑苦しくて、普通の三倍動きにくいけれどもね」
 三倍なら、充分やり過ぎだと思いつつも、ジェイド・オルカはローザマリア・クライツァールにそれ以上意見しなかった。
 
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「きょーのーなんの、はぴたんにきいたれす、こた、いってみたいれすお!」
「えーと、通訳するよ。こたろーは、教導団の熊猫福さんに聞いたので、ぜひ行ってみたいと言っているんだね」
 緒方 章(おがた・あきら)の言葉に、カエルの着ぐるみを着たゆる族の林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が、うんうんとうなずいた。
「うんうん、その通りだよね……って、だからといって、なんで私たちまで、こんな格好をしているのだよ」
 林田 樹(はやしだ・いつき)が、激しく照れながら緒方章に言った。
 二人が着ているのは、林田コタローとお揃いのカエルの着ぐるみで、片方がエプロンを着け、もう片方がネクタイを着けている。三人仲良く手を繋いでいる姿は、まさにカエルの親子と言ったところだ。
「情報では、ゆる族の墓場に入れるのはゆる族だけらしいんだよ。それで、大岡 永谷(おおおか・とと)ちゃんのところの熊猫 福(くまねこ・はっぴー)ちゃんから、着ぐるみを着ていけってアドバイスを受けたんだってさ、お母さん」
「うんうん。そーれすー」
 緒方章の言葉に、林田コタローがうなずいた。
「お、お母さん……」
 緒方章の何気ない言葉に、林田樹がかああっと赤面した。
「今はそういう設定らしいよ」
「そういう設定……、うー、にゃー、おまえは何を言っているのだ。ばかばかばかぁ!」
 極真面目に言う緒方章の頭を、林田樹がぽかぽかと叩いた。
「こ、こら。まったく、僕と結婚して、子供まで生まれてずいぶんと経つのに、未だにお母さんという呼ばれ方になれていないんだから……」
「け、結婚!? こ、子供ぉ!?」
 林田樹の素っ頓狂な叫びに、緒方章が二人で手を繋いでいる林田コタローを指し示した。今はそういう設定なのだから、会話は合わせてもらわなければ困る。
「ダメですよ、お母さん」
「うー、にゃー」
 ぽかぽかぽか……。
 
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「お揃いだねえ」
 マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)と同じデザインだけれども、薄緑色というシュールな猫の着ぐるみを着た曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が、嬉しそうに言った。
「これで、ゆる族の墓場には入れるんだよねえ。ああ、俺自身が着ぐるみを着ることになるだなんてえ、なんて幸せな条件なんだろうねえ」
 着ぐるみのおかげで表情は分からないが、曖浜瑠樹は今、もの凄くデレた表情をしているに違いない。
「ダメですよ、りゅーくん、もっとシャンとしないと」
 曖浜瑠樹をりゅーくんと呼んだマティエ・エニュールが、ちょっとはらはらしながら釘を刺した。
「でも、着ぐるみを着ていけば、ゆる族の事情が分かるんだよねえ」
「それは、なんとも……」
 念を押すような曖浜瑠樹に、マティエ・エニュールは曖昧に答えるしかなかった。
 
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「なにい、イルミンとかいろんなとこから、ゆる族の聖地にむかってぞろぞろと調査団がむかっているだとお!?」
 猫井 又吉(ねこい・またきち)の話を聞いた国頭 武尊(くにがみ・たける)が重い腰をあげた。
「ゆる族に化けて紛れ込もうって言うふてえ野郎もいるみたいなんで、ちょっくら見回りに行ってくるぜ」
「よし、それならオレも……。そうだ、いい作戦があるぜ」
 そう言うと、国頭武尊が黒猫の着ぐるみの中に入っていった。
「これから、オレのことはタンゴとでも呼んでくれ。いいか、これからオレは、ゆる族の墓場の様子を撮影する」
「それは、まずいんじゃ……」
 さすがに、猫井又吉が国頭武尊を止めようとする。
「最後まで聞けって。なるべく映像は素人っぽいチープな奴にする。するってえと、すんごく嘘くせえだろう? そいつを売り出せば、『ゆる族解剖ビデオ』ばりにフィクションだと思われるだろうが。そこが狙いだぜ。きっと、こんなの信じねえだろうからな。真実をフィクションにねじ曲げる男、このオレに任せとけって」
 用意周到にヘリウムガスで声を変えながら、国頭武尊が着ぐるみの中から答えた。