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リアクション
★ ★ ★
「ほーんっと、着ぐるみって暑苦しいのですわ」
桃色ウサギの着ぐるみを着たエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)が、ずんぐりとした黒猫の着ぐるみを着た神代 明日香(かみしろ・あすか)に言った。
「ついてきたいと言ったのはエイムちゃんですぅ」
「でも、こんな着ぐるみを着るはめになるとは思ってもいませんでしたわ。これでは、トレイも一人では行けないですもの。あー、暑い、蒸し暑いー。もう脱いじゃいます!」
そう言って、エイム・ブラッドベリーが自らの着ぐるみの背中のチャックに手をのばそうとした、だが、頭が邪魔になって手が届かない。届いたとしても、ぶかぶかの指では、はたして小さなチャックがつまめるかどうか。
「ふふふ、脱ごうとしてもダメですぅ」
そんなことはお見通しだと、神代明日香が笑った。こらえ性のないエイム・ブラッドベリーが勝手に脱いだりしないようにと、自分では脱げないような着ぐるみをわざと着せておいたのだ。
「黒猫? ああ、武尊じゃないのか。だが、隣の桃色ウサギといい、なんだか、怪しいぜ……」
自主的にパトロールをしていた猫井又吉がエイム・ブラッドベリーに目をつけた。
「おい、そこのウサギちゃん。ここはゆる族貸し切りの場所だ。おまえ、ゆる族だろうな」
猫井又吉が、鋭くエイム・ブラッドベリーに訊ねた。
「もちろんですわ。私は、生まれてからずっとゆる族ですの」
「本当か?」
疑わしそうな目で、猫井又吉がエイム・ブラッドベリーを睨む。ふいっと、エイム・ブラッドベリーが目を逸らした。
「怪しい。もし偽物だったら、とっ捕まえてパンツ番長にパンツ取られて逆さ磔の刑だぜ」
なんとも恐ろしいことを猫井又吉が言う。
「それは嫌ー」
「なんで嫌がる。やっぱりゆる族じゃないな、正体を見せろ!」
確信を得た猫井又吉がエイム・ブラッドベリーのチャックに手をかけた。
「ゆる族じゃなければ爆発もしないはず……」
一気にチャックを引き下ろす。
爆発はしなかった。だが、中の人もいなかったのだ。
「いったい、中の人はどこへ行ったんだ?」
狐につままれたような顔で、猫井又吉が言った。
「中の人などいない……なんですぅ」
しれっと、神代明日香が言った。なんだか、動きがちょっと窮屈そうだ。
間一髪、猫井又吉がチャックを開ける直前に、神代明日香がエイム・ブラッドベリーを魔鎧として召喚したのだった。
『ふう、危ないところでしたわ。でも、さらに暑苦しくなってしまったような……』
「我慢するですぅ」
安堵しつつも文句を言うエイム・ブラッドベリーに、静かにしなさいと神代明日香が言った。
「ま、また、中の人消失事件が……。オカルトです。うーん……」
一部始終を目撃したアルテミス・カリストが、気を失ってぶっ倒れた。
「チッ、逃がしたか。ほらよ」
神代明日香に着ぐるみを返すと、猫井又吉がパトロールを続けた。なんにしても、ゆる族としては、ゆる族の墓場の秘密は守らなければならない。すでに、墓場の入り口には落とし穴も掘ってある。そこにおっこった奴は、全員念入りにチェックだ。
「そこの魔法少女。怪しいな。オレの髭がびくびくするぜ」
「ボク? ボクは魔法少女グリーンピュアだよ」
頭でっかちの魔法少女ショー用の着ぐるみを着たグリーンピュアと名乗る者が答えた。
「それって、その着ぐるみの名前じゃねえのか。怪しい。だいたい、なんだかずんぐりしすぎてるぜ。さあ、脱げ。パンツ番長に変わって、中のパンツ調べてやるぜ」
「しょうがないなあ」
そう答えると、グリーンピュアがおとなしく着ぐるみを脱ぎ始めた。ひとかかえもある頭を外すと、普通の人の大きさの頭が現れる。そのまま肩の部分を外して、ひらひらしたグリーンの魔法少女の衣装をストンと下に脱ぎ落として、レオタード姿になった。
「やっぱりゆる族じゃ……いや、ゆる族?」
侵入者の正体を暴いたと勝ち誇ろうとした猫井又吉だったのだが、よく見ると、魔法少女の着ぐるみを脱いだ中の人は、肌がシリコンラバーだ。
「苺星って言いますですぅ」
「機晶姫か? とにかくしょっ引いて、逆さパンツの刑に……」
「違います。本当はラテアでございます」
そう言うなり、中の人がシリコンのマスクを剥ぎ取った。さすがにぎょっとして、猫井又吉が飛び退る。もし、アルテミス・カリストの意識があったら、気絶どころではすまなかったかもしれない。
シリコンの皮膚の下から現れたのは、メタリックなマスクだ。完全なアンドロイドか機晶姫のようにも見えるが、よくよく見るとハリボテの着ぐるみである。そのまま、レオタードごと身体の方の皮膚も脱ぐと、金属っぽいウエットスーツの柔らかい着ぐるみが現れた。
「もう、わけ分かんねえ。あっち行け。しっしっ」
マトリョシカかよと、いいかげんつきあいきれなくなった猫井又吉が、目の前の謎ゆる族を追い払った。
これ以上追求して、変な中の人がどんどん出て来ても薄気味悪い。
「なんだったってんだ」
ぼやきながら、猫井又吉はパトロールを続けた。
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