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リアクション
どうか届け 安らかに
大昔、あの集落だった場所は見る影もなかった……。
微かに家であったモノや井戸の様なモノたちを通り過ぎ、あの御神木である椿の樹があった丘を登っていく。
そこには枯れ朽ちた椿の樹と、ツタが伝った石造りの水受けが存在していた。
「……椿さまはここに住む人々が健やかに、のびやかに生活できるよう、椿さまの霊力が宿る花をこの水受けに落とす事で俺たちに加護を与えていたんだ。そして俺とライラは唯一椿さまの花を直接食すことが出来る存在だった」
「他の人は食べられなかったの?」
「霊力が宿った水を飲むだけでも十分な加護を得ることが出来たから、俺とライラ以外は食べる事はしなかった。まぁ、霊力が強すぎたのもあるし、花を宿す数自体が少なかったのも恐らくはあるだろうけど」
フェリクスは悲しそうに枯れ朽ちた椿の木を撫でる。
「多分……俺が椿の樹をこうはしなかったら、集落はまだ復興できたのかもしれんな」
集落がまだあった当時に想いを馳せるフェリクスを思い、クエスティーナがお墓を立てようとそっとフェリクスから離れた。
「クエス。墓作りは私がしよう」
それに気付いたサイアスがクエスティーナに無理はさせれないと、墓作りは自分がやると言いだす。
それをきっかけに面々は丘の上の一角を慣らし始めた。
サイアスを筆頭に墓作りをしている時、芭柘美はそっとフェリクスに声をかける。
「……自分が死んだ方が良かったとか思ってない?」
「…っ」
「ライラはフェリクスに外を知ってほしいって言ってたでしょ? ライラはあの頃からそれを願っていた。だから、ライラは鳥たちに外のモノを運ばせてきたんじゃない」
「……綺麗な花や見たことのない果実や木の実を見るのはすごく楽しかった」
「ライラと一緒に見たかった?」
「それは、まぁ……もちろん」
「ライラはいなくなっちゃったけど、フェリクスは今からでも遅くないと思うな」
「だが……」
「大丈夫。ライラは外に出る事を怨まない。むしろ外を見せたいというライラの願いが叶うんだもん、きっと嬉しく思うよ」
芭柘美の言葉を聞いて揺れ動く感情にフェリクスは何も話せない。
芭柘美もそれ以上は話さず、ただ傍に佇んでいる。
◇ ◇ ◇
簡単なものだがいくつかの墓が完成する。
クエスティーナは椿の樹をバックにした墓前の前に樽立ち、幸福の歌を、逝った魂が救済され祝福されるように願いながら歌った。
クエスティーナの歌声をまるで空へ運ぶように柔らかい風が吹く。
歌が終わり、一礼するクエスティーナ。
拍手が鳴り響く。
「……ありがとう。みんなの為に歌ってくれて。それに墓も……きっとあの歌はみんなに届いたと思う。本当にありがとう」
ここにいる面々に深く頭を下げるフェリクス。
顔を上げた彼の表情はどこか吹っ切れたような表情をしていた。
―――ありがとう……
そんな声が風に乗って聴こえて来たようなそんな気がする芭柘美たち。
見る影もない土地なのは変わらないが、どこか影を残していた部分が消え去り、全体的に光に包まれ明るくなったように感じる。
芭柘美たちはそれを受け、どこか満ち足りたような表情を浮かべるのだった。
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担当マスターより
▼担当マスター
冬神雪羅
▼マスターコメント
初めまして、冬神雪羅です。
今回は神話(オリジナルでしたが……)をもとに展開させようと思いこのような話しにしてみましたがいかがだったでしょうか?
まだまだ文章力が足りておらず、変な部分や矛盾した部分もあったことでしょう。
これからも日々精進し、よりよいシナリオを作れるよう努力していきたいです。
また、今回登場しました酉下 芭柘美ですが、これから幾度となく登場するであろうと思います。
どのような子かだけでも伝われば幸いです。
またの機会がありましたら参加してくださると嬉しい限りです。