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魔剣スレイブオブフォーリンラブ

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魔剣スレイブオブフォーリンラブ

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「ふむ、どうしたものですかね……」

 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)は、怪しげな虹色の光を放っているケーキを眺めながら、喫茶店の一角で思案に暮れていた。

 その隣には、ニコニコと笑みを浮かべる東峰院 香奈(とうほういん・かな)が立っていた。

「あなたのために愛情をこめて精一杯作ったのよ」
「あ、愛情の他にも色々入ってそうね」

 ロレンツォのパートナーであるアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)が、不安げにケーキとロレンツォの顔を交互に眺める。

「香奈!!! 目を覚ませぇエエエ!」

 ゆったりとした時間が流れる喫茶店の外からは、ドンドン! と騒々しい物音が聞こえてくる。香奈のパートナーである桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が、先ほどから喫茶店の壁を叩いているのだった。

「東峰院さん、誰かがあなたを呼んでいるようですが?」
「ふふ、大丈夫ですよ。私のスキル、絶対領域の効果でこの喫茶店には私たち2人以外誰も入ってこれませんから……」
「いや、たぶんロレンツォはそう意味で言ったんじゃ……って、2人以外って一応ここには私もいるんだからねっ!」

 アリアンナが訂正するが、香奈はロレンツォ以外が目に入らない様子で、とろんとした目で彼を見つめているばかりだ。

「ロレンツォ、早くここから出てフェンリルさんが言っていた集合場所に向かわないと」
「……ですが、レディに危害を加える訳にもいきませんよ」
「もうっ! 優しいのはいいことだけど、今は一刻を争う事態なのよ。さっきから、私も魔剣の影響で変な気分になりそうなんだから……」
「後学のために聞きたいのですが、『変な気分』というのは具体的にどのような気分なのですか?」
「……ッ! そんな事、私の口から言わせないでよ。ようは早くしないと、この女の人を攻撃しちゃいそうって事よ」

 痺れを切らしたアリアンナがテーブルの下からロレンツォの膝をギュっとつまむ。

「……わ、分かりました。なんとかしてみますから」

 ロレンツォは大きく息を吸い込み、何かを決意した表情で目の前の虹色に光るケーキを見つめる。

「ああ、やっと食べてくれるのね! 大好きよ〜あなた」
「ま、まさかロレンツォ……」

 香奈とアリアンナが固唾を呑んで見守る中、ロレンツォはケーキを豪快に口へと運んだ。

「――御馳走様でした」

「ねえ、美味しかったでしょ?」
「だ、大丈夫なの?」

 ロレンツォはポーカーフェイスのまま、しばし黙り込んだ。
 そして、何か言おうとした瞬間――
 ロレンツォの顔色が次々と七色に変化していった。

「と、東峰院さん……お手洗いに行ってもよろしいですか?」

 ロレンツォは声を震わせながら香奈に懇願した。

「え……? 私のケーキがそんな……はずない」

 先ほどまでの元気な様子から一転し、香奈は空気が抜けたかのように委縮してしまった。

「東峰院さん……お手洗いは絶対領域の外みたいですので、少しだけ外してもらっても、だ、大丈夫ですか?」
「ご、ごめん! すぐに外すから」

 ハッとした香奈がスキルを解くと、ロレンツォは猛ダッシュでお手洗いへと駆け込んだ。

「……そんなに、私のケーキ美味しくなかったのかな……」

 一人取り残された香奈は、ロレンツォが消えていったお手洗いを眺めながら、呆然と立っていた。

 するとそこへ、香奈のパートナーである忍が駆け寄ってきた。

「香奈、ようやく目を覚ましてくれたのか?!」

 忍は香奈の肩を揺さぶるが、彼女は一向に反応する様子がない。

「ロレンツォ殿はもう行ってしまわれたようじゃな?」

 遅れてきた香奈のもう一人のパートナーである織田 信長(おだ・のぶなが)が、二人の様子を見て呑気につぶやいた。

「……ケーキ……まずくて……ロレンツォがお手洗いにいっちゃった……」

「香奈、御傷心のところ悪いのじゃが、さきほどまで私もロレンツォ殿の事が好きで好きで辛抱たまらなかったのに、今は何ともないという事はじゃ、恐らくそれは詭弁じゃろう」
「え……詭弁? で、でもどうしてロレンツォが嘘なんてつく必要があるのよ」
「恐らく、お手洗いの窓から逃げたのじゃろう」