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リアクション
土の森が町を飲み込もうとする。止まらない侵食に困惑する人々。
困惑しながらも逃げようとする人々の前に、立ちはだかる四体の獣。
それは、かつてこの地を守っていた守護獣だった。
北に現れたのは巨大な亀、ドリー・タート。
南に現れたのは炎の大鳥、ドリー・バーン。
西に現れたのは白い大虎、ドリー・タイニー。
東に現れたのは蒼い龍、ドリー・ドラン。
一般人である人々は逃げることもままならず、絶体絶命の状態に置かれている。
「……というのが今の状況です」
「最悪、と言っても過言じゃねぇな。このままじゃ全員心中なんてことになりかねないな」
この町に来ていたアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)とアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)が険しい顔をしていた。
現在はこの町に居た、あるいは救援に来てくれた他の契約者たちとの共同作戦の内容が決まるのを待っているところだ。
「うん。でも、それを防ぐために集まってくれた人たちがいる。幸い、町の人たちも全員ここにいる」
「契約者の人数は少ないけどな。最悪が超劣勢くらいにまではなったか?」
「ないものねだりはできない。やれることやらなきゃ」
「仰るとおりです。さて、契約者さんたちの割り振り、完了しました」
奥から出てきたのはロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)だ。この町に来ていたロレンツォはこの事態を受けていち早く契約者たちに声をかけていた。
その後町にいた、あるいは外から何とか掻い潜って救援に来た契約者たちの適正や希望を聞き役割の分担を行っていたのだ。
「ありがとう。何か新しい情報はある?」
「この状況を打破する、とびっきりのがいいな」
「先ほど避難させていた住人の一人から守護獣の言い伝えを知っているものがいたので聞いてみたところ、巨躯なる鈍足の亀は旋律に戦慄を覚え、燃え盛る炎の大鳥は強き悲しみに抗えぬ、と」
「……つまり、どういうことなんだよ?」
はてな顔のアッシュにロレンツォがわかりやすく説明をする。
「守護獣は全部で四体、そのうちのドリー・タートが亀、ドリー・バーンがの炎の鳥の姿に酷似していたとの情報もあります。つまり」
「タートは歌や曲に弱く、バーンは強い悲しみの感情に弱い可能性がある、ってこと」
「はい。残念ながらタイニーとドランに関しては弱点はわかっておりません。なので戦闘をする方々の多くはタイニーとドランに割り振りました」
「それはなんでだ? 弱点がわかってるやつを叩いて住人を逃がすほうが先決だろう!」
「それも考えましたが、仮に守護獣が町のほうへと押し寄せてきた時、この人数では住人を守るのは難しい。足止めをしつつ突破口を開かなくてはいけません」
「だから弱点がわかっていない二体に多く戦力を分散させた。悪くないと思う」
「んーまあいいか。作戦が決まったんなら動き出そうぜ。手遅れになったら何の意味もねぇ」
「はい。お二人、アゾートさんはドランへ。アッシュさんはタイニーへお願いします」
「わかった」
「りょーかい!」
「あと一つ。どうやら守護獣以外にも土でできた生命体が無尽蔵に沸き、無差別に襲ってくるそうです。気をつけてください」
「うん」
「私は他に住人はいないか、他の契約者たちと共に住人の護衛及び避難をさせます。御武運を」
「よしっ! それじゃ行くか!」
契約者たちの顔が引き締まり、それぞれの強敵の元へと急いで向かっていった。
西方に向かったアッシュと契約者たち。その入り口に見たものは、硬質な体表の巨大な虎だった。
怒り狂ったように咆え続けるドリー・タイニー。まるでそれは町を襲ってしまったタイニーの泣き声にも聞こえる。
「……あれ、魔法効くのかよ。……だあー! うじゃうじゃ考えてても始まらねぇ! みんな、いくぜ!」
アッシュの掛け声よりも早く飛び出したのは御凪 真人(みなぎ・まこと)とそのパートナーであるセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)、トーマ・サイオン(とーま・さいおん)、名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)の三人だった。
「セルファにトーマ、他の人たちと協力しながら前線をお願いします。それと僕の合図だけはちゃんと聞いてくださいね」
「わかってるわよ! 私が真人の声を聞き逃すはずないじゃない! ……って別に変な意味はないからね!?」
「こんな時でも、にいちゃんねえちゃんはあっちっちーだねぇ。むしろこういう時だからこそ?」
「うるさい! 黙って戦う!」
「へーい。まあ、あんまり軽口叩いていられる状況じゃないし、オイラも全力で行かせてもらうさ!」
「詩篇もいつでも魔法が撃てる状態でいて下さい」
「わかっておるのじゃ。しかし液体なのか固体なのか、どちらかにしてほしいところじゃのう」
タイニーの体表には蠢くように液体状の金属が波打っている。かと思えば途端に硬化する。相手の攻撃に対して防御の姿勢を変えられるようだ。
「恐らく攻撃に使用することもできるでしょう。見たところ魔金属のようなので魔法すらも軽減する、と言ったところでしょうか」
「相変わらず便利じゃのう、そのおーばーくろっくとやらは」
「脳が疲れるのであまり多様はできませんが、今は出し惜しみしている場合ではありませんからね」
相手は守護獣と言われし巨大な虎。明確な強さはわからないにしてもその見た目だけでも十分に脅威なのは一目瞭然。
しかし、タイニーの動きが止まる。それを隙と見た真人は合図を送る。
「今がチャンスです! 三人とも、攻撃を―――――」
「……いかん! 真人! それに契約者たちよ、物陰に隠れるのじゃ!」
詩篇の言葉に反射的に反応し、物陰へ隠れる真人や契約者たち。一瞬の静寂、それを突き破りタイニーが動く。
―――――――――――――――ッッッ!!
咆哮。
言わばただの空気の振動。だが、タイニーの咆哮は特大を極めそれだけで武器となりえたのだ。
空気振動の物理攻撃が辺り一帯を無差別に襲う。石畳が捲れ上がり、壷が割れ、あらゆるものを破壊していく。
大よそ十秒。たったそれだけの間に多くの物が瓦礫と姿を変えた。
「これは、想像以上ですね」
「まったく、こいつらを作ったのか呼んだかは知らんがとんでもないものに守護させたもんじゃのう」
「二人とも! 平気?」
セルファが二人の所へ駆けつける。セルファや後からついてきたトーマも無事のようだった。
「平気です。他の契約者さんたちにも重大な被害はでていなそうですね。それにしてもあの咆哮。まともに喰らってしまえばダメージにプラスして動きが遅くなる、あるいは止まってしまう可能性すらありますね」
予想以上の強さに驚きつつも作戦を考える真人。どうするべきか。
「……恐らく、あの咆哮にはタメが必要になります。つまり相手の動きを見逃さなければ回避は可能。そしてタメはタイニーにも無防備な状態。そこを狙います」
「でも失敗したら相当まずいんじゃ」
トーマが少しだけ不安そうになるが、真人はその不安をかき消すように問いかける。
「トーマとセルファならできると信じています。そう思うのは行き過ぎた発想でしょうか?」
「……冗談。相手が何であろうと引きはしないわ」
「お、オイラだってそうだよ! ちょっとイタズラ心で聞いただけさ!」
「ならいいですね? タイニーの咆哮は立派な武器です。必ずもう一度使ってきます。その数秒のタメを叩きます。セルファ、トーマは近距離。俺と詩篇は遠距離から同時に行きます」
「わかったわ!」
「あいあいさー!」
作戦を決め、再びタイニーの前へと躍り出る四人。セルファとトーマが先行する。
タイニーの体表は硬く、生半可な物理攻撃は通らず、かといって魔法でも単発ではダメージが通らない。
そこで真人が考えたのは炎属性による一点集中攻撃だった。この攻撃で倒せなかったとしても、手負わせることはでき、他の契約者たちとも有利に戦うことができるだろう考えたのだ。
タイニーの体表を纏っている液体金属が無数の刃となってセルファとトーマを襲う。
セルファは刃を捌きながら防御をし、トーマは自分のスピードと分身を使いするりと抜ける。他の契約者たちもタイニーの猛攻を凌いでいる。
それを痺れを切らしたタイニーが例の体勢へと遷移する。真人はそれを見逃さなかった。
「三人とも! タメが来ます! 準備はいいですか!」
「オーケーよ!」
「合点承知っ!」
「わらわもいけるぞ」
タイニーが咆哮のタメに入る。と、同時に四人の攻撃がタイニーに炸裂する。
真人の『召喚獣:フェニックス』、詩篇の『ファイアストーム』、トーマの『火遁の術』、セルファの『爆炎波』を乗せたランスバレストがタイニーを襲う。
さすがのタイニーもこれにはうめき声を上げる。
「やっりぃ!」
「でも倒しきれない。むしろここからね!」
「これは骨のある内容が書き記せそうじゃのう」
「この調子でいきますよ!」
そう言って更に攻撃を加速させる真人たち。
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