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リアクション
「成るほど、咆哮のスキを利用した攻撃ですね。ともかく今は攻め時ですよ、お三方とも」
「わかりました。テノーリオとミカエラ! いつも通りの布陣で行きます!」
「言われなくても!」
「了解です」
そうやり取りをしながら陣形の展開をするのはトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)率いる、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)らの三人だ。テノーリアとミカエラが前線に展開し、中間でトマスが隙を狙い攻撃。魯粛は三人の指揮を取るというスタンスで戦っていた。
しかしトマスには気になることがあった。守護獣とは元々この地を守っていた。彼らを倒してしまった時、何が起こるのか予想がつかない。
「もしかしたら町の崩落やモンスターの増加が起こりうるかもしれない……」
「戦闘中に考え事とは感心できませんね。それに相手は強敵、尚のこと前を見るのです」
戦闘中に迷いを待つトマスに魯粛が注意をする。
「そう、ですね。ありがとうございます」
「いいえ。迷いあるものが戦場にいればその迷いを掃うのも指揮の役目。何が起こるのかは見当もつきませんが、あなたはこの町で怯えている人たちを救いたいのでしょう? ならば前を見ましょう」
「……はいっ!」
トマスが抱えている迷いを見事に掃った魯粛はリカーブボウで遠隔攻撃を開始。それにあわせてトマスも前線の二人の元へ。
「二人とも! 本体の大きさを小さく削って行くんだ! そうすれば相対的に、こっちが強くなる!」
「あのバカでかくて硬そうな敵を削るねぇ。こりゃ骨が折れそうだな」
「削れるかどうかは別として、そうすることができるのであればダメージを蓄積することも可能なはずよ」
「こう言うのはなんだが、無茶な考えじゃないか?」
「そもそもこのバカでかいのとこの少人数で戦うのが無茶なのよ」
「ちがいない」
「なら二人とも! 逃げるか? 苦しんでる人々を置いて戦線を放棄して逃げるか!?」
トマスの言葉にぴくっと反応する二人。瞬間、二人はタイニーとの距離を一気に縮める。タイニーの攻撃をギリギリで交わす二人は叫びながらタイニーへと攻撃を開始する。
「そんなわけ!」
「ないでしょうが!」
テノーリオは『爆炎波』からの『アルティマ・トゥーレ』の急速冷凍、ミカエラは『絶零斬』の連劇によりタイニーの液体金属を固形にしていく。着々とタイニーの攻撃手段を奪っていく。
「よしっ! その調子だ!」
「しっかし、厄介だな。分離・分散させて冷凍して小さくしようとしてみりゃどうにも離れやしねぇ」
「奴にとってもあれが攻撃・防御の要で体の最重要部分なんでしょう」
「だが、着実に奴の手は封じているんだ! このまま他の契約者たちと協力してタイニーを倒し次第、他の守護獣の所へと向かうんだ!」
トマスは戦いの中で感じていた。この強さの相手に再封印を考えながら戦うのは無理だと。だからこそ決めたのだ。このドリー・タイニーを倒すと。
「……いい判断ですよ。押し切らねば、こちらが押し切られる。例え後にどんなことがあってもまた切り抜ければいい。何にせよ、今を切り抜けられなければ抗うことすら、できなくなるのですから」
後方の魯粛がトマスの考えに気づき、感心していた。
ここまで明らかな有効打を立て続けにヒットさせているにも関わらず、タイニーは戦意喪失することなく逆に更なる気概を持って契約者たちに相対していた。
もしかしたら、守るという本能が入り口を守り続けるということに変換されてしまっているのかも知れない。皮肉な話である。
だがダメージを与えていることも確かであり、倒せない相手ではないとわかった契約者たちに迷いはなかった。
一致団結をしてタイニーを倒し、住人を避難させる。その後で何があろうとそれはそれでまた対処をすればいい、と。
一つの強い気持ちのもと攻撃を再開させる契約者たち。
「やれやれ、ここまで粘られるのも困り者だねぇ? いくら守護獣だからって頑張りすぎだよ」
そう零すのは八神 誠一(やがみ・せいいち)だ。タイニーの周辺を伺いながらある策を実行していた。
「あっちのほうは大丈夫かねぇ。全員咆哮に当てられておじゃん、なんてことになってなきゃいいけど」
しかし、誠一にはわかっていた。視界の端のほう、タイニーと正面から堂々と戦いあう三人のパートナーの姿があることを。
「このうすらでかいどらねこめが! 貴様の相手はこのわしじゃ!」
そう言い放ち、足元にもぐりこみ『疾風突き』をぶち込むのは伊東 一刀斎(いとう・いっとうさい)だ。古くから伝わる、体の大きなものは下から崩せの教えの元にタイニーの足元を中心に攻撃していたのだ。
タイニー液状金属が刃の形状に変わり、一刀斎に降りかかる。
「甘いぞどらねこ! 刃を向けるのなら殺す覚悟でこんかい!」
全ての刃を捌き、足元から離脱する一刀斎に代わりシャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)がタイニーの頭部めがけて弾丸を叩き込む。
愛銃【ラクシャサ】から放たれた弾丸は全てタイニーの頭部へ。が、流動する金属に全て弾かれてしまう。
「ちっ! でけぇわりに細いことしてくれるぜ! 上等上等、かかってこい!」
それに呼応したかのようにタイニーは頭部の液体金属を銃のように変えた。
「まじかよ!? 銃にもできるのか!?」
タイニーが作り出した大口径クラスの銃、というより大砲から同じく液体金属が硬化した状態で射出される。とっさに『銃舞』を使っての回避行動をとるシャロン。
金属の着弾地点は爆発でもあったかのような光景が広がっていた。契約者と言えどもこの攻撃を喰らえば一たまりもないだろう。
元に戻ろうとする金属。
「自分から分離させるとは、おろかな奴だ!」
『氷術』を使用したトマスが金属の一部を凍らせることに成功。更にテノーリオとミカエラの援護もあり分離した金属の動きを封じることに成功した。
「やるなぁ! こりゃあたしも負けてられないかっ!」
「それはいいから一回下がるのだシャロ。 俺様の『アシッドミスト』がなかったら際どかったであろう?」
少々呆れながらシャロンに忠告するのはオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)だ。二人の支援としてベストタイミングで援護に回っていた。
「オフィーリアなら大丈夫だって信じてたからな! 何の問題はねぇ!」
「はあ。まったくどうしてこうなるのだか。今日は休日の町で思いっきり遊ぶ予定だったのに、これはちょっと大型アトラクション過ぎなのだよ」
「なあに、どうということもあるまいて」
「うるさいクソジジイ、『アシッドミスト』で地面ごと溶かしてやるからさっさと戦ってこい!」
「ジジイ扱いがひどいのう。はっはっは!」
「くっそう、今は暇が恋しいのだよ。誠一は何をやっているんだ!」
「こっちだってめんどうなことやってるんだ。それだけでも評価してもらいんだけどねぇ」
どこからかいきなり現れた誠一に驚きもせずオフィーリアは問う。
「そんなことはどうでもいいのだよ。それよりも、ちゃんと例の策はできたのだろうな?」
「平気平気。バカ正直に戦ってくる人が多かったから楽な仕事になったよ」
そう言いながら緩やかに笑う誠一。それを見たオフィーリアは大丈夫だと確信していた。
誠一がこんな風な顔をしているときは、相手が策にはまったときの光景を想像して楽しんでいるときだからだ。
「できるのなら何でもいい。さっさとやるのだよ」
「りょーかい。それじゃ、それっと」
めんどくさそうに右手を上げて、少しだけ手首を捻る。と、途端にタイニーの動きが鈍くなる。
誠一は鋼糸を使いタイニーを中心とした戦場を網状に囲い、タイニーを絡め取る。事前に他の契約者たちに一度下がるように促していたのでタイニーのみが絡め取られた。
「さてさて、これで身動きとれないでしょ。それじゃもう終わらせるとしますかね」
ニヤリと笑う誠一。『轟雷閃』を使用してタイニーの全身に電撃を加える。
「……封滅陣・雷吼縛鎖でも倒れないなんて、余程タフな猫だなぁ。ここからは攻撃重視でいこうかな、シャロ」
「りょうかい!」
シャロンが言われるよりも早く『奈落の鉄鎖』を使い、タイニーの自由を更に奪う。
「それじゃ、お次は白華楼」
『アルティマトゥーレ』を最大出力で発動して、冷気を叩きつけながら液体金属を凝固させる。
「……へぇ、これだけやられてなおもこの殺気。守護獣は伊達じゃないって感じかな?」
「たいしたものだな。あのどらねこの殺気、見習うべき所はあるのう」
「でもそれも、終わりだけどね。守る役目で壊しちゃいましたーじゃあんまりだし、その前にせめて楽になってもらおうか。だからこれで終ってください、朱霞」
鋼糸を引き抜き切裂きながら『真空波』を放ち、タイニーの全身を徹底的に切刻む。圧倒的な三連打だった。相手が並みのモンスターであれば既に息はなかっただろう。
「……これでも、倒れないのは少しだけ予想外かな?」
タイニーはまだ生きていた。その背後の気迫から、攻撃した分だけ受けたダメージを殺気に変えているようにさえ見えてくる。
「嘘だろ!? 普通なら最初の一撃で終わってもおかしくないだろ!?」
「……普通ではないということなのであろう」
「一旦、下がるよ」
「どうしてじゃ?」
「認めたくはないけど、本当に並じゃない。糸、切れるよ」
タイニーはもう虫の息。そう思えるほどの鮮やかな攻撃。だがタイニーは死ぬどころか自分を絡め取っていた鋼糸を食い破り、手負いの虎となり更なる脅威を振りまいたのだ。
「倒せなかったのは痛いけど、相当弱っているのは事実だし。それにあの糸って意外と絡みつくからこれでご自慢の咆哮を使えないはず。無駄じゃなかっただけよしとしようか」
「……終わりかと思えば、やれやれなのだよ」
誠一も加わり、改めてタイニーとの戦いが始まる。
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