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リアクション
所は変わり、町の北に位置する入り口。そこから微動だにしないのはドリー・タート。堅固な甲羅と無数に蠢く触手を武器にして入り口から動こうとしないタート。
「もう! いくら弱点がわかってても歌わせてもらえないんじゃ何もできません!」
タートから伸びてくる触手をかわしながら歌う機会をずっと窺っているのは真端 美夜湖(しんは・みよこ)。戦いは得意ではないもののタートの弱点が歌だと聞いて、それならと思いタートを食い止める部隊に立候補していたのだ。
「たったこれだけの人数じゃ隙を作ってもらうわけには行きませんし、というかこの触手がうっとうしいったらありませんよ!」
執拗に契約者たちを絡めとろうとするタートの触手。更にタート自体はぴくりともしないあたりがいやらしい攻撃方法だった。
タートの弱点は最初からわかっていたためそれほど多く割り振られることがなかった。むしろこの少数で何とか持ちこたえているのはいい判断だとすべきか、微妙なところではある。
しかし、ようやくここで事態は好転を向かえる。他のタイニーを倒した契約者たちが救援に来てくれたのだ。激励もそこそこに、すぐさま戦線へと参加する契約者たち。
「私から触手の注意が逸れましたね。ならば、いまですね。お聞きなさい。ドリー・タート」
それまで中々歌わせてもらえなかった鬱憤も乗せて、『人魚の唄』を歌いだす美夜湖。彼女の声を聞いたタートは、途端に動き出したのだ。歌や音楽に弱いというのは間違いではなかったらしい。
(このまま押し切れれば!)
しかしタートも守護獣。歌の出所が美夜湖と判断したタートは前線にいる契約者たちを無視して触手を差し向ける。歌に集中していた美夜湖は遂に触手に捕らえられてしまう。
「しまった! このままじゃ締められて、ってどこ触ってるんですか! 守護獣ってそういうものではないでしょう!」
予想だにしなかった場所に触手が這いずってきて驚きを隠せない美夜湖が叫ぶ。しかし触手は動じることなく更に際どさを増して行く。
「……いい加減に、して下さいっ!」
耐えかねた美夜湖は触手の一つを思いっきりくわえこむ。その姿の詳細はお教えできないが、美夜湖もただくわえこんだわけではなかった。『吸精幻夜』で血を吸おうとしたのだ。
しかし触手には血が通ってなく不発。触手はこれ以上は描写できないよ、とかなりのラインまで攻め込んでいた。
「もうっ、容赦はしませんよー!」
我慢の限界が来た美夜湖は自分を締め上げる触手たちに向かって『サンダーブラスト』を叩き込む。ばらばらと崩れ去った触手から解放される。
「まったく、えらい目に逢いました……」
準備を整えて、改めて歌おうとする美夜湖。だが、彼女の耳に聞こえてくるのはまた別の歌だった。
「誰かが、他に歌っているのですか?」
一体誰が?
「地獄の筋肉痛がどうした! 覚悟の上だ!」
歌いながら戦うのはエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)のパートナーである緋王 輝夜(ひおう・かぐや)だった。今回は留守番をしているエッツェルの代わりにこの救援依頼に駆けつけたのだ。
「いつもは後始末役だが今回はど真ん中で歌わせてもらうよ! このあたしの! 緋王 輝夜の歌をきけぇーーー!」
【響化奏甲「絶唱」】。歌を歌うことで装備者の身体能力を大きく向上させる。その力はイコンと互角に戦えるほどに。
「ほらほらいくぞ! ―――――TURNING TO RED THE SKY 支配されていく 宵闇を 一筋光る 稲光が!」
熱い歌詞と共に放たれる攻撃。その一撃一撃は重く。
「今だ満ち足りぬ その生き様ならば 届きはしない あの高みへ
BRAVE HEART 奮い立つのならば、今 膝を折るときは まだ早すぎるとぉ!」
タートが苦し紛れに触手を放つ。しかし輝夜にかすりもしない。踊る歌姫の姿すら捕らえきれない。
「輝け! THNDER STORM!! 夜空が割れる 光、刃、輝き ああ地を裂く
吼えろ! THNDER STORM!! これが運命(さだめ)か 人よ、神さえ超えろ SPAKING! THNDER STORM!」
もはやトップスピードも超えて早く。その先に地獄(筋肉痛)が待っていようと決して振り返らず。
「夜明け呼ぶ声 見送る背中 星屑をまき散らし ああ彼方へ
鮮やけし空 眩き世界 自分色に染め上げろ BLAZING! THNDER STORM!!」
ただ前に出て、タートの甲羅を思いっきりぶち叩く輝夜。しかし、身体能力が向上した輝夜の攻撃であっても有効なダメージは与えられない。けれどまだ、歌は続いていた。
「SPAKING! THNDER STORM!! 吹きすさぶ風 轟く雷鳴よ あぁ弾け飛べ
BLAZING! THNDER STORM!! 猛き嵐よ 光る速さで翔けろ」
何度も何度も同じ箇所をラッシュ。声も絶え絶えに、それでも攻撃をやめない。そしてタートの甲羅に亀裂が入る。
「FINAL THNDER STORM!!!! これで……終わりだ!」
歌詞の終わりと共に極上の一撃をお見舞いする。その一撃は、タートの堅い甲羅を一部完全破壊するまでに至った。タートは堪らず後ずさる。
「ふぅ、どうだった? なんならアンコールにもお答えするよ?」
不敵な笑みで笑う輝夜。実はそんな余力はないのだが、弱いところは見せまいと気概だけで言ってのけたのだ。自分の限界を見極め、後のことは他の契約者たちに任せるのだった。
「悲しき歌、熱き歌、なれば最後は幸せで括ろうではないか! アルミナ!」
「わかったよ! アルミナ・シンフォーニル! お二方に負けないよう、精一杯歌わせてもらうよ!」
先の二人の素晴らしい歌の余韻を逃すまいとするのはアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)だ。辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)はアルミナから『パワーブレス』をもらい、
タートの壊れた甲羅部分へと走り寄っていた。瀕死のタートもそうはさせまいと、自身の体の体重を思い切り叩きつけて地面を隆起させる。
「あまちゃんな攻撃じゃのう! それでも長年この地を守っていた獣の力かのう!」
隆起した地面を軽々とジャンプして交わす刹那。タートはそこを狙って触手を刹那目掛けて伸ばす。
「させないよ!」
そうはさせまいと、アルミナが『幸せの歌』を歌う。立て続けの旋律にさすがのタートも耐え切れなくなり、触手は力なく地面へとたれ落ちていく。その隙を見逃さずに刹那は駆ける。
「戦場で武器を放棄させるとは、どういうことかわかっておろう? 三人の素晴らしき歌に負けたのじゃよ、お前さんはなぁ!」
『アルティマ・トゥーレ』を壊れた甲羅の部分へと唱える。追撃で仕込んでおいた暗記を投擲する。全ての暗記は寸分たがわず壊れた甲羅へと吸い込まれるように当たる。
甲羅に守られていない箇所は極端に弱いのか、たったそれだけの攻撃でタートは苦痛に悶えていた。触手が暴れ周り、口元からは白い泡を吹いている。
「みなの者! 奴の弱点は歌であり、甲羅で覆われていない柔らかな部分じゃ! 先の者が壊した甲羅中心に攻撃を集中させるのじゃ!」
そうとわかった刹那は他の契約者たちにも声を駆ける。それに答えるかのように契約者たちは壊れた甲羅周辺へと攻撃を集中させる。
「わ、私もがんばるよ! えいっ!」
アルミナも覚えたばかりの『バニッシュ』を使用して応戦する。
タートは既に虫の息。だが腐っても守護獣、ただでは終わらなかった。最早動いているのすら適わぬであろう状態から、全ての触手を無差別に乱れ暴れさせる暴挙に出たのだ。
周りにある家や木を薙ぎ倒しながら、契約者たちに襲い掛かる。
「あっ……」
アルミナの左右から触手が暴れ襲ってくる。彼女にこれを防ぐ術はない。だが、彼女は信じていた。必ず、刹那が助けてくれることを。
「だよね、せっちゃん……!」
「当たり前だろうに!」
触手よりも早くアルミナの元へと辿りつき、暗記を投擲して襲いくる触手を叩き落す刹那。
次第に触手の動きも鈍くなりそのうち力なく動かなくなっていき、遂には本体であるタート自身もどすんと膝を折りその場に倒れたのだ。
「ありがとう、せっちゃん。信じてたよ」
「信じずとも、アルミナを守るのは当たり前じゃからのう」
「うんっ」
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