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リアクション
「よもやここまでとは、天晴れだぜドラン! 同じ竜として誇りに思うぞ!」
ドランと同じく竜の姿を持つはカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)。一瞬の油断なく、敬意を持ってドランと相対していた。
「ったく、本当に強すぎだって! おかげで他のところへの救援も、避難口の確保もできないなんて予想外も予想外よ!」
叫びならもドランの苛烈な攻撃を寸でのところで交わし、捌ききるのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。カルキノスと共に常に前線を支え、ドランの高度を下げている。
それだけの攻撃をどれだけ浴びても屈しないドラン。
「これ以上、自分を苦しめるのはもうやめて! 我がまま過ぎるかもしれないけど、もう楽になって!」
「もう十分だろ! ドラン!」
二人が叫ぶ。だが、届かない。ドランにはもう届かない。ドランの瞳が怪しく光る。幻覚攻撃だ。
「……対処法がわかっていれば、恐れることはない。あなたが熱ければ熱いほどに、生きていればいるほどにその位置ははっきりとわかる!」
「それだけ殺気を出してりゃ、嫌でも伝わってきちまうぜ!」
二人にはもう幻覚攻撃は効かない。ルカルカは【銃型HC弐式】での熱源からの察知、カルキノスは『殺気看破』でドランの殺気からくる位置の割り出し。
彼女たちにはドランのがどこにいるのか、手に取るようにわかっていたのだ。
だがしかし、ドランとてただの獣ではなかった。二人に無数の風の刃が襲いくる。幻覚攻撃を囮。本命は風による無差別かつ面での攻撃だったのだ。
「!? くっ! でも、喰らってあげないよ!」
『野生の勘』と培った戦闘経験を生かして風の刃を避けるルカルカ。だが、突然に放たれた風の刃に動揺を抑えきれずにいたルカルカは、一つの風の刃を見落としてしまう。
「しまっ」
今の体勢からは避けられない。ドランほどの強さを持つ個体が使用する風のダメージを考えれば、ただでは済まない。そんな攻撃が目前にまで迫っている。
「やらせるか!」
幻覚を突き破り、風の刃の雨を潜り抜けてルカルカの前にカルキノスが現われる。傷だらけの体になりながらも『カタクリズム』を使用。
荒れ狂う風の刃に、荒れ狂うサイコキネシスを持って相殺したのだ。
「悪いなドラン。俺にはこんな能力も備わってるんだ」
「カルキノス! 平気!?」
「掠り傷だ。それよりも、あいつの行動はもう読めてるんだろう?」
「うん。大体の行動パターンはわかった。だからいけるよ」
「なら、やっちまおう! もう終わらせるぜ、こんな虚しい戦いをよぉ!」
「……そうだね。終わらせよう!」
窮地を切り抜けた二人。一方のドランは幻覚攻撃をやめて場所を移動する。幻覚攻撃をした後、数百メート上昇したのち左側に下降してから攻撃する。
「それがドラン、あなたの行動パターン!」
「喰らいな! これが今日一番、俺とルカの最強の合わせ業だぁ!」
ルカルカの『天のいかづち』とカルキノスの『機晶ビーム』が交差するようにして、ドランを襲う。
まさかこの短時間で自身の行動パターンから攻撃地点を定められるとは予想していなかったドランに避ける術はなかった。
まるで、ドランの動きを光の十字架が抑制しているような光景。
「光の交差のところにドランがいる! みんな! 攻撃を!」
ルカルカが叫ぶと、契約者たちとアゾートはありったけを放つ。
そして遂に、ドランを叩き落すことに成功する。けれど、ドランは未だに殺気を放っている。例え地に落ちようともその勢いは衰えず、契約者たちを威圧する。
「でも、私たちだって負けない! 負けられない! 行こう、カルキ!」
「おう!」
もはや幻覚攻撃をするだけの集中力もないドラン。ルカルカは自分の光条剣を取り出して、最後まで前線を放棄することなく戦う。
「やっと降りてきてくれたね、ドラン。待ってたよ」
「待ちかねました」
「なるほど、不良品と呼ぶのはやめるよ。立派な完成品だ」
ドランが落ちてくることを待ちわびていたのは三人。緋柱 透乃(ひばしら・とうの)、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)、月美 芽美(つきみ・めいみ)。
ドランが落ちてくるまでは中間距離で支援を主にやっていた。しかし、ドランが落ちてきたのならば話は別。
「救援で来た、ってのは建前なんだ。でも仕方ないよね。こんなに強そうな相手、早々いないもん!」
「透乃ちゃんがそう言うので私も参加させて頂きます」
「私は特に関係ないけど強いて言うなら、楽しむためかしら?」
「芽美ちゃんは周りから好きに攻めて、陽子ちゃんは私のフォロー」
「はいはい、それじゃお先に失礼するよ」
「バックアップは任せてください」
「それで私は、うん、力任せに突っ込ましてもらうよ。そうじゃなきゃ面白くないじゃない!」
笑って、走り出す透乃。遅れることなく付いてくる陽子。見上げれば大きな大蛇のように体をうねらせ、殺意に溢れるドランが見える。しかし臆することなく突っ込んでいく。
どこから出したのかもわからぬまま、風の刃が二人を襲う。
「来ます。平気ですか?」
「風の音が聞こえれば十二分。幻覚が封じられているのなら思いっきり突っ込める!」
「ではこのまま直進します」
「うん!」
風の刃はまさしく空を切る。何もない空間をひたすらに切り裂くだけ。二人には当たらない。
「悪いけどその攻撃はちょっと邪魔よ。そんなわけでプレゼント」
【弾幕ファンデーション】を使用して周囲に煙幕を張る。ドランの視界をある程度奪うことに成功する。芽美に気づいたドランが尾を使い叩き潰そうとする。
しかし攻撃したところには芽美はいない。
「まったく。止まって見えるよ。それでも風の使い手なの? それとも、あるのは体力だけなの?」
呆れ気味に言うものの無理には攻めない。スピードを重視する芽美にとって風は厄介なものだ。
「やれやれ、今回は支援メインで動くしかないのかもね」
愚痴を零す芽美とはうって違い、今なお楽しそうな表情をひっさげて直進する透乃がドランの体元までたどり着く。
「暴風を操るのも疲れた? それならもうお休みしちゃいなよ! これは子守唄代わりだからさぁ!」
自身の使えるスキルをありったけ併用して、右ストレートに力任せにぶっ叩く透乃。その威力たるや、岩如きならば粉砕するかのように重く、ドランの内部を衝撃が駆けめぐる。
「まだ、まだっ!」
更に左、続いて右とラッシュをかける。
「こちらもどうぞ」
『陰府の毒杯』を間近で喰らわせる陽子。ドランが始めて苦しむ姿を晒す。しかし、それに伴って暴風のような風が辺り一帯を襲う。たまらず吹き飛ばされる三人。
「……完全に封じることができなくとも、効果はあったようですね」
「これくらいの風なら、私の方が早いってものね」
「それじゃこれで終わらせるよ!」
同時に地面を蹴る三人。させまいとドランが強風と、風の刃を差し向ける。
「下段は任せなよ!」
風が吹き荒れる中、空中に鋭い蹴りを二発。その蹴りの威力を利用して透乃と陽子が跳ぶ。間髪入れずに遅れた分の距離を『神速』を使い取り戻す芽美。
「中段は私が! 御武運を!」
『空飛ぶ魔法↑↑』を自分と透乃に使い、鎖を使って透乃を更に上へと押し上げる。
「いっくよー! 上中下段の合わせ業! はあああああ!」
下段の芽美が『七曜拳』を、中段の陽子が【刃手の鎖】と【絆の飾り鎖】を使い、上段の透乃が全ての力を結集させた渾身の拳打を放つ。前代未聞の上中下への同時攻撃。
―――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!
これ以上はないという攻撃にビリビリと大気を揺らすほどのドランの咆哮。効いている、効いてはいる。
だが倒れない。これでもドランは倒れない。最早体力どうこうではない。精神が全てを凌駕してしまっているのだ。
「まさかここまでして倒れないなんて、ちょっとやばいかな」
「……守護獣の名に相応しい強さですね」
「はあ、苦しむ姿は見れたがそれに対して払うものが多すぎて、割に合わないわね」
けれど戦う姿勢を解かない。それが強敵と出会ったときの彼女たちなりの礼儀だからだ。
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