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ツァンダを歩く

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ツァンダを歩く

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 ツァンダの晴れた日は、空がぐっと離れる。その分だけ遠く、広く見通すようなことができるようだ。外へと続く扉を開けたくなるような心持にさせて、自ずと陽気な雰囲気が満ちてくる。
 ノベル・ライト(のべる・らいと)は軽くステップを踏むと、人通りの多い場所を歩いていた。彼女には一つの目的がある。そこへと進み、目当ての集団を見つけると誰にも気づかれないように、にんまりとほほ笑む。
「地球の皆さん。こんにちは!! 今日はツァンダにお邪魔しています」
 マイクを片手に、声を張り上げているのは仁科 耀助である。ツァンダを紹介するためのリポーターを任された彼には個人的な理由があった。それは取材という名目で、女性に話しかけられるということだ。
 カメラの前では気取った笑顔を振りまいているが、内心は周囲に愛の言葉をささやきたくて、今にも踊りだしてしまいそうな気持であるのは間違いない。
「早速ですがこのツァンダにはどのような人が住んでいるのか、話を聞いて見ましょう」
 耀助は周囲を見回した後に、当然のようにノベルを視界に捉える。それはノベル自身が耀助を見ていたこともあった。けれどもノベルの自然で素直な佇まいが一際映えていたのを、耀助が目ざとく見つけたのだろう。
「あれ? それって私のことかな?」
「その通り。この俺の最初の取材者として存分に語ってください」
「取材ということはこれってテレビの取材なの? すごーい!!」
「しかも一人目の取材者ですよ」
「本当? なんだか今日はいい日になるかもしれないな」
 ノベルはたまたま通りかかったようなそぶりを見せる。実際には今日ここで取材が行われていたことを卜部 泪の仕込みで知っていた。しかしそれは胸の内に秘め、テレビの取材に驚くように飛び跳ねていた。
「それでは改めまして。ノベル・ライトと申します。地球の皆さんこんにちは!!」
「すごく元気ですね。俺がついていけるか緊張するぜ」
「えへへ。でもちょっと緊張しています〜」
 ノベルは向日葵のような笑顔と共に、カメラの前でピースサインをする。
「では、おほん。二つか三つぐらい質問していいかな?」
「はい。どーんと、来てください」
「それでは今日はどうしてここに訪れたのですか?」
「私はね、ツァンダに遊びに来たの。ツァンダは喫茶店とか、アウトレットモールとか、食事処とかいっぱいあふれているんだ。どこに行こうかまだ決まっていないけれど、時間はあるからぶらぶら廻ってみるつもり」
 耀助は両手を振ってしゃべるノベルを見て、これからの予定を思い浮かべる。喫茶店を中心に見て回れば、ティータイムを楽しんでいる貴婦人に合えるかもしれない。そのようなことを描いていた。
「それじゃあノベルさんも、今日は一日楽しんでくださいね」
「うん。でもね、本当は二人で来る予定だったの。相手がどうしても今日は来られないと言うから私一人でここまで来ちゃった」
「そうなのですか? それは少し残念ですね」
 ノベルはここにはいないもう一人のパートナーの顔を思い浮かべる。黒衣 流水(くろい・なるみ)も事前に今日の番組について話を聞いていた。しかし照れ屋な彼女はテレビに出ることを拒否。なので、今日はお留守番として、ノベルを見送ったのだった。
「でもね。よーちんと会話できてよかったよ」
「あはは。よーちんで俺のこと?」
「うん。また会えたら会おうね」
 満面の笑顔を耀助に届けると、彼女は軽やかな足取りで耀助から 耀助と話したかったという目的は大体達成できたので、満足感があふれているのを胸に触れて確認する。
「そうだ。よーちん。この通りを歩けば喫茶店が多い場所に出るはずだからそこに行けばもっと取材できると思うよ。それじゃあね」
 耀助の返事を聞かずに、ノベルは走り出すと、そのまま人ごみへと溶けていった。耀助は早速一人の女の子と話せたことで幸先の良さを実感し、ノベルが指した方向へと歩いていくことにしたのだった。