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散っては集まるのっぺらぼう

 アデリーヌと恋人つなぎで手をつなぎながら廊下を歩いているさゆみ。
 さゆみはピンクのキャミソールとデニムのショートパンツで決めて、アデリーヌはノースリーブのブラウスとフレアスカートを穿いている。

「(うう……怖いけど、怖いけれどもアディがいるし……それに、怖がるのは女の沽券にかかわるし、第一今どき女の子がギャーギャー泣き叫ぶなんていったい何十年も前の三流ホラー映画なんだかって……)」

 内心では実は結構ビビったりしているけれど、恋人のアデリーヌがいる手前、余計な事を考えないようにしているさゆみは、落ちてくる血みどろ人形を見てもころころ笑っていた。

「この人形、血を流せば結構可愛らしい人形かもしれないわね。ふふっ」
「(本当は怖いくせに、強がってみせるなんて本当に可愛らしいですわね)」

 ころころ笑っている割に、手をつないでいる部分は強く握っているさゆみにドキドキを隠せないでいるアデリーヌ。
 そこへ全身青いのっぺらぼうのポータカラ人、益荒男・葵井(ますらお・あおいゐ)が現れる。

「いらっしゃーい」

 のっそりと近づいて行く蒼井に肩をビクつかせるさゆみ。

「な、なによ。ただののっぺらぼうが私たちに何の用?」
「用と言う用ではないですが、どうですかぁこれ、スーツじゃなくてお肌なんですよぉ」
「そうなの? てっきり全身スーツでも来ているのかと思ったわ」

 寄ってくる蒼井にじりじりと後退していく。

「あ……」

 と、気の抜けた声と共に四散する蒼井の体。

「え!?」
「消えてしまいましたわね」

 いきなり四散して消えてしまった蒼井に慌てるさゆみとアデリーヌ。

「あー失敗失敗。ごめんなさいねー驚かせて」
「きゃー!!」

 四散した体を集め、背後に現れた蒼井にびっくりしたさゆみは、アデリーヌの手を引いてその場を離れた。

「あらら。すごい驚きようですね。ハッハッハ」

 暗い雰囲気の中、明るく笑う蒼井は噛み合わなく不自然な違和感がある。
 少し離れた所に人影があるように感じた蒼井は、そっちの方へ向かっていった。

「いらっしゃーい」

 歩いていたリブロとアルビダに先ほどと同じように青いのっぺらぼうで出迎える蒼井。
 極力気配を絶っていたのもあってか、ビックリして足下がふらついたリブロをアルビダが胸で抱き止めてやった。

「す、すまない」

 すぐに体勢を立て直し離れるリブロ。
 リブロを抱きとめた拍子にくすみのない綺麗な銀髪が手に触れ、仄かな甘い香りがアルビダの鼻を擽った。

「(真面目で堅物なレノアがリブロに夢中になる訳が少し理解できたな)お前……以外と可愛いな……」
「な、なにを急に言い出すのだ。良いから行くぞ」

 遊び半分にリブロを口説いてきたアルビダに少々動揺するが、リブロはすぐに立て直し蒼井の横を通って行く。

「あれー、あまり驚いてくれませんでしたね……まぁ良いです。次々!!」

 頬をぽりぽりとかいてまた通りかかる人を脅かす為に隠れる蒼井だった。


 一方驚いて逃げてしまったさゆみは気が高ぶったのを静めていた。

「な、なんだったのよ……いきなり消えたかと思ったら、背後に回ってるし心臓に悪いじゃない」
「四散してまた集まったといったところかしら。わたくしたちの後ろに収束して現れるなんて人が悪いです事」

―――コツ……コツ……カツーン

「こ、こんどは何よ。早く行こう、アディ」
「そうですわね。行きましょうか」

 足音が近づいてきているのを感じたさゆみがアデリーヌを促して急ぎ足で廊下を歩いて行く。

「ふふっ可愛いな、おまえ」

 怯えているさゆみに気を良くした妖艶なウェアウルフに扮したオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)は、黒狼の耳と尻尾に露出度の高い黒狼の毛皮のセクシーワンピース姿で背後からさゆみの胸をわし掴んだ。

「きゃーーー!!」
「お前、良いモノ持っているな」

 さゆみが悲鳴をあげている間胸を弄って堪能していると、それに怒ったアデリーヌがオルフィナに氷術で作り出した氷のナイフを突き付ける。

「わたくしの大切な方を離しなさい。さもなくば……」
「そう怒るなって悪かった! スタンプやるから、それで勘弁してくれよ」

 突き付けられたナイフを物ともせず、さゆみが持っていた台紙にスタンプするとさっとこの場から消え去った。

「大丈夫でした?」
「う、うん……ありがとアディ」
「さ、次のスタンプを探しに行きましょうか」

 アデリーヌはさゆみの手を引くようにして足を進める。
 それに黙ってついて行くさゆみ。心の中で先ほど怒ってくれた彼女にもう一度感謝の言葉を送って。