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リアクション
四
コンコンコン、コンコンコン。
軽やかにドアが叩かれた。
――と。開いたのは隣の部屋である。
「あ、こんにちは」
にっこり微笑んで会釈する退紅 海松(あらぞめ・みる)に、隣の住人は顔を真っ赤にした。
「へーたさんのお部屋は、こちらで合ってますでしょうか?」
「え、ええ」
海松は、住人が靴を履いているのに気付いた。
「お出かけですか?」
「え、ええ、まあ」
しどろもどろになる。「ちょっとご飯を……」
「お気をつけて」
「は、はい、ありがとうございます」
平太の部屋が開き、海松が招き入れられる。
「……何だよリア充め!」
隣の住人は、今度は違う理由で顔を赤くし、ぶつくさ言いながら出て行った。
「退紅海松と申しますの♪」
優しげな美少女に丁寧な――♪マークがついている気がしたが、多分、気のせいだろう――挨拶をされて、平太はしどろもどろだった。ちなみに今は、彼の普段着とも言える作業用ツナギを着ている。
「ちょっと小耳に挟んだのですが……」
「は、はい?」
「何でも忍者の小道具をお作りになるとか……」
海松は平太の両手を取った。ボン! と平太の顔中の水分が、一瞬にして沸騰する。
「あ、あああのののの」
「今度の納涼祭で私はくノ一の衣装を着ようと思ってたのですが……。是非是非! 平太さんが作ったクナイや手裏剣を使いたいと思ってますのー!」
「い、いやあの、そのあの」
平太はパニックに陥った。美少女が自分の手を握っている――こんなことがあっていいはずがなかった。彼の十五年の人生で、女性から触れてくるなど、家族、親戚、ベルナデットを除いては一度も経験がないことだ。
海松は続けた。
「私、やるからには妥協したくないんですの。くノ一をやるからには本格的小道具も必要不可欠! ですので……今回の納涼祭、是非是非平太さんのお力が必要なんですの! お願い……できないでしょうか……?」
首を傾げつつ、ちょっと下からのお願いに、平太のキャパシティは完全にオーバーした。
「や、やります!」
「本当ですか!?」
「ま、任せてください! だからその……」
「ありがとうございます!!」
「あっ……」
海松に抱きつかれ、平太はとうとう気を失った。
「きゃーっ、大変! 平太さん、しっかりしてください!」
平太を介抱した海松は、どさくさ紛れに「この後、全ての忍者コスプレ用小道具を作ります」という永代契約をちゃっかり結んだのだった。
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