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リアクション
ルカルカとプールの底の方を流れ続けて、ジゼルはある落とし物を見つけた。
プールサイドに上がって確認すると、男性用らしき眼鏡である事が分かった。
「この眼鏡どっかで見た事あるなぁ。
大地――のはもっとフレーム太い気がしたし……誰のだっけ……」
ルカルカと二人、首をひねっていると、後ろから声をかけられる。
「それ、どうしたの?」
「落とし物みたい、何だか見覚えがあるんだけど誰のだか思い出せなくて……
うーん……」
「さっき私眼鏡掛けている人がプールに落とされたの見たけど、その人かなぁ。
取り敢えず届けておこう。
あ、私桐生 理知(きりゅう・りち)。それからこの子はパートナーの北月 智緒(きげつ・ちお)っていうの。
あなたはジゼルちゃんだよね。前にショッピングモール事件の時にちょっと見かけた気がする」
「私もよ」
「改めて宜しくね」
*
「そっかージゼルちゃん泳げないのか」
「うん、折角色々訓練して貰ってるのに焦っちゃって駄目で……」
「訓練ってこのプールでの特殊訓練でしょ。
恐怖を植え付ける訓練にしかならないんじゃ……」
智緒が突っこんでいるところで、理知は口を開く。
「私から一つアドバイスが出来るとすれば……
良さそうなのは見本を見せてもらう事かなー」
「見本?」
「うん。足をどう動かすか。腕をどうまわすのか。
きっちり理解してないといざやる時に分かり辛いでしょ。だから……」
「じゃあ僭越ながらルカが泳いじゃおうかな」
ルカルカはそう言うと、今は少し緩やかに流れ続けているプールに飛び込みクロールのフォームで泳いでみせる。
彼女の完璧に完成された肉体の動きに、ジゼルは感嘆のため息を漏らした。
「凄いわ、私の動きと全然違う」
「ね、あんな感じで」
「理知、あれじゃ競泳選手並みだよ。
もうちょっと分かりやすい方が……」
「うーん……」
考え込んでいる四人の所に、近くに居たグループの声が聞こえてきた。
「全く、俺は水泳の成績は合格点はあったからHIKIKOMORIたいのに」
「訓練は働いてないわよ」
「もう流され過ぎてわけわからんわ。
泳ぐのめんどくさーてしゃーないわ」
「折角の機会なんだからしっかり運動して!」
ぼんやりと流され続けている上條 優夏(かみじょう・ゆうか)、やる気の無い彼に懸命に訓練を行おうとしているフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)、
そしてそんな二人の横で氷魔法のいたずらで遊びながら流されるチルナ・クレマチス(ちるな・くれまちす)が居た。
「あの人達普通に流されてる。
どうやったらあんな風に出来るのかしら」
ジゼルの独り言を、優夏は拾ったらしい。
「泳げるよーになるコツは一つ、働いたら負けかなと思う事や!
ムダに抵抗せぇへんかったらええ」
「あ、彼の言うことマトモに聞いちゃダメよ」
「およげないの〜? うきわあったらきっとおよげるとおもうよ〜」
見事にぼけ突っ込みぼけを繰り返しながら流れ続けている三人に苦笑しつつ、ジゼルは考える。
「抵抗しないで……ある程度水の流れを読むってことかしらね」
「ジゼルちゃんは力が入りすぎな気がする。
水とお友達になればいいんだよ!」
「理知の言いたい事は水に身を任せれば浮く。
前は手足をばたつかせて浮いてたのか思い出してって事よ」
智緒の補足を聞きながらジゼルは再び練習に戻った。
*
「俺は思うんだが」
ジゼルの水泳特訓に加わった御宮 裕樹(おみや・ゆうき)は、一通りの訓練…… ではなく練習
でよくやるバタ足や腹で手を支えてもらいながらのクロールを終えてふと呟いた。
「正直尾ビレの時は普通に泳げるって事を考えると
クロールよりもバタフライの練習させた方が早く覚えると思うがな」
「あ!!」
せめて基礎だけでも、と難易度の高い泳法はすっかり頭から抜け落ちていたらしいルカルカと理知と智緒は顔を見合わせる。
「そっかーバタフライ。なるほどねー」
「うんうん、それなら簡単に覚えられるかも!」
「え? え? 何それ。どんな泳ぎ方なの?」
ジゼルに振り向かれて、裕樹は解説を始めた。
「バタフライ……バッタとかも言うが……要はこう両腕を同時に前後ろに動かして、足も同時に上下に動かす泳ぎ方だ。
手を貸してくれ」
裕樹は言いながらジゼルの手を取り、前後に動かす。
「こうしてこう。
足は……」
「こうだよ!」
プールサイドに座っていた智緒が足をそろえた状態で上下に動かしてみせた。「そう。あんなのをさっきのクロールと同じ姿勢のままやるんだ。
ちゃんとしたフォームじゃないと息つぎも難しいし速く泳ぐ事が出来ないんだが、フォームさえしっかりしていれば……
うん、まず見本だな」
「見本……」
プールサイドを見回していた理知は、おもむろにプールから上がると、突如バーストダッシュをかけて体当たり男をプールに落とした。
「な、なんだ!?」
理知に落とされたのはリブロに追いかけられ、撃たれ、色々酷い目にあったその後のアキレウスだった。
「筋肉の人にも見本見せて欲しいな。
うちの学校は教官が行動で教えてくれるよ」
「理知、それはイコンだから!」
「ふふん、見本か。いいぜ、何を見せればいいんだ?」
「バタフライだ。
ジゼルに正しいフォームを見せたいから、ちょっとこの一帯で泳いでみせてくれないか」
裕樹の言葉に、アキレウスは早速泳ぎ出す。
確かにそれは見事なフォームだった。
ジゼルに分かりやすい様にか、スピードを落として丁寧に泳いでやっているのも良かった。
だがその間に、プールサイドに経っていた智緒が、流れるプールの波を捜査するパネルの前にいるセレンフィリティ達に
「波高めで!」、「スピードアップ!」とお願いするので、アキレウスは今日はじめてジゼルの気持ちが分かった気がしつつも、
なんだか燃えてきてしまったのである。
「よし、そっちがその気ならこっちも奥の手を見せてやるぜ!!」
アキレウスは、皆が気づかない間に泳ぎながら水着のポケットから小さなリモコンを取り出していた。
カチリとスイッチを入れると、流れるプールの何処かで水門が開いたのか、ゴゴゴゴゴという地響きと共にプール内の流れが急に変わり始めた。
「な、なにこれ!?」
「水が……流される!!」
「ハハハハハ最後の特訓へ強制連行だ!!
ついてこいよ訓練生ども!!」
まるで悪役のようにテンション高く叫ぶアキレウスの押したスイッチによってプールの中に居たもの全てが、流れるプールから別のプールへと流されてしまった!!
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