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アキレウス先生の熱血水泳教室

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アキレウス先生の熱血水泳教室

リアクション



【四時間目!】


 流れるプール、と言うには語弊がる程もの凄いスピードで流れているプールサイドに、
レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)エーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)が立っている。

 パートナーのリブロ・グランチェスターと同じくクールな漆黒のビキニに、こちらは色違いの胸元結びの白のパーカーとホイッスルを付けたレノアは、
背筋を伸ばし、プールに居る訓練生に向かってキリリとした顔で話し出した。
 エーリカの方はというと、アサルトライフルと行軍装備一式を教導団指定の水着の上に装備した状態で水の中に居る。
「教官のレノア・レヴィスペンサーだ。 ここ、流れるプールで私は初級訓練を担当する。
 まずはエーリカと同じ装備をつけろ、通し番号を点呼の後訓練に移る」
 リブロの軍人らしい挨拶の後、訓練生達はいそいそと装備を付け始める。
「はぁ……水泳ですか……。
 あ〜でもほら、ワタシ魔鎧ですから、その、泳げなくても仕方ないと思いませんか?」
 ぶつぶつ言っているのはホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)
 彼女とパートナーを同じくする阿部 勇(あべ・いさむ)
「いや、まぁ、確かに僕は技術畑の人間ですから?
 体力的に劣るのは認めましょう」
 とぼやいていた。
 ただ一人、やる気満々なのはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だ。
 カナヅチの彼は是非今回の特訓を経て、泳げるようになりたいと思っていた。
――そうすれば、私はまた一歩人間の心を学ぶ事が出来るからだ!
「今年こそ! 私は泳げる様になる!」 準備と点呼が終わると、レノアはチェンタウロ戦闘偵察飛空艇に搭乗して拡声器で訓練内容を説明しはじめる。
『全員そのまま250M先のプールサイドへ渡河せよ
 尚、逃亡や後退した者、立ち止まる者には容赦なく機銃掃射する。以上だ!』


 こうして命がけの訓練、もとい行群が始まった。
「行くぞ! とうっ!」
 コアが飛び込むのを皮切りに、エーリカをしんがりに皆が進んで行く。
 泳ぐ、ではなく兎に角這ってでも向こう岸にたどり着くのが目的であり、その部分がレノアの言う「初級」の部分だった。
 だがそんな事は普通の感覚を持った人間には分かる事ではない。
「この学園に入るまで泳ぐ事はなかったんですよぅ、だからその……、
 せめて、ココでの特訓は……無しに……」
 ホリイは一歩一歩確実に足を踏み出すものの、強い流れに身体がもぎ取られてしまいそうだ。
「こんなところで特訓とかあり得ないでしょう!!?」
 スタート時からぶちぶちと言い続けていた勇だが、
「無駄口を叩くな!」
 という怒号と共にレノアの機関銃が火を噴くので、
「うわああああお助け!!」
 と、そのうち叫び声以外上げなくなっていた。
 わずか15メートルも無い距離だが、辿り着くどころか5メートルも無い距離に行く迄に既に十分は経っている。
「こ、このままじゃ向こう岸なんて無理……」
「弱音を吐くな! 前を見ろ! ちゃんと進めているぞ!」
 諦めてしまいそうなホリイの背中をエーリカが叩く。 こうして進みに進み、30分程経った頃。
「う……あと少し……」
「ゴールが……」
 勇とホリイがゴールに向かって手を伸ばした瞬間だった。

『スピードアアアアアップ!!』

 何処からか拡声器の声が聞こえたかと思うと、急に水の流れが倍になったのである。
「わにゃーー!! 足届かないですよぅ!  流れるー! たす……」
 飲まれそうになるホリイの装備をエーリカが後ろから掴む。
「諦めちゃダメだ、生きて帰るんだろ!
 家族が待ってるだろ、恋人が居るんだろ、帰る所があるんだろ……!!」
 家、家族、仲間達。
 エーリカの言葉に二人の頭に幸せな思い出が去来する。

 ここで、死ぬ訳にはいかない!!

「う、うわああああ」「おおおおおお」
 叫びとともに伸ばした腕は、遂に希望を、向こう岸を掴んだ!
「「やった!」」
 歓声を上げる二人の重い荷物をエーリカがこっそりサポートしてやると、二人が倒れ込んだ岸の上にはやり遂げた訓練生達を迎えるレノアの笑顔が待っていた。
「よくやった」
 ところで、この行群の間もう一人の訓練生コア・ハーティオンがどうしていたかというと。
「行くぞ! とうっ!」
 と元気よく飛び込んだ後、教官に習ったばかりのクロールを試した彼は……

 沈んでいた。

 勇とホリイが向こう岸に辿り着いた時に、コアは唐突に立ち上がり、期待を込めてレノアの答えを待つ
。「先生!
 どうだろう!? 泳げていただろうか!?」



「うーん、何か足りないでありますなぁ」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はプールを覗き込み考えて居た。
 教官として何か訓練を、と思った者のどうにもこうにもしっくりこない。
「足りないって何が?」
 パートナーのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が吹雪の顔を見ると、吹雪は真剣そのものと言った顔で答える。
「スパルタ具合! であります」
「……スパルタって。
 もう大丈夫よ。あなたがやらなくってもスパルタ教官は沢山いる――
 って何してるの!?」
「ん? シボラの石球を投げ込んでいるでありますよ?」
 シボラの石球とは―― “アウタナの実”とも言われており、かつてシボラ全土に降り注いだ時は多くの生物が犠牲になったと言われているものである。
「駄目よ吹雪! そんな事したら中で泳いでる人たちが危ないわ!!」
 コルセアが常識人代表として暴走する吹雪を止めようとした時だ。

あ ら?

 コルセアは勢い余って吹雪を石球ごと落としてしまったのだ。

「…………帰ろう」
 コルセアはパートナーが流れていくのを見なかった事にした。



 訓練も折り返し迄きて、多くの女性が登場した。
 学校の指定水着。自前の水着。
 ありとあらゆる水着姿をその目におさめていたのは蔵部 食人である。
 そもそも4キロもの遠泳が出来るぐらいには泳げる彼がここにきたのには一つの目的、彼なりの訓練があった。

『女体への耐性』

 これまであまりの女体耐性の無さに苦労をしてきた彼だが、良い年齢になってくるこれからも鼻血を噴いて失神なんてパターンを繰り返す訳にはいかない。
 彼は自分の修行としてまずは半裸とも呼ぶべき水着姿の女性に慣れる特訓をする為にここへ着ていたのだ。
 食人が手にしているのは双眼鏡『NOZOKI』。
 プールサイドで監視員役をしながら、彼はこの双眼鏡で女性達の水着姿を覗いていたのである。

 ところで覚えているだろうか。この彼の不審な行動にいち早く気づき、疑惑が真実か確かめる為に行動していた者が居た事を。
「こんの、変態ーーーーーー!!!」
 食人が座る監視台の足に小鳥遊 美羽の激重キックが炸裂する。
 そう、訓練と言っても所詮は覗き。 いつの間にか覗きをする変態と化していた食人は、まるで漫画の要にプールの窓を突き破り、何処かへと飛んで行った。