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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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7ターン目:信なgの野望・武将ふ〜ん録

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「なるほど。敵も一筋縄ではいかないということか」
 本陣の城の大広間で、信長は再び集まってきた武将たちを見回しながら不機嫌そうに言う。遅々として進まない敵軍の征伐に、配下の武将たちもどこか神妙な面持ちだった。
「まあいい。よい報告だけを持ってくればいい。作戦を粛々と遂行せよ」
「おおそれながら信長さま。一つ、お願いしたいことがございます」
 参謀総長ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは、苛立ち気味の信長に臆することなく進言する。
「なんだ。遠慮なく申してみよ、サル……いやゲルよ」
「我が軍は兵数は多いですが、それゆえ全体的に動きが遅くなっていることも否めませぬな。敵に休む暇を与えずに、一気呵成の攻勢をかけるべきでありましょう」
「うむ。……して、方策はあるのか?」
「はい。……私の軍団でシャンバラ軍を急襲いたします。その後、あぶりだされて来た敵軍勢を粉砕するのがよろしいかと存じます」
 こちらへ……、とゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは、軍団を率いる配下武将を招く。
「話は聞いておりましたな? 貴様らに、任務を与えます」
 ゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストは、パートナーのレノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)を傍まで呼び寄せ、命じる。
「平原の敵本陣を強襲しなさい。用兵に関しての詳細は、もう伝えてあるはずです」
「了解した」
【ドイツ騎士団総長】マクシミリアン・フォン・エスターライヒとして参戦していたレノアは、頷いた。
 欧州三大騎士団にして世界に鋼鉄の秩序と神聖ローマ皇帝に忠義を尽くすマクシミリアン・フォン・エスターライヒは、神聖ローマ帝国に対立する大英帝国とスペイン帝国に対抗する為に、兄である皇帝ルドルフ二世が信長と同盟を結んだ事で織田家に派遣されてきていたのだ。
 祖国と騎士団のために存分に働きを見せてやるつもりだった。
「アルビダ。貴様はマクシミリアンと連携して、別働隊を指揮しなさい」
「わかりました。あたしにおまかせあれ」
 もう一人、アルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)も楽しそうに返事した。
 かつて、【海賊女王】アルビダとして史上最強の海賊団を率いてバルト海を暴れまわっていた女海賊のアルビダだったが、信長が編成した九鬼水軍の鉄甲艦隊に打ち破られ、織田家の家臣として馳せ参じていた。海賊相手に超本気の大規模鉄甲艦隊を派遣してくる、その容赦のなさに魅力を覚え、ともに戦いたいと思ったのだ。
「あいわかった。ゲルの進言受け入れよう。……さっそく出陣の用意をいたせ」
 信長は立ち上がり、再度の出陣を促す。
「ありがたき幸せ。不詳ながら、この私が全力で信長様をサポートさせていただきます。皆も信長様を信じて、安心して戦われませ」
「では、私も出陣いたそうかな。作戦は、打ち合わせしたとおりでございますな?」
【悪左府】藤原頼長は、相変わらず扇で顔の半分を隠しながら腰を上げる。
 もちろん、控えていたほかの武将たちもだ。信長の不興を買うわけにはいかない。遅れをとって悪評が立ってはかなわないと、我先に飛び出していった。
「急げ急げ、信長さまへの忠誠心を見せるときだ」
 小早川秀秋は、軍議が終わると、居眠りしていた先ほどとはうって変わって、真っ先に出陣の準備に取り掛かる。
「あの者……?」
 藤原頼長は、そんな小早川秀秋を怪訝な目で見つめていた。無能なのか有能なのかわからない人物、という噂は聞いている。やる気がないように見えたが、信長に仕えているのに斬られていないところを見ると一応信頼はされているようだ。
 しかし……。藤原頼長の軍師としての直感が警告音を発していた。帝を奉り、長年宮廷闘争を繰り返してきた彼だからこそ思い当たることがあった。
 あの手の人物は……、必ず裏切るのだ……。
「うむ……」
 藤原頼長は武将を一人呼び止めると、小早川秀秋の軍団を見張るよう伝えておく。誰が騙されたところで知ったことではないが、計画に支障が出るようなら問題だ。
「全く、愚劣にもほどがあります。まあ……アウグスタ陛下のために、しばしの辛抱です」
 戦場へ向けて出発する藤原頼長。
「……」
 それをさらに物陰から除いていたのは、小早川秀秋こと葛城吹雪のパートナーコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)だった。
(さすがに勘のいい人物もいるみたいね。仕方ないわね。バレないように、少し工作しておくか……)
 コルセアは、小早川秀秋の行き当たりばったりの行動に頭を痛めながらも、痕跡を消すように動き始める。
 さまざまな思惑が入り乱れながら、合戦はいよいよ佳境へと入っていくのであった。



 さて、こちらはシャンバラ軍の本陣。
 ハイナは本陣に戻って敵城攻略の策を練っていた。
 あまり時間はない。先ほどの戦いだって、とりあえず平原からお引取り願っただけだ。大してダメージを受けていないので、すぐに取って返してきて、攻撃を仕掛けてくるだろう。
「やはり、信長の本陣への奇襲くらいしかないでありんすよ。こちらが全滅するのが先か、信長を倒すのが先かの時間との戦いでありんす」
 ハイナは今にも信長の居城へと乗り込んで行きたそうな表情で言う。
「あの大軍勢を迎え撃っている間に、別働隊がこっそりと敵本陣に近づくしかないですよね、やっぱり。時間でしたらできる限り稼ぐつもりですけど」
 シャンバラ本陣の防衛に努めていた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)がため息混じりに言った。どれだけ一生懸命本陣を守っていてもハイナ本人が外をふらふら出回るようでは何の効果もない。先ほどの戦いでは、兵士たちの士気高揚のためなどとハイナが出陣していたため、舞花は一人でこの本陣の留守番をしていたのだ。しかも、何か成果を上げて帰ってくるかと思いきや、ハイナは草原をぶらぶらしていただけだし。戦いがほとんど進捗していないところが頭が痛い。
 また、個性が強く単独での作戦行動を好みがちな味方の軍団も平原での戦いに参加するため、本陣の守りはとても寂しいものになっていた。
 それでも……。シャンバラ軍が信長の本陣に攻め入っている間、この城を守りきるくらいの準備はできている。
「もうこの際せっかくですから言わせてもらいますけど、ハイナさんは本陣に引きこもっていてくれたほうが私たちも助かります。敵がハイナさんを狙ってまっすぐにこちらにやってきてくれるでしょうから、防御の方策も立てやすいですしね」
「……戦いたいでありんす」
 ハイナはぽそりと呟く。この戦いが始まって何もしていない、いやさせてもらえていなかったので欲求不満になっているようだった。皆が、戦況がシャンバラ軍優位になるまではハイナの身を心配して危険な場所に行かせてくれなかったのだ。
「いいことを思いついたでありんす。わっちの替え玉を作っておいて、それに本陣でお留守番させればいいでありんすよ」
「……」
 舞花は、無言で却下した。そもそも、替え玉を作るならそちらを危険な前線に送り込んで自分は安全なところにいるのが普通なのに、どうしてこんなに血気にはやっているのだろうかこの娘。冷ややかな目で見つめてやると、ハイナは視線をそらせてぶつぶつ言い始める。
「……もちろん、わっちだって集まってきてくれた人たちが気を使ってくれていることくらいは知っているでありんすし、わっち一人では限界があることもわかっているでありんす。力を貸してくれていることにはとても感謝しているでありんすが、それとこれとは話が別というか、むしろわっちが皆の期待に答えるために無双の大活躍で敵をばったばったとなぎ倒してよき指導者であることをアピールする必要があると思うでありんす。そもそも合戦における武将の役割というものは……ぶつぶつ……」
 ハイナは、舞花にちらちらと視線を投げかけながらふくれ気味に続けてくる。これは……、さすがにちょっとウザい。
 どうしてやろうかと舞花が考えていると。
「そんな顔していたら兵士たちも動揺するでしょう。ハイナは、自信ありげな表情でデンと控えていたらいいのですよ」
 不意に、背後から忍び寄ってきていたセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)が、ハイナの胸を鷲掴みにしていた。元気出せよ、と弾力を誇張させる。男女を問わず誘惑してからかうのが好きなセフィーの精一杯の愛情表現だった。
「うっ……うむ、そうでありんすな。そんなつもりはなかったでありんすが」
 ハイナは女の子にありがちな反応は示さなかった。もみもみされながら神妙な面持ちで頷く。セフィーを意識しながらも、どうあっても驚いたりしてやるものか、と意地を張っている様子がありありとわかった。
「大丈夫ですよ。あたし達は絶対勝つわ! ハイナは安心して吉報を待っていて下さい」
「それはいいんだけど、ちょっと表出ようか、セフィー」
 ハイナの側近として控えていたルカルカが笑顔でセフィーの肩に手を乗せた。親指を外に向けて本陣の外へと連れ出そうとする。
「……いや。ですからあれは、どんよりと落ち込みがちな空気を一変させ場の空気を解きほぐそうとしただけで……。いやあのルカルカ、あたしの手首を握って何を……ちょ、手はそんな方向へは曲がらな……」
 わきあいあい(?)と去っていくセフィーたちを見送ってから、様子を見ていた人影が口を開く。
「信長の配下武将たちは、なんとかしてハイナを優位な場所へと誘い出し、圧倒的な兵力で殲滅しようと計画しているのである。それを逆手に取るしかないであろう」
 ハイナの本陣へとやってきていたイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が、様子を見ながらそう伝えてきた。彼も、先ほどのコルセアと同様に吹雪のパートナーであった。
 忍者としてこの戦いに参加していたイングラハムは、ハイナ陣営に信長軍の情報をこっそりと漏らしていたのだった。言うまでもなく、裏切り行為である。
「信長軍には、総参謀長を始めキレ者が揃っている。小細工は聞かないであろうよ、ハイナ。平原の合戦に参加したらほぼ間違いなく生きては帰れぬであろう」
「ハイナさんが出陣したら、全力で襲い掛かってくるってことですよね。大軍で隙なく布陣されたら救出もできなくなりますね」
「そういうことである」
「わかりましたか、ハイナさん。なら、なおのこと外に出るわけにはいきませんね。暇なときは私が何でもお相手しますから、ここでゆっくりしていってくださいね」
 舞花はにっこりと微笑む。
 ハイナはまだぶつぶつ言っていたが、結局この本陣で敵を待ち構えることになった。
 遥か彼方から、砂煙を上げて圧倒的な敵が迫ってくるのが見えた。思っていたより早い。
「信長軍の総攻撃が始まる」
 その知らせはシャンバラ軍の全てに伝えられた。
「わかったでありんす。……全軍出陣でありんすよ」
 ハイナは、全てのシャンバラ軍に決意を述べる。
「皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ」
「いつの間に皇国になったんですか? しかもカタカナって……」
 舞花は目を丸くするが、兵士たちの受けはよかったらしい。ハイナの言葉に、ドッと歓声が沸き起こり士気が最高潮にまで上がったのがわかった。
「なお信長軍は、わっちを朝敵、我が軍を賊軍だなどとうそぶいていると俗聞するが、皇室簒奪者アウグスタ帝こそ朝敵でありんす! 本来朝廷を継ぐはずであった正当なる血統の御徒町(おかちまち)親王殿下より、信長討伐の令旨を受け取っているでありんすよ。みなの者、この戦の大義名分はこちらにありんすから、安心して戦われよ」
「ええええええっっ!? いつの間にそんな話になってるんですか?」
 いきなりの超展開に舞花は慌てて資料ページをめくる。ついさっきゲーム画面が更新されていたのに気付いていなかなかったのだ。
「……ええっと。『【悪左府】藤原頼長を始めとする公家の一派が、海外勢力と手を結び朝廷を簒奪。幼女帝アウグスタを戴き、日ノ本の国を乗っ取り世界との融合を画策している。ハイナ陣営は、この勢力の急先鋒である織田信長を倒さなければならない』……なんですか、この急ごしらえのトンデモ世界設定は?」
「わっちは悪くないと思うでありんすよ。ただただ殺しあうだけの合戦ゲームにも嫌気がさしてきたところでありんす。戦う理由が出来たのは燃えるでありんすな!」
 こんなに後だし設定でいいのかな、と思いながらも舞花も頷く。
「……わかりました。頑張りましょう」
「お国の危機でありんす。絶対に負けられない戦でありんすよ!」
 ハイナの号令により、全兵力が一致団結して信長軍を迎え撃つことになった。
 舞花は言った。
「さて、では始めましょうか。地獄の防衛戦を」