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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

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 一方。
「討ちもらしがハンパねえぞ。まあ、あれだけの人数を全て押しとどめるのは不可能なのはわかってるんだが」
 ハイナの本陣がある西の山の麓では、神崎 優(かんざき・ゆう)が騎馬兵団の準備を整え敵を待ち構えていた。
 彼らからはハイナ本陣がよく見えるが、平原から攻めてくる敵には見えない地点。そんな場所に潜みながら機をうかがっていたのは、数の多い敵を効果的に攻撃するためだ。
 どういうつもりか、ハイナの元にもたらされる敵からの情報。そこから推測するに、信長軍はハイナがいる本陣を急襲しようと突撃力の高い部隊も編成しているようだった。
 情報の真偽はともかく、十分にありえることなので準備はしておかなければならない。
 敵の突撃急襲部隊に対抗できるのは、機動力の高い騎馬部隊。というわけで、夏のイベントイラスト保有者である優が率いる『騎馬隊』が選ばれたのだ。
「敵の急襲部隊を奇襲するってこと? 結構難易度高いわね」
 優の婚約者にしてパートナーの神崎 零(かんざき・れい)が、平地での戦況を遠目に見守りながらぐっ、と息を呑む。
 平原で戦っているシャンバラ軍の必死の防衛も空しく、かなりの数の信長軍が、このハイナの本陣をめがけて兵を進めてきていた。
 小高い丘の上から弓隊などが応戦しているが、数が減る様子はない。
 これだけの大軍団が一気に襲い掛かってきたら、ハイナの本陣はひとたまりもなく壊滅するだろう。つまりは、なんとしてもここで勢いをそいでおく必要があるのだ。
「行くぜ、大勝か全滅かのどちらかだ」
「……」
 共に参戦していたパートナーの神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が、無言で頷く。
 十分に敵軍を引きつけてから、優は騎馬隊を一気に加速させた。馬のいななきもなく、陣形の乱れもなく、よく訓練された1000の部隊が、今まさに通り過ぎようとしていた信長軍の側面に急接近する。
 聖夜は優と連携して組んであった足場を敵陣へと投げいれた。同時に陰陽の書刹那がスキル【アシッドミスト】を放ち敵の視界を遮る。
「うわあああ、なんだ!?」
 まさかそんなところから敵が出現しようとは思ってもいなかった信長軍は、不意をつかれ混乱した。
 そこへ、狙い過たず優の率いる騎馬隊が助走の勢いもそのままに突撃する。
 ドドドドド! と騎馬隊の威力が信長軍の部隊を翻弄し始めた。あっという間に周囲は乱戦となる。
「如月」
 優は帯刀した刀で神速の居合いを敵に浴びせる。
「ぎゃああああ!」
 敵兵はなすすべもなく倒れた。だが、すぐに次の兵が押し寄せてくる。
「おっと、お前らはオレが相手だ」
 聖夜が割ってはいる。両手利きで二刀流に持ち敵兵を斬り伏せては身を翻し、後方へさがる。敵が追いかけてきたら向き直り斬り倒す。
「【バニッシュ】」「【アシッドミスト】」
 零と刹那は、数を頼みに力任せに押しつぶそうと迫る信長軍にに同時にスキルを放つ。そこへ更に聖夜の変則的な動きが、信長軍を翻弄した。
「無月」
 今度は優は、帯刀した刀を左逆手で抜き、刀の峰を右手で添えながら押し出し切り上げた。多様の居合いを使い分けて、まるで剣舞を舞っているように攻撃していく。
 と……。
「わたくしの美しい部隊を引っ掻き回してくれているのは、誰よ?」
 この軍団を率いていた、モブNPC武将のクレオパトラが怒りの形相で攻撃してきた。美人が台無しの上に、どういうわけか戦闘慣れしていて結構強い。
「【ファイアーストーム】」「【サンダーブラスト】」
 零と刹那は、また息ピッタリで同時にクレオパトラにスキルを放った。
「あなたたち、死になさい!」
「おいおい、勘弁してよ、オバサン。化粧落ちてるぜ」
 聖夜が挑発しながら斬りかかる。
「よくも、この美しいわたくしを!」
「十六夜」
 優は、神速の居合いを放つと同時に素早く右手を離し、左逆手に持ち替え、右手を刀の峰にそえて回転力を利用し切り上げる。二段居合いをまともにくらって、クレオパトラは悲鳴を上げた。傷口の大きさと衝撃に、クレオパトラはもんどりうって地面に倒れた。
「鏡よ、鏡……。世界で一番美しいのは誰?」
 完全にキャラが変わってしまったクレオパトラは、最期に取り出した手鏡を見ながら問いかける。
「俺の嫁だ。……それが何か?」
 零を抱き寄せながら、当たり前の口調で答える優。
「わたくしには……、理解できない……ぐはっ!」
 ガクリ、と武将のクレオパトラは動かなくなった。
「やれやれ……」
「やったわね」
 優と零は顔を見合わせて、微笑みあった。
 程なく、指揮官を失った敵軍が散会して逃げていった。
 こうして、少数ながらもシャンバラ軍は信長軍をじりじりと押し戻していく……。



「予想通り、ハイナは篭城を選びましたか。いい感じに進んでいますね」
 藤原頼長は、ハイナが本陣から姿を見せないのを確認して頷いた。計画はほぼ想定の範囲内で進みつつあった。
 彼は、進軍する信長軍の背後に陣取っていた。平原の戦場で、檳榔廂車に四頭の馬を繋いだ馬車に乗り【戦国近衛武士団】一千を率いて、進軍する軍団の後方から戦況を見つめている。
「ご機嫌ですわね、頼長さま」
 妖艶で冷酷残忍な中国殷王朝最後の王の妃【妲己】になった蘇 妲己(そ・だっき)は檳榔廂車の中で藤原頼長にしなだれかかり睦みあっていた。
 誰も知らないが、彼女は藤原頼長のいとしの女性なのだろう。
「可愛い天子様のお相手も宜しいですが、今宵は私のお相手をお願いしますわ」
「……どうしましょうかね」
 藤原頼長はじらすようにねっとりと微笑みかける。
「もう、いじわるなんですから……」
 妲己はすねるようにふくれてから、気を取り直してすぐに甘える。
「ねえ……、ハイナの首を取ってきたら、夜伽のお相手をしてくださいますか?」
「そうですね。それが出来たら、一晩たっぷりかけてご褒美を上げましょうか」
「本当ですね。頑張りますわ……!」
 妲己はすぐさま檳榔廂車から飛び出すと、部隊を引き連れて意気揚々と出陣していった。
「ふふ……」
 藤原頼長は扇で顔の下半分を隠しながら微笑む。
 計画は順調に進んでいる。シャンバラ軍は信長軍相手によく戦っている。
 なんと言うことだ。このままでは出陣していった軍団が押し戻されるかもしれない。大ダメージを受けるかもしれない。それくらいの勢いだ。だから……。
「シャンバラ軍が奇襲できそうなくらいの隙を作ってあげなさい」
 きっとシャンバラ軍は頃合を見計って仕掛けてくるだろう。
 藤原頼長はシャンバラ軍が信長のいる本城への奇襲をしやすいように陣形を変える。出来る限り、自然な形で。
 これは大変だ。こんな隙を作ってしまったらシャンバラ軍にそこを突かれてしまうではないか。これは好機と襲い掛かってきたらどうしよう……。


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