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天に地に、星は瞬く

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天に地に、星は瞬く

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プロローグ



 まだ、日も昇りきらない早朝。
 その内装に関係なく、満ちた物寂しい空気と環境からして、病室、と呼ぶべきその室内で、寝台に横たわったグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、ぼんやりと窓の外へと視線を向けていた。

 超獣の侵攻、そしてそれを阻止するのに成功してから数日。
 無理な魔力の使い方をした反動が、怪我よりも尚酷く、体を蝕む苦痛が引かないでいる。だが、グラキエスが表情を曇らせているのは、自身の苦痛のためではなかった。
「……封印、か……本当に、それでいいのか……?」
 自らの戦った、一万年前の神官戦士アルケリウス・ディオン。強い憎悪と復讐心のままに、超獣を目覚めさせ、世界を滅ぼそうとした、暴力そのものの存在。簡単には薄れようの無い感情と力は、封印されているとは言え危険なものだ。
 もし万が一、その封印が破られたとき、その力は誰かを傷つけはしないだろうか。例えば、魔力の暴走した時の、自分のように。
「……」
 そして、気がかりはもう一つ。
 眠りから覚めた超獣の巫女アニューリス・ルレンシアに対して、彼女の想い人であり、術士だったディミトリアス・ディオン(でぃみとりあす・でぃおん)は、既に死者だ。以前、彼は全てが終われば、ディバイスに体を返す、と約束していた。それは、巫女を一人、この世界へ残してしまう、という事に他ならない。
「……殺すべきか、生かすべきか……正しいのか、間違っているのか……」
 呟いてはみたが、考えが行き来するばかりで、答えは見つかりそうも無い。ならば、とグラキエスの考えた方策はひとつだ。
「……誰も、いないな」
 部屋の中にも外にも気配を感じないのに、のそり、と上体を起こすと、ゆっくりと寝台から降りて上着を羽織、そろそろと寝室の扉を開けた。顔だけを覗かせて廊下を確認してみたが、人影も無い。今なら、見つからずに動けるかもしれない。
 そう考え、そろりと足を踏み出そうとした、が。そう簡単にも行かなかった。
「エンド、抜け出そうとしましたね!」
 案の定、その気配を目ざとく見つけて駆け寄ったのは、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)だ。
「まともに歩けないのに、どこに行こうと言うんです」
 怒ったような顔をするロアだが、それは、グラキエスを心配するが故だ。それは判っているのだが、グラキエスのほうも引かなかった。
「トゥーゲドアへ……彼らの結末を、見届けなければ」
 その言葉に、咄嗟に文句が口をつきかけたが、その真剣な目に、ロアはぐっと声を堪えた。こんな時のグラキエスの意思は、覆せないと知っているからだ。
「どうしても、ですか……」
「主よ、私がお連れします」
  唸るように言ったロアの後ろから、そう言って膝を折ったのは、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)だ。普段の彼であれば、ロアと共にその無茶を止めたのであろう彼だが、グラキエスの態度に何かを悟ったように、ぐっと眉を寄せつつもアウレウスは頭を下げた。
「この手で触れる事をお許し頂きたい」
 それに頷きが返されるのを許しと受けて、アウレウスがグラキエスの体を抱き上げるのを、やきもきしながら、ロアは息をついた。ロアはロアで、グラキエスの気持ちを知っているだけに、余りその感情に刺激を与えたくなかったのだが、こうなっては致し方ない。
「アウレウス、エンドの体を無駄に揺らしてはいけませんよ。エンドも、無茶はしないように!」
 いつものような過保護振りをするロアに、揃って小さく苦笑し、頷いたグラキエスは、体を預けるようにして目を伏せた。

(……何が、正しい……?)
 恐らく、”本当の正しい答え”などどこにも無いのだろう。
 そう判っていても、焦れる思いで、グラキエスは掌をぐ、と握り締めた。