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リアクション
「さあ、悪も滅びたわ! 悪が滅びた後は、原因が馬鹿面を引っさげて待ってるのよね。あたし、知ってるわよ!」
「そうですわね。半殺し……もとい滅ぼしましたし、この調子で参りましょう、シェヘラザード様!」
「テンション高ぇな……」
「落ち込まれているよりは、あの方がお二人らしいかと」
「そうだな」
妙なテンションになっているシェヘラザードと麗を、シリウスとサー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)が背後から見守る。
暗い雰囲気だけではダメだと思っていたが、あの眼鏡も良い事をしてくれた……とシリウスは思い返す。
もうちょっとくらい、手加減して踏んでもよかったかもしれない。今更ではあるのだが。
「なあ、シェヘラ。もう一度確認するんだが」
「ここに来る前に言ってたこと?」
シェヘラザードの返答に、シリウスは頷く。
「もしアーシアの身体がヤバくなったら、アーシアが死ぬ前にオレに乗り移れ。それでもヤバければ……アーシアか、オレと契約しろ。打開の糸口にはなるはずだ」
「シリウス……」
シリウスの真剣な表情を、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は見つめる。
そんな最悪の事態が起こるとは、考えたくは無い。
けれど、ネバーランドのガルデという男は、それを望んでいるかもしれない。
あるいは、この状況すら……。
「深読み、しすぎですわよね」
自分の考えを、リーブラは頭から振り払う。
その間にも、アーシアの中にいるシェヘラザードと……シリウスは、静かに見つめあう。
「……ありがとう、シリウス。お前が男なら、惚れてたと思うわ」
「シェヘラ……」
「でもね」
そこで、シェヘラザードは優しく笑う。
「あたしだって、人の身体で無茶する気はないわ。それに……頼りになる仲間達が守ってくれるもの。そうでしょう?」
「勿論ですわ!」
誰より早く叫ぶ麗に続き、北都とクナイも前に進み出る。
「そうだね。今度こそ守りきるよ。もう、敵の手に落としたりなんかしない」
「ええ、今度こそ助けて見せます」
それに触発されるように、涼介とアリアクルスイドもシェヘラザードの手を取る。
「アーシア先生の教え子としては、そろそろ助けてあげないといけませんしね」
「シェヘラザードもアーシア先生も……全部取り戻すため頑張っちゃうよ!」
「そうだね……ドニアもシェヘラも不幸にならない結末というのが有ってもいいんじゃないかなって思う」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の背後で、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も頷く。
「皆……ありがとう」
目に涙を浮かべて、そう呟くシェヘラザード。
その背後から、別の扉を蹴飛ばすように開けて現れる何者か。
突然の音に、誰もが警戒態勢をとる。
まさか、ここに来て別の敵が現れたのか。
「駄目であります、この砦お宝が無いでありますよ」
いや、敵ではない。
単純に、空気を読めなかった残念な子……葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)であった。
いや、イングラハムは少しだけ空気が読めていたかもしれない。
そして、吹雪には空気を読む気がなかったのかもしれない。
前に進み出る吹雪と後ろに下がるイングラハム。
両者の差は、そんな辺りに出ているだろうか?
「……吹雪」
「む。なんでありますか、無給無乳先生に憑りついた呪いの人?」
「しばくわね」
「おあーっ!?」
その光景を呆然と見守るイングラハムと、あれは仕方ない……という顔で溜息をつくルカルカ達。
そのイングラハムの背後から更に現れたのは、苦笑を浮かべた白砂 司(しらすな・つかさ)とサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)だ。
「あー、その辺にしといてやってくれ。大事な話が出来ん」
「大事な話? こいつと同じ話だったら呪うわよ」
「あー、違います違います。大丈夫ですよっ、お姉さんが保証しますっ」
サクラコがパタパタと手を振ると、シェヘラザードは吹雪から手を放す。
「ぐ、ぐふう。当てても硬い感触しか感じないとは、さすが……」
「これはあたしの身体じゃないもの。で、何?」
すかさず吹雪を踏んづけると、シェヘラザードは司に視線を戻す。
吹雪はイングラハムに救援を求め、イングラハムは無理だとアイコンタクトを送るが、それはさておき。
「この砦の問題の、根本的な解決についてだ」
司の言葉にオルヒトがほう、と感心した声をあげる。
「根本的な解決?」
「そうだ。その為に、この砦を少々調べてきた」
色々考えてうだうだ可能性を羅列するのが学者のお仕事だからな、と言う司。
そう、司が語ったのは誰もが可能性を考えながらも実行については考えなかったことだった。
「砦を突破したとしても、こんなものを後ろにして安心できるといえば否だ。そうだろう?」
「確かに。俺の魔力もそうですが、皆の体力や……その他だって有限です。いざという時に撤退だってままならないのは困りますね」
司の言葉に、真人もそう答える。
「破壊する……ってことか」
甚五郎の言葉に、司は頷く。
「この悪趣味な砦を壊すのには賛成ですし、敵の本丸近くなのだから用心に越した事はないかと思いますが……どうやって?」
「ヒントは、太陽の塔にあった」
その言葉に、視線がオルヒトに一斉に向く。
オルヒトの作った太陽の塔の起こした事件は、この場の誰にとっても記憶に新しいものだった。
「同じネバーランドの関わっているものだ……表面的な構造は異なるとしても、それならば砦を支える制御設備がどこかに存在するはずだ」
「けど、あの時と違って守護者を倒しても崩壊しないよ?」
レキの当然の疑問を、司は正面から受け止める。
その疑問に答えるために、司とサクラコはこれまで別行動をしてきたのだ。
「ああ、恐らく砦の力がもっとも弱まっているとき、つまり黒の竜骨兵が崩れて出口が出ているとき、最も見つけやすくなるはずだ」
「ま、そういうことで。司君の言う「制御装置」を破壊して勝手にブチ壊れてくれるようにするのがスマートってもんでしょう」
司の言葉を、サクラコが引き継ぐ。
「司君の調べた限りだと、もうすぐ鍵の部屋がこの辺りに移動してくるはずですよ」
サクラコがそう言うと同時。壁の一角がスライドし、大きな扉のようなものが現れる。
「停止時間は短い……突入しろ!」
司の言葉に、手近にいたダリルが扉を掴んで開ける。
すかさず突入した先にいたのは、黒いスケルトン兵と……数人の、男の姿。
「ガルデ様の命令により、貴様等を殲滅する……覚悟しろ」
「きましたね……やらせませんよ!」
涼介はそう言うと、詠唱を開始する。
「万物の根源たるマナよ、大いなる奔流となりてその力を示せ」
「シェヘラザード様、友情のツープラトン攻撃ですわ!」
「オーケイ、麗! やってやるわよ!」
死せる竜の砦。
そこからの脱出と……そして、そこを破壊する為の、総力戦。
しかし、戦意の高い契約者達と比べるとガルデの部下達の戦意は低く……竜骨兵の崩壊と共に、続々と撤退を始めていくのだった。
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