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『魔王と異世界の勇者達』

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『魔王と異世界の勇者達』

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五章 最終決戦 ―異世界の勇者と哀れな英雄―



「さあ、我が力の前に消し炭となるがいいっ! 喰らえ、カリバーン・ストラッシュ!」

 魔王クロノスはそう叫ぶと、剣を大きく一閃させる。
 剣から放たれた黒い稲妻がミーミルと彼女を守る契約者達を襲わんとした、その時である。

「光よ! 我が元に集い、彼の者を裁く剣となれ!」
 後方より飛来した光が黒い稲妻に衝突、打ち消した。

「真の魔王よ、我等が相手です!」
 現れたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)とその仲間達。その後ろには先程光の一撃を放ったザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)の姿もある。
「何者だ貴様等!」
「我らは光の四天王! 混沌と化した世界の秩序と調和を取り戻すのを使命とし、勇者が世界の運命を選択する時に現れる天空の使者!」
 ルカルカは光の宝玉を天に翳す。神々しい光がルカルカたちの体を包み込む。
 一瞬の後、眩い光を放つ光条の鎧を纏った彼女たちの姿がそこにあった。

「心の光が闇を討つ! 仁の執行者ルカルカ推参。災い全て灰燼に帰すべし」

「義の執行者カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)ってなあ! 喰われてぇ奴から前に出やがれ」

「礼の執行者。名は夏侯 淵(かこう・えん)。懺悔の時間くらいは残してやろう」

 ルカルカは背後で引きつった表情のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)へと声を掛ける。
「さあ、あなたも!」
「いや……俺はそういうのは勘弁させてほしいんだが。普通に話せばいいだろ?」
 ルカルカは慈愛に満ちた声で諭す様に話しかける。

「思い出すのよ。この世界の物語を完結させるために召喚された事を。使命に覚醒する時がきたの。目覚め、そして共に戦いましょう」

「使命とか……お前言ってる事がおかしいぞ」
 後ずさりするダリルを、背後に回りこんだカルキが羽交い絞めに。
「まぁまぁ、面白ぇからいいじゃねぇか」
「なっ、やめ……!」
「郷に入っては郷に従えと言うであろう」
 すかさず淵がダリルの左手に宝玉を握らせる。
 そしてルカルカが「神威覚醒!」と代理で叫ぶと、ダリルの体が光で包まれ変身。光条の鎧を纏った。

 ちなみに、その様子はルカルカの影武者により、先程からずっとビデオカメラで撮影されている。

「さあ、智の執行者ダリルが覚醒した……今こそ闇を打ち払う時!」
「お前ら、人の話を聞け!」
 喚くダリルを無視し、ルカルカ達は戦闘を開始する。
「光の加護よ」
 ルカルカの祈りにより、皆の動きが機敏になる。

「ごちゃごちゃと五月蝿い奴らめ。一網打尽にしてくれるわっ!」
 クロノスが再び剣から雷撃を放つ。
「はあっ!」
 素早い動きで雷撃を避けたザカコは、両腕のカタールをクロノスへと振り下ろす。
「貴方が伝説の勇者だって? そんなはずはない。勇者と呼ばれるような人が、こんな事をするはずは無い!」
「はっ、貴様らには分からんだろうな! 呪いを受け、人里離れて生きねばならなかった余の苦しみが!」
 クロノスはザカコの攻撃を受け止め、押し返す。
「余は確かに100年前、魔王を宝玉へと封印した勇者だ。この聖剣カリバーンこそがその証!」
 クロノスは聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)を高々と掲げる。
「だがあの時、封印の直前に魔王は余に呪いをかけていった。不老不死となり、その心さえも徐々に魔に染まっていくという呪いをな! そして今、余はようやく真の魔王となったのだ!!」
 
 ザカコはクロノスから距離を取ると、カタールを構え叫ぶ。
「見よ、これが真の勇者のオーラです!」
 ザカコの体が眩いばかりの光に包まれる。後光まで差すその姿に、しかしクロノスはつまらなそうに吐き捨てる。
「ふん、勇者のオーラだと。そんなものに怯む余では無いわ!」
「このオーラを前にして臆さないとは……やりますね」

 ザカコを援護しようとルカルカ達も術を放つ。
「ミリオンジャッジメント!」
 ルカルカの目にも留まらぬ斬撃は、しかし聖剣カリバーンを盾にして防がれる。
「いくぜぇ! テラシェイキング!!」
 カルキが杖を掲げ唱えると、闇黒の凍気が波となりクロノスへと襲い掛かる。更に淵が聖弓オリジンを連射し追撃。
 だが降り注ぐ矢の雨はクロノスが装備する魔鎧アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)に弾かれ、更に凍気の波も鎧が纏う闇のオーラにより吸収されてしまう。

 ルカルカ達が攻めあぐねた、その時である。

「あぁ……そうかい、分かった、分かったよ。役目だって言うんならしっっかり果たしてやろうじゃないか……」
 
 ここまで無視され続けたダリルの怒りが遂に頂点に達した。

「俺は智の執行者ダリル!! 真の魔王だか勇者だか知らんが耐性に頼りすぎだ愚か者めがっ! 力押しでは知恵ある者には勝てないと知れぇっ!!」

 何かが吹っ切れたダリルがポイントシフトで一瞬の内にクロノスに肉薄し、更にPキャンセラーを発動、クロノスの闇のオーラを無効化する。

「ちょ、ダリル?!」
 ルカルカが驚いた声を上げるが、ダリルの勢いは止まらない。
 ダリルは衝撃波を放ち、続けざまに電極を発射。クロノスは咄嗟に胸元の宝石を庇う。電極は弾いたが、衝撃波により後方に吹っ飛ばされるクロノス。

「……あやつ、素で厨二の才能があるのではないか?」
「ダリル素敵っ♪」
 淵の呆れたような声と、妙にテンションの上がっているルカルカ。当のダリルは高らかに笑い声を上げながら未だ猛攻を続けていた。

「くっ、おのれぇっ!!」
 クロノスが再び剣に雷を纏わせた、その時。

「後ろががら空きだな」
 リリィ・ルーデル(りりぃ・るーでる)が背後からクロノスに斬りかかった。
「!? 暗黒の剣だと……?」
 クロノスはリリィの剣を受け止め、言った。
「貴様、闇に属する者であろう。何故勇者共の側につく!?」
「知らぬのか? この世に悪がはこびるとき、黒を喰らう真なる闇がやってくるのだ」
 連撃を繰り出すリリィを押し返し、距離を取ったクロノスの剣が稲妻を纏う。

「ならば貴様も消し炭にしてくれるわっ!」
 剣から放たれた衝撃波が稲妻を纏い、リリィに直撃する。
 もうもうと立ち込める砂煙。その中から、体中に傷を負ったリリィが姿を現し……。

  ――彼の者は、如何なる快楽にも飽き足りず、数多の幸福にも満足せず
    移り行く万象の姿を追って、その人生を駆け抜けた。
    そして最期の、分の悪い虚ろなる『刹那』の瞬きを
    哀れにも引き留めようと願った。
    どうにも手強き相手であったが
    時の流れには勝てず、この通り、『砂時計』の中で朽ち果てた。
    さぁ、時計の針は止まったぞ!
    針は落ちた――我が事、成れり――

「封印解凍(アクセス)・《光を愛せざる闇》」

 リリィの眼帯が外れ、隠されていた紅色の魔眼があらわになる。

「もうやりなおしは効かんぞ。眼帯(ふういん)のスペアは持っていないのでな」
 リリィが腕を振り上げると、突如天から巨大な剣が降臨、地面に突き刺さった。
 神機 天羽々斬(じんぎ・あまのはばきり)を引き抜き、リリィはザカコへと叫ぶ。

「闇の力だけでは魔王を倒すことはできん。勇者よ、力を貸せ!」
「は、はい!」

 リリィの構えた天羽々斬が、目覚めの声を発する。

「 ―其ハ“大蛇”ヲ断ツ剣ナリ―
  ―其ハ益荒男ガ“暴”ヲ極メ己ヲ滅ス迄―
  ―零ト那由他ノ狭間ヲ彷徨セシ存在ナリ―

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  対象物ノformatヲ開始 機械仕掛ケノ神ヲ発動スル」

 その声に呼応するように、彼女の持つ二振りの剣が、闇の力を纏い始める。

 ザカコは両腕のカタールを構える。二つの武器に、徐々に光が集まっていく。
「魔王、覚悟っ!!」
 光り輝く武具を手に、ザカコはクロノスへと突撃する。
「はぁぁっ!!」
 リリィもまた二刀を手に疾駆する。

「馬鹿め! 返り討ちにしてくれるわっ!」
 クロノスの雷撃が二人へ迫る。

「させんっ!!」
 ダリルの放った衝撃波がザカコ達を追い抜かし、雷撃を相殺する。
「何っ!?」
 無防備になったクロノスへ、ザカコとリリィが肉薄する。

「還りなさい、在るべき闇の元へと。奥義! 光条執行斬(ライト・ジャッジメント)!!」
「――『機神剣デウスエクスマキーネ』――」


 
 交差する光と闇の双撃。それは魔王の弱点を、クロノスの胸元にある紫水晶を粉々に打ち砕いた。



「ぐおぉぉぉぉぉっっ!!!!」

 魔王クロノスの絶叫が響き渡る。その体が徐々に光と化し、天へと昇っていく……。

 





 光の粒子が空高く昇っていく様を、勇者達は、ただ、眺めていた。


 その時、雲の隙間から眩い光が差し込み、使命を果たした勇者達を照らす。
 空を覆っていた暗雲が消え去り、世界は久しい太陽の光に照らされていた。


 どこからか慈愛に満ちた女性の声が聞こえてくる。



「異世界の勇者達よ。よくぞ魔王を倒してくれました。さあ、元の世界へ御帰りなさい……」

 
 
 勇者達の体が光となり、空の彼方へと昇っていく。


 その様子は遠く離れた町や村からも見ることが出来た。


 人々はその幻想的な光景をいつまでも眺めていた。



「またね。おねーちゃん達」



 遺跡に一人残されたシルフも、光の粒となり天高く昇っていく友を、最後の光が消え去るまで、ずっと見守りつづけた。








 ――こうして、勇者達の戦いは終わった。

    人間達を虐げていた四天王は倒され、魔王の水晶も破壊された。

    人々は再び訪れた平和に歓喜し、祝いの宴は何日もの間開かれていたという。

    そして100年前と同じように魔王を倒し姿を消した勇者のことを、人々はいつまでも語り継いでいった――













  ――魔王と異世界の勇者達 完