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【ダークサイズ】未来から来た青年

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【ダークサイズ】未来から来た青年

リアクション

 ダイソウ トウ(だいそう・とう)は、腕を組んで立っていた。
 遺跡中央の奥まった所にある、『亀川』を祭る神殿。
 今はリニアモーターカーが稼働していないので、『亀川』は神殿の台座に鎮座し、施設内を冷やすクーラーの役割を担っている。
 神殿にはダークサイズ幹部達が集まっているのだが、何故かイコンの発掘作業に取り掛かっていない。
 集まった幹部たちは、独自のイコンが開発できるとあって士気も高かったのだが、

「ダークサイズ専用イコンの開発のため、遺跡に眠っているはずのイコンの原型を掘り出すのだ」
「来てやったぞ!」
「うむ。幹部たちよ、よくぞ集まった」
「で、どこを掘ればいいんだ?」
「…………ん?」
「『ん?』じゃねえよ!!」

 幹部たちとのそんなやり取りがあり、

「ふむ。発掘場所も幹部達が考えてくれると思っていたのだが」

 と、ダイソウの幹部への甘えっぷりはいつもの通り。
 1万年という時の経過は、ダウジングやトレジャーセンスなど捜索スキルの能力を大きく越える。
 土地が持っていた記憶は完全に風化しているため、スキルを使っても効果は期待できない。

「ったくよぉ……」

 ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が大きな体を揺らしながらダイソウの元に歩いてくるが、いつもよりゆっくりした歩調から、彼もあきれ果てているのが良く分かる。

「おいダイソウトウ。もう一度聞くが、遺跡のどこを発掘するか、めどは立ててねえんだな?」
「うむ。そんなものはない」
「モモ、おまえは……ん? モモのやつはどこ行った」

 ジャジラッドは、しっかり者のキャノン モモ(きゃのん・もも)に話を聞こうとするが、彼女の姿は見当たらない。

「……また誰かに拉致られてやがんな……おい」
「はい、ジャジラッドさま」

 ジャジラッドの声に、サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が応えてやってくる。
 彼女は【不可思議な籠】を取り出して、

「こんなこともあろうかと、すでに質問を入れておきましたわ。内容は『ダークサイズに相応しいイコンは、ニルヴァーナの何処に眠っているの?』ですわ」
「ほう、さすがだ」
「これくらいの準備はしといてくれよ」

 感心するダイソウに、ジャジラッドはさらに肩を落とす。
 選定神 アルテミス(せんていしん・あるてみす)は、不安そうにサルガタナスに聞く。

「その籠……今度は大丈夫なのだろうな?」

 以前サルガタナスと一緒に籠を使用したアルテミスだが、その時は非常にがっかりする結果が出て来たのを思い出したのだ。
 サルガタナスはアルテミスの方を見て、かすかに唇を上げた。

「心配ありませんわ。今度は『イコンがどこにあるか』という具体的な質問ですもの。それに以前と違って、答えを取り出すタイミングも今しかありません」

 サルガタナスは自信ありげに籠から紙を取り出し、まずは自分で紙を見た。

土ですら忘れてしまう記憶。籠ごときに知りようのないこと

 目を通した後、サルガタナスは紙を握りつぶしそうになる。
 が、その下には答えの続きがあった。

意識のない土には覚えていられようもないのだから……か。何とも思わせぶりだなぁ」

 サルガタナスの脇からアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が紙を覗き見て読み上げた。
 思わずサルガタナスは紙を自分の胸に引く。
 アキラはお構いなしにダイソウに寄っていき、

「おいっすー」
「アキラか」
「もー、ダイソウトウさー。もっと世界征服がんばってくれよ」
「私はいつも全力だぞ」
「つっといてたまにフラフラ〜ってどっかいなくなるじゃん? まああんたらしいんだけど。まあいいや。今日は新しい幹部を連れて来たから、ちゃちゃっとぴったしな幹部名付けてやってくれよ」

 見ると、アキラのすぐ後ろにはぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)がそびえてっている。
 お父さんはダイソウに頭を下げる。

「ぬ〜り〜か〜べ〜」
「うむ。アキラはいつも活躍しておるぞ」

 お父さんの言葉からは、『アキラがいつも世話になっております』という気持ちがひしひしと伝わってくる。
 ダイソウはお父さんの言葉遣いと、その気遣いを見て言った。

「よかろう。では……ぬりかべお父さんでどうだ」
「いや、それこいつの名前」
「なに、そうなのか。ぬりかべお父さんという名前なのか」
「ぬ〜り〜か〜べ〜」

 お父さんがゆっくり頷く。
 ダイソウが手をあごに当てて下を見ると、お父さんは発掘作業のために【ネコ車】を持参しており、その中にはルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が乗っていた。
 ダイソウがひとりごちる。

「……子連れぬりかべ……」
「待てダイソウトウ。貴様今、わしを見て思いついたな?」

 ルシェイメアが【ネコ車】の中から手を出して制止する。
 ダイソウはおもむろに風車を【ネコ車】に挿した。

「……子連れぬりかべ……」
「待て。名前に寄せてどうするのじゃ」

 ダイソウはまた少し考え、

「ルシェイメアよ。裸で獅子舞とサングラス姿の芸人が得意としていたギャグは何だったかな」
「……ちゃー」
「子連れぬりかべ……!」
「おい待て。本当に待て」
「ぬ〜り〜か〜べ〜」
「ぬりかべ、貴様も待て。なぜ受け入れておるのじゃ」
「ま、そんなことよりダイソウトウ」
「アキラも待て。貴様が振ったんじゃろうが」

 お父さんの幹部名を決めようと言うのに、ルシェイメア一人が不満そうだ。
 アキラは突然真面目な話をし始める。

「発掘した後の運搬はどうすんだ? フレイムタン経由でイコンパーツ研究所に運ぶんだろ?」
「うむ。イコンともなればフレイムタンの熱にも耐えられよう。リニアでけん引すれば問題ないと思っておる」
「そっか。研究所使うんなら連絡して許可取った方がいいんでない?」
「それについても心配ない。既に研究所は協力的な姿勢を見せておる」
「まじ? そこ段取りできてんのに、肝心の発掘でつまづいてんのかよ」
「うむ。私も不思議だ」
「まったくしょうのない奴らじゃ……」

 ルシェイメアが、ため息をつきながら【ネコ車】を降り、サルガタナスの紙を覗く。

「籠からの答えを見るに、土地からイコンのありかを探るのは不可能なようじゃのう」
「……土地以外のものに、記憶が残っている可能性があるということですわね」

 サルガタナスは、既に思いついていたのか、ルシェイメアの言葉に素早く返した。
 ルシェイメアはこくりと頷き、

「ふむ。この遺跡に1万年留まり、なおかつ意識を持つ者、つまり生物はおるかのう」
「……イレイザーか」

 今度はダイソウが返事をし、ルシェイメアも頷く。

「大幹部(クマチャン)に乗り移ったイレイザーの魂から、イコンのありかを導き出せと?」
「籠の回答を推察するに、そうなるじゃろうな」
「なるほど。さすがダークサイズの知恵袋だ」
「これダイソウトウ。わしはダークサイズに入ってはおらぬぞ」
「そうだったか。ではおばあちゃんの知恵ぶ……」
「やめろ」



☆★☆★☆



『発車シマァース……』

 以前ダークサイズが倒したイレイザーの魂に憑依されたダークサイズ大幹部クマチャン
 イレイザーがクマチャンの体内で覚醒すれば危険だとの理由で、イレイザーもクマチャンもまとめて記憶を奪われてしまった。
 このクマチャン&イレイザーは、マグマイレイザーの皮膚を外壁に使ったリニアモーターカーの中にいることを好む。
 そんなこともあり、記憶を失ったクマチャンはリニアモーターカーの運転手に納まっている。

「クマチャン……」

 ダークサイズ総帥超人ハッチャンは、友を思ってか彼のそばを離れない。

「クマチャン。クマチャーン。聞こえるー?」

 超人ハッチャンの隣では、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)がクマチャンに声をかける。
 しかし、ローズの言葉にもやはりクマチャンが反応することはない。

「クマチャン、どうしたら元に戻るんだろ……」

 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が小さく言った。
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が美羽の頭に優しく手を置いた。
 美羽はハッとしてコハクを振り返り、

「ち、違うよ!? せっかくスタンプカード集めたんだから、クマチャンが元に戻らないとお願いちゃんと聞いてもらえないと思って!」
「うん、そうだね」

 と慌てて言うのを、コハクは頷いてまた美羽を撫でた。
 ローズが眉間にしわを寄せて立ちあがる。

「でもある意味で、これは大きなチャンスかもしれないね……」
「どういうこと?」

 超人ハッチャンがローズを見る。
 ローズは腕を組み直し、

「人間の魂と融合したイレイザーなんて例は、ニルヴァーナの歴史でも初めてのことじゃない?
クマチャンの意識を入口にしてイレイザーと意思疎通ができれば、これってものすごいことなんじゃないかと思うんだけど」
「ロゼ! クマチャンをモルモットみたいに言わないでよ!」

 超人ハッチャンが思わず声を荒げるが、ローズは超人ハッチャンを落ち着かせて言う。

「もちろん、そのためにはクマチャンの意識が戻って来なくちゃいけないからね」
「そ、そっか……」
「両方の意味でさ、クマチャンの意識を引っ張り出して来ないとね」
「そうだけど、一体どうすれば……」

 困惑する超人ハッチャンに向けて、ローズはぴんと指を立てた。

「確か、クマチャンの記憶は言語野を残してさっぱり消されちゃったんだよね?」
「うん……」

 元の肉体を失ったイレイザーの魂は、あるダークサイズ幹部の【狂血の黒影爪】で精神汚染されたクマチャンの肉体に憑依した。
 凶暴なクマチャン&イレイザーを封じるために、あるダークサイズ幹部は、会話は出来る程度に残った全ての記憶を消す改造手術が施した。
 出来事を整理すればするほど、

(全部味方にやられてる……)

 超人ハッチャンはそう思いながら泣きそうになった。
 ローズはこくりと頷いて、

「ということは、今クマチャンは生まれたての原始の状態ってことだね」
「原始の状態?」
「つまり……赤ちゃんとか?」
「なるほど」
「赤ちゃんでも分かるようなことで話しかければ、徐々にクマチャンの部分が目覚めるんじゃないかな」
「おお、そうなの!? ロゼって深層心理学にも詳しいんだ」
「ううん、全然」
「えっ……」

 ローズは適当理論を根拠に、

「まずは言葉を思い出させる。基本はオウム返しだね。クマチャン、私と同じ言葉を繰り返すんだよ」

 と、再度クマチャンに向かってしゃがみこんだ。

「えーっとまずは…………東京」
『……』
「…………大阪」
『……』
「え、ちょっと。何で地名なの」

 超人ハッチャンは思わず後ろからローズの肩を掴んだ。
 ローズはその手を払って、

「しっ、今大事なとこだから」

 何が大事なのか分からないが、超人ハッチャンを黙らせる。

「東京……大阪……いばrrrらーきぃ」
『……』
「クマチャン、オウム返しして。福岡……長野……あおもーrrrりぃ……」
『……』
「…………佐渡」
『……』
「ほらクマチャン、今の都道府県名じゃないよ。何かおかしいと思わない?」
『……』
「千葉、滋賀、佐賀…………佐渡」
『……』
「ほらクマチャン、今のツッコミどころ」
「ツッコミ求めてどうすんの! 趣旨変わってるよ!」

 クマチャンの代わりに超人ハッチャンがツッコんだ。

「でも……クマチャンの深層心理に語りかけるのはいい方法かも知れないね」

 コハクは手をかざして【ヒプノシス】をクマチャンにかけてみる。

「これなら、クマチャンの魂に言葉が届きやすいんじゃないかな」
「あ、その手があった。よしクマチャン、東京……」
「もう! どいてよ!」

 と、ローズを押しのけて今度は美羽が座り込む。

「クマチャン、覚えてる? ううん、忘れるはずないよね。私たち、最初は敵同士だったんだよ? あ、い、今も敵同士だからね!」

 美羽は、ダークサイズの歴史を語り始めた。

「あんたたちいきなりだったよね。サンフラちゃん誘拐して空京放送局を乗っ取ろうとして、局内をめちゃめちゃにして。
悪い奴らなのに、その後修理してたよね。
カリペロニアってまだネネ(キャノン ネネ(きゃのん・ねね))の持ち物なの?
なーんにもない島も立派になったよね。
エリュシオンに旅したの、大変だったんだよ。国ごと敵にまわしちゃったもんね。
と思ったら、宇宙渡ってニルヴァーナに来ちゃって……」

 ダークサイズの歴史は、そのまま美羽の思い出でもある。
 勤めて明るく話す美羽の背中を見ながら、コハクは思わず胸に迫るものがあった。
 美羽は、反応があるまで話を続けようと思い、

「クマチャンはね、蒼空学園のスーパーアイドル美羽ちゃんの大ファンだったんだよ……」
「……?」

 コハクは、雲行きが怪しくなってきたのを素早く嗅ぎ取った。

「ストーカーの一歩手前で、私の部屋に盗聴器を仕込んでて……」
「美羽、それちが……」
「CD100万枚をいつも買い占めるのはクマチャンで……」
「よ、余計な記憶を植え付けてないか……」

 ツッコミ慣れしないコハクの言葉は、美羽にまったく聞こえない。

「みなさーん」

 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、手を振りながら走ってきた。
 彼女と一緒に、クロス・クロノス(くろす・くろのす)もやってくる。
 クロスは秘書として業務報告をする。

「ハッチャン、ダイソウトウがこちらにやってきます」
「閣下が? イコンの発掘するんじゃないの?」
「発掘場所を限定するために、イレイザーの記憶が必要なようなんですよ」
「じゃあ、なおさらクマチャンを戻してあげなきゃ」

 超人ハッチャンとクロスが目を落とすと、美羽の語りかけはまだ続いている。

「ほら、いつもみたいに言ってよ。美羽ちゃん大好きって。ほら」
「そんなこと言ったことあったっけ……」

 コハクは少しおろおろしながら、頑張ってツッコミ続ける。
 少しずつフラストレーションが溜まってきた美羽。
 ついに彼女は手を出して、クマチャンの頭をチョップし始めて。

「ほら。言いなさいよ。美羽ちゃんに命を捧げますって。ほら言いなさいよー。ノックしてもしもーし」
「美羽! 暴力は……」
「もーいいかげんにしてよね! この! この!」
「美羽ー!」

 美羽のチョップが岩をも砕く強さになり、コハクが慌てて彼女を引きはがした。

「ふふ、そうですか。そういう流れなんですね……」

 続いてクロスまでが、怪しく笑いながら【ピコハン】を構えた。

「待ったああー! クロス! そういう流れじゃないから!」

 超人ハッチャンも、クロスを羽交い絞めにして止める。
 が、クロスの身体から【炎の聖霊】が発言し、超人ハッチャンを吹き飛ばした。
 クロスはハッチャンを目の端で見ながら、

「ハッチャン、大丈夫です。ダイソウトウに許可は取りましたから。『やるだけやってみて良い』と」
「や、やるだけって、イレイザーだけ目覚めたらどうするんだよ!」
「その時は……その時です……!」
「こらー!」
「クマチャンは人為的な記憶喪失なのでしょう? 言葉も、少々の打撃も効果がないようですから、残るは圧倒的な刺激しかありませんね」
「で、でも」
「私だって心が痛みますよ? しかしクマチャンを元に戻すため、またイコン発掘のためには仕方がないのです。
【ピコハンクラッシャー】の二つ名を冠した、私を信じてください」
「……わ、分かった……」

 美羽に殴られても未だに大人しいクマチャンに、クロスは狙いを定める。

「クマチャン……私、言いましたよね? こないだプレゼントした熊の着ぐるみを脱いだらひどい目に会わせると……
せっかくのプレゼントをなくすなんて、許しませんよ……!」
「ちょっと待った! やっぱ私情で殴るんじゃないかー!」
「かくごおおおおおおお!!」

 超人ハッチャンの叫びをかき消して、クロスの【ピコハン】がクマチャンに振りおろされた。
 毛ほどの容赦もない打撃が、クマチャンの頭に炸裂する。
 クマチャンは頭から吹っ飛ばされ、リニアモーターカーからはじき出された。

「く、クマチャーン!!」

 地面を削りながらクマチャンの身体が着地するのと同時に、その身体から小さな光の球が飛び出す。

『!?』

 皆が目を見張ってその光を見ると、それはまっすぐ遺跡の天井近くまで飛び上がったかと思うと、三つに分かれ、遺跡のどこかへと飛び去っていった。

「い、今のは何!?」
「まさか、イレイザーの魂なんじゃ……」

 超人ハッチャンが急いでクマチャンを抱き起こした。

「クマチャン!」
『……』

 クロスのピコハンクラッシュにも関わらず、クマチャンは変わらず無反応な顔をしたままであった。
 どうやら、クマチャンとイレイザーの融合は変化のないままのようだ。

「だったら、今の光の球は何……?」

 誰かが言うのを、クロスが【ピコハン】を撫でながら、

「やりすぎましたかね……イレイザーの記憶の欠片が、頭から飛び出してしまったようです……」
「うおーい! 記憶喪失ひどくしてどうすんだよー!」

 超人ハッチャンが叫びながら立ちあがった。
 しかしクロスは冷静に、

「ともあれ、ダイソウトウの指示はこなせたようです。あの光が飛んでいった先に、イコンが眠っているに違いありませんね」