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【ダークサイズ】未来から来た青年

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【ダークサイズ】未来から来た青年

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「ハッチャン……これ……おわび……」

 アイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)が、超人ハッチャンに【修復の衣】を差し出した。
 超人ハッチャンはそれを受け取りながら、

「ん? 何?」
「受け取ってあげてよハッチャン♪ こないだひどい目に合わせちゃったの、あたしたちも反省してるのよ、一応♪」

 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が超人ハッチャンの肩にしなだれかかりながら言った。

「【繕い妖精】と一緒に作った……魔法の総帥服……」

 アイリスが言うには、【修復の衣】を改造した特別製らしい。
 超人ハッチャンはまんざらでもなく受け取ってそれを着る。

「そっかそっかー。ありがと……ってこれ! メイド服じゃん!」
「こないだの魔法のメイド服……もとにして……作ったから……」

 緑の巨人が着るメイド服ときたら、それはもう不気味な様である。

「いやー、よかったよかった。無事に採取できましたねぇ」

 そこに、月詠 司(つくよみ・つかさ)イブ・アムネシア(いぶ・あむねしあ)は満足そうな顔をして、冷凍保存ボックスを抱え、リニアモーターカーから降りて来た。
 ダークサイズやチームサンフラのフレイムタン移動が終わってからようやくリニアが使えるようになり、彼らはフレイムタン・オアシスにある、マグマイレイザーの細胞を採取したのだ。

「シオンくん。マグマイレイザーの細胞を採ってきましたよ」
「あらお帰り。なぁんだ、特に不幸な目には合わなかったのね♪」
「ええー! それが狙いだったんですかぁ!? シオンさんひどいですー!」

 イブが泣きそうな顔をしてシオンを糾弾する。
 シオンはいたずらっぽく笑い、

「まぁともあれハッチャン、本題はここからよ♪」
「本題って?」
「イコンを作る目的は、確かにニルヴァーナの征服だけど、クマチャンを元に戻す方法を探すのも大事な目的よね?」
「うんうん、その通り」

 シオンの言葉に、超人ハッチャンは大いに同意する。

「もしかしたら、方法を探す方が大変な大冒険になるかもしれません。
そのためには、どんな大変な状況でも対応できるイコンを作らなければ」

 司が言葉を継ぐと、超人ハッチャンの目が輝く。

「そうだね! その通り。なるほど! そのために細胞を採ってきたの? 何に使うか分かんないけど」
「イコンにイレイザーの細胞を使ったアビリティをつけるんですよ。
名付けて『DS細胞』大作戦! ナノマシンを使ってイレイザーの進化細胞を促進させるんですよ」

 司たち曰く、どんな過酷な環境にも耐えうる、自己進化、自己再生、自己増殖を備えたナノマシン化させたイレイザー細胞を、イコンに埋め込むと言うのだ。
 話を聞いた超人ハッチャンは大いなる希望を感じた。

「すすす、すごいねそれ! ホントに最強のイコンができそうだね」
「すでに【ナノマシン原木】と一緒に細胞を保存していますからね。あとは研究所で場所を借りて作業するだけです!」

 それを聞いて、超人ハッチャンは急かすようにオリュンポス秘密研究所へ向かった。



☆★☆★☆



「フフフ……食らうがいい。あわび中毒となった貴様らは、永遠に我があわびを求め、我は大儲けなのだ!」

 エネルギー充填が行われ、ングの号令と共に、パラボラに再度電磁波が走る。

「いけない! みんな逃げてー!」

 向日葵が叫ぶ。
 チームサンフラは四方に散り、パラボラの標準をぶれさせようとする。
 パラボラは、一瞬跳びのき損ねたひなげしを標的にし、電波を発射した。

「しまっ……!」

 ひなげしは目を覆う。
 電波がひなげしに当たる直前、超人ハッチャンの太い腕が、思い切り研究所のドアを開ける。

「さー早く! 早くやっちゃってよ!」
「ほげっ!」

 勢い余って、開いたドアの戸板が、ひなげしを横に吹っ飛ばす。
 そして電波は、超人ハッチャン始め、司とイブと、彼らの抱えた冷凍保存ボックスに直撃した。

『あ、あ、AAAAAWABIIIIII!!』

 早速あわび中毒になる三人。
 電波が当たりそこねたシオンとアイリスはきょとんとしている。
 そして、冷凍保存ボックスががたがたと震えたかと思うと弾かれたように司の手から飛び出し、勢いよく床にたたきつけられた。
 ひび割れたボックスの中からは、ドライアイスの冷気と共に、どういうケミストリーが働いたのだろう、マグマイレイザーの細胞が毒電波の影響で自己進化し、あわびとなって自己増殖をし始めた。

「!?」

 これにはングも目を見張る。

『AAAAAAAWABIIIIII!!』

 超人ハッチャンと司とイブ、さらにマイキーもイレイザーあわびにとびついた。
 そしてイレイザーあわびは自己再生機能がある。
 食べても食べても、あわびは無限に増え続けるではないか。

「な、なんたること……!」

 呆然とするング。

「し、師匠! しっかりしてくださいー」

 なぐさめるメビウス。

「フォオオオオウ!」

 あわびを食べたおかげか素なのかは分からないが、テンションマックスのマイキー。

「……」

 何をどう思っていいか、もはや分からないセリス。

「ああん、もぉー♪ ナノマシンが台無しじゃないのぉー」

 シオンは悔しがっているようだが、司たちが不幸な目に合っているのを嬉しそうに見ている。

「ふっふっふ……みな、時間稼ぎご苦労であった」

 今度はパラボラの後ろから女の子の声が聞こえる。
 パラボラの後ろで床いっぱいに魔法陣を敷き、その中心に立つのは夜薙 綾香(やなぎ・あやか)

「ぬおおおー! 我が研究所に勝手に落書きするでないー!」

 というハデスの気持ちも分からなくはない。
 綾香はいかにも、最終兵器を召喚する極悪魔術師のような気分で、

「イコンの組み立てに時間を食っているわけにもいかんからな。今まで培ってきた知識と技術を込め、意味をも凌駕するイコンを、一瞬にして作り上げてみせようぞ」

 と、綾香が印を結ぶと、地面が揺れ、ルーンがほとばしる。

「ひなげしとやら、所詮あわび中毒など前座にすぎぬことを見せてやろう。
今ここに、おぬしが最も恐れていた、あの写真のイコンが姿を見せるであろう!」
「ば、ばかな! イコンが魔法陣で組み立てられるものか!」
「どうかな? これ少女。図面は引き終わったのであろうな?」

 綾香がフルーネに尋ねる。
 フルーネはこくりと頷いて、図面を引いた模造紙を掲げて見せた。

「よろしい。魔法陣に投げ込むのだ」

 綾香がそう言って魔法陣から飛び退くのと入れ替わりに、図面が中心に投げ込まれる。
 直後、さらに激しい魔術の竜巻が起こり、綾香の怪しげな魔術が発動する。

「まさか……本当にイコンが誕生するのか? みんな! あれを止めてくれーっ!」

 ひなげしが叫ぶが、あまりの魔術の激しさに、到底魔法陣には近づけない。
 綾香は続いて言う。

「今まで失敗に失敗を重ねたが、イコンを覆うアダマンタイト、ミスリル、ヒヒイロカネは揃っておる」

 綾香の言う通り、魔法陣には見たこともない金属が配置されている。

「そして、その基礎となるイコンパーツを……引きよせる……!」

 綾香の魔法陣は、秘密研究所にあるパーツに加えて、イコンパーツ研究所に運ばれているパーツも引き寄せ始める。

「暇だ……」
「暇ですわ〜」
「暇でございますね〜」

 近遠にほったらかしにされたままのパートナーたち、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は、イコンの胴体部にもたれかかったり腰をかけて、暇を持て余している。

「イグナちゃん、アルティアちゃん。あたしたちは、お手伝いしなくてもよいのかしら」

 ユーリカが頬杖をついたまま、顔を二人に向ける。
 腕を組んだイグナがユーリカを見る。

「我らはダークサイズの一員ではない。協力するとは言え、おいそれと口を出し、彼らの作りたいイコンのイメージと離れてしまっては悪かろう」
「そうですわねぇ」

 アルティアは、タブレットのようなタッチパネルを抱え、

「アルティアは暇すぎて自動送受OSと操縦タッチパネルを作ってしまいましたでございます」
「そうか。我はダイソウさんの身体能力を生かした思考制御とアクションフィードバックを作ってしまったぞ」
「そういえば、今ダークサイズのみなさん、敵と戦ってるそうですわ。わたしたち、お手伝いしなくてよいのかしら」
「我らはダークサイズの一員ではない。協力するとは言え、勝手に敵将の首を取っては、彼らの面目が立つまい」
「そうですわねぇ」

 三人は暇すぎて会話がおかしなことになっている。
 すると、綾香の魔法陣の影響から、地面が揺れ始める。

「きゃあっ」
「な、なんですの!?」
「いかん。二人とも、この胴体パーツが倒れぬよう、支えるのだ」

 イグナが素早く指示を出す。
 発掘したイコン胴体パーツが倒れて事故にならないよう、イントラやワイヤーを補強するために胴体を上っていく三人。
 そこにさらに大きな揺れが起こり、ワイヤーを引きちぎりながら胴体が持ち上がってゆく。

『!?』

 胴体は三人を乗せたまま、イコンパーツ研究の壁を突きやぶり、オリュンポス秘密研究所目がけて飛んでゆく。
 秘密研究所の壁を貫いて、胴体パーツが飛んでくると同時に、

「ぬおおー! 俺の研究所がー!」

 というハデスの叫びが聞こえるものの、魔法陣の嵐にかき消される。
 イコンの図面とパーツが魔法陣に集まったことで、綾香が結合の呪文を唱える。

「弾けて混ざれ!」

 弾けて混ざってはよくない気がするが、魔法陣から白く強烈な光が発せられ、全員が目を覆う。
 光が消える頃、魔法陣の中心には、恐るべき、ダークサイズのイコンの姿があった。
 フルーネが気を使ったのか、そのイコンはダークサイズみんなのイメージが全て採用されたものになっており、その形は巨大で、いびつで、とにかくカッコ悪い。

『だせえ……』

 みんな思わずつぶやくが、向日葵がひなげしに聞く。

「あ、あれがダークサイズのイコンなの……?」

 ひなげしはイコンをしばらく眺めた後、

「え、と……なんか違う気がする……」
「違うのー!?」

 イコンのコックピットからは、結合に巻き込まれたイグナ達の声が聞こえる。

『すまんが……誰か出してくれぬか……』

 イグナたち三人はコックピットに閉じ込められたらしい。
 要するに、未完成のイコンとなってしまったようだ。
 ダイソウが立ちあがって、中のイグナに聞く。

「中から操縦は出来るのか」
『うむ……動かすことはできるようだ』
「では、ためしにサンフラちゃんを攻撃してみるのだ」
『分かった』
「ちょっとー! どさくさにまぎれて何言ってんのよ!」

 向日葵が叫ぶが、イグナは、

『一応ダークサイズの協力しているので』

 といいながら、イコンを歩かせようとする。
 が、イコンは突如停止し、うんともすんとも言わなくなってしまった。
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が陰から顔を出す。

「やれやれ。こんなこともあろうかと、緊急停止ボタンを仕込んでおいてよかったわ」
「あ、すみません。こんな時に何ですが。イコンを止めさせてもらいました」

 と、何故かベアトリーチェが鈿女の隣にいる。
 彼女はとことこと歩き、ダイソウに元へ。

「あの、ダイソウさん。こんな時にホントあれなんですが、美羽のスタンプカードの件で……」

 ずっと以前の話。
 ダークサイズ攻略法として、スタンプカードを集めていた美羽。
 美羽はスタンプを全て集めて、『ダークサイズが一つだけ言うこと聞いてあげる権』を手にしていたのだが、それを今こそ使いたいと言う。
 ベアトリーチェは美羽からの伝言として、

「一日『謎の光の正義の秘密の結社』になって、人助けをしてほしいそうです。
そうすれば、イコンの再起動パスワードを教えるって……」

 鈿女の緊急停止ボタンは、その解除にパスワードが必要とのこと。

「あの子にパスワード教えたら、パスワード代えちゃったみたいなのよ。
今は私にも分からないわ」
「肝心の美羽はどこに行ったのだ」
「あー、なんかお風呂に入りに行ってて……」



☆★☆★☆



「あのー、美羽さん……私たち、こんな所にいて良いんでしょうか……」

 キャノン モモ(きゃのん・もも)は、【ホテル アルテミス】にある大浴場で、ダークサイズのことを心配しながらちゃっかり湯船につかっている。

「ふっふっふー。まっかせなさい! 今頃うちのベアトリーチェがよしなにやってくれてるから」

 美羽は湯船の縁に手をかけて、バタ足をして遊んでいる。
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が浴場の引き戸を開け、外から声をかける。

「さー、モモちゃぁーん。そろそろお風呂を出て、お着物に着替えましょうねぇ〜」
「レティさん、やはりこんなことしてる場合では……」
「何言ってるんですかぁ〜。これは【ホテル アルテミス】の下見ですよう。
アルテミスさんやダイソウさんが快適に過ごせるように、すみずみまでチェックしておかねばですねぇ〜」
「でも、レティさんはともかく。今頃私、行方不明扱いになってると思いますけど……」
「心配ありませんよ〜。ホテルの屋上に【大きな熊の旗】を立てておきましたぁ」

 何が心配ないのかよくわからないが、屋上の【大きな熊の旗】で、モモの所在をアピールしているつもりのようだ。
 レティシアの隣に、バスタオルを持ったミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)も顔を出す。

「そろそろ季節外れの初もうでと行きましょ。振袖を用意してるわ」
「ミスティさん、私たちだけ遊んでていいんですか?」
「大丈夫よ。研究所にカメラを仕込んで、このモニターで状況を把握できるから」

 ミスティがモニターを見せると、そこにはイコンが組み上がりベアトリーチェが美羽の伝言を伝えている姿が。
 モモは慌てて湯船から立ちあがる。

「イコンが出来上がってるじゃないですかー(なんかカッコ悪いけど)! レティさん、私たちも行かなくてはー」
「ああん、モモちゃん。全裸で走っちゃダメですよぉ〜」



つづく







担当マスターより

▼担当マスター

大熊 誠一郎

▼マスターコメント

ありがとうございました。大熊誠一郎です。

みなさま、今回は大変お待たせしてしまって、まことに、まことにすみませんでした。
可能なかぎりダークサイズを続けていきたいと思っていますので、今後も生温かい目で見守っていただければなぁと思います。