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【ダークサイズ】未来から来た青年

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【ダークサイズ】未来から来た青年

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「ダークサイズ……ですか?」

 イコンパーツ研究所の職員達は、妙な組織の名前を、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)から聞いてオウム返しに繰り返した。
 近遠はこくりと頷き、

「新しくイコンを作るために、ここを使いたいらしいのです。今素材となるイコンを発掘中だそうですので、届き次第研究所を使わせてあげたいのですが」

 近遠はイコンパーツ研究所を使うための【根回し】の真っ最中であった。
 重ねて、

「お暇でしたらぜひ手伝ってあげてください。技術者としては、彼らも素人のようですし」

 職員の一人が腕組みをして考え、顔を上げて言う。

「しかし近遠さん。そのダークなんとかですが、名前からしていかにも悪い組織のような感じがします。
そんなのに加担などして大丈夫なんでしょうか……」

 不安そうな顔を見て、近遠はもっともだと頷く。

「ええ。ですので、ボクも下調べをしておきました」

 当の近遠も同じように思っており、あらかじめダークサイズのことを調べたらしい。
 どうせろくでもない組織だろうと思っていたが、空京放送局の株を持っていたり、アルテミスやダイダル卿といった神が味方につき、何よりフレイムタンにリニアモーターカーを走らせると言うインフラ設備の功績を見て、

「妙なのは名前だけで、かなりまともな組織のようですよ」

 と話した。
 それを聞いて職員も胸をなでおろし、

「ああ! リニアを通した集団ですか! それなら安心だ」

 と協力的な態度に改めた。
 近遠も職員の協力を得られて安心した所に、壁のパネルのランプが点滅し始めた。

「おや、リニアモーターカーがもうすぐ到着するようですね。パーツの発掘に成功したようです。ちょうど良かった」

 と近遠が外へ足を向けた直後、

がごん! どがん! ずがん!

 三つの大きな衝突音が響き、同時に研究所に激しい揺れが起こった。

「な、何だ! 攻撃か!?」

 近遠と職員達が慌てて研究所の外に出る。
 研究所入口前にリニアモーターカーが止まっており、それに紐で繋がれたイコンパーツが、研究所の壁にめり込んでいた。

「イコンパーツ研究所前デェース……」

 クマチャンの声が聞こえた後、リニアからレキ、チムチム・リー(ちむちむ・りー)と、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の4人が降りて来た。

「いやー、着いた着いた」

 レキが降りてきて、大きく伸びをした。
 当然、研究員たちはガミガミと文句を言いだすが、レキも、

「いやははは。何たって、向こうも大変だったもんで」

 と、頭を掻く。
 チムチムはリニアとイコンを繋いだ紐を外しながら、

「そもそも、今日はイコンの発掘アル。チムチムたちもイコンを持ち込めれば、こんなことにはならなかったアルね……」

 と素朴な疑問をつぶやくと、レキが人差し指を立ててウインクをし、

「急がば回れって言うしね!」
「間違った例えアル。でもダイソウトウが言いそうアルね」
「ああ、ところで、ダイソウトウはどこに?」

 近遠が思い出したように尋ねた。
 それには、【ビキニの水着】に白衣をまとったセレンフィリティが答える。
 彼女は白衣のポケットから封筒を一つ取り出し、

「あなたが研究所の使用を取りつけてくれた人ね。ダイソウトウからの伝言よ」

 と、近遠にそれを渡す。
 近遠は中から紙を取り出して目を通す。

次の便で行く
もろもろよろしく頼む


(……丸投げじゃないか……!)

 リニアの中で、ダイソウトウの手紙を呼んでいたのだろう、セレンフィリティは拳を鳴らしながら、

「さあやるわよ。パーツはどこへ運ぶの?」
「まったく! 貴重なパーツをこんな扱いにするとは、なんという連中だ! こっちだ!」

 職員達は口では文句を言いながらもイコンを見る瞳はきらきらと眩しく、彼らも根っからの職人のようである。

「フハハハハ! ようやく届いたようだな、悪のイコンパーツが!」

 いつもの高笑いと一緒に、ドクター・ハデス(どくたー・はです)が歩いてくる。

「あなたは……?」

 近遠がたずねると、ハデスはメガネをくいと上げ、

「我が名は天才科学者ドクター・ハデス! 何を隠そう、ダークサイズのイコン開発に協力している、【オリュンポス秘密研究所】の所長である!」

 ハデスが言いたいことは次の通り。

「イコンパーツ研究所では手狭であろう。何せダークサイズは関係者が増えておるからな。フハハハハ!
そういうわけで、我がオリュンポス秘密研究所も提供しようと言うのだ。
なに、悪いようにはせん。いや、悪い事は今後やっていくのだがな! フハハハハ!」

 などと、よく分からないダジャレを交えつつ、ハデスからの研究施設の提供の打診であった。
 確かにパーツごとに施設を分けた方がよかろうという考えもあり、コックピット込みの胴体部はイコンパーツ研究所、
頭部、両腕、両足のアタッチメントはオリュンポス秘密研究所へと運ばれていった。



☆★☆★☆



 まずは、イコンパーツ研究所の様子を見てみることにする。

「大切なのは装甲よ。いくら武装や機動力を上げても、『当たらなければどうということはない』ってのに頼ってるようじゃ、心もとないわ。
もし当たったら何もかも台無しよ。パイロット死んじゃうし」

 セレンフィリティは持論を研究所の職員に力説しながら、【R&D】や【先端テクノロジー】によって、適切な素材や鉱物を配合し、各種攻撃に耐えうる新素材の開発に着手する。
 水着に白衣姿のいかにも変態女の登場に目を白黒させる職員たちだったが、話を聞いていると思いのほかこの変態女の言っていることは理に適っていて、彼らの間で議論が自然発生していく。
 そして、理系の専門用語にとんと弱いセレアナは、セレンフィリティに着せられた【レオタード】姿で一人置いてきぼりである。

(おかしいわ……セレンが研究所の人とまともに議論してる……! こんなのおかしいわ!
まるで、まるで私が場違いなレオタード女みたいじゃない!)

 『みたい』ではなく、格好は実際に場違いなのだが、セレアナは納得がいかない気分と、

(セレンがこんな凛々しいなんて、変よ!)

 と、セレンフィリティを心配する気持ちがないまぜになって、セレアナはセレンフィリティの額に手を当てる。

「セレン……熱でもあるんじゃない……?」
「ちょっとセレアナ。今大事な話してるんだから邪魔しないで書記でもして。ここの計算が狂ったら台無しなのよ」
「あ、ごめん……」
「それにその格好! 白衣くらい羽織っておきなさいよ」

 と、セレンフィリティは白衣をはだけて腰に手を当てて言った。

(おまえが言うなー!)

 とセレアナは思うわけだが、今日はぶっ飛ばせる雰囲気でもなく、大人しくデータをまとめ始める。
 新素材の開発というのは、やはり時間のかかる仕事である。

「だからさー。『着ぐるみ』がダークサイズらしくって素敵だと思うんだよねー。
もふもふだから物理耐性あるでしょ? かわいいくまの着ぐるみだから、ほんわかしちゃって敵の攻撃力も低下を招くスグレモノだよ」

 いつの間にか新素材の議論にレキが混ざっていて、チムチムと共に装甲の素材を提案している。
 職員がレキに反論する。

「しかしそれじゃあ、コクピットが暑くてパイロットが耐えられんだろう」
「イコンへの愛があれば乗りきれるよ♪」

 レキの言葉から、着ぐるみ型イコンを作りたいという願望は伝わってくる。

「愛じゃ乗りきれないアル。冷却機能は必要アルね。外がもふもふなら、衝撃吸収素材とメッシュ素材の3層構造にしたらどうアル?」

 チムチムがレキに助け船を出した。

「分かってねえな、おまえらは……」

 別のテーブルではジャジラッドが職員達と別の議論。

「イコンは断じてSSサイズだ。でかくて強いイコンなんざいくらでもあるだろ。
大火力よりも、局地戦で使えるやつがいい」
「SSタイプか……初めて持つイコンなのに、ずいぶんと玄人好みなものを望んでいるんだな」
「しかもリモコンタイプの遠隔操作機なら、これはでかい強みになるぜ」

 ダイソウがまだ到着していないのをいいことに、イコンのイメージがどんどん妙な方向に進んでいる。
 サルガタナスがさらに、

「SSサイズのイコンとなれば、希少価値も高くなりますわ。その開発に成功したとなれば、各国は無視できないでしょう。
ダイソウトウには、ゆくゆくエリュシオン皇帝候補に名乗りを上げてもらわねばなりません。
アルテミスさまだけではなく、独自開発のイコンは大事な材料になりますわ」

 と、独自のダークサイズの展望と戦略を語る。

「くっくっく……皇帝がどうとかはよく分かんないけど、つまりキミが言いたいのはこういうことでしょ〜?」

 三船 甲斐(みふね・かい)が八重歯を見せながら歩いてきた。
 その後ろには白い布で覆った何か人型のマシンが立っている。

「ニルヴァーナが出どころの素材で作れば、さぞかし高性能なPSが出来るに違いないぜ」

 と、甲斐がにんまりと笑うが、ジャジラッドが手で制す。

「待て、PS? パワードスーツのことか? 俺は遠隔操作機がやりたいんだが……」
「ノンノン! 時代はPSだぜ!」

 猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が人差し指をふりふり、白布を取り去ると、何とそこには立派なパワードスーツが出来上がっているではないか。
 甲斐の【R&D】【イノベーション】【博識】【先端テクノロジー】【機晶技術】【ニルヴァーナ知識】と、
とにかく持てる全てのスキルを動員して作り上げたらしいパワードスーツ。
 オーグメンテッド・ヒューマンというシステムを操縦機構に転用し、搭乗者の能力自体を拡張するシステムらしいのだが、
科学技術のみでは確立できていないところを、佐倉 薫(さくら・かおる)が魔術知識を導入し、その科学と魔術の融合は、
エメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)が【ナノマシン拡散】でナノレベルのオリジナルルーンを開発して結合を試みている。
 話を聞いてみると、かなりの力の入れようである。
 ジャジラッドはまさか他のものもSSサイズ(PS形式だが)イコンを構想している者がいるとは思わなかったので、思わず剛利たち作成のパワードスーツに手を伸ばす。

「へえ、こいつはすげえぜ。あの発掘パーツからもう作りやがるとはな……」
「待った! 触るんじゃねーぜ! 段ボールだから!

 剛利が口を滑らせた。
 せっかくのイコンパーツ研究所である。発掘パーツが届くまでのヒマを持て余すわけにもいかない。
 つまりは試作品なのだ。
 段ボールのプロトタイプとはいえ、さすがによく出来ている。もしかしたら本当に使えるのではないだろうか。
 議論を繰り返しているとあっという間に時間が過ぎるもので、リニアモーターカーが遺跡と折り返して戻ってきた。
 リニアからはダークサイズとチームサンフラが戦いながら出て来た。
 リニアがよく事故らなかったものだ。

「お! こいつは都合がいいぜ!」

 剛利はダイソウへのプレゼンがてら、段ボールパワードスーツを抱えて外に出る。

「ダイソウトウさん! こいつを着るんだー!」

 剛利が段ボールPSを中空に投げる。

「!」

 ダイソウは攻撃をよけつつ飛び上がり、段ボールPSと交差する。
 その交差点がなぜかピカッと光った後、段ボールPSを纏ったダイソウが着地する。

「これは……!」
「サンフラちゃんが魔法少女になったんだから、ダイソウトウも進化しないとね☆」

 解説がてら、ダイソウの隣にドール・ゴールド(どーる・ごーるど)物部 九十九(もののべ・つくも)黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を纏った鳴神 裁(なるかみ・さい)が着地する。
 ダイソウは、自分の体にまとわりついた段ボールPSを見ながら、

「で、どうすればよいのだ」
「んじゃあ、ボクがレクチャーしてあげよう☆」

 言うが早いか、裁は跳びあがってチームサンフラへ戦いを挑む。
 裁は武器化したマーシャルアーツを振りながら、

「こんなふうに! いつも通りの格闘術で! あら不思議! イコンより小回りが利いて戦闘能力も抜群☆」

 と、PSの有効性をアピールする。
 ダイソウはなるほどと頷いて、段ボール製のPSに迫ってくるサンフラたちを、持ち前の格闘能力で対処する。

「ふむ。これはよい」

 机上の説明ではなく、実物でのプレゼンはよいもので、思いのほかダイソウの反応も良い。
 好感触のダイソウを見て、裁はニヤリとする。
 彼女がやってみせ、言って聞かせて、させてみて、さらに、

「いいじゃんいいじゃん☆ ダイソウトウ、PSの方が向いてるんじゃなーい☆」

 と褒めてやるという山本五十六ばりの人材育成術。
 それをさらに後押しするのが、ドールの【テレパシー】であり、ダイソウの深層心理にそれとなく

(PSっていいですよね。PS作るべきですよ……)

 と語りかけ、ダイソウの心を操ろうとしている。
 ダイソウもダイソウでまんまと操作されつつあり、

「これからは……パワードスーツの時代だ……!」

 などと、すっかりその気になっている。
 そういう気分もあってか、段ボールPSはなかなか良い働きを見せ、チームサンフラを押し返す勢いである。
 PSダイソウは魔女っ子サンフラワーに直接対決を挑む。

「サンフラちゃんよ。おまえも魔法少女に進化したようだが、パワードスーツを纏った私の相手ではない」
「へん! 段ボールに何ができるのよ! 魔女っ子パワーで返り討ちだからね!」

 と、向日葵はジャンプ。
 それに合わせて、ダイソウも跳び上がり、向日葵を迎え撃つ。
 向日葵が拳を振り上げ、気合いの雄叫び。

「やああああああーっ!!」
「これで終わりだ。受けてみよ。必殺・ダイソ……ドゴオン!
「きゃあーっ」

 ダイソウが技の名前を叫び終わるのを待たずに、なぜか段ボールPSが大爆発。
 向日葵はその爆発に弾かれて、地面に背中を打ちつける。
 続いてダイソウは黒焦げになって頭から地面に落ちた。
 驚くのはダイソウよりも裁や剛利である。

「あれーっ。何の爆発? 今の!」
「うおーい! どうなってんだよ甲斐さん!」

 剛利が甲斐を見る。

「くっくっく。あたしにも分からん!」
「笑っておる場合か。せっかくわしが手助けしてやったと言うのに、自爆設定など聞いておらぬぞ。エメラダ、貴公、何か余計なことをしておらんじゃろうな」

 薫もおかんむりである。
 薫に言われたエメラダも両手をふりふり、

「まさかー。ダイソウトウさん調子良かったから、遠隔操縦システムは起動してないしー……」

 と言い合っている後ろにその犯人がいた。

「あはぁ〜……美しい自爆っぷりだよダイソウトウ」

 両手を頬に当てて、その目はうっとりとさせている笠置 生駒(かさぎ・いこま)が立っている。
 そんな彼女の後頭部に、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が平手を打ちつける。

「いてっ」
「生駒! なんでパワードスーツに自爆装置を仕込んどるんじゃ!」
「えー、だってイコン作る前に実験しときたいじゃん」
「他人の試作機で実験するやるがあるかい!」
「だってだって! 待ちきれないんだもん!」
「だもん、じゃないわい! わしがイコンパーツを監視しとるうちに、パワードスーツで遊びおって」
「遊びじゃないよ! 段ボールだからいいじゃん!」
「ばっかもーん! 謝ってこい」

 人間が猿に説教される様を見る剛利や裁たち。

『おまえかー!』
「ごめんなさーい」

 生駒が駆け足で逃げ出し、剛利たちはチームサンフラをほったらかしで追いかけてゆく。

「ま、とにかく……」

 なんやかやでダークサイズの戦闘チームが向日葵たちを足止めしているのを見届けながら、ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)は、

「イコンの開発は進めるんだな? パーツも揃ったみたいだし」

 と、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)に言う。

「おー、せやせや。なんやイコンの設計図面が引けるんやって? その子」

 泰輔はローグの隣にいるフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)を指さした。
 ローグはフルーネの頭をくしゃくしゃと撫でながら、

「ああ。ダークサイズのことだ。こいつがいなきゃ、行き当たりばったりで訳の分からんイコンを組み立てちまうだろ?」
「あはは。それは否定できひんなぁ」

 フルーネは顔を上げて小さくガッツポーズを作り、

「フルーネ……やります」

 と言葉少なに協力を了承した。
 面々は、戦闘を避けるため【オリュンポス秘密研究所】にて会議と製作を始めることにした。
 向かいしな、ローグは真っ黒のダイソウを振り返り、

「そうだ。ダイソウトウを助けないと」
「ああ、ほっといてええで。よきところで復活するやろ」
「いいのか!? 彼はリーダーなんだろ!?」



☆★☆★☆



 【オリュンポス秘密研究所】にて、フルーネは早速イコンのイメージを聞きとる。

「ええと、ダークサイズはどんなイコンを作りたいのかな……」

 泰輔がこくりと頷く。

「ええ質問や。ダークサイズ専用イコンは、みんなの長年の夢や。それぞれに思い入れがあるさかい、みんなの思いを結集させたものにしたい」
「なるほど」
「まず、ダイソウトウはんはイコンの操縦がとんでもなく下手なんや」
「え……それならイコン作るのやめた方が……」
「だからな、ダイソウトウはんでも操縦できるくらいシンプルな、レバー二本とボタン3個くらいの操縦桿が欲しいねん」

 フルーネは少し考え、

「それってまるで鉄人……」
「命令は『進め』『待て』『逃げろ』の三つでええ。そんくらいやないと扱いきれんわ」
「とはいえ……」

 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が口を挟む。

「イコンというのは人々の役に立たなければいけませんよ。
イコンという神を模したメカなのですから。ですから、困った時にかゆい所に手が届くような……
アームにはナイフやハサミ、ドライバーとせん抜きと爪切りやすりルーペと。
あとそう。災害時には主導発電のLEDライトが必要です」
「それってまるで十徳ナイフ……」
「いやいや、ダークサイズは悪の組織なんだから」

 と、今度はフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が得意気に、

「登場する時は荘厳、壮麗、耽美な専用テーマ曲が必要だよね。もちろん、ラジカセなんてチープなものじゃだめさ。
背中にパイプを扇状にユニットとして貼り付ける。コックピットには鍵盤を置く。
鍵盤一つじゃ物足りないから、シンセサイザーの鍵盤も5、6個並べよう」
「それってまるで小室……」
「ならぬならぬ。それではコックピットが手狭になるであろうが」

 さらに讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が口を出す。

「だが悪の中にも美しさが必要なのは確かであるな。そこでどうだ。AIにファジー機能を学ばせるのだ。
そして折に触れ、四季折々の和歌を詠むのだ。
AIはダイソウトウの和歌の師となり、詠みたまったなら『DS古今和歌集』として編纂しようではないか。
ゆくゆくはカルタになって全国大会をだな……」
「それってまるで百人一首……」
「フハハハハ! 快活な議論が進んでいるようだな!」

 この秘密研究所の所長であるハデスが、嬉しそうにやってくる。

「我らオリュンポスの同盟組織であるダークサイズの面々だからそこ、ここに入れてやったのだ!
普段なら誰人にも見つけることの叶わぬ、極秘研究所なのだからな!」
「いや待て。表に思いっきり看板出してるじゃねーか……」

 ローグが一応突っ込んであげる。
 ハデスはメガネをくいと上げ、

「我らオリュンポスが協力するからにはもう止まらぬ! 今日こそダークサイズ開発のイコンが世界を席巻することとなるのだ!
というわけで見よ! 我が技術の粋を集めたアタッチメントを!」

 ハデスが白衣をはためかせて右手を後ろに振る。
 そこには大きな白布で覆われた物体があるのだが、その前には聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)が立っており、

「ドクター・ハデスぅー! 話が違うじゃないか! 俺が発掘した鉱物は剣にするんじゃなかったのかぁー!」

 と、大いに不満をぶつけている。

「イコン用武器に使えそうな素材を調達してくるのだ!」

 との指令を受けて、遺跡で一人発掘をしたカリバーンなのだが、

「イコン武器ならば……俺のような勇者が使うような、カッコイイ聖剣になるに違いない!」

 と意気揚々と鉱物を発掘してきたものの、出来上がりを見てみると……

「よりによって! よりによってどうしてこんな……」

 カリバーンが布を取り、その物体を指さす。

「こんな無骨なドリルなんぞ作ってしまったんだぁー!」

 ハデスはニヤリと笑みを浮かべ、

「何を言う? 剣を作るなど、俺は一言も言っていないぞ」
「そんな! 強力でスマートな聖剣を作るのでは……」
「悪のロマンと言えば、巨大ドリルと相場が決まっておろう。そうだな、ダイソウトウ?」

 とハデスが言うと、いつの間にやらダイソウが紅茶をたしなみながら、椅子に座って落ち着いている。

「ホントにいつの間にか復活してやがる……」

 ローグは呆れ気味に言う。
 ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)がティーポットを抱え、

「ダイソウトウ様。おかわりはいかがですか?」
「うむ」
「いや、ダイソウトウ、落ち着いてないで。どうなのだ、我がドリルは」
「ハデスよ……そのドリル、いささか大きすぎるのではないか?」

 ダイソウの言う通り、ハデスが作ったドリルは、まるでトンネルでも掘るような巨大なもので、イコンとは言えアタッチメントとして機能するのだろうか。
 そこに、チームサンフラが研究所まで攻め込んできた。

「こらー! ダイソウトウ! 今日こそ年貢の納め時だよ!」

 向日葵が墜落時に打った背中をさすりながら、おばあちゃんみたいに腰を曲げて叫ぶ。
 その隣で、ひなげしの顔が青ざめる。

「な……あ、あのドリルは!」
「な、なにひなげし君!」
「みんな、あれを破壊するんだ! さもないと大変なことに……」

 ひなげしがチームサンフラに言い終わる直前、ヘスティアが【18連ミサイルユニット】を構え、

「そうはさせません。【お引き取りくださいませ】!」

 とミサイルを乱射し始めた。
 ハデスは慌てながら、

「こらヘスティア! 所内でぶっ放すではない! ええい仕方がない。ドリルで蹴散らしてくれる!」

 と、手元のスイッチを押す。

「?」

 ドリルが反応しないのを見て、ハデスはカチカチとスイッチを押している。

「フフフ……総仕上げは我に任せるがよい……」

 すると、ドリルの上からマネキ・ング(まねき・んぐ)の声が聞こえて来た。

「まさか、このような鉱物がまだ残っているとはな……」

 ング曰く、カリバーンが見つけた鉱物は何やら特殊なものらしい。

「こいつが持つ膨大なエネルギーは、一種の願望機としての働きを持つのだ。偶然とはいえ、こやつの力を引き出せるのは、我しかおるまい」
「流石です師匠ー!」

 ングの隣で、メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)が囃したてる。
 ングはメビウスを見て、

「準備はできたか、メビウス」
「はい、ばっちりです師匠っ! セリス! とっととスイッチ入れなさいよー!」

 と、メビウスは下にいるセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)に手を振る。
 今日もングたちに付き合わされているのだろう、セリスはげんなりした顔をしながら、

「はいはい、分かったよ……」

 とスイッチを入れる。すると、

ぐいいいいん……

 ドリルが先端から四つに割れて傘のように広がり、ドリルがパラボラアンテナの形に変形した。

「ぬおおおー! いつのまにそんな改造をー!」

 ハデスが驚くのも無理はない。
 ングはドリルの上から皆を見下ろし、

「フフフ、見せてやろう。我の毒電波を受けた者がどうなるのかを……!」

 ングの言葉の直後、アンテナがパリパリと電磁波を纏い、そこから光線が照射される。

「ンフォオオオオウ!!」

 そしてその電波を受けるのは、何故かマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)である。
 全員、息をのんでマイキーを見る。
 電波を受けて倒れたマイキーだが、ゆっくりと体を持ち上げ、立ちあがる。
 彼は小声で、何やらつぶやいている。

「……び……ゎび……あああああああ、フォオオオオオウ!!」

 マイキーはシャウトしながら、つま先立ちになって帽子を抑える。

「あああ、あわび……アワビイイイ……AAAAAAAWABIIIIIIIIII!!」

 ついにマイキーは上のような雄叫びをあげながら、虚空に向かってパンチのラッシュのような動きを繰り出した。
 向日葵はそれを見て思わず叫ぶ。

「あ、あれは一体何なの!?」
「ああっ、毒電波の開発は終わっていたのか! あれを受けると、あわび中毒になってしまうんだ!」
「あ、あわび中毒ー!?」

 ひなげしの解説に驚く向日葵。。
 マイキーのパンチのような動きは、禁断症状であわびの幻が見えているようだ。
 ングは、自分が養殖しているあわびを取り出し、

「フフフ。マイキー、これが欲しいか! 我があわびを、一個10000Gで販売してやろう」
「なんてひどいぼったくりー!」

 向日葵はングの暴利を非難する。
 ひなげしも足が震えながら、

「あれであわび中毒者が続出。あいつのあわび欲しさに、毒電波の被害者はダークサイズに従ってしまうんだ」
「じゃ、じゃああの写真にあったファーストクイーンは……」
「ああ……俺の未来のファーストクイーンは、あわび中毒者だ……」
「なんという悲喜劇!」

 ひなげしが語る絶望的な未来。

「ていうか、それイコン関係なくねえか?」

 誰かがぽつりというが、今はそんな場合ではない。
 毒電波のパラボラは、今度は向日葵たちに狙いを定めた。