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反撃のマリア

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反撃のマリア

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終章 〜マリア〜

「ルイ司祭はこれからどうするの?」
「私はこのままここに残りますよ」
 詩穂の問いかけにルイは教会を見渡しながら答えた。
 だが呼雪は「命が狙われる可能性がある」などと大反対だった。
 それでも、ルイ司祭はこの教会に残ると言い張るのだった。

「ねえ、ルイ司祭。なんでグロッグ司祭はルイ司祭とうまくいかなかったの?」
「どういうことですか?」
 突然、カルから投げかけられた質問にルイは首を傾げる。
「同じグランツ教の司祭なら、ちょっとは互いの考えに賛同できたのではとおもったんだ」
「なるほど、世界統一国家神を信じるという意味では私とグロッグ司祭は賛同できていましたよ。ただ……彼は何か焦っていた。そして非人道な事をに手を出したのかも知れませんね」
「焦ってた?」
「ええ、私の勝手な見解ですがそのように見えたのです。だから説得を試みようと思っていたのですが……どうやら裏目にでました」
 ルイ司祭はどこか空を見上げながら語る。
 そう語る彼にはどこか哀愁が漂っていた。
 しかし、最後にルイ司祭は思い出すように言葉を付け加えた。
「我々テンプルナイツだって、人間です。世界を救いたいと思ってた人が一瞬で、世界を壊したいと思うこともあるのでしょうね」

     §

「司祭、私があなたと出会った時、『どんな命でも助けるべきだ』と仰いました。しかし、今の司祭はそれとまったく違うように感じました……どういうことですか」
 マリアは、コハクが呼んだ警察に連れて行かれる司祭を呼び止めて、突然そんなことを聞いた。
 司祭は、ただ黙り込んだ。しかし、暫くすると俯きながら口を開く。
「マリア君……私は1つ、大事なことを忘れていたのだよ……君には家族はいるかね」
 家族……マリアに家族は居ない。あえて家族と言える存在はローズフランくらいだった。
 司祭はマリアが孤児だったことを思い出したのか、「そうだったな」とつぶやいた。
「もし君は、世界を救うためには自分の娘を殺さなければならないと、言われればどうしたかな?」
「………………分かりません。いえ、私にはそんなの選べません」
 マリアは悩んだ末に答えると、司祭はふと笑みを浮かべた。
 もう、それ以上司祭が口を開くことは無かった。
「マリア、そろそろ」
 警察と話を終えたルカルカが、時間だと告げた。
「グロッグ司祭、お元気で……」
 頭を下げるマリア。そのまま、グロッグ司祭は警察の車へと乗せられていった。

「ルカルカさんありがとうございました」
「私達はただ、教導団の軍人として、街の平和を守るために動いただけよ。だから礼は要らない。それより貴女はこれからどうするの?」
「応援してくれた呼雪君達には悪いですが、少なくともグランツ教にはおそらく戻りません。ただ……」
 マリアはゆっくりと顔を上げた。その目にはまだ何か強い意志を感じる灯火が灯っているように見えた。
「私なりに世界中の人を救う方法を、そしてグランツ教は何をするつもりなのか追いかけるつもりです。私が私<マリア>で居る限り」
 はっきりと強い口調でマリアは言い切った。


     §

「……大事な人も世界も救うか……純粋なマリアの事だ、本気で言っているのだろうな」
 揺れる車の中で、グロックは小さくつぶやいた。
 彼は何を考えて、何をしようとしてもすでに手遅れだとそう思う反面で、マリアという人間を考えていた。
 聖母マリア。
 地球でもっとも有名な人徳のある母親。
 あれほど契約者や様々な人間に慕われるマリア。同じだとグロックは思った。
「……私はさしずめ、堕天使というところか」
 グロックは思わず自嘲した。
 そして、車は突然何もない森の中で止まった。
「……どうした? 街まで行くんじゃ無いのか」
「グロック司祭、申し上げにくいのですが――」
 同車していた3人の男達が一斉にこちらへと振り返る、その顔には仮面がつけられていた。
「終点です」
 グロックにはそれが何なのか十分すぎるほど分かっていた。
「お前達はやはり”クルセイダー”だったか」
 グロックは皮肉じみた笑いを浮かべながら言った……。