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リアクション
第4章 〜人狼と形勢〜
「気分はどうだね、マリア君」
グロッグ司祭は不敵な笑みを浮かべながら、縄で身動きをとれなくなったマリアを見下ろす。
「人狼をなぜそんなに追いかけるのか私には分かりません……そんなもので世界統一国家神がお救いになるとは思えません」
「……尊い命を助けるためだ」
「世界を助ける英雄になるために、ここまでするなんてばかげています!」
マリアはとっさに反論するが、司祭は何故かそれを苦笑で笑い飛ばした。
ルイ司祭は隠し扉を開けるため、本棚の本を一冊ずつ引っこ抜いていた。
暫くすると、壁際に設置された本棚はゆっくりと動き、中から鍵穴のついた小さな扉が現れる。
「さて、ルイ司祭まだかな?」
「あと少しです…………まだ間に合います、考え直してください」
ルイ司祭は振り返り聞くとグロッグ司祭は目を細めると、手にもった銃をマリア達へと向けた。
「速くしろ、私は短気なんだ」
ルイ司祭は渋い表情を浮かべながら再び本棚に向き合う。
そして、古びた小さな鍵を鍵穴へと差し込んだときだった。
「まだそんなところを探しているのか!」
突然、教会の隅から男性の大声が響き渡った。
そちらをみた全員が唖然とした。
「仮面に人狼!?」
マリアはその姿に思わず驚きの声を挙げた。
そこに居たのは、狼の顔をした人間が2人、そして仮面に白いマントを翻した少女が立っていた。
「なっ!! 何者だお前は!」
「ふっふっふー、私は怪盗那由他面相! お前達がホッしている指輪は人狼達のために返して貰ったのだよ!!」
「「ガオー」」
怪盗(阿頼耶 那由他(あらや・なゆた))に続く用に、人狼は手を挙げて声をあげる、女性と男性の声だった。
人の形をしてはいるが、たしかに顔は狼。それが余計に全員を困惑の渦に巻き込む。
「ばかなっ!」
グロッグ司祭は思わずうろたえる。もしも、本当であればここまでしてきたことはすべて水の泡になる。
今は慎重に行動する必要があった。しかし、絶滅した人狼がここに居るわけも無い。
考えた末グロッグ司祭は怪盗仮面達に向けて指を指した。
「あいつらを捕まえろ!!」
兵士達が一斉に怪盗仮面達へ向かって襲いかかる。
「げっ、思ったより多いな……」
怪盗仮面と人狼達はそれぞれまばらになって逃げ回り始めた。
(今なら……!)
マリアの背後でカル・カルカー(かる・かるかー)は機会をずっと待っていた。そして兵士が減った今、まさにその時だった。
「そこまでだ! グロッグ司祭!」
カルを始めとし、夏侯 惇(かこう・とん)、ジョン・オーク(じょん・おーく)、ドリル・ホール(どりる・ほーる)がそれぞれ武器を手にして立ち上がる。
「もう動けるようになったか……」
グロッグ司祭の横で、先ほど大剣を振るった大男が「ほう」と感心するように頷く。
だが、グロッグ司祭はカル達を睨み付けた。
「悪いが、そこまでなのは君たちだ。動けるのはほんの一部だろう? この数相手にはできまい」
大半が人狼確保に向かったとは言え、まだグロッグ司祭の周りに兵士は30人ほど残っていた。
しかし、そんなグロッグ司祭に鋭いフロンティアソードが突きつけられた。
「いいえ、あなたですよグロッグ司祭」
「……これはどういうことですかな、トマス大尉」
グロッグ司祭に刃を突きつけていたのは、先ほどまでグロッグ司祭の手伝いをしていたはずのロマス・ファーニナルだった。
トマスの他に魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が大男の両手を捕まえ、テノーリオやミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)がそれぞれ兵士の司令官を捕まえていた。
トマス達は以前のマリア捜索から、引き続きマリアを捕らえるためにグロッグ司祭へと付き添っていたのだった。
「どうもこうもありませんよ、あなたに付き添っていればルイ司祭を捕まえるだの、高額な報酬を用意しているだの、真っ黒ではありませんか?」
「……しかし、君たちはそれを受け入れ、雇われてくれたでは無いかね?」
グロッグ司祭が吐き捨てるように言うと、トマスは刃を突き立てた。
「誤解しないでいただきたい、私はあくまで『公的秩序を乱すものを取り締まるため』あなたに協力したんだ」
「くっ……くははははっ!!」
突然、グロッグ司祭の隣で大男は笑い始めた。
「そりゃあ良い! 司祭、あんたは見事にやられたんだ。ミイラ取りがミイラになるとはこういうことだな!」
「おいおい、笑ってるぜこのおっさん」
高笑いをし始めた大男にドリルは呆れる。しかし、突然惇が「気をつけろ!」と声をあげる。
大男は突然姿を消したと思うと、大剣を構えカル達の前に立ちはだかった!
「なっ、う、うそだろっ!?」
「くっ!」
慌てるカルはヒロイックアサルトを発動させ、ブーストソードで向かってくる大男の大剣をはじき返す。
「くははははっ、久々に面白くなってきた。耐えて見せよ我の一筋を!!」
大男は大剣を上へと振り上げると、大剣は白い光を纏っていく。
そして、それは一瞬のうちに地面へと振り下ろされる。
大男のその技は、地面に大きな波動を作りその場に居た全員にわずかながらの負傷をおわせるほどだった。
一方、人狼達は未だに兵士達から逃げ回っていた。
「も、もう限界なの……」
「バテるの早いなっ!?」
男の人狼、斎賀 昌毅(さいが・まさき)は一番にフェンリルハイドを脱ぎ捨てると、深呼吸した。
一緒に走っていた、キスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)も同じように脱ぎ捨てると深呼吸する。
ただ、昌毅とは違い、キスクールは床に手をつけ体全体で深呼吸をしていた。
「よく考えたら、私こういうの向いてないなの」
「あー……」
昌毅は頭をかきながら、キスクールの運動不足を思い出すのだった。
ちなみに、怪盗那由他面相の衣装はキスクールの裁縫によるお手製のものだ。
「ところで、那由他の方はどうだ?」
「ばっちりみたいなの、あとは微調整が居るらしいなの」
「そうか」
そして、演劇を発揮する怪盗那由他面相は今、あるもののために走り続けている。
昌毅とキスクールはあくまでそのための囮だった。
「しかし、子敬があの場所を教えてくて良かったな」
実はもう一つの協力があって、この作戦は成り立っている。
それが子敬だった。昌毅達は前もって子敬と密かに合流し兵士達が手薄な場所を教えてくれたのだった。
那由他がどうなったか気になった昌毅が「さて……と」と周りを見渡したときだった、突然あたりを強い風が襲いかかった。
「なんつう力だよ……」
その原因は10メートルほど離れた位置で大剣を振り回す大男だった。
「カルカー少尉、次の攻撃範囲は360度、半径340センチ、誤差プラスマイナス10センチです」
「ひっ、広すぎるよ……」
「頼みますよカルカー少尉」
ミカエラの防衛計画による、攻撃予測にカルは頭を悩ませた。
今のままでは依然として動けないままであるマリア達に影響が出るのは間違いなかった。
カルは頭をフルで回転させ、指揮を下した。
「惇さんとミカエラさん、足止めおねがいします。その間にファーニナル小隊、カルカー小隊は負傷者を抱え共に南西に五メートル移動!」
「ふんっ、本来ならばこの一撃グロッグ司祭にくれてやりたかったのだが、致し方ない!!」
「了解したわ」
惇が頷くと、トマス達は一斉にマリア達を抱え、安全な場所に避難させる。
「ルイ司祭、指輪はどこにありますか?」
ジョンがルイ司祭を運ぼうとしたときだった、ジョンはひっそりと小さな声で話しかけた。
「な……にをするつもりですか?」
「それは、あまりお教えできません。が、決してあなたに悪いことではありませんよ?」
しばしルイ司祭は黙り込むと、小さく頷いた。
「ありがとうございます、司祭。ドリル、全員運び追えたらついて来てください」
「へ? オレ?」
左へ右へと負傷者を運ぶ中、ジョンに呼ばれドリルは目をぱちくりとさせた。
一方、惇とミカエラはやはり男に悪銭苦闘を強いられていた。
「ふっ、役立たないものは捨て置くことも出来ないか、烏合!」
大男は大剣を横殴りに何度も斬りかかる。
ミカエルはなんとか防衛計画でそれらを予測するが、何度かは失敗し直撃を免れなかった。
「くっ思ったより強いわね……大丈夫?」
「うむ」
惇はボロボロになりながらも、緑竜殺しを構える。その刃も攻撃をうけることで少々汚れかかっているようだった。
「烏合とは舐められたものだ……指輪を片方手に入れ陰謀を阻止したのはそれがし達だ」
「クハハハハッ、その通りだ、生き残れば君たちの大勝利だ。だが……」
大男は大剣を再び上に振り上げると白い光が集まっていく。
惇はすかさずヒロイックアサルトを発動させた。
「耐えてみせよ、我が渾身の一撃を!!!」
「うぉおおおおおおおおおっ!!」
大男はにやりと気味悪い笑みを浮かべ、重そうに剣を振り下ろした。
あたりに白い光が包み込み、それは暴風となってあたりへと広がった。
それらがすべて静まったとき、惇はミカエラに抱えられていた。
すんでのところでミカエラがバーストダッシュを発動させ、大男の技から惇を救い出したのだった。
惇は全身ぼろぼろになり、もはや立つことも出来なくなっていた。
「大丈夫!?」
「……っ、奴はどうなった」
ミカエラと惇は、教会の壁際に倒れ込んだ大男を見た。
それは完全に沈黙したかのように思えた、が。
「……フッ……クハハハハハハハッ」
大男はじわりと体を起こしていった。
垣間見えるその表情には痛みや苦しんでいる表情は無く、むしろ笑っていた。
「いいぞ。そうだその絶望にひれ伏す瞬間。その顔、まさに私が求めるものだよ」
大男は動けない惇とミカエルに向けて大剣を振り上げる。
惇は悔しさを奧に押し込みながら、目を静かに閉じる。
「油断したな!!」
突然、ワイルドペガサスに跨がった前進鎧姿の男が惇達の前に現れ、大男の剣をはじき返し、オーパーツソードが大男の胸元を切り裂いた。
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