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リアクション
【1・仲のいい女子が三人集まれば、半永久的に会話は続く】
朝の日の出と共に、一匹の伝書鳩が蒼空学園に辿り着き。
そこに書かれていた、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)、エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)、リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)たちのピンチが生徒たちに広まるまで、そう時間はかからなかった。
救援の要請を聞いた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)、熊谷 直実(くまがや・なおざね)、佐々木 八雲(ささき・やくも)の三人は。あえてすぐに現場には直行せず、近所の図書館に立ち寄っていた。
「医療関係の棚は……ここみたいだねぇ」
「じゃあさっそく探してみようよ」「ああ、急がないといけないからな」
発疹がでているという記述から、弥十郎は博識により、動物の毛でアレルギー反応を起こす人がいるという話を思い出したのである。
「さて。もしその発疹がわたげうさぎの毛によるものなら、特効薬があるはずだよねぇ」
パソコンや過去の医療資料の中に同じ症例がないか、探っていく三人。
このあと兎島に向かわなければいけないので、ページをめくる手も自然と速くなるというものだった。
そして。隣の机には樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がいた。
主に動いているのは月夜で、ユビキタスと資料検索でパラミタの地図を片っ端から探し出したデータを、持参したテクノコンピュータへ入れて。
「月夜。データ以外の写真、ここ置いとくからな」
「うん、ありがとう」
ちゃんと、データ化されていない地図写真もコンピュータに取り入れていった。
それと同じ頃の兎島は。
まるでこれからの先行きを案じているかのように、空が雲に覆われ太陽が隠れてしまっていた。
そんな薄暗い状態の島で助けを待つ三人は、身動きがとれなくなった民家の中で一体どのような精神状態に追い込まれているのか……。
救援要請をうけて即効で駆けつけてきたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とそのパートナー禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)、ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)の三人は。
不安を胸に抱きながらわたげうさぎの群れをかきわけ、家の前へと突入することに成功し、そして。
「花音くん、だいじょうぶ!?」
木材が奇跡的に組み合っただけのようなボロっちい民家の扉を、壊す前提の勢いで中へ突入すると、
「どうしてカレーラーメンなんか作ったんですか!? あたしが辛いもの苦手だって知ってる筈ですよね?」
「そもそも昨日の夜もラーメンだったですぅ! それで今日の朝もラーメンってどれだけラーメン好きなんですかぁ!?」
「……し、しょうがないでしょう? この家、インスタントものしか置いてないんだもの。私の嗜好ばかり責められても困るわよ」
「あぁ。こんなことなら、二度寝しないで朝食作りを手伝うべきでした」
「せめてカレーライスにするべきだったんですぅ! なんでごはんじゃなくラーメン入れちゃったんですかぁ!」
「……だから白米が無いのよ。それに、普通のラーメンとカレーラーメンは全然別のメニューなんだから、続けて食べても飽きないわよ!」
カレー臭の漂う中、なんかすごいどうでもいいことで白熱している三人がいた。
いつも無口なリフルさえ花音たちに影響されてか、それともラーメンのせいか、言葉が強い。全員ブライド・オブ・ダーツのことも、地図のことも、ここからの脱出方法さえも頭からすっとんでいるようだった。
「……えーと」
「おい。俺様達は、この剣のエロ河童3人を助けにきたんだよな? そのわりに、えらく元気そうに見えるんだが」
「ま、まあ無事なようでなによりだったじゃないですか。ははは」
十分後。
一同はテーブルをはさんで向かい合いながら着席していた。
「んん、コホン。ごめんなさい。お見苦しいところを」
「ああいえ。えっとそれで、事情はだいたいわかっていますけど。これからどうするつもりなのか――」
「わたげうさぎを蹴散らしたいなら、俺様の火術で切り抜けさせてやるぜ! フハハハ」
自分の言葉にかぶせるように河馬吸虎が叫んだので、リカインは軽く小突いて静かにさせた。
とはいえ、問題が山積みである以上どれから片付けていくかは決めておかなければならないのは、全員が承知のことなわけで。
「あのうさぎさんたちは、悪くないですよ。すべてはフラワシ使いの陰謀なんですから」
「そうなんですよぉ。あんな愛くるしいうさぎさんが悪いわけありませんものねぇ!」
「……ふたりとも、決め付けるのはどうかと思うわよ。ここにじっとしていても、なにもはじまらないんだし。あのうさぎたちが伝染病を抱えている危険だってあるのよ」
リフルが厳しく告げるが、花音とエメネアは譲るつもりはないらしい。
そうした彼女の様子を見ながら、ソルファインはどうしてもいいたかったことを言うことにする。
「リフル様。ひとり真面目な感じで仰ってくれるのは助かるんですけど、どんぶり片手に喋るのやめてくれませんか」
「ん、ごめんね。ラーメンがのびないうちに食べたくて」
ちゅるり、と最後の麺を食べ終えたリフル。
そこでようやくソルファインは本題を切り出すことにする。
「僕もフラワシ使いとやらが皆様を狙っていることには賛成です。ですから慎重に、ここでもう少し対策を練るべきです」
と、そう発言しているものの。
ソルファインの心中としては、この攻撃が花音達を狙ったものではないと思っていた。けれど不用意に警戒を解かないほうが安全と踏んで、意識誘導しているのである。
「ふん。今すぐここを強行突破するには反対票が多すぎるみたいだな」
やや不満そうな河馬吸虎と、リフルもわずかに納得しかねているようだった。
空気が悪くなりそうなので、ソルファインは話題を変えることにする。
「そういえば、ブライド・オブ・ダーツの手がかりなどは見つかったんですか?」
「いいえ。兎島についてすぐ、ここで足止めされてしまって。調査は欠片も進んでいないんです」
「でしたら、花音様。ブライド・オブ・ブレイドはどこにあったんですか? もしかしたら似たような場所に隠されているかもしれませんよ」
その質問に、花音は急に眉根を寄せて考え込みはじめる。
「え? えーと……どこだったかな。なんだかそのあたり、記憶が曖昧なんですよね……」
「それなら前にポータラカ人に捕まって、そのときに手に入れてなかったっけぇ?」
エメネアの発言に、花音はぽんと手を打ちそれだと言いたげな顔になる。
「……つまり、ポータラカ人の拠点にあったのを奪ってきた、ということ?」
「そう、だと思います」
どうにも中途半端な記憶になんだかすこし心配になるソルファイン。ともあれこれ以上、花音の記憶から手がかりは掴めそうにないということだけは察した。
会話が途切れかけたところで、民家の中を見渡していたリカインが口を開く。
「あの。間宮さんと川口教授の遺体はどうしたの?」
「隣の部屋です。医学知識がないあたしたちとしては、詳しく調べてくれる人を待っているわけなんですけど……」
「それならちょうどよかった」
と、そこへ誰かの声がかかった。
声のした入口のほうへ視線を向けると、
そこは九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)と冬月 学人(ふゆつき・がくと)。
さらにラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)。
そして、パラミタ虎を連れたラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)とクロ・ト・シロ(くろと・しろ)がいたのにはさすがに全員驚いた。
「医者として、癒しのフラワシ使いとして、私にできることがあると思ってね」
「俺も医学生だから、多少はわかることもあるはずだからな」
その中で進んで前に出たのはロゼことローズと、ラルク。
どうやら彼ら彼女らも、救援のためにわざわざ足を運んでくれたようだとわかり。
「それじゃあ、お願いできますか。こっちです」
「わかったわ」
「任せてくれ」
花音に促されるままふたりは隣の部屋へと赴いて。パートナーが心配なのか、学人もその後に続いた。
「それじゃ、私も私にできることをしましょうか」
その様子を見つめつつ、ラムズも死因を調べたりしようかと考えていたが。獣医の心得しか役に立つものがない身としては、そちらはふたりに任せわたげうさぎを調べることに決める。
「十五分経つか、何か見つけたら戻って来て下さいね〜」
手始めに、強盗鳥を飛ばして民家の周囲に不審なものがないかの調査を任せておいた。
そこでふとリフルが思い出したように口を開かせる。
「……そういえば、周囲はわたげうさぎに囲まれているのに。皆さんよく無事でしたね」
「え? ああ。私も警戒してたんですけどね」
「あの兎共wwwオレらを襲ってこなかったんだぜwwww」
「あ! ほらねぇ。やっぱり、うさぎさんたちは何も悪くないんだよぉ」
ラムズ達の答えにエメネアは嬉しそうに笑ったが、リフルとしてはパラミタ虎に怯えて近寄ってこなかっただけでは? とも思った。
「……でも、何事も起きていないのが逆に不気味でもあるわね」
「まあなんにせよ、検死が終わるまで待とうじゃないですか」
ということでしばらく待つことになった一同だが。
こういった状況で何事もなく時間が過ぎるはずもないのがパターンである。
発端になったのは、強盗鳥が戻るのを待っているラムズ一行。
そもそもラムズにはとある持病があり。そのせいで通達にあった『攻撃方法は不明なれど十分に防備を固めて行くこと』の点をすっかり忘れて軽装でここを訪れたことにあった。
そんな頼りない主人をみかねたパラミタ虎は、わたげうさぎに近寄りにおいをかいだり軽く吠えたりしていた。何人かの生徒はうさぎ食べちゃったりしないだろうなとハラハラだったが。
ラムズもクロも、ペットを信頼しているので注意を向けていなかった。
そして、
「え?」
突然、パラミタ虎が横倒しになって倒れた。
「あれ? れれ、どうしたんですか〜」
「ちょwwww先走んなしwwwwwwww」
空気が緊張していく中、ラムズは真っ先にかけよった。
クロはそれを止めようとしたが、それさえ振り払い獣医の心得で具合を診ていく。
「ったくwwwwしょうがねぇな」
しかたなくクロは嵐のフラワシ『旧神バースト』を出現させ、警戒にあたる。
と、同時に。コンジュラーであるクロの目はそれをとらえた。わたげうさぎの群れに混じっている、一体の青白い、人型をしたフラワシを。
「うっ、あぁあぁあああっ!」
叫んだのはラムズ。
クロにはなにが起きたのかわからなかった。
わたげうさぎになにかされたのか、それともやったのは目の前にいるフラワシか。
どちらにしても確かなのは。ラムズが急に苦しみ出し、倒れたということだった。苦しそうに胸元を押さえ、脂汗が尋常じゃないほど出し、頬も熱を帯びている。
「ほら! いまの青白い影、見ましたよね!? フラワシ使いが攻めてきたんです!!」
「えぇ? どこどこ、どこですかぁ? あーん、私には見えないですぅ」
「……あれ。フラワシって、食べ物じゃなかったの? なんだ残念」
花音たちが後ろで騒いでいたが、リカイン達がすぐに中へ押し戻しているのが目の端に見えたが。そんなことを気にしている余裕はクロにはもうなかった。
「……殺るか」
クロが端的に呟くと、使役する旧神バーストもそれに同調し素早く飛び出していた。
標的はもちろん青白フラワシ。両者がぶつかりあうと、わたげうさぎはあっちこっちに散開していく。コンジュラー以外の人間に攻防は見えないが、うさぎたちの鬼気迫る様子で戦闘を感じ取る。
そして決着はすぐについた。というか、相手は劣勢を感じ取ると唐突に姿を消してしまった。どうやら使い手が呼び戻すかなにかしたのだろう。
「逃げたかwwwwじゃあ、後は……」
クロはわたげうさぎを睨みつける。
原因がこちらにある可能性も残っている以上、ひっつかまえてやろうとしたが。
「待った!」
「うさぎたちには、手を出さないで欲しい」
そこへ熊谷直美と佐々木八雲が、立ち塞がるように現れた。なぜか白馬を連れて。
「じつはさっき、わたくしは適者生存を使ってみたんだよ。わたげうさぎが操られたりしているなら、逃げることはないと考えていてね」
まだ戦闘意識がおさまらないクロに、直実は説明をはじめる。
直実としてもわたげうさぎを怯えさせるマネはしたくなかった。心の中でも、かなりかわいいなと思いながらも試してみた行為。それをムダにするわけにはいかない。
「でも結果はこのとおり。カンタンに逃げ出してる。つまりわたげうさぎは、この件に関係ない可能性があるんだよ」
いまも八雲が白馬を操り、わたげうさぎを追い立てていくと。連中はすぐにまた散っていく。そのさまを見てクロもわずかに敵意を薄らせはじめ。
八雲は上で待機中の弥十郎に、精神感応で連絡をとってみる。
“そっちはなにか見つかったか”
“民家の裏手でも、すこし戦闘があったみたいだねぇ。もしかしたらそいつが例のフラワシ使いかもしれない。うさぎたちはばらばらに散っていったし、一旦降りるよぉ”
そうして、宮殿用飛行翼を背につけた佐々木弥十郎が降りてきた。
同時に、ラムズの強盗鳥も戻ってきたが。怪しいものを見つけてきた様子はなかった。
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