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リアクション
chapter.7 地下三階(2)・忍
いつの間にか数を増していた忍たち。
廊下の影や天井、至るところから現れた彼らは、「ブラッディ・ディバイン」と呼ばれる鏖殺寺院の一派が放った忍の集団だった。
「くっ……」
お華はクナイを構え、生徒たちと背中を合わせる。
と、その前に、緋山 政敏(ひやま・まさとし)が彼女を守るように立った。きらりと鈍く輝く刀を振りかぶり、ギンと血走った目で忍たちを睨み付ける。
「お前ら、分かっているのか。俺たちが守っているのは、この世界の未来を照らす御宝なんだぞ!」
そう言うと政敏はまたギンと血走った目でお華……いや、正確にはお華の太ももを見た。
細身ではあるが、しかしいい肉付きだ。ふにふにした太ももに気合いと下半身のボルテージが上がる。
「お前らが何者で誰に雇われたなんざ知ったことじゃない。だがな、御『身』体だけは命を賭して守る!」
「ご、御神体……!」
その気合いに気圧される忍。
彼らがいる空間は「ごしんたい」との言葉を受けて「まさかブライドシリーズか?」というざわめきが走った。
が、よくよく見ても目の前にあるのは妙に粋がっている青年と、美味しそうな太ももだけである。
「おい、構うな。とにかく障害を排除するんだ」
敵はすぐに小太刀を抜き払い襲いかかってきた。
「来る……!」
「大丈夫、お華さんは……いや、ブライドオブフトモモは俺が守ってみせ……」
「このすけべっ!!」
パートナーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)の鉄拳が振り下ろされた。
「ぶっ!? いててて、急に何を……!」
「さっきからお華さんの太ももばっかジロジロ見て、いやらしいっ! 何がブライドオブフトモモよ!」
「おまえこそ馬鹿言うな! 思春期の男子にとって太もも以外ブライドしてるものなんてないだろっ!」
見事な青春の叫びを吐露するなり、政敏はバーストダッシュで忍に突っ込んだ。
「あんの馬鹿……そして、スケベ……!」
帰ったら後が恐そうだが、今は目の前の敵に集中だ。
素早い動きで飛び回る忍は、政敏との力押しの勝負を避けて、ヒットアンドアウェイの立ち回りで細かくこちらの体力を削ってくる。四方から繰り出される斬撃を凌ぐのに彼が手一杯になるや、忍たちはふと妙な動きを見せた。
だがしかし、それをカチュアは見逃さなかった。
袖の下からこぼれ落ちるキラキラと輝くもの……間違いない、しびれ粉だ。
「政敏!」
彼女は叫ぶやいなや、乱撃ソニックブーム放った。
巻き起こる突風が粉を散らし、そして更には大きく上に逸れた残撃が天井に切れ目を入れた。
「どこを狙っている」
「さて、どこかしらね……」
鼻で笑う忍に、カチュアは不敵に笑い返す。
この機に反撃に転じようとする政敏だったが、ふと舞うしびれ粉がお華に向かうのが目に入った。
「危ないっ!」
粘体のフラワシを発動させ舞う粉から彼女を守る。
「くうう……」
「ま、政敏……だっけ? 大丈夫?」
背中に駆け寄るお華に、グッと親指を立て無事を知らせた。
「なに、このぐらい屁でもないさ」
その隙に、もうひとりのパートナーリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)が忍を追い込む。
軽身巧で踏み込みの足音を消し、音も無く忍に則天去私の一撃を放った。
「我らの得意とする無音歩行で裏をかこうなど、笑止千万」
がしかし、忍は攻撃をひらりとかわして、逆にリーンを隼のような速度で斬りかかる。
「ぐ……っ!」
防御を固めるも、すこしづつ彼女は後ろに追いやられていた。
「そろそろトドメを刺してやろう」
勝利を確信した言葉が飛び交う影から聞こえたその時、リーンはカッと目を見開き、遠当てを放った。
「なんだそんなもの」
ひらりと避ける忍たち……だが、リーンの目線は忍ではなくその向こうにあった。
先ほどカチュアが傷付けた天井の一部分。崩れ落ちるギリギリで持ちこたえていたそれは遠当てを受けて、一気に決壊した。
重力を受けて、天井だったものが真下の忍たち目がけ降り注ぐ。
「今よ、行きなさい!」
リーンの声に反応し、再び政敏がバーストダッシュで飛び込む。
「うおおおおおっ!!」
必殺のひと薙ぎが、忍たちをまとめて薙ぎ倒す。
「ぐうっ……!」
刃を伝う確かな手応え。
なにか鎖カタビラ的なものを装着しているようだが、そんなもの彼の必殺の一撃の前では薄皮も同然。
バキボキと嫌な音を脇腹から響かせ、壁に叩き付けられた敵たちは動かなくなった。やはり素早さに重点を置いてる分、防御力は低いらしい。
「どんなもんだ!」
勝ち誇る政敏。だが突然「……うぐっ!」と呻いた。お華、そしてカチュアとリーンが慌てて駆け寄る。
「ど、どうしたのよ、どこか怪我でもしたの? まさかすれ違い様に刺されたとか!?」
お華が心配そうに言うと、政敏は今にも死にそうなか弱い微笑みを見せた。
「へ、へへへ……俺、守れたかな」
「政敏……」
思わずお華はその手を取った。
「ち、ちくしょー……め、目が霞んできやがった……」
「政敏!?」
彼はガクンとうなだれた。
と思いきや、急にその手をお華の太ももに滑らせた。
「……ちょっと、あんた」
「太もも、守れたかな……へへへ……」
なんだか、この「へへへ」は、格好良くない方の「へへへ」に聞こえる。
次の瞬間、本日二度目となるカチュアの鉄拳が政敏に入った。
ちなみに、政敏は先ほどのしびれ粉をすこし吸っただけだった。怪我人のフリをしてすけべを働いてはいけない。
◇
敵はまだ残っている。一、二、三人……闇に潜む敵全てを目で捉えることは難しい。
久世 沙幸(くぜ・さゆき)は警戒しながら、ふと政敏にかまっているお華を見た。
「うーん、やっぱり色っぽいなぁ……」
はぁ、とため息をこぼした沙幸をパートナーの魔鎧ウィンディ・ウィンディ(うぃんでぃ・うぃんでぃ)は不思議そうに見た。
「仕事そっちのけであのお華とやらとキャッキャウフフするのかと思っておったが……意外にも大人しいのぅ?」
「べ、別にキャッキャウフフとか……!」
沙幸は唇を尖らせた。
「ただあの身のこなしとか仕草とか、私の今後のグラビアアイドル活動の参考になるかなーって思っただけだよ」
「ほう。じゃがここまでの道中話す機会はあったのじゃから声ぐらいかければ良かったろうに」
「ううん、今の私は調査隊に参加した一契約者、だから探索に力を入れるつもりだよ。それに……初対面でいろいろと質問して不審がられるよりも、ここで活躍して一目置かれるようになってからのほうがいいかなって」
「ふむ、なるほどな。ならばわしを纏うがいい」
「え……あ、あの格好はちょっと……」
「何を恥ずかしがっておる。今のお主は地味すぎなのじゃ、わしを纏えば目立つのは間違いナシじゃぞ」
「って、ひゃうっ」
あっという間に変化すると、沙幸の着ていた服をパンツの一枚に至るまで光の粒子に変えて消し去る。
そして、その素肌に直接自分の身体を重ねた。
久しぶりに堪能する彼女の柔らかな肌の感触に「おっほ」とウィンディも吐息を漏らす。その性格は、ややおっさんぽかった。
「ええのぅ、若い女子の肌は張りがあってよう馴染む」
「や、やめてよもう」
変化したウィンディ……セクシーな改造和服の裾を恥ずかしそうに押さえながら彼女は言った。
「こうなったら、せめて活躍してやるんだから!」
沙幸はキッと忍を睨み付けるや、すぐさま部屋に飛び込んで柱の裏に隠れた。
「小娘……そんなところに隠れても我らからは逃れられん」
「すぐに楽にしてやる」
小太刀を手にゆっくり柱に、沙幸に敵が迫った。
その時、ニュッと柱の影から飛び出したのは……沙幸の白い生足であった。お華の太ももに負けず劣らず柔らかそうなその美脚に、忍も興奮を忍びきれない。むしろスレンダー傾向にあるお華より若干肉感のあるその太ももは、より忍たちの欲望を駆り立てた。どうやら、彼女の体つきと忍のニーズが一致したらしい。
「おお……」
思わず小太刀を握る手から力が抜ける忍。彼らとて、男なのだ。
「ふっふっふ、まんまとかかったわね」
「あっ……!」
沙幸は隙を突き、袖の下に忍ばせていたしびれ粉をおもむろに投げつけた。咳き込んだ後、不意に彼らはビリビリと身体を硬直させて動かなくなる。
「今だよっ!」
小悪魔ウィンクで味方に合図。後の始末は任せた、という意味がそこには込められていた。
「よーし、任されたわ!」
それを受けて元気よく飛び出したのは山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)だった。
如何にも主人公然とした態度なのは、テレビゲームの影響らしい。もしかしたら、ゲームと現実の区別が付けられなくなってしまっている世代なのかもしれない。
「ふふ〜ん、謎の地下のお城……主人公のあたしに相応しいステージね! ここであたし、山本ミナギの縦横無尽の活躍を見せつけてあげる!」
ニヤリと笑って、二丁拳銃を構えた途端、その真上に巨大な影が重なった。
「へ?」
「そこの忍の人、覚悟っ!」
「きゃあああああ!!」
契約者の獅子神 玲(ししがみ・あきら)がゲシュタルの名を持つ超重量級のグレートソードを振り下ろした。
スタンクラッシュの一撃は床板を容易く吹き飛ばし、板は手裏剣のごとく痺れる忍たちに飛んでいった。運悪くそれを食らった忍の何人かが、がくりと気絶した。
ついでにミナギの後頭部にも、運悪くどかどかと山のように板が命中し、彼女は悶絶して転がっていった。
「すごい技だね。なんていうか、豪快?」
お華も思わず感嘆の息をこぼしつつ、えぐり飛ばされた床を見つめた。
「いえいえ、それほどでも」
照れ笑いする玲。そこから玲は、軽く名乗った。
「挨拶が遅れましたね。初めまして、一飯の恩があるハイナさんから護衛の依頼を受けて来ました、獅子神玲です」
「あたしはお華、よろしく」
「これはお近づきの印に……」
とメロンパンを渡す。なぜメロンパンなのか分からないが、とりあえずお華は受け取ることにした。
「あ、ありがと……後で食べるよ」
玲は嬉しそうに微笑み、他の忍に目を向ける。
「さぁ一気に蹴散らして道を空けますよー!」
嬉々としてゲシュタルを振り回し、進路を切り開く……かに思えた彼女だったが、そう長くは続かなかった。
元々、闘争本能の強い彼女は長時間戦い続けていると本能を理性で抑えきれなくなってしまうのだ。
「ああ、が、我慢できな……グッ……ガァァァ!!!」
鬼神力の自動発動。金色の髪と一本角を生やした狂戦士と化してしまった。その姿はまさに金鬼と名付けるに相応しい。
凄まじい唸り声を上げて、敵味方問わず玲は手当り次第に蹴散らし始めた。
「きゃあああっ! な、なになにっ!?」
あわてて沙幸はお華の元に走ってきた。
「あの子の力、危険ね……」
ぽつりと呟き、お華はその様子を観察している。と、次の瞬間、お華と沙幸の体を、縄が捕らえた。
「あんっ」
「ひゃうぅ」
気が付けば、ふたりは亀甲縛りで天井の梁から吊るされていた。
「え、な、なによこれ?」
「うーむ……我ながら見事な縄さばきだ」
玲のパートナー、藤原 千方(ふじわらの・ちかた)が満足げに頷いている。
クールな面持ちの千方だが、その中身は度し難いほどの変態。
女子の嫌がる顔がご馳走と言う、自分が男子なら友達になりたいが、女子なら半径二十メートル以内に入れたくない逸材だ。
隠形の術で姿を隠し、こうして機会を窺っていたと言うわけである。さすがのお華も、こちらの陣営から縄が飛んでくるとは思わず、回避が遅れたようである。
「こ、こらーっ!」
後頭部に刺さった板をプラプラさせながらミナギが吠えた。
「戦闘中にふざけた真似するなーっ!」
「何を言う。今こそ、くの一の武器、『色香』を全開で使う時だろうが!」
そう言うや神速の縄さばきでミナギも亀甲しばりにして吊るす。
「きゃあああ、や、やめてぇ〜!」
「なんと甘美な悲鳴よ。しかし、今宵のメインディッシュはお華だ」
ペロリと舌舐めずりをし、縄で協調された胸をまさぐろうとする千方。
「な、なんかすごいことに……」
同じく吊るされた沙幸は、目の前でこれから起こるであろう光景を連想し、真っ赤に頬を染めた。
無論のこと、敵の忍たちはお店に行かなきゃ見れないようなショーを見せられて思わず前傾姿勢。
しかしそこへやってきた玲が「ガアアアア!!!」と縦横無尽に敵を薙ぎ倒していく。
「フフフ、素晴らしい色香だ……」
千方がお華の胸に触れようとした時、折り返してきたブルドーザー玲のひと薙ぎが、千方の後頭部を直撃した。
そのまま玲は去って行ったが、千方は受け身も取らず倒れたまま動かなくなった。因果応報とはこのことだろうか。
「……って、私たちの縄をほどいてから気絶してよ!」
沙幸とお華は、体をじたばたさせながら大声で声を浴びせるのだった。
◇
お華の前に立ちはだかる忍、忍、そしてその後ろにも忍。彼らを五列ぐらい掻き分けたところで、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は血走った目でお華を見ていた。
「あのスタイル、あの態度、そしてあのセクシー忍法……! 私とキャラ被ってるじゃない!」
親指の爪をガッとくわえ、血がにじむまでガリガリ噛む。
「大体何よ、話を聞くと何時も男四人で行動してるとかさ、それなんて天国よ。そう言えばさっきも男に自分の太もも触らせてたわね、あのすけべ女っ。第一共学ってことはさ授業をこっそり抜け出したりして、あんな忍術やこんな体術でうっふんあっはんし放題じゃん。こっちは女子校で苦労してるのに!」
あまりに直球の嫉妬である。彼女がお華を抹殺対象に加えるまでそう長い時間はかからなかった。
嫉妬の炎をメラメラ燃やし、ここはひとつ、彼女より自分が上であることをアピールせねばと思い当たる。
「貴様、我らを前にしてどこを見ている」
そんな彼女の思いを知る由もなく、忍たちは爪をガリガリする彼女に襲いかかった。
だがしかし、爪を噛みつつもそれは所謂メンタルアサルト。隙だらけに見えるがその実、戦闘態勢は既に整っていた。
「あのエロくの一がスピード重視なら、こっちはパワーよ!」
炎術と焔のフラワシを展開。まるで小さな太陽のような熱量を生んだリナリエッタは、鮮烈な印象を植えつけた。
思惑はどうあれ、望み通り彼女は目立っていたのだ。
「燃えろ……わたしの熱い炎っ!!」
噴き上がる炎が壁をなし、忍たちの退路を完全に塞ぐ。
「こんなことで勝ったつもりか……!」
刀を振り上げる忍、だが次の瞬間、炎の嵐に吹き飛ばされてしまった。
「!?」
驚く忍。それは、パートナーのベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が放ったファイアストームだった。
「君らには聞きたいことがある。大人しくしてもらおう」
「お、おのれ……」
「君たちだって痛い目には遭いたくないだろう?」
不敵に笑うベファーナの横をリナがすり抜ける。
「私のほうがイケてるのよおぉぉぉっ!!!」
「うわあああああ!!」
渾身の爆炎波が敵を飲み込む。
「……しまった。折角、忠告したのに痛い目に遭わせてしまった」
ギラギラした目つきのリナリエッタにため息を吐き、ベファーナは倒れる敵の胸ぐらを掴んだ。
「誰の命令でここまで……わっ!」
リナリエッタはどんと突き飛ばし、代わって忍の胸ぐらを掴むと鬼眼を放った。
「あのこと私どっちがセクシーだった?」
ビシッとお華を指差し言う。
「あうあう……そ、そでは……ぐ、ぐるじいいい……!」
胸ぐらを締め過ぎて、敵は泡を吹いて気を失った。
「……ちっ!」
どさっ、とリナリエッタは雑に忍を放ると、近くに横たわっている忍にも同じ質問をしていた。
荒ぶる彼女の戦いぶりを見ていたアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は肩をすくめた。
「やれやれ、向こうのお色気ねーちゃんは見た目だけじゃなく戦い方まで派手だな」
それから、吊るされっぱなしのお華に顔をしかめ、アキュートはその縄を切ってやった。
「すごい状態だったな……」
「な、なんでこんな目に遭わされなきゃなんないのよっ。むかつくんですけど!」
「まぁ長い人生そういうこともある。ところで……加勢はいるかい?」
「もう! 暇そうにして! 手が空いてるなら、とっととやっつけちゃってよっ!」
「てっきりお前さんたち、状況を楽しんでいるんだと思ってたが……そいつは気が利かなかったな。失礼」
そう言うと、ミラージュで幻影をその身に纏わせ、ゆっくりと円の動きで敵に近付く。
「マンボウ、戦いの邪魔になる。怪我人を片付けておけ」
「よかろう」
すると光学モザイクで潜伏中のマンボウ、いや守護天使ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)からワイヤークローが放たれた。
ワイヤーは千方をとらえるとずるずるとウーマの傍まで引き寄せる。
「我が衣、光輝きて、この者を癒やさん」
千方の巨大なたんこぶに生ぐさ〜い唇を寄せると、そのままくるくると天井に向かって昇って行った。
はがれ落ちる鱗がキラキラと幻想的な雰囲気を醸し出しているがとにかく生臭い。磯臭い。
「ウーマ、敵は死角を利用して攻撃してくるようです。あなたも気をつけて」
「大丈夫だ、見守っている」
「フフッ。視野の広さは誰にも負けませんものね」
クリビア・ソウル(くりびあ・そうる)の言葉を背景にウーマが天井辺りに消えていった。
「……大分、緊張感がそがれたな」
「そがれた分はこれから取り戻せばよろしいですわ」
クリビアは言うなり、素早く忍との間合いを詰めた。
リヒト・ズィッヘルの名を持つ槍で斬り結ぶ、バーストダッシュで緩急を付けた体捌きはとらえどころが無い。
忍たちもどう攻め込んでいいのかわからず、攻撃に迷いが見える。
「なるほど……」
戦力を推し量ったクリビアは間合いをとり……次の瞬間、槍から光る鎌刃を出現させた。
敵の驚く顔を置き去りに、一気に振るわれたそのひと薙ぎは瞬時に敵を死のふちへと追いやった。
「雑草ほど刈り応えがありますね……さて、アキュートの方は大丈夫でしょうか……?」
彼は纏った幻影で敵を翻弄しつつ戦っていた。
わずかに輪郭と重なるようにして纏った幻影は、彼が動けば残像を残し、容易に敵に間合いを計らせない。
「面妖な術を使う……!」
「おっと、よそ見はあぶねえぜ?」
「!?」
円の上を走る残像に紛れ、アキュートは背後から斬り捨てる。
「おのれっ!」
すかさず振り下ろされた刀を鉄のフラワシで防御。
フラワシを視認することのできない敵は空で弾かれた刀に目を白黒させる。
「残念」
返す刃で忍の胸を真一文字に裂き、ゆっくりとそして確実に骸を重ねていった。
「おっと……ゆっくりもしてられないか」
固まる敵に一団に目を付けると、何をためらうこともなく、平然とそのまっただ中に斬り込んでいった。
四方八方から迫る刃を刹那のタイミングで上方に飛ぶことで回避。ついでに光術で目くらましをかける。
その瞬間、アキュートの無謀な行動に驚いたクリビアが飛びこび、光鎌の一閃で敵を一網打尽に両断した。
「流石だな」
「アキュート! 合図くらい出して下さい! 私が飛び込まなければ、危ないところでしたよ!」
「なあに、問題ねえさ。ナイスタイミングだったぜ?」
「まったく、あなたという人は……」
飄々と肩をすくめ、アキュートはお華に視線をやる。
「ねーちゃん、残りはもう僅かだ、一気にたたんじまおう」
「そうね、さっさと倒しちゃおう!」
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