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【ニルヴァーナへの道】ツミスクイ 突ノ章

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【ニルヴァーナへの道】ツミスクイ 突ノ章

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chapter.14 地下五階(4)・崩 


 戦いを終えた彼らの疲労を癒していたのは、椋のもうひとりのパートナー、在川 聡子(ありかわ・さとこ)だった。
「重症の方はいませんでしょうか?」
 彼女は甲斐甲斐しく天使の救急箱とヒールを代わる代わる使い、椋だけでなく他の疲弊した生徒たちの回復も行っていた。
 しかし、この大人数では彼女ひとりで回復しようとするには些か時間がかかるようだった。
 待ちきれない、という様子で宗吾が曲刀のあった場所に歩いていく。それを見て聡子は、ぼんやりと思った。
 これほどブライドオブシリーズを求めるだなんて、よほど強くなりたいのでしょうか……。
 聡子は、知っていた。
 強力な武器を使うには、相応の実力も求められることを。
「花嫁も、相当な方ではないといけない気がしますの……」
 自身も剣の花嫁である彼女は、そうぽつりと呟いた。誰に向けて宛てた言葉かは分からない。
 が、自分も強くなるべき時が来たのでは、と彼女が感じたのは確かであった。

 さて、宗吾が近寄った曲刀はというと。
 最初に見た時のくすんだ印象はまったくなく、逆に神々しい輝きを内側から放っていた。その様子は、ブライドオブシリーズを名乗るに相応しいものであった。
「やっぱりこれが、ブライドオブハルパー……!」
 一体なぜ、異形を倒す前と倒した後で刀は姿を変えたのだろうか。その答えは、神海から明かされた。彼もまた宗吾同様、回復を待たずして曲刀へと駆け寄っていたのだ。
「おそらく、先程この刀から滲んでいた瘴気が、あの異形の正体であろう」
 神海は簡潔に話したが、実際には曲刀だけの瘴気が異形となったのではなかった。

 ツミ。
 それが、異形の正体であった。
 今眼前にあるその曲刀は、想像を遥かに超える強力な武器である。だからこそ、ブライドオブシリーズを名乗ることを許されたのだ。
 しかし、その強さゆえ、この刀は多くの罪を生み出した。ある時は数多の血を吸い、ある時は権威の争いの道具となって。
 その罪が刀自身に長い年月を経て蓄積され、地下の瘴気と混ざって具現化したものがあの異形である。一切の攻撃を吸収していたのも、攻撃する、即ち危害を加えるという意思自体が既に罪である故、ツミを膨らませただけだったのだ。
 液体状のものに液体を足しても、水かさが増えるだけなのと同じ原理である。
 ただ罪にも、耐荷重がある。
「罪の重さに耐えられない」という言葉があるように、罪は重さを持っているのだ。
 今回は、罪を大量に蓄積したため、ツミが耐えかねて破裂した。最後にツミが訴えかけるような目をしたのは、もしかしたら過剰に膨らんだ罪に潰され「ゆるして」と言っていたのかもしれない。今となっては知る由もないが。

 しかし宗吾は、そこまで深くを考えない。
 結果として異形が倒れ、目の前にブライドオブハルパーがある。それが彼にはすべてだ。
「どれ、じゃあ抜かせてもらうとするか」
 宗吾が刀に触れようとする。が、彼の他にも真っ先にそれを入手しようとしている生徒はいた。
「ちょっと待ってくれ、まだ誰かの妨害が入らないとも限らない。横取りの可能性だって……」
 そう言って近づいてきたのは、正悟だった。いや、彼だけではない。
 どんなことをしてでも強力な力を手に入れたいと密かに願っていた椋、そしてブライドオブハルパーの確保を目標としていた美羽も正悟に続くように刀へと歩み寄った。
 が、その時だった。
「!?」
 突然辺りを暗闇が包み、反射的に彼らは足を止めた。
「皆様、ご案内ありがとうございました。ふふふっ……」
 闇の中聞こえる声。彼らはかろうじて、その暗がりの中に声の主の輪郭を捉えた。長い髪、露出した胸、おそらく緑色と思われる髪と目。
 それは、ある人物を連想させる特徴だった。この地下城に入った時からずっと一行についてきていたその人物は……そう、ハイナである。しかし、なぜ彼女がこのような行動に?
 答えは、至極単純であった。
 彼女は、ハイナであってハイナでなかったのだ。
 地下城についてきていた彼女は、ハイナに「なりきり」や「自前衣装」などで変装をしていた秋葉 つかさ(あきば・つかさ)だった。
 彼女はずっと、この機会を伺っていたのである。目的まではひたすら目立たず過ごし、ブライドオブハルパーの入手寸前で闇術を使い不意を突き、獲物を手に入れる。恐ろしいまでに計画的な犯行だった。
「おかげ様でこれを手にすることが出来そうです。なんでしたら、奪われないように刃の部分を手のひらに貫通させてもいいですね。そうすれば奪いたくても奪えない……ふ……ふふ……」
 つかさは心に鬼でも宿しているのか、その顔を酷く歪ませていた。
 彼女はダークビジョンで自分だけは動けるのだと確信し、サイコキネシスを使って刀を引き寄せようとする。
 だが、彼女のような存在を誰も、まったく予期していなかったわけでもなかった。
「これは、奪わせない!」
 まだ視界が満足に戻らない中、声のする方へ向かって攻撃をしかけたのは、正悟だった。その攻撃の対象が腐れ縁のつかさであるとは気付いていない。
「邪魔をするんですか? いいでしょう、首をはねてあげますよ」
 つかさは、攻撃をしかけてくる正悟に容赦なく真空波を放つ。このままでは、正悟の首から鮮血が飛び散ってしまう。が、その光景は現実のものとはならなかった。
「いると思ったよ。こういう行動に出る人がね」
 正悟の他にもうひとり、万が一に備えていた者がいたのだ。それは、万が一五階で不審な行いをする者が現れた場合、すぐに行動できるよう心構えをしていた天音であった。
「人質にされることを危惧していたが、まさかそのものに化けるとはな」
 天音は素早くブルーズに指示を出し、彼に鉄のフラワシを発動させていた。堅牢さを誇るそのフラワシが、つかさの真空波を暗闇の中でも防いだ。
「……皆様の甘さに期待していましたが、残念ですね」
 目論見が潰え、つかさは舌打ちをした。正悟と天音は、危うくブライドオブハルパーが横取りされるところだったところを間一髪防いだのだ。
 しかし、次の危機は既にこの時彼らに迫っていた。
 薄れていく闇に紛れ、ピキ、と音が聞こえた。上方からだ。
「……なんだ?」
 晴明が敏感に音を聞き分け、上を見た。直後、彼は目を疑った。
 広間を埋めている天井に、大きな亀裂が入ったかと思うと、一気に天井が崩れてきたのだ。
 危ない。
 そう叫ぶ間もなく、晴明たちは崩落に巻き込まれた。
 瓦礫が空間を埋め尽くすように降ってくる中、崩れる瞬間を見ていた晴明はその視界にある人物を捉えていた。
「おい……なんでそこに……!」
 瞬間、瞳へ映りこんだのは、階上で踵を返し姿を消していく千住だった。

 晴明は次々と目まぐるしく変化していく状況に追いつくことができず、ただ魂を抜かれたように口を開けていた。直後、深守閣に天井だったものが積み上げられ、粉塵が舞う。
 その埃が晴れた後、宗吾も神海もお華も、そして晴明の姿すらもそこには見えなかった。


担当マスターより

▼担当マスター

萩栄一

▼マスターコメント

萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加して頂きありがとうございました。
公開予定日より遅れての公開、申し訳ありません。

各階層にどのくらい人がバラけるかとアクションがくるまでドキドキしていました。
結果、お華のところにかなり多くの方が集まりました。
同じくらい多かったのが五階の異形関連でした。
考えてみれば今回お華はハイナ以外唯一の女性キャラということもあり、この結果でもおかしくはないなと感じました。
ただ、お華関連はうまいことお華との絡みや敵忍への対策がバラけていたので大丈夫だったのですが、
五階の異形戦はいくつか重複していたり大部分が被ってしまっているアクションなどがあったため、
そういった場合は全採用とすることが出来ませんでした。ご了承ください。

今回の称号は、MCLC合わせて3名のキャラに送らせて頂きました。
また、いつもは私信に欠かさずお返事をさせていただいているのですが今回都合により、
称号の付与と招待のご連絡という最低限のみ個別コメントとなっております。
せっかくアクション欄を割いて私信をくださった方、申し訳ありません。

次回のシナリオガイド公開日は11月上旬予定です。
詳しく決まりましたらマスターページでお知らせします。
長文に付き合って頂きありがとうございました。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。