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リアクション
第5章
再び、クリスタルフォレスト。
夏來 香菜は一度、森の入り口まで戻って来ていた。水晶化の危険性が改めて認識され、長時間、森の中にいるのは危険かも知れないと判断したためだ。
隊員たちがぞろ集まり、それぞれの報告を終えた。大まかにして、動くものは見られず、外見に反した死の森と化していることが確認された。
「動物たちは逃げたか、水晶に取り込まれたのね、きっと。……でも、そもそもどうやってこの森はこんな姿になったのかしら……?」
ぶつぶつと繰り返す香菜。堂々巡りの思考の森の中に迷い込んだようだった。
「……少し、休んだ方がいいよ」
ぽん、とその肩に高峰 雫澄(たかみね・なすみ)が手を置いた。引き返す間の護衛役だったのだ。
「すこし気を張りすぎだ。先ほども、雫澄が助けなければどうなっていたか……」
と、シェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)。水晶化の危機は同時多発的に隊を襲っていた。ユーリほどの危険があったわけではないが、香菜もまた、水晶化に巻き込まれそうになったのだ。
「ごめんなさい。でも……」
「焦る気持ちは分かるよ。この森でも、水晶に取り込まれると生命力が奪われるみたいだから。メルヴィアさんの生命力も、いつまで保つか分からない。でも、焦って間違った判断をしてしまったら、解決の道のりも遠ざかるだけだ」
「……そうね」
自覚しているのだろう。それでも、気を詰めずにはいられない、難儀な性格だ。
「ひとつ……聞いてもいいかしら?」
雰囲気を変えるためか、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が彼らに向かい合った。
「以前、あなたはイレイザーが自分を狙っているように感じたそうだけど……なぜ、そう思ったのか、聞かせて欲しいの」
「大尉が私をかばって水晶になった時のこと……ですね」
「イレイザーの生態についてはまだまだ謎が多いのが現状です。あれらへの対策のため、少しでも多くの情報が欲しいのです」
と、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)。
「ち、ちょっと、あまりつらいことを思い出させなくても……」
と、止めかけた雫澄も言葉を飲み込んだ。彼女らの表情には厳しいものが浮かんでいる。学生ではなく、どんな手段を使ってでも目的を達しようという軍人のそれだった。
「ううん……思い出したくない訳ではなく、思い出せないだけよ」
香菜も彼女らの意図を察したらしい。
「メルヴィア大尉の調査隊に参加して、始祖の原野を調査していました。イレイザーの襲撃を受け、メルヴィア大尉の指示で各自で応戦しつつ撤退を始めたのですが……何故かイレイザーは、私を追ってきたんです」
「複数のターゲットの中からあなたを選んだのね」
ローザマリアに頷いて返し、報告のような返答が続く。
「他校の生徒もいましたし、私以外にも女子はいたのですが、その中で私を追ってきたので、私が狙われているのでは? と思ったのです。イレイザーに追いつかれて諦めた時、最後に見たのはメルヴィア大尉の背中でした」
ぴりぴりと伝わってくるものがあった。それは自責の念であろう。メルヴィアが被害を受けたことを、彼女は自分の責任だと感じているのだ。
「あのメルヴィアが人をかばうとは思っていなかったから、妾らも報告を聞いたときは驚いたものだ」
と、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が香菜の答えを受け止めたことを告げる代わりに言った。
「はじめに会ったときは、大尉への印象は……はっきり申しますと、悪い部類でした。ですが、何度かの衝突を経て、打ち解けることができた……と、思っています」
上杉 菊(うえすぎ・きく)が言葉を重ねる。
「だから、妾らはあの者の友人として、君の力になりたいと思っている。ローザは彼女の任務を引き継いだつもりのようだが、自分を納得させるために言っているだけで……」
「しゃべりすぎよ、ライザ」
ぴしゃりと告げて、ライザが香菜と向かい合った。
「……次は、森の最深部に向かうつもりなんでしょう? その護衛は、私たちに任せてもらえないかしら」
と、手を差し出すローザマリア。緊張を高められた香菜は、そっとその手を取った。と、その時だ。
「なにをするんですか!?」
はっとした表情で、その手はふりほどかれた。距離を取るように、後じさりする香菜。
「……まさか、彼女にサイコメトリを?
あまりの反応に驚いた雫澄が聞いた。
「無意識に封じ込めている記憶が読み取れるかも知れないと思って……」
と、告げるローザマリアに、香菜はぱっと背を向けた。
「……失礼します!」
その背を追おうとしたローザマリアだが、雫澄がそっと首を振ってそれを止めた。
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