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リアクション
「さて、今回の調査で分かったことをまとめるとするか」
クリスタルフォレストの付近に作られた拠点で、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が口を開いた。
「水晶を手に入れるのは、それほど難しくはなかった……ね」
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が、手の中の小瓶を示した。その中にはギフトの刃によって削り出された水晶のサンプルが納められている。
「でも、こうなっちゃうと単なる水晶なんだよね」
拍子抜けしたように肩を落とすヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)。
「ただの水晶?」
ようやく、気分が落ち着いてきたのだろう。香菜の顔はまだ青かったが、
「……大丈夫?」
と、杜守 柚(ともり・ゆず)に背中を撫でられて頷いている。なんとか話はできそうだ。
「つまり、この水晶の成分は単なる水晶……いわゆる鉱物でしかないってこと。かつて木だったものが水晶に変わったとは、とても思えない」
「でも、誰かが森の形に水晶を削ったなんて考える方が無茶じゃあないか?」
杜守 三月(ともり・みつき)が意見した。
「森だけでなく、人間の形にもな」
クレアが言葉を足した。
「この森の中央で、ずうっと昔にニルヴァーナ人が水晶化した……んでしょうか?」
と、柚。
「物理的にはむちゃくちゃだが、水晶化は呪いに似たものだという報告もある。魔法的な作用によって水晶化させていると考えるのがもっとも辻褄があっているように思えるな」
議長役のクレアが答えをまとめる。想像でしか語れないのが歯痒い。
「それから、強調しておきたいところだけど」
と、涼介は再び水晶のサンプルを掲げた。
「この中には、機晶のような、エネルギーらしきものは感じられない。……メルヴィア大尉のように、生命力のようなものがない」
と、いったん言葉を切った。裏を返せばメルヴィアには水晶化しても生命力が残っていると言うことで、香菜が傷ついていないことを確かめて続ける。
「この水晶は、生物だった痕跡がない。仮に植物や動物が水晶化したとして、生命力としか言えないエネルギーが奪われている」
「奪われている……というのは?」
クレアの問い。涼介はしばし、答えあぐねた。
「この中にはない、としか言いようがない。水晶化させたなら、閉じ込められてたって良さそうなものなのに」
「それに、水晶に取り込まれそうになった人は、エネルギーを奪われたように感じたみたいです。取り返しがつかないものじゃなくて、食事や睡眠で回復するという診断を聞きました」
と、柚。そのことを心に刻むように、香菜は頷いた。
「生命力を奪う……ということね」
「別働隊の報告によれば、彼らが出くわしたイレイザーが無機物を水晶化させたとのことだ。どうも、ニルヴァーナでは生物とそうでないものを区別したがるようだな」
「なんだ、じゃあ、これは単なるありふれた水晶ってことなのね。もっとお宝を期待してたのに」
シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、がっくりと肩を落とした。
「土を掘り返してみたんだが、見事。水晶化した虫らしきものが見つかったよ。動物や人間らしきものが水晶化して森の中で見つかったのは面白い発見だったね。私は、何者かが生物をさらっていったものだと予想していたんだけど」
と、月詠 司(つくよみ・つかさ)……に、憑依したサリエル・セイクル・レネィオテ(さりえる・せいくるれねぃおて)が酷薄な笑みと共に言った。
「その考え方で、正しいかも知れないよ」
と、アリアクルスイド。
「エネルギー反応がないのは、水晶だけじゃない。この森全体、ろくなエネルギー反応がない。契約者から奪われた生命力が森の中で何かに変わってるんじゃないかと思ったけど、吸い取られた後どうなったか、まるで見当がつかないみたい」
「エネルギーが虚空に消えたか……さもなければ、この森とはまったく別の場所に行ってしまったか、か」
なるほど、とクレアが頷く。
生物の生命力を奪う森。その裏側には、この森よりもさらに強大で恐ろしいものがあるように感じられた。
「ところで、私に体を貸してくれている司くんがみんなに伝えて欲しいことがあるらしいんだが、発言してもいいかな?」
と、サリエルが手を挙げて、クレアが続きを促した。
「この森の雰囲気……水晶化現象……そういうものとよく似たものを、かつて感じたことがあるそうだ」
「……やはり、そうか」
クレアがそっと目を伏せた。
「……よく似たもの、って?」
おそるおそる、香菜が聞いた。
「闇龍」
サリエルが、司の言葉をそのまま、伝えた。
かつてシャンバラ全土を滅ぼしかけたほどの力。
はっきりとは言えないが、クレアもまた、かつて体験したそれによく似たものをこの森から感じていたのだ。
「……な、なんだか、頭がぐるぐるしてきました」
柚もまた、香菜と同じように自分の顔も青くなっているだろうな、と思えた。三月に支えてもらってる状態である。
「……まとめよう。この森には、きわめて強力な呪いのようなものが存在している。生物の生命力を奪い、やがては水晶に変えてしまうものだ」
「奪われた生命力がどこにいったかは不明。ただ……」
クレアの後を受けた涼介が、頭を振った。
「誰かの意思を感じずにはいられないな。自然現象でも、超自然現象でもなくて……誰かが、こんな場所を作り上げたように感じる」
「そうですね。……呪いだって言うなら、解く方法があるはず」
少しでも、真実と解放に近づくことができたのだ。いつまでも、森にかけられた強大なのろいを恐れている場合ではない。香菜は息を吸い込み、隊への指示を口にした。
「それでは、今回のクリスタルフォレスト探索は以上とします。みんな、お疲れ様……それに、ありがとう」
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