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よみがえっちゃった!

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よみがえっちゃった!

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 言い訳をさせてもらえるなら。
 ただの占いだと思っていたのだ。
 よく街の辻などで見かける、1人用の机の前にイスを設置してお客を待ち受ける人。
 机もイスもなくて、歩ってる前をふさがれるようなことされたけど。それでも、占いは占いだと思った。

 注意する点は、「タダ」というところだったか。
 言うではないか。タダほど怖いものはない。

「どうしたら止められるんだ…」
 眼前で繰り広げられているルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)の戦闘という、悪夢のような光景にうなりつつ、榊 朝斗(さかき・あさと)は頭を抱えた。


 ナニガドウシテコナッタ?




 はじめはこんなにひどくなかった。……いや、始まりも十分ひどかったけど、ここまでひどくはなかった。と、思う。うん。

「あなたの思い出したい記憶か前世をよみがえらせてあげるのですよー」

 というフードマントの占い師の言葉に少し考え込んだルシェンが、ならばと申し出た。
「いいの? ルシェン」
「ええ。ちょうど気になっていたことがありますから。それに、ものは試しと言いますでしょ?」

 そうして占い師に術をかけてもらった結果、気がついたら朝斗はロープでぐるぐる巻きにされてラージェスからミノ虫のように吊るされていたのだった。

「ルシェン!?」
「ああ、なぜ忘れられていたのでしょう!? パラミタドームでわたしの写真展を開催するという夢を! あのドームじゅうを私のかわいコちゃんたちの写真で満たすのです! こうしてはいられませんわ! 一刻も早く写真を撮らなくては!
 まずはこのデジタルカメラのメモリをかわいい子の生写真でいっぱいにするのです!!」

 え? それが忘れてた過去の記憶?


「そ、それと僕がこうなっているのとにどんな関係が!?」
 はるか下の地面を見下ろして朝斗は真っ青になる。
「あら。キープというやつですわ。おいしいものは一番最後に残しておくんですの。
 安心してください、朝斗。朝斗のコーナーはもう計画済みです。今まで撮りだめてある分に今日の分をプラスしてデジタル写真集を作成して、あの一面モニターで24時間映し続けてさしあげますわっ」

「ええええっ!?」

 このルシェンのことだから、それがまともな写真であるはずがない。
 ケモミミとか、メイド服とか、アイドル姿とか……いろいろ思い当たるフシが多すぎる。
「ひどいよルシェン…」
 ルシェンの想像上でしかないのだが、早くもその光景が脳内で展開してシクシク泣いている朝斗をよそに、ルシェンは目当ての人物を見つけて飛び下りた。

「ちょっとそこ行くあなた! そう、あなたです! あなたはみごとわたしのセンサーにひっかかりました! おめでとうございます!」
「えっ……え?」
 目の前突然文字どおり天から降ってきた女性に、相手はすっかりとまどている。
「まずは衣装を揃えましょう! そんな格好で、あなたも写りたくはないでしょう! ――ひらめきました! ネコミミ看護師さんです!」
「あ、あの……あなた、だれ?」
「さあ、さっさとお着替えしましょう!」
「ちょっとーー!?」

 相手の反応などおかまいなし。
 とまどう美少年、美少女を捕まえてはかたっぱしからケモミミコスプレさせて、ポーズをとらせるやパシャパシャやり始める。


「ああすてき! すばらしいわ! 輝いてるわよ、あなた! きっとこの瞬間があなたの生涯で一番光り輝く時!」
 おーーーーーほっほっほ!!



 適当なことを口にしながらパシャパシャやっていたときだった。
 四つん這いにさせたケモミミ少年スチュワーデスをお尻の方から撮りながら、ふと思う。
「……何か足りないわね…」
 こう、インパクトのようなものが。
 なんか、似たような写真ばっかりになってきたし。


「これなどはどうか?」


 横から差し出されたのは、1本のもぎたてバナナ。
「え?」
 差し出された手を追って見ると、翌桧 卯月(あすなろ・うづき)がバナナをふさで抱えて立っていた。

 彼女は大まじめな顔をして、言う。
「これを彼にツッコむんだ」

 ――えっ?


「本当なら! 本当なら俺自身がツッコんでヤりたい! だってこんなにカワイイ美少年なんだ! でもできない! だって今生の俺にはアレがないから!!」
 苦苦苦苦苦……と卯月は苦悩の表情で歯を噛み締める。


「俺の生きていた時代、男にツッコみたいとは口が裂けても言えなかった…。ようやく声を大にして言える時代に生まれ変わったというのに、なんたることか!」


 どうやら卯月は占い師の術によって「前世でひそかに男にツッコみたいという願いを抱えていたがかなえられないまま亡くなり、今生女に生まれ変わってしまった」という記憶をよみがえらせたらしい。
 卯月は正真正銘、どこからみても美女だった。
 最近どんなにキレイでも脱がせてみたら実は男だったというのはよくある話なので、実性別はともかく、少なくとも外見的には。
 胸が大きくて、凛々しさのなかにもそこはかとなく色香があって、まつ毛バッサバサ。


 そんな美女がバナナを差し出して、これを美少年にツッコめとおっしゃる。


 普通ならひくところだが。

「あら。それも斬新でいいかも」

 今のルシェンはちょっと、大分、壊れていた。


「ルシェン!?」
 驚く朝斗の真下で、意気投合した2人はいそいそとバナナを手に美少年へと近付く。

 ――アッーー!


  ※どこにツッコんだかは賢明なる皆さまの想像にお任せします。意表をついて口かもしれませんしねー。


「結構いい写真が撮れたわ。これで1コーナー作るのもいいわね。もっとやりましょ」
「うむ。クリエイターは、常に精進して高みを目指さねばな。より良い美少年を見つけ、洗練されたツッコみへと昇華させていくのだ」


 昼日中の通りで女性2人がするにはかなりヒドい会話なのだが、2人は満足そうにうんうんうなずき合っている。


「さらば少年よ。運命がそれを求めるならば、ヴァルハラ(*空京に有るラブHの名前)にてまた会おう」
 バナナをツッコまれた美少年を置き去りに、2人は次の獲物を求めて歩き去った。



 それからルシェンと卯月は、これはと思う美少女・美少年を見つけてはコスプレさせ、さまざまなポーズをとらせて何枚か写真を撮ると、美少年の場合最後には必ずバナナをツッコんだ。

「うっ、うっ…。ひどいよルシェン…」
 あとでどれくらいの人に僕が謝罪に行くことになるか、ちらりとでも考えてくれてる? しかもこれ、土下座ものだよ。
 それどころか、ツァンダの街に永久出禁になりそうな気がかなりするんですけどーー。(というより、恥ずかしくて朝斗の方がしばらく近寄れなくなりそうな…)


「おや?」
 涙がぽたぽた落ちてきて、卯月は朝斗の存在に気付いた。


「あんなところに恰好の美少年がいるじゃないか。彼にはまだツッコんでいなかったな」

 よし、ツッコむか!

 それを聞いた瞬間、ルシェンは狼狽した。
「だ、だめよ、朝斗は!」
「なぜだ? なかなかの美少年ではないか。あの緊縛されて涙を浮かべているところなど、ゾクゾクするぐらい加虐心をそそられるぞ」
それについては私も同意見だけど、でもだめなの! そのう……朝斗は……私だけのだから…」
 恥じらいながらの自己主張は、しかし卯月の耳には入らなかったようだった。
 卯月は大声で叫んだ。


「だめなものなどあるか! この世界には聖域など存在しない!! あるのは美少年で、選択肢は自分でヤるか・他人にヤらせるかだ!!」(暴言)


「で、でも…」
「もういい。俺がやる」
 卯月はアルテミスボウをかまえ、ロープにねらいを定めた。

 さーっと血の気をひかせた朝斗はミノ虫ながらバタバタ身をよじり、ロープを噛みちぎろうと口にくわえてウンウンうなっているが、宙吊りの身でどうなるものでもない。
 ぶつっと音を立てて、ロープは射抜かれた。


「わーーーーっ!」
 公衆の面前でバナナをツッコまれるのはイヤーーーーーーーッ! せめて部屋に帰ってからにしてーーーーッ!
(パニくってます)


 重力の法則で落下する朝斗。心境はおそらくワニに飲み込まれんとするフック船長とそんなに変わりない。(多分)
 このままあえなく卯月の毒牙にかかるのか!?

(ああ、僕の一生がオワタ…)
 糸引く涙と一緒になって走馬灯のように流れる、これまでの人生。
 観念しそうになった瞬間、加速ブースターで突撃をかけたアイビスが空中で朝斗を抱き止めた。

「アイビス! 来てくれたんだね!」
「遅れてすみません。大丈夫ですか? 朝斗」

「あっ! くそー! 返せ! その美少年をヤるのは俺だ!!」
 地上でじだんだ踏んでいる卯月に、そのとき背後から忍び寄る影が…。


「えらくウルセーやつが騒いでるなと思ったらおまえか」


 それは日比谷 皐月(ひびや・さつき)だった。
 低い声、すわった目。
 すでにかなり機嫌が悪そうだ。

「ひとがちょっと目を離すとすぐこれだ。ツッコむだの何だの、またアレか? 幽霊にでもとっ憑かれやがったか」
「違う! 俺は前世を思い出したんだ!」
「あーはいはい前世ね前世」

 皐月は全く信じちゃいない。
 まあこの騒動について一切知らなかったら、前世がよみがえっただの言い張っても信じる者がいるはずがないだろう。
 そもそも騒動を知っている者だって信じちゃいないんだから。

「いいか、皐月! よく聞け! 俺は思い出したんだ、前世での未練を! そう、思う存分美少年にこのバナナをツッコ――」


「うっせーってんだよ! このバカ! 往来で何叫んでやがる!」
 あくまで言い張る卯月に、皐月の鉄拳が入った。


「パートナーの俺の評判まで汚す気か、ゴルァ?」
「……ゴメンナサイ、皐月サマ。モウヒトコトモ申シマセン…」
「ったく、こちとら徹夜明けでしんどくて、1分1秒でも早く帰って寝てーんだよ。手間焼かせてんじゃねーよ」
 卯月の首根っこを引っ掴み、ずるずる引っ張りながら皐月はこの場を立ち去った。



 卯月がいなくなったことにほっとしたのもつかの間、朝斗は自分を抱いたアイビスと地上のルシェンとの間で険悪なにらみ合いが起きていることに気付く。

「ルシェン。あなたがついていながら、これはどういうことですか」
「いいからいつまでもそうしてないで朝斗から手を放しなさい、この泥棒猫! 放しなさいってば!
 あなた、やっぱり私から朝斗を奪う気だったのね! 返さないとただじゃすまさないわよ!」
「あ、アイビス、ルシェンはちょっとおかしくなってるんだよ」

 朝斗の言葉に、アイビスはあらためてルシェンを見た。
 ルシェンは今にも光の閃刃を飛ばしてきそうな敵意の目でアイビスを見ている。

「ちょっとですか?」
 あれが?
「私はどこもおかしくなんかないわ! おかしいっていうのはね、いつぞやのにゃんこメカのことを言うのよ!!」
「……にゃんこ? メカ……ってアイビスのこと?」

 ――ビシイィィッ!!


 空間に亀裂が入ったような音をたしかに聞いた気がして朝斗は辺りを見回す。

「……朝斗、下ろしますがロープは自分で解けますか? 私はちょっとあちらの年増吸血鬼といろいろと話をつけなくてはならなくなりましたので」
「え? う、うん…。――って、年増って!?」

 振り返ったとき、アイビスはすでにこぶしを固めてルシェンに突貫しているところだった。

「あれはいろいろと影響されて、ちょっとおかしくなってただけです! 決して口に出さないと、約束したでしょう!!」
「知らないわよ、そんなこと! 勝手に決めないで!
 大体なによ、にゃんにゃん鳴いてゴロゴロのど鳴らしてすり寄って、おなか天向けてなでなでしてって要求してたくせに! そんな人に「おかしい」なんて言われたくないわよ! あんなこと朝斗にしてもらいたがってるあなたの方がよっぽどド変態じゃないの!」

「いいからもう黙って!! 黙れ! 黙れ! 黙らないんなら私が黙らせてやるーーーーーっ!!」

 アイビスの咆哮にレゾナント・アームズが反応して輝き始める。ホイール・オブ・フェイトがゆっくりと回転を始めた。
 それを見て、ルシェンもまた天のいかづちの詠唱を始める。

 2人は真っ向からぶつかった。



「やめなよ、2人とも! ここはツァンダなんだよ!!」
 朝斗は懸命に叫ぶが、2人が戦闘をやめる気配はない。アイビスのふるうこぶしの衝撃波が、ルシェンの飛ばす光の閃刃や天のいかづちが、石畳や周囲の建物を破壊してもだ。


 マ ジ 、 迷 惑



 そこへ現れた、通りすがりの女性!

「やれやれ。こいつはすさまじいな」
 それはバールを両肩に渡らせたアヴドーチカだった。

「どれ。はいちょっとごめんよ」
 野次馬を掻き分けて先頭へ出たアヴドーチカは、ルシェンに背後から歩み寄るなり、声もかけずいきなりバールをフルスイングした。

 ――ドスンッ


「う゛!?」
 のどが詰まったような言葉を発してルシェンは前のめりに倒れる。

「わーーーっ! ルシェン!!」

「いや、礼はいい。先を急いでいるんで、これでな」
 駆け寄ってくる朝斗に手を振ると――もちろん朝斗が見ていたのはルシェンだけなのだが――アヴドーチカは再び野次馬の海へ消えた。

「ルシェン! ルシェン!」
 揺さぶってみたが、ルシェンはすっかり気を失っていて、目覚める気配は全くない。
「……でもこれで、これ以上の戦いはなくなったのかな」
 アイビスはもともとおかしくなってなかったんだし。

「ねえアイビス、今のうちに彼女を家に連れて――」
 帰ろう、そう言おうと振り返った朝斗の顔に衝撃が走った。
 顔面をふさいだ何かで視界が覆われて、何も見えない。

「アイビス…?」
「朝斗、申し訳ありませんが記憶を消去させていただきます」
 本当に申し訳なく思っているとは思えない力が朝斗の顔面をわし掴んだ指にこめられる。

「い゛た゛っ! い゛た゛た゛た゛た゛た゛た゛っ! あああああアイビスっ!?」
「大丈夫です。痛いのは今このときだけですから。すぐに痛かったことも忘れます」


 前にもしたことあるんです。実証済みですから、安心して記憶を消去されてください。


 アイビスは花のような笑顔を浮かべて、さらに指の力を強めた。



 ――でもアイビスさん、ここの弁償とか後始末とか謝罪とか、忘れちゃいけないことも多々あるんじゃないですかね?