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リアクション
第6章 動物楽団とチャリティーライブ・第一部
契約の泉のステージ前は、『キャバクラ喫茶・ゐずみ』と協力してダンスパーティ会場になっていた。
他にも、この泉にあてもなく屯していた野良英霊や、ネット契約をしてここで待ち合わせをしたもののいつまでたってもパートナーと会えないパラミタ種族達も手伝った。
もうじき演奏プログラムが始まる。
ステージに演奏者があがると、ダンススペースの客達は大きくざわめき、テーブル席の客達もおしゃべりの中、ステージへ目を向けた。
音合わせが始まった。
ギターの具合を確かめながら、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は隣で同じようにしている熾月 瑛菜(しづき・えいな)に声をかけた。
「瑛菜、提案を受け入れてくれてありがとう。絶対に成功させましょう」
「成功以外にありえないって。がんばろうね!」
二人は、こつんと拳をぶつけた。
一方、ドラムスティックを丹念に点検したり各シンバルの位置や角度を確かめていたエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)の傍へ、サックスを抱えたアテナ・リネア(あてな・りねあ)が近づいた。
「エリー、今日のダンスパーティ、すっごく楽しみにしてたんだけど、エリーの計画聞いたらもっと楽しみになったよ! かっこよく決めようね」
「ぅゅ……アテナもエリーも、みんなたのしい、なの」
「うん!」
舞台下で照明を担当する種もみ生が開始の合図を送ってきた。
演奏者達の準備完了を確認すると、ステージがカッと眩しいくらいに照らされる。
ローザマリアと瑛菜が声を合わせてダンスパーティ開始を宣言した。
「今日は、魂燃え尽きるまで楽しんでってよね!」
ワッとあがる歓声に半ばかき消されながら、上杉 菊(うえすぎ・きく)のキーボードがゆったりとメロディを奏で始める。
と、一変してエリシュカのドラムが激しく叩かれた。
小柄な体からは考えられない力強い音が、奏者や客達の体の芯に響く。
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)のベースギター、ローザマリアのリズムギター、瑛菜のリードギターの演奏に乗り、それらに負けない歌声が会場を包み込んだ。
このステージは、ローザマリア達の発案で二部構成になっている。
第一部は、瑛菜の願いの『1000人のロック』を目指し、激しさの中に情熱を秘めた珠玉のロックを選んだ。
第二部はトーンを落とした選曲で、学園祭で仲を深めたカップルや夫婦のためのステージとなっている。
特にこの第二部では菊に従う信頼のおける空賊が大勢呼び集められ、メイドロボの指導のもと徹夜で準備したものがある。
それでも時間が迫って、ついにはグロリアーナの従者までが動員されたのだ。
専門外の作業に困り顔になりながらも、彼らはよく尽力してくれた。
今は家でゆっくり疲れを癒していることだろう。
三曲続けての演奏が終わると、軽く弾む息のまま瑛菜は共演者を紹介した。
「みんなも知ってのとおり、このステージはチャリティーステージでもあるんだけど、企画者はもちろんこの人! パラ実軽音部員で生徒会長の姫宮和希!」
軽身功で高くジャンプした姫宮 和希(ひめみや・かずき)が、空中でくるっと一回転してステージに降り立った。
客の中には和希を知っているパラ実生もいれば、若葉分校生が発したネット宣伝を見てやって来た地球人もいる。
パラ実生からは拍手と歓声に加え、親しみを込めた挨拶代わりの野次も飛んできたが、和希をよく知らない地球人からは、かわいいという声が多くあがった。
「瑛菜、紹介サンキュ! ──みんな、あれを見たか!?」
和希がある一方を指さすと、ライトが当てられる。
そこにあったのは大きな看板。
契約の泉の会場案内図だ。何かのキャラクターも描いてあるが、猫にしては太っているし豚にしては色がファンタジーだ。
その下に、さらに何か書いてある。
『荒野に復興支援の手を!』
「ここもかつては緑豊かな大地だった。俺はその風景を取り戻したい! みんなの力を貸してくれ! このステージの収益金はすべてオアシスの井戸掘りや職業訓練費、農業支援に使う!」
ふだんなら、パラ実生など信用できん……となるところだが、和希のまっすぐな目と熱意に会場からは拍手が沸き起こった。
和希はそれに応えて感謝の意を示してお辞儀をすると、新たなヴォーカルを呼んだ。
「ダンスはうまく踊れねぇが、ロックは好きだぜ!」
大胆でオシャレなステージ衣装を身に纏った泉 椿(いずみ・つばき)がステージに飛び乗った。
「俺の友達の椿だ! 同じイリヤ分校なんだ。……ところで椿、なんでそんなに髪が乱れてんだ? 髪飾りも曲がってるし」
「そんなに乱れてるか? やべぇな、恥ずかしい。ここに来る前にさ、バンジージャンプしてきたんだよ。種もみの塔の。飛ぶ前にちょっと心の準備してたらいきなり突き落された」
「あー……パラ実だからな」
「パラ実だしな」
俺も突き落されたー、という声が会場からあがった。
椿はニッと笑うと、
「お互い死なずにすんで良かったな。こうして会えた!」
と、手を振った。
そして、和希の合図で演奏が始まった。
椿の歌に合わせ、和希が『幸せの歌』の効果を乗せたコーラスを入れる。
思い思いに体を動かす客達はみんな笑顔だ。
一転、『驚きの歌』に変わり、リズムが速くなるとメインを和希が歌った。
ステージの端から端まで跳び、力強く希望を歌う。
まだまだ世界に秘められた可能性というお宝を探しに冒険しようぜ、と誘った。
第一部の最初から、客の中に混じっていた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)。
学園祭の多いこの時期、コスプレアイドルデュオ『シニフィアン・メイデン』として活動することが多い二人だったが、休暇をもぎ取ってこの学園祭に一般人として遊びにきていた。
若葉分校の演劇を見たり、パレードを見たり、各模擬店で食べ歩きしたりと休暇を満喫していて流れ着いたのが、ちょうどステージ開始前のここだった。
高校や大学の文化祭に呼ばれて歌やダンスを披露して大忙しだった二人だが、それはそれ。
テンポの良いリズムに合わせて体を動かす。
仕事ではないので、気楽にゆったりと。
「読書の秋、スポーツの秋。いろいろあるけど私達にとっては歌とダンスの秋かな」
「ふふふ。息抜きに来ていても、結局こうですものね。でも、悪くはありませんわ」
あなたと一緒だから、とは言わなくてもわかる。
手を取り、交互に回れば心が通じ合う。
「みんなに楽しんでもらうために踊るのも好きだけど、何の制限もなく踊るのも気持ちいいわね!」
「結成当初はこんな感じだったでしょうか」
「ええ。久しぶりにあの頃に戻ったみたい」
まだ今ほどの知名度もなかった頃。
二人で歌い、踊ることをもっと純粋に楽しんでいたかもしれない。
その頃の透明な情熱を思い出していた。
曲が続くにつれ、二人のダンスは精度をあげていく。
気がつけば、瑛菜に呼ばれてステージで踊っていた。
数々の舞台に立ち、透明だった情熱にたくさんの彩りを添えた情熱のままに二人は表現する。
『動』の情はさゆみが、『静』の情はアデリーヌが。
好対照をなす二人のダンスが、曲の世界を広げた。
「あれ? あの二人ってシニフィアン・メイデンじゃない?」
ダンススペースで友達と踊っていた誰かが言った。
すると、知る人ぞ知るというふうに視線がステージに集まっていく。
ワッと声があがった。
照明担当の種もみ生は、
「俺と同じ分校生なんだぜ!」
と、得意そうだ。
さゆみとアデリーヌは顔を見合わせて笑った。
「昨日までと同じになっちゃった」
「二人共、盛り上げてくれよ!」
瑛菜が呼びかける。
「そう期待されると、やるしかありませんわね」
「よろしくね、パートナーさん」
二人は優雅にお辞儀を交わした。
その後、大盛況で第一部が終わった。
和希と椿、さゆみとアデリーヌ以外は第二部の準備があるため、お別れとなった。
椿はこれから種もみの塔へまた戻るというので、和希は馬車の待合場所まで送っていくことにした。
少しすると虹キリンが引く馬車が到着した。
「契約の泉だァ! 降りる奴は降りて乗りたい奴は乗れ。言っとくが、オレを馬と呼ぶなよ」
虹キリンは態度は悪いが逃亡はしていなかった。
彼なりに楽しんでいるのかもしれない。
御者台からチョウコが声をかけてくる。
「イケメンは見つかったか?」
「いや、今のところは……」
椿が言いかけた時、聞き覚えのある声が彼女の名を呼んだ。
「やっぱりツバキ! 俺のこと覚えてる? ハワイの……」
「ああ、ハワイの! こっち来てからそれぞれだったもんな。元気そうでよかった」
研修旅行で椿がハワイに行った時に出会った若者だった。
すると、彼の友人達がワイワイと賑やかに寄ってきた。ハワイの時より増えている。
「学園祭の宣伝見て、いっぱい連れてきたよ!」
その中に、またしても椿好みの男性がいた。
彼は椿の前に進み出ると、手を取って言った。
「ステージ、よかったよ! こいつから話聞いて会いたいと思ってたんだけど、こんなに広範囲とは思わなくてね。諦めかけてたんだ。会えてよかった」
「いや、その、ありがとな。あ、あのっ、電話番号とケータイアドレスを……」
ほんのり頬を赤くしてドキドキしながら言った椿に、彼は笑顔で頷いた。
「これで、いつでも会えるね」
ステージの時の活発さとは対照的に乙女の表情になってしまった椿に苦笑する和希。
そして、チョウコを見やると。
「いいなぁ、椿……」
うらやましがっていた。
「チョウコも交換すればいいだろ」
「そ、そうか。そうだなっ。あの、あたしは種もみ学院のチョウコ。よかったら、あたしともアドレス交換してくれないかな?」
柄にもなくチョウコも緊張して言ったのだが、ハワイからの訪問客達は男も女も快く返してくれた。
それから馬車での移動中、椿とチョウコは、
「イケメンっていいよな!」
と、盛り上がっていたのだった。
さゆみとアデリーヌは、キャバクラ喫茶で休憩していた。
「ようこそ『キャバクラ喫茶・ゐずみ』へ!」
と、スーツの男性達に迎えられた時はびっくりしたものだったが、よく見れば種もみ生やこの泉の住人だった。
モヒカンだったりリーゼントだったり、顔のいたるところにピアスをつけていたり。
唖然とする二人にモヒカンホストが笑った。
「どうだ、なかなかのモンだろう? フッフッフ……これで今日の学園祭はモテモテだぜ」
それはどうだろう、と思ったが二人は何も言わずにおいた。
「ここからあんた達のダンス見てたぜ。すげーよかった! いいもの見せてくれた礼にカクテル一杯プレゼントだ! 今日限定のオリジナルなんだ。二人共未成年だろ? ノンアルコールで作るからな」
「あ……うん」
頷きつつ、さゆみは本当は違うけどと思ったが、めんどうなので黙っていた。
「いや、俺としてはどうでもいいんだけどよ、細けぇのもいるからな。気をつけろってオーナーに言われてんだ」
「そうだね、そうしといたほうがいいと思うよ」
「シニフィアン・メイデンは俺も知ってるぜ。まさかこの学園祭に来てくれるとはな。今の時期は忙しくて大変なんだろ?」
「今日は本当は息抜きで来たの」
こんなふうに、しばらくは和やかな時間が過ぎたのだが、やがてコスプレアイドルデュオをひと目見ようと入れ代わり立ち代わりホストやキャバ嬢がやって来て、そのたびにノンアルコールのカクテルやワインをプレゼントされたため、飲み物だけでお腹いっぱいになってしまった。
もうじき、第二部が始まる。
また踊るのもいいね、と二人は微笑み合った。
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