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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

リアクション

「女性と子供達が眠る部屋は確保できそうですけれど……個室は無理ですね。テントの方が色々できそうな気もします」
 くすくすとステラは笑みを浮かべる。
「上の方、見てきたよ。穴あいてるところ、ふさいでー」
 ハーフフェアリーのライナが羽を羽ばたかせて、屋根から下りてくる。
「了解だ。木材を持っていかないとな」
 イルマがすぐに、木材の準備を担当している男性達の方へと向かう。
「子供にはキツイでしょう。無理はせぬように」
 陳到がライナにそう声をかけると、ライナは「うんっ」と首を縦に振った。
「さっきね、おちゃとかおかしもらったの! みんなのおてつだいもたのしいのー!」
 ライナは皆と一緒に作業することがとても楽しそうだった。
「やねもういっかいみてくるー!」
「今晩はぐっすり眠れそうですな」
 飛んでいくライナを見ながら、陳到は微笑みを浮かべた。
「埃やゴミと雑魚寝など願い下げよ!」
 窓から、景戒が袋にいれたゴミをどさりと外へ出していく。
 中に入っているのは、草や腐った木や布などだ。
「綺麗な部屋でぐーっすりと眠るのだわ!」
 そして、景戒はブラシを持って、床や壁をごしごし磨いていく。
「さてと、寝室の掃除をしている女性達も、疲れてきた頃でしょう。交代に参ります」
 言って、陳到も室内の掃除をすべく、中へと入っていく。
「焼却場はあちらでしたね」
 ステラは窓の外に出されたゴミ袋を持ち上げる。
「屋根の修理は守護天使の男性達がやってくれるようだ。私もこちらを手伝おう」
 木材を持って戻ったイルマは、木材をその場に置くと、ゴミ袋を2つ抱え上げた。
「助かります。でも今より、もう少し遅い時間になってから向かうのも良さそうです。焼却場の裏辺りに絶好の場所があるんですよ。『ちょっとしたスキンシップ』に良い場所です」
「…………」
「『ちょっぴり』過度なスキンシップは、個室をいただけないようでしたら、やはりテントがよろしいでしょうか」
「……腐った木で焼いても焼き芋は美味くないだろうから、処分だな、これは。早く燃やしてしまおう、そうすべきだ」
 イルマは人が集まっているこの場を離れるために、急いで焼却場に向かう。
 ステラの誘惑的な言葉に反応すると、弄ばれるから。
 しかし既に、体は反応してしまっている。
「ふふ……」
 赤く染まった耳を見ながら、ステラは艶やかに笑みを浮かべ、その後を追う。楽しい合宿になりそうだ。

「お宝見っけたにゃーっ!」
 いきなり、にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)が、ずどどどど……ザッシャーッ!! と、部屋の中にスライディングした。
「あっ……」
 纏めてあったゴミが散らばってしまい、部屋の掃除をしていた百合園の女の子が困った顔をする。
 そんなことには気付きもせず、ゲットしたお宝を手に、にゃんくまはパートナーの変熊の下へ駆け寄った。
「見て、師匠! ドングリ、ドングリーっ!」
「元女王の騎士だか何だかしらんが、腰を入れてしっかり掃除しろ!」
 しかし変熊は掃除に夢中で構ってくれない。
「いや、俺こんなことしている場合じゃ……」
「こんなこととは何だ! さぼってないで、机のそっち持て」
 変熊が叱っている相手は、ファビオだ。
「伝説の騎士だかなんだか知らんが、女の子とキャーキャーしてるだけで合宿が終わると思うなよ」
「そんなつもりはないって……うん。手伝うよ」
 ファビオは観念して、変熊を手伝って机を部屋に運び入れていく。
「師匠、師匠ってば、お宝お宝。きっとまだ沢山あるにゃ!」
 ぴょんと、にゃんくまが机の上に飛び乗った。
「机に乗るな!」
 変熊に叱られたにゃんくまは、彼の肩に駆け上がる。
「よぉ、師匠の偽物の新入生。猫缶買って来い」
 そして変熊の肩の上から、ファビオに命令してみたり。
「いいよ、仕事が終わったらね」
「言葉遣いがなってなーい、それが先輩に対する態度か! 死んでいる間に敬語を忘れたようだにゃ……。上下関係を教えてやるにゃーっ!」
「煩い」
 ぺしっ。
 にゃんくまは変熊に払い落とされる。
 しかし、空中で回転して難なく着地。
 変熊は部屋の中に机を下ろして、ハタキを手に取る。
「次はハタキで埃を落とすぞ。ファビオは天井だ。羽があるんだろ? 梯子はいらんな」
「うん……キミに任せたら、上を見上げた女の子達が卒倒しそうだしね」
 ボソリとそんなことを言って、ファビオは光の翼を広げると、大人しく天井の掃除を始めるのだった。
「にゃん、にゃん、にゃん〜」
 その間に、にゃんくまは変熊が持っているハタキに近づいてじゃれていた。
「こらーっ、にゃんくま! ハタキにじゃれるな! あっちでお絵かきでもしてろ」
「けーっ!」
 無視され怒られ続けて、にゃんくまはすねてしまう。
「いいですよ〜。向こうの本に一人お絵かきでもしてますよ〜」
 そして、本のある部屋に駆けていった。

「えーくんもえいっと、とびこんでみたいけど、がまんするよ、おそうじするよ!」
 エーギル・アーダベルト(えーぎる・あーだべると)はにゃんくまが散らばせてしまったゴミを払いのけたあと、雑巾で一生懸命床を磨いていく。
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)と、クレタ・ノール(くれた・のーる)が長期間どこかに出かけると知ったエーギルはこっそりヴィナの荷物の中に紛れ込んで着いてきたのだ。
「えーくん、綺麗な水だよ」
 盗賊の討伐に出ようとしていたヴィナはちょっと困りはしたが、せっかくだから一緒に合宿を楽しもうと、こうしてエーギルの出来る仕事……掃除を手伝っていた。
「ありがとっ、ぞうきんもうまっくろなの!」
 エーギルは雑巾をほらと広げて見せる。
 ヴィナは微笑んで頷きながら、バケツの中に自分の雑巾を入れてみせる。
「こうして擦って汚れを落とすんだよ。それから、こうやってぎゅっと捻ってよく絞るんだ」
「うん、ぎゅーっするよ」
 エーギルは言われた通り、雑巾をバケツの中に入れて、擦って汚れを落としていく。
「ぎゅーっ、ぎゅーっ」
 そして、雑巾を握るように絞って、また床を拭き始める。
 彼の様子を優しい目で見守りながら、ヴィナはクレタに目配せする。
 首を縦に振って、クレタは乾いた雑巾を使って、床を乾拭きしていく。
 エーギルが拭いた箇所は雑巾の絞り方が甘く濡れているため、より念入りに。
 誰かが転んでしまったら大変だから。転んだ人も、エーギルも傷つくだろうし。
「もうよごれちゃったね。いっしょにみずくみにいくよ!」
 再び、雑巾を洗いながらエーギルは楽しそうな声でそう言った。
「それじゃ、この汚れた水は人のいないところに撒いてしまおうね」
「えーくんはヴィナの傍を離れないように。川にも近づきすぎたらダメだぞ?」
「うん!」
 ヴィナとクレタの言葉に、勢いよくエーギルは首を縦に振る。
「水の交換が終わったら、少し休憩にしよう」
 ヴィナはそう言って微笑む。
「うんっ、えーくんね、チョコもってきたの! みんなにくばるの!」
「それは楽しみだな」
 クレタがそう答えて、立ち上がる。
「おいしいものはみんなでたべるんだよね! ヴィナ・アーダベルトがいつもいってるもん! えーくん、えらいでしょ!」
 2人を見上げて言うエーギルに、ヴィナもクレタは「偉い偉い」と褒めてあげる。
 子供は褒めて伸ばしたいとヴィナは思っていた。
 エーギルは自分の子供ではないけれど、契約者であり大人の自分がそういったことを教えていかないといけないから。
「かわはこっちだね! あしもとにもちゅういするんだよね」
 建物から飛び出していくエーギルに、クレタが急いで近づいて両肩をそっと押さえた。
「離れないように、な」
「うん、えーくんはなれないよ!」
「並んであるこうか。えーくんは真ん中においで」
「うん!」
 ヴィナに元気に答えて、3人で並んで歩き出した。

「この部屋には本らしきものが沢山あるにゃ〜」
 にゃんくまは書斎らしき場所に、入り込んでいた。
 優先度が低いため、ここを担当しているのは、本に興味を持った三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)一人だった。
「いらっしゃい」
 のぞみはにゃんくまにそう挨拶をした後、棚の中にある物、1つ1つを調べていく。
「何か不思議な本残ってないかなー」
 虫に食われていたり、汚れが酷くて読めるような本は見当たらない……寧ろ、本の形状を止めていないものも多かった。
「空になってるこの辺りにはきっと凄い本があったんだろうな」
 本棚はぎっしり詰まっているわけではなくて、随分と空きがあった。
「魚、魚、魚……」
「ん? 何探しているのかな。おもしろい本や綺麗な本を見付けられたら素敵よね!」
 そう言って、振り向いたのぞみは、にゃんくまが本にペンを走らせていることに気付く。
「あっ、貴重な本かもしれないのに」
 本には下手な魚の絵と、ちかな ちかな ちかなと文字が書かれていた。
「これは、古代シャンバラの象形文字!? ……なわけないわよね! 落書きはダメっ。許しませんよ」
 のぞみはにゃんくまから本を取り上げて、『めっ』と睨んだ。
「うーっ、別の部屋に行くにゃーっ」
 しぶしぶ、にゃんくまはその部屋から出て行った。
「それにしても、この本は一応形状を止めてるよね」
 にゃんくまが落書きしていた本をのぞみはぺらぺらと捲ってみる。
「……読めないけど」
 ふうとため息をついて、本棚の掃除を再開する。
「魔法考古学の先生も来てるし、何か見付かったら持っていって読んでもらえばいいよねっ!」
 にゃんくまが飛び乗って漁っていたあたりの棚を調べてみたところ、状態はかなり悪いが、読むことも出来そうな本が何冊か出てきた。
「これはイラスト入りだね。昔のファッションについて書いてあるのかな……っと、いけないいけない。掃除しなきゃ」
 のぞみは読めそうな本を積み重ねていきながら、掃除を進めていくのだった。