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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【4】CRUSADER【1】


 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は海京の繁華街を散策していた。
 どこに出しても恥ずかしいビッチな彼女だが、今日は何故か、シックなお嬢様スタイルでしゃなりと決めている。
 だが何故だろう、道往く人もあら素敵、と息を漏らす今日の彼女だが、その眼光は猛禽類の如き鋭さを秘めていた。
「……やれやれ、着飾って海京に行くから何かと思えば、合コン相手の物色ですか」
 男装の麗人ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は肩をすくめた。こちらは執事の装いだ。
「ただの合コンじゃないわ。天学生と言えば、有名パイロットや研究者の卵たち。付き合えたら玉の輿確定なのよ!」
「相変わらずビッチですね」
「いいからあなたは黙って私の執事のふりでもしてなさい。おこぼれをあげるから」
「おこぼれとあってはいたしかたありません」
 ベファーナはリナに日傘を差して上げた。
「今日は、百合園から来たお嬢様&その麗しき執事で合コンを制するわよ! いえ、制しましてよ!」
「……しかし、君一人じゃ合コンは出来ませんよ?」
「だからこれからメンバーを捜すのよ。可愛くて、大人しくて、御し易そうな天学女子はいないかしら……あ、いた」
 下校中の気の弱そうな眼鏡っ子、寿子を見付けた。リナはお嬢様にあるまじき速度でスタスタ獲物に近付いた。
「ごきげんよう。私、百合園女学院のリナリエッタと言いますの。よろしく」
「と、突然のお嬢様の来襲だよぉ……!」
 あわあわする寿子、ふとベファーナと目が合う。彼は涼風のような微笑と共に会釈をした。
「御機嫌ようお嬢様。ベファーナと申します」
「はう……。本物の執事……!」
 普段、見慣れない麗しの方々に寿子は動揺しまくっている。
「海京の空気がピリピリしているから、天学の子に何かあったか聞きたかったの。もし宜しければ教えてくださる?」
「え、ええと、それは近頃、海京を騒がせる事件が起こってる所為だと思います」
 寿子は海京の事件を話す。
「……そうでしたの。海京も大変なことになっていますのね。貴方も怖いでしょう」
「こ、怖いけど……アイリちゃんが言うから、私もパトロールに行かなければならないんですよ。はうー……」
「アイリちゃん? 貴方のパートナーかしら?」
「そうですよ。アイリちゃんは未来から来た魔法少女で、未来の平和を守るため日夜戦っているんですよ」
 寿子はちょっと愚痴っぽく(パトロールが嫌なので)彼女の事を話した。
「……まぁ! アイリさんって方、今迄頑張って来られたのね!」
「ほえ?」
「たった一人で、悪と立ち向かうなんて大変な事、私なら諦めてますもの」
 リナはヅカばりの迫真の演技で驚いてみせた。
「……きっとアイリさんは、誰よりも貴方に信じて欲しいと思ってるはずですわよ。1人よりも2人。その2人目がパートナーの貴方だったら一番心強いと思いますわ。それにきっとアイリさんも不安に思ってますわ。もし、一人でどうにかなる相手でしたら、貴方をパトロールに誘ったりしないでしょう?」
「そ、そうかも……」
「ごめんなさいね。熱くなっちゃって……。これも何かの縁ですわ……私も魔法少女になって戦います。宜しければ、お手伝いをさせてください」
「ほ、ほんとに? これから待ち合わせしてるから、一緒に行く?」
「ええ、勿論ですわ」
(これで合コンメンバー二人確保よ……!)
 リナは何か黒くて厭らしいものを抱えながら、きらきらと点描を散らして微笑んだ。
(謎の空間……、何故魔法少女だけが戦えるのか……。クルセイダー……、彼らの狙いは一体何なのでしょう……)
 ベファーナは三歩下がって、二人の会話の内容を反芻していた。
(そして男装の麗人は、魔法少女とマスコット、どちらになるべきなのでしょう……)

 アイリは西区の待ち合わせ場所に向かっていた。
 昼休みの宣伝活動が功を奏したのか、随分と魔法少女が集まった。既に魔法少女(とマスコット)達は西区のパトロールに向かっている。
「……今日はイコンの哨戒活動が活発だな」
 共に西区に向かうエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は空を見上げた。
「プラントが破壊された件もありますから、イコン隊が警戒に動いてるんでしょう」
「例のクルセイダーって連中か。十字軍などと御大層な名を名乗るなら、それを暗示とした目的があるはず。それが分かれば、次の予測の材料にも出来るんだが……連中の目的も正体も、よくわからないんだよな?」
「残念ながら……」
「まぁ少なくとも、馬鹿デカいプラントを潰すぐらいの戦力を持ってるのは確かか……」
 ふと、二人の進む先に人だかりが見えた。
「……なんでしょう?」
 グランツ教の神官だろうか、桃色の髪の美青年が観衆の前に立ち、演説をしているところだった。
「……エリュシオンでは次期皇帝を巡る混乱が続き、シャンバラでも女王陛下は祈祷に籠られたまま……少しづつ広がる不安の影は、ここ、海京市民の皆様にも影を落としている事だろうと思いマス。
 ですが、恐れる事はありまセン。ワタシ達には超国家神様がいマス。未来のパラミタはクイーンによって統一され安寧の理想郷を実現しているのデス。
 クイーンはその慈悲深きお心で、この時代にも平和をもたらそうとやってきまシタ。海京市民の皆様、ワタシ達グランツ教徒は皆様の隣人として、この海京の都と皆様の心に、安らぎをもたらす力になりましょう」
 美しき神官の言葉に、市民から拍手が巻き起こった。
「グランツ教……最近、海京にも支部を作ったってのは本当だったんだな……」
 グランツ教とは未来からやってきた(と語る)超国家神を崇拝する宗教である。
 嘘か真か、どこまで本当かわからないが、最近では現状に不安を抱く人間も少なくなく入信者は増え続けている。
「しかし、未来で平和な世界の実現だなんて、誘い文句にしても大げさすぎるだろ」
「そうでもないですよ。私のいた未来では確かにグランツ教がパラミタの統一に成功していますから」
「え、本当に?」
「ええ、ただ”パラミタ内”での争いはなくなりましたが、その代わり、パラミタと地球の戦争が勃発しています」
「何事も上手くいかないもんだな」
 西区の待ち合わせ場所に到着すると、ちょうど寿子が歩いてくるのが見えた。
「……時間通りですね。あら、そちらの貴婦人はどなた?」
「うん、さっき繁華街のほうで友達なったの。アイリちゃんの話をしたら、会ってみたいって言うから」
「しゃなり……百合園のリナリエッタですわ。しゃなりしゃなり……」
 リナはエレガントスマイルで微笑んだ。
「……ところで、噂に聞いたんだが、遠藤さんは大文字先生のファンなんだって?」
 エヴァルトが尋ねると、寿子の目がきらきらと輝いた。
「そう、そうなの! 凄いよね、大文字先生! もしかして、あなたも先生のファン!?」
「まぁな。天学の格納庫に置かせてもらってる翔龍は、とあるアニメの機体を参考に改造したものなんだ。先生とは一度お会いしてじっくり語り合いたいな……まぁ今回の事件が解決すれば、いくらでも時間がとれるか」
「そうだね。一緒に行こうよ」
「ああ。それまで、遠藤さんも大文字先生と会ったりするのは我慢しような」
「……え? なんで?」
「なんでって、それは……」
 エヴァルトは言葉を詰まらせた。
(……遠藤さんが慕っているからこそ今は離れるべきだ。ファンブロウさんの勧誘活動により、連中にこちらの存在は筒抜けのはず。そのうち操られ、拉致するための駒として使われる可能性が高い。あるいは人質か、誘い出す餌か)
「……面倒事を抱えたまま会いに行っても楽しくないだろ? 全部片付けて気持ち良く会いに行こう」
「あ〜、そう言う事かぁ〜」

「……アイリさん、今朝は会長にあれこれ言ってたみたいだけど。未来人って本当なのかなぁ……」
 月谷 要(つきたに・かなめ)は風紀委員として西区のパトロールを行っていた。
「多分、俺とは違う未来から来た未来人だ。俺が存在してる以上、彼女のような人が居てもおかしく無いと思うけど?」
 月谷 八斗(つきたに・やと)は言った。
「あ、いや、別に八斗が未来人だって事を疑ってるわけじゃないよ?」
「……そう?」
「でも、流石にあのアイリって子が言ってた事は嘘なんじゃないかなぁ……。信じようにも確証もないし」
「未来から来た証拠なんて誰もが持ってる訳じゃない。その中で、彼女も必死なんだよ。こんな知らない時代でさ」
 同じ未来人である八斗はアイリにシンパシーを感じていた。
「……そんな顔するなよ。わかったよ、頭ごなしに彼女を疑ったのは謝るよ」
「まぁ、彼女の言う”クルセイダー”や”シャドウレイヤー”が本当なら信じる……でもいいんじゃない?」
 霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)の言葉に、要は同意する。
「そうだねぇ。他に手がかりもないし。とりあえず、アイリさんの活動に力を貸すのもひとつの手かな……」
 その時、携帯にメールが入った。”同好会”の認可と、生徒会による同好会への協力を明言するメールだ。
「……なるほど。生徒会はアイリさんを信用したんだね」
「噂をすれば……、向こうにいるのはアイリさんじゃない?」
 待ち合わせをしていたアイリを見付けると、向こうもこちらを見付けたのか、露骨に嫌そうな顔を向けてきた。
「……その顔やめてくれないかな。傷付くから……」
「したくてしてるんじゃありません。あなた達、風紀委員が事あるごとに私に絡んでくるからです」
「じゃもう心配いらないよ。俺たちは、アイリさんに協力する事にしたから」
「……どういう事です?」
「八斗がね、やたらアイリさんの肩を持つんだよ。相棒にそう言われちゃうと、ちょっとねぇ……」
「あなたが……?」
「ま、気持ちはわかるからさ」
「それに、生徒会があなた達の活動を認めているんだもの、もう風紀委員が口を挟む必要はなくなったわ」
「……ありがとうございま……はっ!?」
 不意に周囲から色が失われ、世界がみるみる灰色に染まっていった。
 喧噪が遠ざかり、辺りは深夜の闇よりも深い静寂に包まれる。世界が冷たく凍り付いて見えた。
 そして、重くのしかかってくる疲労感と、上から押さえつけられているかのような圧迫感が、アイリ達を襲う。
「こ、この感覚はシャドウレイヤー……!?」
「はうう……!」
 アイリと寿子は苦悶の表情を浮かべた。
「まさか本当に実在するとはね……! それにしても、この疲労感……気をしっかり、悠美香、八斗!」
「ええ、なんとか、大丈夫……!」
「ぐっ……」
 要は倒れそうになる悠美香の肩を抱き支えた。それを見ていたリナは眉を寄せる。
「ちょっ、なにこれ、半端ないんですけど……。ベファーナ、あなた執事なんだから、私を支えなさいよっ」
「しんどいのでお断りします、お嬢様」
「ちゃんと仕事しなさいよー! 一方的に見せ付けられるのは我慢ならないのよーっ!」
 この二人は余裕がありそうだ。
「ファンブロウさん、契約書を……”魔法少女仮契約書”を!」
 エヴァルトは言った。
「そ、そうですね!」
 アイリはそれぞれに魔法少女仮契約書を渡す。
「これを使えば、シャドウレイヤー下での活動が可能になります。この一帯が空間に飲み込まれたと言う事は、クルセイダーが近くで活動を始めたと言う事です。とにかく手分けして捜しましょう。見付けたらすぐに連絡を」
「了解した」
「わ、わかったわ……じゃなくて、オホホ、わかりましたわ!」
 エヴァルト、リナとベファーナ、そしてアイリと寿子は三手に分かれた。
「……私たちはどうする?」
「風紀委員として、俺たちが今しなければならない事は、この空間の情報を集めることだよ。情報がなければ、今後の対策の取りようがないからね。とにかくアイリさんを追いかけて、情報収集と記録に専念しよう」