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リアクション
【4】CRUSADER【4】
「犯人逮捕には囮捜査よ!」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はクルセイダーをおびき出すため、通りをこれみよがしに闊歩していた。
囮捜査の基本としては、やはり囮はセクシーな女性と言うセオリーに乗っ取り、愛と夢のコンパクトの効果で少しだけ大人に変身しているのだが、残念ながら、胸の大きさは変わりませんでした。本当にありがとうございました。
「……一個、気になっとる事があるんじゃがのぅ」
敵に備え、物陰に潜む清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は言った。
「どうしたんですか?」
同じく物陰から様子を窺うセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は答える。
「クルセイダーとかって連中の狙いは、要人とか研究者なんじゃろ? 若い娘になって何の意味があるんじゃ?」
「………………」
至極当然の疑問であり、完全なる誌面を浪費である。本当にありがとうございました。
ところが、無意味に時間と誌面を浪費する詩穂のところに、”たまたま”クルセイダーの一団が向かってきた。
「囮捜査にかかったわね!」←かかってない。
「来たぞ!」
隠れていた二人も仮契約書で変身して飛び出す。
「泣き虫で甘えん坊な皆の衆の妹、魔法少女☆エンジェリック・ソウカイヤー!! 推参!!」
「歳のことは不問でプリーズ! 永遠の17歳系魔法少女★シークレット・ネーンレイ!! 見参!!」
ソウカイヤーはスイーツ魔法少女。パティシエをベースにしたエプロンドレス姿は、オッサンが着るには完全に地獄。
ネーンレイは普段と変わらないフリフリ衣装だが、年齢問題の影響を受けて、全てグレーに染まってしまっている。
「………………」
クルセイダーは、ソウカイヤーを下から上に眺めた。
「……わかっとる。お前らもわしを893だと思っとるんじゃろう……」
「……いや、エプロンドレスの気味の悪い男だと思っただけだ」
「………………」
もはや893顔とかそういう次元を超えて犯罪者だ。
「……見た目はアレでも中身は絶品。それは人間もスイーツも同じじゃ。喰らえ、必殺シャドークッキング!」
ソウカイヤーは慣れた手付きで空中で料理を作り始めた。勿論、そこには何もない。しかし、何かを刻むような手付き、鍋の火加減を調べるような仕草、そしておたまで何かを溶かすような動き……見える。これは味噌汁を作っている。
「こんなとこまで来て、疲れたろう。ほれ、一杯飲んでけ」
椀によそり、クルセイダーの前にトンと置く。
しかし次の瞬間、クルセイダーはガッと空中の何かを両手で掴むと、おもむろに両手を上に突き上げた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!?」
シャドークッキングならぬ、シャドーチャブダイガエシ。
もてなしの心を無碍にされたソウカイヤーは、地面に両手を付き、負け犬のポーズを取った。
「……気付いたんか、あの味噌汁がちょっとしょっぱかった事を。負けじゃ、それを見抜かれたんじゃ負けじゃ……」
てか、全然スイーツ出てこねぇし。著しく緊張感が削がれた気もするが、気をとり直し戦闘再開。
「変身☆」
詩穂は魔法少女に変身した。先ほどの大人な風貌から、普段通りの小6スタイルに。
「まずはこてしらべです」
詩穂は魔銃ケルベロスを構えた。三つの砲身から発射された弾丸を、クルセイダーは素手で叩き落とす。
「なるほど。これはみらいのせかいの戦闘ぎじゅつ、アンボーン・テクニックですね!」
「………………」
ロリロリスタイルに合わせ、何故だかひらがな喋りの詩穂。答えず、敵は弾丸を弾きながら、接近戦を挑む。
クルセイダーは青白く光る大槌を取り出し、振り下ろす……その刹那、一撃は大きく弾かれた。
「!?」
詩穂は本気狩る(マジカル)☆ステッキをくるくる回した。
「やだー、こてしらべと言ったじゃないですかー。だんがんはフェイク、せっきんせんに持ち込むためのふせきです!」
「……な!」
超えてはならない間合いに入ったと気付いた時には遅かった。繰り出される古代シャンバラ式杖術が、急所を捕らえ、一撃の下に沈める。そのまま渦を成し、回転するようにクルセイダーを巻き込み、次々に叩き潰して行く。
「……な、なんだ、この強さは? がはっ!」
最後の一人の脳天を強打。あまりの衝撃に、ヘルメットの意匠が砕け散り、敵は完全に沈黙した。
「おもったより、呆気なかったですね!」
「……待ってください。まだ……」
ネーンレイがまだ気を失っていないクルセイダーを見付けた。
「しょうがないですねー。はーっ」
一騎当千で再び力を漲らせ、よろよろと立ち上がった哀れな敵に、サブミッションをかけるため近付く。
「……これまでか」
「!?」
クルセイダーは爆発した。一人の爆発に連動して、倒れていた周りのクルセイダーも爆発して消えて行った。
「じ、じばくですか……。あぶないところでした。あと一歩間合いにはいってたらやられてました……」
「……ん?」
ネーンレイは足元に転がる”クルセイダーヘルメットの意匠”を拾い上げた。竜か何かの牙の部分にあたるパーツだろうか。何気なく拾ったものだが、ネーンレイ……もういいや、セルフィーナは違和感を覚えた。
「あ……」
自爆したクルセイダーは塵も残さず消えたのに、このパーツだけは残っているのだ。
「……始まったようですね」
月詠 司(つくよみ・つかさ)は高台の上から、各所で勃発する戦闘を見ていた。
「どーしてツカサがそんな余裕かましてるのか不思議なんだけど。これって噂のシャドウレイヤーって奴でしょう?」
シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)の言葉に、司は怪訝な表情になった。
「……言ってる意味がよくわかりませんが……」
『余計ないざこざに巻き込まれたっつってんのよ。どーしてくれんだよ?』
司に寄生する花妖精ミステル・ヴァルド・ナハトメーア(みすてるう゛ぁるど・なはとめーあ)は(司の口を借りて)文句を言った。
「ど、どーするも何も、仕方がないじゃないですか。と言うか、私はこの件に関係なくないですか?」
「いいえ、揉め事に巻き込まれたのはツカサの体質のせいよ。揉め事吸引体質なのよ、ツカサは」
『そうだ、責任取れよ』
「……で、でも、さっきまで普通にシャドウレイヤーやアイリくんの話で盛り上がっていましたよね?」
記憶が確かなら、シャドウレイヤーやアイリに遭遇したら、楽しそうだと言っていたはず。
しかしそんな些細な抵抗に耳を貸すはずもない。シオンは前に貰った魔法少女仮契約書を取り出した。
「まぁここは責任をとって、魔法少女になってもらいましょう」
「どーいう責任の取り方なんです、それ……?」
「面白そうだから、クルセイダーとかって連中と遊ぼうって言ってるの☆ 折角、海京に来たんだから、ね♪」
「……はぁ(悪ふざけの予感がします……)」
「……それに、アイリとは知らない仲じゃないんだし、ちょっとぐらい恩を売っておいてもいいんじゃない?」
「アイリくんを手伝うのはやぶさかではありませんが……ただ条件があります。男子のままで魔法少女になるのは勘弁してください。あともうスッポンポンになって恥を掻くのは、辛過ぎるのでマスコットも勘弁してください」
『……しょうがねーなぁ』
ミステルのちぎのたくらみとシュナイダージムの効果で、司は13歳の女の子の姿に変わった。
それから魔法少女に変身する。純白の衣装を身に纏い髪にコサージュ、このコサージュはミステルが変化した姿だ。
シオンは銀鳩(マスコット)に変身すると、状況の偵察に向かった。
「向こう。100メートル先に黒のヘルメット集団。道案内するわ、ワタシの誘導に従って」
「了解です」
「灰色の世界、肩に重くのしかかる疲労感……、もう二度と関わるまいと思っていたのにまたこの世界に……」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は激しく肩を落としていた。
以前、シャドウレイヤーを訪れた時、身の毛もよだつマスコット姿になってしまった事がトラウマになっている。夢だ夢だと思い込もうとしても、あの時、契約したよくわからん綿毛が、傍をふわふわ浮いている限りそれも叶わない。
今日もケセラン・パサラン(けせらん・ぱさらん)は風に乗って空中を漂っている。
「ほらほら、何が悲しいんだか知りませんけど、元気を出して。一緒に戦いましょう」
中原 鞆絵(なかはら・ともえ)は長巻を担ぎ、こちらに向かってくるクルセイダーを指差した。
「……トモちゃんは元気ね。そんなにアイリが気に入ったの?」
「だって、美人3姉妹なら2つ返事でOKなのに未来人は痛い人扱いなんて、アイーンさんが可哀想ですもの」
鞆絵はアイリをアイーンさんと呼んだ。
「……まぁ不可解な事件であるのに間違いないし、調査するのはやぶさかじゃないわ」
それから鞆絵が魔法少女仮契約書を出すと、リカインは露骨に嫌そうな顔を浮かべた。
「変身!」
鞆絵は魔法老女に変身した。フリフリのドレスが枯れた身体に眩し過ぎる。惜しむらくは、あと50年若ければ。
そして、リカインはマスコットに変身した。とてもかわいいア……。
「あ?」
……ええと、タヌキ型のマスコットになった。決してアライグマではない。
「来ます!」
魔法老女トモエは、迫り来るクルセイダーに対し、防御の構え。右から振り下ろされる戦斧を受け、左から薙ぎ払われる大刀を受け、正面から突き出される長槍を受け、受けて受けて受けまくる。浮沈艦の如き鉄壁の防御だった。
「……攻撃が通らんだと……」
「老いたりとは言え、かつては戦場を駆けた女丈夫。護りに徹せば、このぐらいわけはありません……」
「激刹の拳・ポンタスタンプ!!」
リカインの放った一撃が、クルセイダーを錐揉み回転させて吹き飛ばした。プニプニの肉球から繰り出される掌底は一撃必殺。もしこの手が肉球でなければ、クルセイダーは即死していただろう。
「……くっ、なんだこのアライグマは? どこから出てきた?」
リカインの耳がピクッと動いた。
「……今、なんて言った?」
「どこから出てきたと言ったのだ、アライグマ」
「……どうやらナラカへの旅をご所望のようで。出血大サービスでクルセイダーご一行様をご案内して差し上げるわ!」
自分によく似たア……タヌキの姿をした古代の霊獣を呼び出し、同時にポンタスタンプを放った。
「ユニゾンスタンプ!!」
「がっはぁ!!」
プニプニの肉球とは言え、闘志の籠った掌打は敵の肋骨をバキボキ、プラスチックのように打ち砕いた。
「さぁナラカに行きたい奴は一歩前に出なさいっ!」
「情報が得られるかと思って西区に来てみれば、リカインめ、あいつも来ていたのか……」
物陰からマグ・比良坂(まぐ・ひらさか)は戦闘を見ていた。
リカインのパートナーであるものの、彼は普段姿を見せることはない。天学生でありながら、コリマ・ユカギールの抹殺を目的にしている彼は、あえてリカインから距離を置き、カメラマンとして海京に潜伏している。
「あまり表に出るのは好かないが、海京を荒らす連中がいるのは私にとっても邪魔だな……」
吸い込まれそうな闇色の瞳をクルセイダー達に向けた。
「悪く思うな……」
星輝銃の銃口をゆっくりと向ける。引き金に指をかける。
「……あ、立ち眩み……」
くらりと壁にもたれた。意味ありげに登場した彼だったが、完全にシャドウレイヤーにあてられていた。
「……なんか、今、物陰でグッタリしてる人がいたような……」
『余所見してる場合じゃないじゃん。ほら、ちゃんと前見とけ。前方20メートルに敵発見じゃん』
「……はい!」
リカイン等と交戦中のクルセイダーの後方に回り込んだ司は、一応、魔法少女の流儀にのっとり名乗りを上げた。
「西へ東へ巻き込まれ、今日も見事に巻き込まれる。純白の魔法装女……うわああっ!!」
名乗りを待たずにクルセイダーは襲いかかった。
「なんて礼儀を知らない方達なのでしょうか……」
「ツカサ、西の路地50メートル先が袋小路になっているわ。敵をそこに追い込んで」
「西ですね。わかりました」
『よし行くぞ、魔法少女CQCパート3だ!』
司の周囲に黒い球体ZEGA《Chrome》が発生する。クロム(黒夢)の愛称で呼ばれるそれは、敵味方問わず、触れたものの意識を蝕む厄介な謎物体だ。クルセイダーも戦闘は警戒してそれに近付こうとはしなかった。そこに一瞬の隙が出来る。司の左肩から尖端が鉤爪状の刃になった黒い茨の蔦”樹海の根”が飛び出した。
「……っ!?」
クルセイダーの身体に突き刺さった爪をそのまま振り回し、敵を薙ぎ払うと同時に西の路地へと押し込める。
そのままクロムをけしかけて、袋小路まで追いつめると、樹海の根で敵の身体を絡めとって動きを封じる。
「……うぐっ!?」
標本台に打ち付けられた蝶のようにもがくクルセイダーに、ミステルは恨めしそうな声を上げる。
『つーか、拷問とかアタシの十八番なんだ〜、盗らないでくんねぇ〜、マジうぜぇ〜んだけどぉ〜』
「……ちょっと待ってください、ミステルくん。敵を生け捕りにして何を……むっ?」
衣装に常闇の拷問器具が仕込まれているのに、司は今更ながら気が付いた。
「何って、察しが悪いわね。魔法少女CQCパート4決まってるでしょ♪」
「……それってつまり拷問ですよね? 完全にそれ、シオンくんとミステルくんの趣味の時間じゃないですか」
「……あら、ツカサってば失礼ね、それじゃワタシが拷問好きみたいじゃない? ワタシはただちょっとイタズラが好きなだけよ★ それに情報を吐かせるのは重要よ。そうむしろ情報のために仕方なくなのよ」
「う、嘘くさい……」
「……拷問? それで俺の口割らせようと言うのか?」
捕らえられたクルセイダーは呻いた。
「拷問があなた達の専売特許じゃない事を教えてあげるわ」
「教えてやる。我らに脅しは通じない。我らの存在は理想のため、それを妨げる事になるならば我が身をも滅ぼす」
敵は木っ端微塵に吹き飛んで消えた。
「自爆……!?」
特殊な技術が使われているのだろう。敵は装備品も含め、何一つ痕跡を残す事なく分子レベルで消失した。